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三菱電機の品質不正問題に関する調査委員会の中間報告書を読み解く

掲載:2021年10月06日

執筆者:取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント 勝俣 良介

ニュートン・ボイス

2021年10月1日に三菱電機の品質不正問題に関する調査委員会の中間報告書(以後、中間報告書と呼びます)が公表されました。リスクマネジメントの観点で、とても学びの多い報告書です。私も概要と気づいた点について触れておければと思います。

報告書は、三菱電機が今回の調査を行うきっかけとなった過去の複数の事案と、5月以降に改めて実施した品質不正に関する徹底調査から判明した新たな事案の両方をカバーしており、軽く読むのも一苦労するほどの分量となっております(300ページ弱)。長年にわたるさまざまな事象が絡み合っての今回の調査になりますので、その調査の位置付けを正しく理解するために、下記の通り時系列に整理してみました。

         

中間報告書作成の経緯

  • 2016年5月:1度目の自社品質不正点検(他社不祥事をきっかけに)実施するも「問題なし」という結論
  • 2017年期中:1度目の点検終了後に不適切事象が複数件発覚
  • 2017年11月:2度目の自社品質不正点検(より丁寧な品質不正点検)を実施するも「問題なし」という結論
  • 2018年2月:2度目の点検終了後に三菱電機の完全子会社である株式会社トーカンにて逸脱事案が発覚
  • 2018年12月:3度目の自社品質不正点検(全社的でより徹底した点検)を実施し「多数の不正」が発覚
  • 2019年6月:3度目の点検終了後の検査では見つからなかった不適切検査が発覚(パワーデバイス製作所)
  • 2020年10月:三田製作所&三菱電機の在タイ王国子会社でも事案が発覚
  • 2021年4月26日:可児工場でも品質不正が発覚
  • 2021年5月6日:法律事務所やコンサル会社の支援を得て段階的本格的調査(可児工場から全社への展開を想定)を開始
  • 2021年6月14日:長崎製作所での品質不正が発覚
  • 2021年6月28日:長崎製作所で別の製品でも品質不正が発覚
  • 2021年7月2日:コトの深刻さがわかり、正式な調査委員会を立ち上げ
  • 2021年10月1日:中間報告書(本報告書)の公表

※出典:中間報告書の内容をもとに筆者が作成

一体、一連の不祥事は何が原因だったのでしょうか。中間報告書では、今回の徹底調査を通じて、直接的な原因として下記4点を挙げています。併せて、その真因として「拠点単位の内向きな組織風土が存在したこと」を指摘しています。

  • 「品質に実質的に問題がなければ良い」との正当化が行われてきた
  • 本来牽制機能を果たすべき品質部門が脆弱であった
  • ミドル・マネジメントが機能不全を起こしていた
  • 本部・コーポレートと現場との間に距離・断絶があった

それぞれの原因や真因について詳しくは、別途報告書をお読みいただければと思いますし、色々なメディアでも取り上げられていることかと思いますので、ここでは少し異なる切り口で「他企業目線」で感じたことを中心に記載させていただければと思います。なお、「他企業目線」とは、当事者ではない他の企業の方々が「自社のリスクマネジメントにとってどこが学びとなるだろうか」という目線をいいます。

「他企業目線」での学び

#1. 三菱電機に見習うべき部分

三菱電機は言わば4度目である今回の徹底調査が入るまでに、2016年から2018年にかけて過去3回にわたって自社で品質不正の点検をしてきています。自ら問題を正そうと必死に努力してきたわけです。不祥事関連の報道になると、どうしてもメディアの見出しには「悪い部分ばかり」が強調されてしまいますが(もちろん、品質不正は許されることではありませんが)、こうした自助努力の姿勢は評価されるものだと思います。ここは素直に見習いたいところです。

#2. 3度の不正点検でも膿を出しきれなかった理由

三菱電機が3度の不正点検を実施したにもかかわらず、膿を出しきれなかった点については、多くの企業が「他人事ではない」と、強い関心を持っていらっしゃるのではないかと思います。私なりに簡単にまとめれば「膿を出したがらない人の気持ちを舐めてはいけない」ということかと思います。具体的には、社内の不正情報の鍵を握っている人が「長年、ウソをつき続けてきたし、今更言えば責任は逃れられないし、不祥事が明るみに出ると自分だけでなく会社にもとてつもない被害が及び、仲間にも迷惑がかかる。今更、言えない。黙り続けるしかない」と思っている場合を想像してみてください。しかもその人が工場長の立場であったり、品質保証部門の人であった場合を。そういう人が通報してくれるでしょうか。調査に対して正直に答えてくれるでしょうか。

