横浜市福祉サービス協会様

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お客様の命にかかわる福祉・介護のBCP
訓練・演習で実効性を高める

社会福祉法人 横浜市福祉サービス協会様は1984年に財団法人横浜市ホームヘルプ協会として設立した、国内の五指に入る社会福祉法人です。すでに地震を対象とするBCPは策定しており、今回、その訓練・演習を実施することでその実効性を高める取組みに着手されました。谷内徹理事長と脇大輔総務課長に今回のプロジェクトについて伺いました。

有事に役に立つBCPにするためには、訓練が絶対必要だ

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理事長 谷内 徹氏

─協会の事業について教えて下さい。

谷内氏: 当協会の母体は、神奈川県内の主婦6人が自分たちの親の介護を助けあうために設立した団体で、ヨーロッパのように人生の終末期を家庭で過ごすことができるシステムを作るために、専門職としてのホームヘルパーの養成を始めました。当時は老人福祉法に基づく老人家庭奉仕員という制度があり、所得制限などもあったのですが、それを普通の家庭でも使えるようにしたわけです。その団体と横浜市が共同出資をし、横浜市の外郭団体である財団法人横浜市ホームヘルプ協会ができました。

今では当たり前のことですが、ボランティアが無償で「やってあげる介護」ではなく、すべてのお客様と対等の関係の有料介護サービスとして、プロフェッショナルとしてのスキルをもつホームヘルパーを国が行うよりも早く養成しました。1990年から7年間、ホームヘルプサービス供給量日本一ということで、ヘルパー派遣については21事業所で横浜市内全区に展開しています。1997年には特別養護老人ホームの運営を機に財団法人から社会福祉法人に発展的に改組いたしました。

また、現在は市内に約140箇所ある地域ケアプラザのうち18か所の地域ケアプラザ及び3箇所の特別養護老人ホームを運営しており、協会全体で正規職員数779名、全体では約4500名のパートスタッフが働いています。

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総務課長 脇 大輔氏

- BCP策定と、今回の訓練実施の経緯を教えてください。


 

脇氏: 東日本大震災の際には、ヘルパーがお客様を心配して確認に走りました。あれ以来、職員の意識がぐっと変わりました。

谷内氏: ヘルパーたちは今年初めの大雪の際にも交通手段を問わず、活動に行ってくれました。言わば本能的にお客様のことを心配しています。設立当初からの理念が「お客様第一」であり、私たちのサービスが途切れるとお客様の命にかかわってしまうということから、地震のような有事の際にも、いかにお客様へのサービスを継続するかという発想が常に私たちのDNAにあるのです。

しかし決められた優先順位に従って組織的に動いているわけではないので、組織としてどういう優先順位をつけるか、危険が予想されるような場合はどうするかといった判断基準等も整備し、ヘルパー自身の安全にも気をつけなければいけないと思っています。

私自身、横浜市に長く勤めて市のBCPにも携わってきましたので、実際に体を動かして訓練をしていないといざというときの対応ができないことを身にしみて知っています。東日本大震災の際、横浜市の災害対策本部は発災後1時間ほど、混乱で機能しませんでした。

それに対して即座に反応したのは消防の人たちです。日頃の訓練をしているとこれだけ対応に差が出るのか、と思いました。訓練が行き届いていれば、感情を乗り越えて体が反応する。当協会の職員は各自がそれぞれ現場に行く仕事ですから、団体行動にはあまり慣れていない。BCPを作っても、それをきめ細かく浸透させていくのには若干の不安がありました。そこで、有事に役に立つBCPにするためには、訓練が絶対必要だと思い、支援していただけるコンサルタンティング会社を探すことになりました。何社から提案を受けましたが、ニュートンさんの提案はとても具体的で、当協会のことをよく理解していると感じました。

議論が白熱して、様々な具体的アイディアにつながっていきました。

- 今回の演習ではどのような課題が出て、その対応策を検討しましたか。

脇氏: 2回の演習を実施し、最初の演習では、お客様を迎えに行くドライバーの対応ルール、お客様の安否確認手順、本部が行う横浜市との連絡体制などが課題となり、2回目の演習に向けて整備を行いました。阪神大震災以降、ホームヘルプサービスのお客様をS~Cの各ランクに分けるようにしています。たとえば、近隣に援助者がおらず、要介護の独居のお客様がSランクで、48時間以内にSランクの安否確認するフローチャートになっていますので、ケアプラザのお客様にもそのフローを準用することにしました。

2回目の演習は夜間の発災を想定して行い、本部が使用不能になった場合の代替拠点への搬送手順や、10km以内に居住する職員の参集ルール等の整備や照明器具の購入等を行いました。横浜市は海に囲まれていますから、2回目の演習では津波についても考慮しました。

常勤職に近いヘルパーや正規職員には全員携帯を貸与していますのでメール等の連絡はできると思いますが、2300名のホームヘルパーには連絡手段が確保されていません。正規職員については震度5以上の地震が発生したら自動的に安否を報告せよというメールが送られるシステムを導入していますので、パートやホームへルパーにもそれを順次広げていく予定です。

