積水化学工業 様

「攻め」と「守り」のESG経営を推進する
グローバルBCP策定でリスクカルチャーを醸成

積水化学工業様は1947年にプラスチック製品のパイオニアとして創業以来、その独創的な技術力により、多岐にわたる分野でグローバルな事業展開を続ける化学メーカーです。一般消費者にお馴染みの「セキスイハイム」といった工業化住宅から、法人向けとして上下水道などのインフラ材や自動車・エレクトロニクス向け材料、バイオ関連技術や医薬事業に至るまで、人々の暮らしを豊かにする製品や素材を幅広く提供しています。さらに未来の暮らしへも目を向け、サーキュラーエコノミーへとつながる革新的な技術の開発でも注目を集めています。

 

この度、サステナブルな事業経営をより強固にするため、国内外約140組織に向けたBCPを策定されたプロジェクトについて、ESG経営推進部 リスクマネジメントグループのグループ長である福永栄治様と担当部長の畑田裕美様にお話を伺いました。

 

―貴社の事業内容をお聞かせください。

ESG経営推進部 リスクマネジメントグループ
グループ長 福永栄治 様

福永:当社は「Innovation for the Earth」をビジョンステートメントとして掲げています。住宅・まちづくり、社会インフラ、エレクトロニクス・モビリティ、健康・医療の4つの領域を中心にイノベーションを創出し、サステナブルな社会の実現に向けた“未来に続く安心”の創造を目指した事業活動を行っています。新規事業としては、ごみ焼却施設で発生するガスを微生物により工タノールに変換する技術、次世代の太陽電池として期待されるペロブスカイト型太陽電池などの開発に注力しています。

以上のような“攻めのESG 経営”の一方で、重大インシデントの抑止やサプライチェーン強靭化、さらに今回のBCP策定といった“守りのESG 経営”も全社一丸となって推進しています。

中期経営計画へ盛り込み、BCP策定を全社の取り組みへ

―これまでの防災対策、BCPの取り組みについてお聞かせください。

ESG経営推進部 リスクマネジメントグループ
担当部長 畑田裕美 様

畑田:当社グループの事業活動は、非常に多岐にわたります。社内カンパニー制を導入していることなどもあり、全社で1つのBCP文書で事足りるということはなく、各々の事業活動に見合った事業継続計画の策定が必要です。

そのため、これまでは本社側では基本的なBCP策定ガイドラインを示すにとどめ、各事業・組織においては、各々の判断で、それぞれのニーズに応じたBCP文書を策定することにしていました。ただし、支援要請があれば本社側として支援を実施しています。例えば2012年から2017年にかけては、ニュートンさんに指導いただきながら、関係子会社7組織のBCP文書策定を支援しました。

全社グループの取り組みとしては、約800拠点にもなる全拠点を対象にした防災体制調査を年1回行ってきました。地震および火災を想定した防災体制が整備、維持できているかの確認をするもので、現在はBCP活動へ移行しています。

また、全社員向けに「緊急事態初動手順書」という携行できるポケット冊子を毎年発刊し配布しています(23年度からはデジタル版と併用)。緊急時に個人が当社ガイドに沿ってどのように初動対応すべきかを記したもので、社員の危機意識の啓蒙ツールのひとつとしています。

当社はメーカーですので、生産拠点を中心に防災体制については継続的に強化してきましたが、事業継続対策となると組織によってバラつきがある、というのがプロジェクト前の状況でした。

 

―プロジェクトを立ち上げたきっかけ、理由は何ですか。

福永:当社は2030年までの長期ビジョンとして「100年経っても存在感のある企業グループであり続けること」を掲げていますが、前中期計画の“守りのESG経営”の一テーマとして、BCP展開を推進することになりました。

私たちリスクマネジメントの主管部署としても、これまでの活動で「未策定組織への展開不足」「文書の平準化」「活動の形骸化」などへの対応が急務と感じていました。そこへ中期計画の一環として全社的に大号令がかかり、腰を据えて取り組むことになったのです。

自律自走へ向け、BCP活動のPDCAサイクルも構築

―プロジェクトの概要を教えてください。

福永:プロジェクトを開始するにあたり、危機管理担当役員より下記の指針が与えられました。

・広くあまねくBCPの活動をスタートし、BCPを理解してもらうこと
・各組織のトップを関与させること

プロジェクト期間を3ヵ年と設定し、初年度は展開計画の策定、2年目はBCPを国内外組織へ展開し、3年目はPDCAの仕組みづくり、とりわけ訓練手法を展開し、各組織に訓練実施を推進しました。そして、課題抽出および文書見直しにつなげ、一過性のものではなく、BCPが継続的な活動となるようPDCAサイクルを回しています。

前述のとおり当社は、大きく分けると4つの領域に事業を展開しています。それぞれは環境特性も全く異なる領域であるため、BCP展開にあたっては全体の共通枠組みを設計した上で、それぞれの事業領域、組織形態、国や地域の特性に合わせたBCPの枠組みも設計しました。

結果としてこの3年で、国内外約140の組織にBCPが整備され、実際にPDCAサイクルが回り始めています。

BCPは策定しただけでは、危機発生時に動くことはできず、実効性を向上させるには、教育・訓練が必要です。そのためBCPを策定した各組織が、自力で訓練を実施できるように複数のシナリオを用意した訓練のツールキットを作成し、国内外の組織に展開しています。

 

