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品質不正はなぜなくならないのか

掲載:2021年10月27日

執筆者:取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント 勝俣 良介

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目次

みなさま、こんにちは。

10月1日に、三菱電機から同社の品質不正に関する企業調査報告書(中間報告書)が公表されました。この報告書を読み、思うところを記事の形にまとめましたので、ご興味がある方はぜひご一読ください。

三菱電機の品質不正問題に関する調査委員会の中間報告書を読み解く
https://www.newton-consulting.co.jp/bcmnavi/voice/mitsubishi-electric_interim-report.html

さて、まとめてはみたものの、書ききれないことも数多くありました。そこでこの場を借りて本コラム限定で、書けなかったことの一つを取り上げておきたいと思います。

取り上げておきたいこと。それは、三菱電機で起きた品質不正の原因の一つ「本来、牽制機能を果たすべき品質部門が脆弱であった」という指摘についてです。調査ではいくつかのケースで「品質をチェックする側が、不正の片棒を担いでいた」ということがわかっています。

例えば、同社子会社の長崎製作所における車両用空調装置の試験で「試験作業負荷軽減のために、品質管理課が乱数を用いて商用試験の検査成績書を自動生成するプログラムを作成し使用し続けていた」とあります。

同じく子会社のトーカンでは、2008年ごろ「組織内で頻発する規格値の逸脱に対して、技術部が原因究明をおこなったが安定的に製造できる状態にはならず、規格値を逸脱した場合には技術部と品質保証部が協議の上、出荷可否を判断する運用を開始するようになった。そして2014年からは技術部長及び品質保証部長も出席する会議にて従前の検査データをもとに、トーカン独自の合否判定基準が策定されその運用がなされるようになった」とあります。

これが前述の「本来、牽制機構を果たすべき品質部門が脆弱であった」という報告書の指摘につながるわけですが、三菱電機ではこれを受けて、品質保証部に外部から担当役員を招聘し、品質保証の専門組織を新設することを意思決定しました。

原因もわかったし解決策も決めて導入したし、これで「めでたし、めでたし」で終わらせてもいいのですが、もったい無いのでこの件についてもう少し深掘りをさせてください。一つ気がついたことがあります。それは、品質部門の「牽制のあり方」についてです。先の子会社では、先述の通り、設計や製造の現場の部門と牽制機能を果たすべき品質部門がズブズブの関係でした。

ところが、品質不正を起こす会社が皆、同じ傾向を持っているか、というとそうでもないのです。私も数多くのお客様とお付き合いをしてきましたが、品質不正を起こした(三菱電機ではない)別の企業では、これと真逆の問題が指摘されていました。それはつまり、「製造現場と品質部門の関係性が希薄だった」という、三菱電機の子会社とは真逆の指摘です。どういうことかといいますと、両組織の関係性が希薄だったがゆえに、品質部門は現場の実態を理解しないまま、ただただ「これができてない。あれができてない。対策を入れろ」といった形式的な指摘に終始していたのです。

結果、何が起きていたかというと、製造現場は「(リソース不足で)守れもしない非現実的な品質チェック対策」の導入に合意し、新たに導入した再発防止策も結局、守れないという悪循環が起きていました。さすがに何度も注意されるわけにはいかず、「誤魔化す」という事態にまで発展していきました。「現場にもっと積極的に足を運ぶなどやりようは色々あっただろうに、どうしてそういう努力をして関係性を作らなかったのか?」という問いに対し、品質部門の関係者は、「自分たちが製造現場にしょっちゅう足を運ぶと現場が緊張して邪魔になると思ったから」と答えたといいます。「いやいや、だからこそ足を運んで関係性を作るんではないの?」と突っ込みたくなりますが、まぁそれはさておき。

三菱電機の子会社や、私が挙げた他社の事例からわかるのは、品質部門は「牽制機能を持てばいい」という単純な問題ではないということです。それは、「品質第一」なのだから「品質さえよければいい」という単純な話ではない、という教訓と一緒です。冒頭に紹介した記事(ニュートン・ボイス)の中でも触れておりますが、三菱電機では、品質第一を主張しつつもその真の意味が正しく理解されなかった結果、「手続きによる品質の証明の重要性」が軽視されてしまったという指摘がなされています。

では、ここでいう「真の牽制機能」とは何か。真の牽制機能とは「相手(製造現場)の現状を理解し、単にルール違反をしているかどうかだけでなく、なぜそのルール違反が起きているのかの真の課題を特定し、それを経営に伝えること。加えて、いくら立派な対策でも、サステナビリティのない再発防止策を容認しないこと」だと思うのです。この役割を果たすためには、品質部門は、単に製造現場と距離を保てばいいという話ではなく、適切な信頼関係を構築することも必要不可欠だということがわかります。単に「ルール違反してるよ。なんとかせい。認めない。以上」ということも、「作業負荷が膨大で大変だろうから、これら規格値の逸脱は、全部例外として認めるようにしよう」ということも、「牽制機能」とはいえないのです。

かくして、我々は、三菱電機が「品質保証部に外部から担当役員を招聘し、品質保証の専門組織を新設することを決定した」からといって、安直に、その真似をすれば良いというわけではないということがおわかりいただけるかと思います。同社の事例だけでなく、過去の数多くの不祥事の事例を振り返りながら、「真の牽制機能とはなんなのか。その落とし穴はどこにあるのか」・・・そうしたことを関係者が集まって考え、自組織にあった体制やプロセス構築を検討することが、本当の意味で学びを活かすということだと思います。

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