海外技術者研修協会様
財団法人海外技術者研修協会(以下AOTS)は、主として開発途上国の技術者・管理者の育成と、海外における日本の技術協力を推進する経済産業省所管の研修専門機関です。年間6000名以上の研修生を受け入れ、日本での研修生活を支援する団体として、有事の際の事業継続の確保は緊急課題であるという認識から、IT-BCPを策定されました。
その経緯について、総務部管理システムグループ 情報システム長 土居氏にお話をお伺いしました。
年間6000名の研修生を世界から迎えるAOTS
-AOTSの事業内容について教えてください。
海外から産業技術研修生を受け入れ、日本で研修をしていただく「受入研修」の実施が主な事業です。そのほか、日本から講師を派遣して海外で研修をおこなう「海外研修」や、TV会議システムなどを活用した「遠隔研修」などもおこなっています。
受入研修の提供にあたっては研修生が日本での研修に専念できるように、宿泊施設や食事に配慮した研修センターも運営しています。研修期間は短いもので1週間程度から1年以上のものまでありますが、年間約6000名を世界中から受け入れています。
荒川と隅田川に挟まれたオフィスの水害対策
-IT-BCP策定を検討された経緯を教えてください。
私は2005年から現職についているのですが、情報システムの防災対策が全般的に不足している点を問題と感じていました。
たとえば、当協会のサーバは地下に設置されているものもあるのですが、オフィスが荒川と隅田川に挟まれているので、水害の危険性が高い。こういった災害リスクに対応するため、ほとんどのシステムでデータのバックアップは取得しているものの、惰性的に取得しているだけでリストアの検証が行われていないなどの問題があり、当協会の社会的責任の重さに見合う対策が必要だと感じていました。今回、システム開発プロジェクトが一段落したタイミングで情報システムの災害対策について検討を始めました。
色々と調べているうちに、何のために情報システムの防災対策を実施するのか、ということを突き詰めれば、結局は「事業を継続させるため」なのだということに思い至りました。また、現在多くの企業が事業継続計画の策定に取り組んでいることを知りました。
また、主務官庁である経済産業省からも情報システムの防災対策について検討するように指示があったこともあり、当協会としても事業継続計画の策定に取り組むことに致しました。
少なくとも失敗はできないし、投資効果の最大化が必要
-なぜコンサルティング会社を利用しようと考えたのですか?
当初は、自分たちだけの力で対策を実施しようと考えました。しかし、これは当協会の組織文化にも由来するのかもしれませんが、無意識のうちに、100%完璧なBCPの策定をしようとして、すべての可能性を網羅した被害想定、例えば「システムが全面的に壊れたらどうすればよいのか」というような想定をしてしまい、その「1か0か」という発想に縛られた結果、サーバ室全体を上層階へ移設することや全サーバをデータセンターへ移転することなど、大規模な対策しか思いつかず、その対策に数千万円規模の投資が必要な目算になってしまいました。
結果的には、作業を進めてゆく過程で「1か0か」という発想は捨てられたのですが、その時は、「数千万規模の投資が必要となると、少なくとも失敗はできないし、失敗しないにしても投資効果の最大化が必要」と考えました。そして、それを実現するためには、事前に綿密な計画が必要であり、また組織内で得られる知見、情報収集能力、発想には限界があるため、外部専門家によるコンサルティングが必要と考えました。
-今回はコンペでの採用だったのですが、ニュートンを選んだ理由は?
ひとつにはニュートン・コンサルティングという企業としての実績と、コンサルタントの方の業務経験が豊富であったことです。
そして依頼者の立場から一番魅力的だったのは、提案内容が具体的だったことです。コンサルティングの結果はその業務が終わってみないと分からないというのは常識なのかもしれませんが、それでは発注する側は不安です。発注時点では、どんな品質の成果物が出てくるか分からないわけですから。
その点、ニュートンさんの提案書は作業実施のステップが具体的に記されていて、成果物についてもある程度具体的にイメージできたので不安が少なかったと言えます。
IT-BCP策定の実際
-では、具体的なIT-BCPの内容について伺います。
今回の取り組みでは、AOTS様に当初からある程度のイメージがあったと聞いています。
そうですね。しかし、先程お話したとおり、「システムが全部壊れてしまったらどうすればよいのか」など実際にはなかなか起こりにくい事態を想定し、且つ、その解決策として、システム全体の移設や外部アウトソースなど大掛かりな対策しか思いあたらず、問題が大きくなり過ぎて躓いてしまっていました。
でも、ニュートンさんから、もっと中間的な考え方をすることができるということを学びました。そのおかげで作業を進めていくうちに、対策がどんどん現実的なものになって行きました。
-どういうことでしょうか?
