日本自動車連盟様

自動車ユーザーの安全を守るため、
いかなる時も要請に応えていきたい

一般社団法人日本自動車連盟(JAF)様は、自動車ユーザーのバッテリー上がりやタイヤパンク等のトラブル発生時に駆けつけるロードサービスを主とした各種サービスの提供とともに、交通の安全と環境のための事業活動を積極的に展開しています。また、世界の自動車クラブで構成されるFIA(国際自動車連盟)に加盟し、積極的に国際活動に参加しているほか、モータースポーツ振興・育成にも力を注いでいます。このたび、全国に約1,800万人の会員を有する巨大組織JAFにおけるBCP訓練・演習の取組について、事務局の総務部総務課長 神吉様と総務部総務課の星野様にお話を伺いました。

東日本大震災の記録と記憶の共有ができない

総務部総務課長
神吉 靖視 氏

―これまでのBCPの取組について教えていただけますか。

神吉: 私たちの組織は、常に自動車ユーザーからの緊急要請に応えるロードサービスの提供を主としており、基本的に緊急対応に慣れていると言えます。3.11の大震災の時は、本部では電話回線を確保し、燃料を全国から調達した後、被災地に送り込み、発電機の燃料は現場で確保、被災地では自衛隊等と協力し自動車の排除等を行うことができました。

ただ当時は、どうにかぎりぎり乗り切ったという綱渡り状態であり、その時の活動記録というものは残しておりませんでした。しかも既に当時現場にいた担当者は異動しており、経験を共有しようにも記録も担当者も残っておりません。もし、今、首都直下地震が起きてしまったら、あの当時と同じような活動ができると言い切れず、組織として不安を抱えている状態でした。

何をどうアクションすべきか分からない

―今回の取組みのきっかけはどういったことでしょうか。

神吉: 実は、2013年度に別のコンサルタント会社さんが入りJAFとして初めてBCPをつくりました。出来上がったBCP文書は内容の整合性もとれ、非常に立派でした。但し、一応職員皆が閲覧できるところに文書データを置きましたが、それだけでこれが皆に周知できているとは思えませんでした。その後に何をどうアクションとるべきか分からず、何かしなくてはと思いながら1年間がすぎようとしていました。

そんな折、危機管理カンファレンスでニュートンさんが登壇された「BCP訓練が劇的に変わる3つの要素」という講演を聞く機会がありました。BCPにおける訓練の役割や位置づけ、その手法などの解説を聞き、「アンケートに一度お話を聞きたい」と書いたのがきっかけとなりました。

―今回の取り組みの内容を教えてください。

総務部総務課 星野 崇 氏

星野: まず、はじめに既存のBCPの見直しから始めました。ニュートンさんから指摘を受けて分かったのですが、BCP(事業継続)に関しては、ルール(文書)ができていたのですが、ERP(緊急時対応計画)とCMP(危機管理計画)ができていないということでした。事業を継続するためには、まず人の命を守る初動対応、対策本部の取り決めが必要と言われ、本当に目からウロコがおちました(笑)

そこで、欠けていた部分のマニュアルをつくり、一部BCPも見直しをかけた上で、全社的に周知をはかり、訓練を行うという活動計画をたてました。

最善の判断をくだして、現場をすすめていく

―全社的な周知活動や訓練はどのような形で行われましたか。

星野:本部の4拠点と関東本部の拠点計5拠点に勤務している全ての職員およそ450人を対象に、BCPの研修を全部で26回行いました。そこで、BCPとは何か、何故BCPが必要とされているのかという基礎からJAFのBCPについて最大でも25人程の少人数制の研修として開催していきました。それまでは連盟内のBCPの知名度はゼロベースで、その研修に皆の時間を割いてもらうための調整や、多くの回数を重ねることの準備等で本当に苦労しました。

訓練の方は、主要部門であるロードサービス部門、そのロードサービスを動かすために必要なシステム部門、それと総務系の管理部門を対象に役員トップを含めた30人を集めて、本部と関東地方本部で1回ずつ行いました。首都直下地震が起き、今いるこの本部が被災したことを想定した机上訓練です。目まぐるしく変わる被災直後の状況を参加者に疑似体験してもらうために、発災後に起きるであろう状況を書いた紙「状況付与カード」を時系列ごとに次々に渡して、スピーディに対応を検討してもらいます。

神吉:平時でも、何かあった時には、ああしようこうしようと漠然と頭に入っていると思うのですよね。ただ、やはりいざという時は、待ったなしで判断を迫られることになり、それは平時で考えているスピード感とは違います。何が正しいのか分からないけれど、それでもその場の最善の判断をくだして、すすめていかないといけない。