―今回のプロジェクトの成果はいかがでしたか。

畑田:プロジェクト推進においてはBCP策定をゴールとするのではなく、いかに各組織に定着し、継続できる活動にしていくか、を意識しました。そのためには、組織内で統一した基準が明確で、負荷が低いことが重要になります。一例として、ニュートンさんにも協力いただいたBCP文書の共通テンプレート化があげられます。必須で対応、確認すべき項目を定めたことにより、全組織で一定の品質が担保されたBCP文書が整備された形になりました。またBCP策定責任者が他部署へ異動した場合でも、共通フォーマットで策定されていることで、BCP体制がすぐに理解しやすいものになり、形骸化防止になると期待しています。

またプロジェクト開始当時は新型コロナのパンデミックにより、まさに事業活動継続の観点での体制整備が急務でした。各部署が当事者意識をもって検討を進めてもらえたのは、結果的にタイミングとして非常に良かったと感じています。

策定プロセスや訓練実施を通じてBCPという言葉が社内的にも浸透されつつあります。また、カンパニーでは幹部会等でBCP活動の方針展開がされるようになっています。さらに自発的な活動を展開している組織もありますし、このプロジェクトに取り組んで良かった等の感想もたくさんもらえた点は、事務局としてうれしく思います。

いったん、全社プロジェクトは終了し、今年度からは各組織の自立化を図っています。形骸化が心配でしたが、新たな訓練ツールの提供を行い、任意での説明会を案内したところ、8割の組織が参加しました。今後も継続すべき活動であるとの認識ができている点も実感しています。

持続的な成長へ向け、さらなるリスクカルチャー醸成へ

―苦労されたポイントや新たな気づきなどは?

福永:やはり、国内外140という策定組織対象の多さですね。時間的な制約の中で本当に役に立つBCPの策定を進めるためには、事務局側の力量が求められます。組織体制や事業内容が異なるなど、あらゆることを考慮した説明資料の作成や、講座の準備・実施が必要でした。正直、我々だけの工数ではとても運営できなかったと思います。

本プロジェクト以前の個社でのBCP策定支援の際は、直接現場へ行き、討議に加わりながら策定するプロセスを共にしていました。しかし、コロナ禍であったこと、また対象組織の数を考慮すると現場に赴くことは困難であったため、リモート中心でのカンパニー事務局や各組織との打ち合わせとならざるを得ませんでした。 不安な面もありましたが、オンラインで一気に展開できるメリットも享受でき、今後の展開においても、本プロジェクトで構築された仕組みは活用できると思います。

 

―ニュートンのコンサルティングはいかがでしたか。

畑田:長年にわたり、当社のリスクマネジメント活動をご支援いただいていることもあり、広範な事業内容や社内のもろもろの機微を深く理解されたうえで柔軟な対応をしていただき、感謝しています。

国内外約140もの組織が対象となるプロジェクトでしたから、リスクマネジメントの知識にも多寡があり、さまざまな問い合わせへの対応が必要でした。我々がうまく説明できないポイントなども専門家ならではの知識で的確に言語化していただきました。講座用資料についても、当方の意図をくみ取り、簡潔で平易な表現や図表で読み手がイメージしやすい、質の高いものをご提供くださっています。

 

―今後の取り組みについて教えてください。

福永:BCPの策定、PDCAサイクルの構築までを行いましたので、今後は各カンパニーの方針に合わせて、スパイラルアップしていくための支援を続けていく予定です。

 

―本日は誠にありがとうございました。

担当の声

エグゼクティブコンサルタント  久野 陽一郎

ESGを中心に据えた経営を、自律・自走型のBCP策定で支援

最初から完璧なものを目指すのではなく、各組織がBCPを継続的な活動として積み上げて行き、各組織のトップが意志を入れ込むことをミッションとして、本プロジェクトの推進を支援いたしました。

しかし、グローバルに展開する製造業にとって、取り扱う製品が多く、サプライチェーンが複雑であり、生産ラインなどの経営資源に依存し、簡単に代替策を決めることはできません。ミッションである「広くあまねくBCPの活動を推進すること」は、ハードルの高いものでした。

今回のご支援では、3ヵ年で展開計画づくりから始まり、国内外の組織へBCPを展開し、そして訓練ノウハウを伝え、各組織が自走するための仕組みづくりを一歩ずつ、推進しました。

化学メーカーとして、グローバルに多領域のサプライチェーンを支える一方、災害時はこういった事業の早期復旧に加えて、仮設住宅の提供や社会インフラの復興支援、自治体や地域貢献の製品供給まで行っています。魂のこもったBCP活動をサポートできたことは、「社会の役に立つ」ことにつながるご支援になったと、誇りに思っています。

お客様情報

名称 積水化学工業株式会社
所在地 東京都港区虎ノ門2丁目10番4号
設立 1947年3月
事業内容 「住・社会のインフラ創造」と「ケミカルソリューション」の領域において、3つのカンパニー(事業体)とメディカル、およびコーポレートで事業を展開

(2023年10月現在)

プロジェクトメンバー

お客様

ESG経営推進部 リスクマネジメントグループ グループ長

福永栄治 様

ESG経営推進部 リスクマネジメントグループ 担当部長

畑田裕美 様

ニュートン・コンサルティング

エグゼクティブコンサルタント

久野 陽一郎

シニアコンサルタント

高橋 篤史

チーフコンサルタント

田口 翔海

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