具体的には、ニュートンさんからアドバイスをいただいて、協会内の全システムについて1つ1つアセスメントを行いました。その結果、今までひとつのかたまりとして考えていた「システム」というものが、実は個性のある様々な要素の組み合わせであり、個別の対策が可能なものであることが浮き彫りになりました。
その中では、わずかな事前準備で対策が可能なシステムも少なからずあることが分かりました。
4ヵ年に渡る中長期的な見通しが完成
-では、最終的には貴社のIT-BCPはどのようになったのですか?
大まかには、そうした個別システムや周辺業務の個性を反映し、順次対応を進めていく4ヵ年計画を作成しました。
まずは、あまり費用をかけなくても高い効果が期待できるものについて対策をすぐに始めます。その後は予算を確保し、費用のかかる施策にも順次着手していく予定です。
ただし、IT-BCPは当協会の情報システム部門の抱える課題の1つに過ぎないので、今回検討した内容を元に、他の課題とのバランスを取りながら中長期的な計画として取り組んで行こうと考えています。
さらに、今回は情報システムに限定したBCPを構築しましたが、今後は全組織的なBCPに発展させることも検討したいと考えています。
適切なアドバイスで迷わずゴールに到達
-最後に、ニュートンのコンサルティングへの感想はいかがですか?
まずは投資に見合った結果が出たと評価しています。
実は、少し極端な言い方をすれば、コンサル会社を使うと『魔法の杖』みたいなものが出てきて、パパッと答えが出るのではないかと期待していたところがあったんですが(笑)、実際は結構顧客の方が動くんだなーという感想です。
しかし、改めて考えれば、自分たちの業務や情報システムを深く理解しているのは、結局自分たち以外にはいませんから、実効性のあるBCPを策定するためには顧客自身が汗をかくしかないのだと思います。
また、コンサルティングの成果そのものとは別に、今回ニュートンさんに依頼して良かったと感じたことは、確実にゴールに到達できる安心感があったことです。行き詰まりそうになってもその都度アドバイスを頂けたので、先に進むことができました。また、特に年度末の忙しい時期にプロジェクトを遂行するにあたり、プロジェクトのペースメーカーになって頂いたことは意外に侮れない効用だったと思います。
-今日は貴重なお話をありがとうございました。
プロジェクトメンバー
お客様 |
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常務理事 楠田 昭二氏 |
経営戦略室 室長 片岡 吉道氏 |
総務部 部長 高橋 隆一郎氏 |
総務部管理システムグループ・情報システム |
情報システム長 土居 哲也氏 |
瀧本 三枝喜氏 |
熊谷 昌樹氏 |
ニュートン・コンサルティング |
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取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント 勝俣 良介 |
担当の声
取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント 勝俣 良介
事業継続戦略の重要な一歩目をご支援
この戦略作成にあたり、お客様が一番困っていらっしゃるなと感じたのは「必要な情報の収集」と「(そのようにして集まった)豊富な情報の取扱い方」です。どのようにして膨大な情報(例:事故・災害が起きた場合の予想される被害レベル、業務やシステムの関係、システムとシステムを支えるためのシステム・業者・管理者、導入済の対策、複数ある拠点との連携など)を整理・分析していけば、具体的な戦略につなげられるのかということを自力でイメージすることは、非常に難しいことであったと思います。
このようなことはAOTS様に限った話ではなく、事業継続対策を考えていらっしゃる多くのお客様が直面している課題です。実際、何十回という手戻りを発生させながら、多大な工数をかけて独力で情報の整理・分析を進められて苦労されているお客様を何社も目の当たりにしてきましたし、私たち自身、様々な現場で何十時間もかけて試行錯誤を重ねて苦労してきた経緯があるだけに、その困難さは容易に想像がつきます。
まさに、同じ様にご苦労されていたAOTS様に、このような背景を経て培ってきたノウハウをご提供させていただけたことは、お客様にとっても弊社にとっても非常に意義のあることであったと感じております。
最後に、今回のプロジェクトを担当させていただいて感じたことですが、「何かしなければ」と思っているもののなかなか足を踏み出せない企業」が多い中で、今回AOTS様がその一歩を踏み出されたのは素晴らしいことだと思います。そして、そのお手伝いをさせていただけたことを大変光栄に思います。
土居様も触れていらっしゃいますように、ITサービス継続のための対策は、決してイチかゼロかではありません。どのようなリスクがあって、それに対して自社が取り得る選択肢は何であるのかについて、まず把握することが重要です。どれくらいのお金をかけて対策を講じるかは、それからの話です。
今回のような事例をきっかけとして、他の多くの企業、組織様にも事業継続戦略の必要性を認識していただけることを強く願っています。