はじめて行ったこの手法は非常に新しく刺激となったようで、参加者からよい評価を受けました。

洗い出された課題とひずみの修正

―訓練ではどのような課題が発見されましたか。

星野:まず、この本部が入っているビルは電源的なバックアップがなく、災害時はここから歩いて10分の距離にある関東本部があるビルに対策本部をたてるという計画をたてていました。ところが、訓練を行う中で、そこへ対策本部メンバーが移動をして様々な判断を下したとしても、この本部のビルに残っている沢山の職員にどのような手段で指示を出すかが決まっていないことが分かりました。

ロードサービスについても、全国4カ所にある受付指令センターのどこかが被災した場合、自動的に他のセンターに電話が転送されると思っていましたが、訓練を行う前時点では、その機能がなかったことがわかりました。今はすでに転送されるようにしてあります。

このように実際にシミュレーションをしてみて、はじめて決まっていなかったこと、問題ないと思っていた計画に思わぬ綻びが沢山あることが洗い出されました。

―今後の課題をどのようにお考えでしょうか。

星野:最初に話したように、BCPが先にありその後ERPとCMPをつくったため、現在のBCPには多少不整合な部分がでております。訓練で得られた課題とBCP本体のひずみを修正していき、そして新事業への対象拡大など時間とともに変わってきた部分に対応していきたいです。あとは、訓練の対象範囲も広げていきたいです。

また、今回の熊本地震の対応は、現状のBCPでは対応できず、まだまだ拠点判断に委ねた部分が大きく、年度のはじめに課題をつきつけられたような気がしています。

―ニュートン・コンサルティングの印象はいかがですか

星野:依頼をする前のイメージは、訓練に長けている会社さんなのかなという程度でしたが、1年間お世話になってみると、豊富なノウハウも持っているだけでなく、サポートも手慣れていると感心しました。状況付与カードを一緒につくっていただく過程でも、私たちでは考え付かないような妙案を横からポーンと出していただいて、大変助かりました。

我々は専門部署ではないので他の業務をすすめながらBCPの活動をすすめています。そこのサポートいただくことは本当に助かっています。今年もニュートンさんと二人三脚でこの活動をすすめていきたいと考えています。

―本日はどうもありがとうございました。

担当の声

エグゼクティブコンサルタント  辻井 伸夫

乗り越えた3つの山

1年近くに渡ったJAF様のプロジェクトには、大きな山が3つありました。

1つめは、既存のBCPには定められていなかった初動対応計画の策定でした。JAF様は、全国に250か所を超える拠点を有する大きな組織なので、ERPで定める拠点ごとの避難場所や救急病院を、それぞれが所在する自治体のホームページ等から調べ、拠点ごとの文書にまとめる作業に多くの時間を割く必要がありました。

2つめの山は、インタビューにもある首都圏の拠点で実施した職員研修でした。26回にも及んだ職員研修は、1回あたり1時間半程度でしたが、毎回、参加される方の職務も年齢もバラバラ。どうしたら参加者にご理解いただけるのか、毎回悩みながら実施させていただきました。

そして、3つめの山は、12月に実施した本部における対策本部訓練でした。「とにかく訓練として盛り上げてほしい」というJAF様からのご要望に応えるため、事務局のお二人にも協力いただいて被災シナリオを練り上げ、最終的には120枚以上の状況付与カードを作り上げることができました。そして、訓練参加者の方々の真剣な取り組みもあって、高い評価をいただくことができました。

2年めを迎えた今年のプロジェクトでは、初動対応の後に必要となる事業継続計画の見直しを行うとともに、昨年度実施した訓練を他の拠点にも展開し、さらには複数の拠点を結んだ連携訓練も実施する予定です。 東日本大震災、熊本・大分地震で発揮されたJAF様の現場対応力の高さをBCPに活かしつつ、地方本部や支部での訓練を通してさらに実効力を高めていくお手伝いをさせていただきたいと思っています。

昨年乗り越えた3つの山は大きなものでしたが、今年はさらに高い山が待っていそうです。山は高ければ高いほど、乗り越えた後の達成感もきっと高まることでしょう。

お客様情報

名称 一般社団法人日本自動車連盟
所在地 東京都港区芝大門1-1-30 日本自動車会館
設立 1963年11月12日
従業員数 3,477名
事業内容 ロードサービスなど

(2016年6月現在)

プロジェクトメンバー

お客様

総務部総務課長

神吉 靖視 氏

総務部総務課

星野 崇 氏

ニュートン・コンサルティング

代表取締役社長

副島 一也

エグゼクティブコンサルタント

辻井 伸夫

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