ではどうしたらいいのかという点については、調査委員会が今回取った手法がヒントになると思います。例えば社内リニエンシー(申告者を社内処分の対象にしないこと)や申告しなかった者への厳罰処分可能性の明示、嫌がらせを受けた場合の連絡先の明示、アンケート対象者全員に対する然るべき立場の者からの語り掛け、生の検査データの直接確認、等々を実施されています。

#3. 内部統制通報制度を機能させるためには相当なテコ入れが必要

(#2に繋がる話ですが)「内部統制通報窓口を作っただけでは、機能しない」と叫ばれるようになって久しいですが、今回も報告書を読み、改めてその難しさを痛感した次第です。本報告書は内部統制通報制度が機能しなかった理由の背景として、例えば次に挙げるような状況が観察されたと指摘しています。

  • 相当周知してきたにもかかわらず窓口を知らない人は少なからずいた
  • 知っていても、セクハラ・パワハラ専用窓口だと思っており品質不正は対象外だと思っていた
  • 使うと「身バレ」して制裁を加えられるのではないか等、不信感を持っている人も少なからずいた
  • 内部統制通報制度を使っても、解決にならない(助けてはくれないだろう)という考え方を持っていた人もいた 等

やはり、「そこに窓口がある」「とりあえず迷ったらそこに相談すればいい」「そこに通報すれば親身になって助けてくれる」と思ってもらうための三重・四重の工夫が必要だなと感じた次第です。とりわけ「セクハラ・パワハラ専用の窓口だと思っていた」は三菱電機に限らず、他社でも本当によく耳にするフレーズです。気をつけたいところですね。

#4. 「バッドニュースファースト」の落とし穴

「バッドニュースファースト」の難しさとヒントの両方を本報告書に見た気がします。報告書では、ある業務部長らが、「自社が規格値を逸脱した製品を出荷していたことを本部長に報告するだけでは、報告として意味がなく、今後の具体的な対策の検討やそれを判断するための材料を準備してから報告すべきと考えた」とあります。また、別の事案では担当者が「意図的ではない検査条件不履行は不適切行為に当たらないと考えていたため本社コーポレート本部への報告をしなかった」という指摘もあります。

バッドニュースファーストの真逆をいく例だと思いますが、ここに学びのヒントが詰まっていると思いませんか。「どういう時にどういう報告をすることがバッドニュースファーストなのか」という点について、こうした具体例を用いて教育をしていくことが大事でしょう。ただし同時に、人はいざ当事者の立場になると「できるだけ理由を見つけて言わないようにしたい」「他部門の連中の前で今更恥を晒せるか」といったように思ってしまう心理も理解すべきです。いくら「こういう場合は即報告」とルールを明示してあっても、少しでも「報告しないで済む理由」があるならそちらに流れようとします。ではどうしたらいいのか? 私はそういうところが組織文化に直結することだと考えます。

#5. 「品質第一」を掲げたり「優先順位」を明示したりするだけではやはり不十分

三菱電機は「4つの品質基本理念」を掲げ、その中で「納期や価格よりも品質が優先する」と、優先順位をはっきり謳っています。「いかなる犠牲を払っても良い品質をつくるという目標は変えることはない」とも言い切っています。それでも、顧客から求められる検査要件を満たさない、または、その要件とは異なる独自基準を設け合否判定をするといったことを行っていました。「実質的に品質には問題ないのだから」という思いもあったようです。この点につき、報告書では「品質と言っても、不具合発生防止や顧客満足度の向上といった点に力点がおかれる一方で、『手続きによる品質の証明の重要性』が強調されてこなかった結果と言える点もある」と述べています。非常に重要な着目点だと思います。なぜなら、他企業の不祥事でも数多くみられる失敗点だからです。

私なりに例えていうなら、「決めた手続き」と「実態」が異なる状況をひとたび許容すると、「手続きと実態が異なっていてもいいんだ」というガン細胞が生まれ、それがあっという間に組織を侵食していくということなのかなと思うのです。そして気がついたら組織の至るところで「ルール」と「実態」が異なることがニューノーマルになっていく。「品質って実質だけを追い求めれば良いという単純な話ではないよ」ということかもしれません。「品質第一とは、つまりなんぞや」というところを噛み砕いて落とし込んでいかないといけないのでしょうが、まさにここが組織風土改善の足がかりの1つになっていくことかと思います。

最後に

他にも気づきや学びはたくさんあります。例えば品質保証部と製造部との関係性に関する問題も、本社と現場の関係性の問題もよくある現象だと思います。その全てを取り上げようとすると、時間もスペースも足りませんので、まずはパッと気になったところを中心に挙げてみました。いつも申し上げますが、こうした不祥事関連の調査結果は当事者だけでなく、ビジネス界全体の財産です。1つでも2つでも学びを得て、活かしていくことこそが、真のリスクマネジメントではないでしょうか。

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