老人ホームやケアプラザでは議論が白熱して、具体的なアイディアにつながっていきましたが、一方、22ほどあるホームヘルパーの事業所に属する2300名のヘルパーは直行直帰で仕事をしていますから、各人の判断に任せることが多くなってしまいます。彼らが決めたマニュアル通りに動いてくれるかどうかわからないので、今後はヘルパーへの浸透が課題になっていきます。全員で訓練することもすぐには難しいので、まず、エリアごとに毎年実施しているヘルパーの全体研修でBCPについて説明していくつもりです。

また、18箇所のケアプラザ、3箇所の老人ホームは、事業所ごとに横浜市と協定を結んでおり、災害時に特別避難場所になります。法人本部と横浜市とで何か協定を結んでいるわけではありませんが、一般のお客様に加えて地域の要介護者が各事業所に集まったとき、それぞれがどのように機能を果たしていくのか。市から配布されたマニュアルもありますが、実際に自分たちの事業所に当てはめた場合にどうなるか、事業所にどうやってそれを浸透させていくかということが大きな課題ですね。

谷内氏: 市の側でも、特別避難場所の設置運営については、詳細に決まっているわけではありません。協定を結んだところには横浜市から備蓄品が配備されて、事業所では入所者の分だと勘違いしたんですが、協定書を見ると避難者の分とのことで、改めて避難者が来ることを実感したりしているような状況です。現実問題としては非常に大きな不安があります。

BCPの基本は「自分が作ったものでないと覚えられない」ということ

 -ニュートンのコンサルティングはいかがでしたか?

谷内氏: 脇はニュートンさんを高く評価していて、ぜひ永峯さんと一緒に仕事をしたいと言っておりました(笑)。

脇氏: 先ほども話した通り、最初の提案資料からちゃんと私たちの事業を理解していて感心しました。ヒアリングもきめ細かく行っていただき、非常に安心してお任せすることができました。

- BCPを推進していく上で、苦労されている点はありますか。

脇氏: 今回、事業ごとに改訂版BCPを作り、各事業所にはそれをひな形にBCPを作るように配布しているのですが、どこも本業が忙しく、なかなか進みません。専任の職員がおらず総務課の私が窓口になっている本部でも同じですが、本業以外にBCPの仕事を進めるのはなかなか難しいですね。

谷内氏: あまり急がせると作文してきてしまう可能性がある。BCPは作ればいいというものではなく、ちゃんと皆で話し合って、しかるべき作成手順を踏んでやってもらいたい。2012年にBCP策定に着手したとき、私の名前で全事業所に「みんなで力を合わせて役に立つBCPを作ろう」という宣言文を配布したんです。そこに、『皆さんが理解し、納得していない計画を作っても、意味がありません。なぜなら、それを実行するのは「あなた」だからです。』『BCPの作成は、「本部にいる誰かの仕事」などではなく、皆さん一人ひとりの仕事であることが理解いただけるでしょう。』『本部に言われたからやるのではなく、お客様の命と生活を守るために、ぜひ真剣な議論を重ねていただきたいと思います。』と書きました。そこで言いたかったのは、自分が作ったものでないと覚えられないというBCPの基本です。

脇氏: しかし、今回の訓練の実施によって、参加した職員からは具体的な提案が上がってくるようになりました。やはり訓練に出た人間と出ていない人間では違います。ケアプラザでは、初動対応で職員が割り当てられている役割ごとのカラーを平時からネームプレートに表示することにしました。こういったアイディアも、訓練を通して現場の職員から出てきたものです。

谷内氏: 特にケアプラザ等では部門ごとに仕事が分かれていますので、訓練は組織内部の連携を深めていくのにとても役に立つと思っています。

- 本日はありがとうございました。

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担当の声

継続的な訓練がBCPの改善につながることを改めて実感

コンサルタント
永峯 登喜子

最初に担当の脇課長よりお話を伺った際、他の組織と比較して人の命を守る責任が重大であることに、身が引き締まる思いをしたことを今でもよく思い出します(職員だけではなく、お客様の命を守る使命を持っている)。

横浜市福祉サービス協会様では、拠点数が多いことから、各拠点のリーダーにBCPの意識を高めてもらい、有事の際に現場で適切な判断と対応を行えるようにするだけでなく、平時の改善活動も自律的に行えるようにすることが最終ゴールになるだろうと考えました。BCPを作ったばかりでしたので、訓練をあえて2回実施することでBCPの理解を段階的に深め、改善点を洗い出すことにしました。繰り返し訓練に参加いただくことで、1回目の訓練で出た改善事項を2回目の訓練で検証できたり、現場から具体的な改善提案を引き出すことができたり、効果的な活動になったのではないかと思います。

また、今回は地震を想定したBCP机上訓練を行いましたが、訓練実施後に台風の上陸など他の自然災害に見舞われた際に、机上訓練で考えたことを活かして業務を調整するなどの活動を職員が実際に行ったと伺って、ご支援してよかったと本当にうれしく思いました。

一般的に、忙しい中では訓練の時間をとることをつい後回しにしがちですが、横浜市福祉サービス協会様においては、訓練でBCPを改善するプロセスの重要性を十分に認識されているので、今後も回を重ねることに有事の対応力を強化されていくことを楽しみにしています。

お客様情報

名称 社会福祉法人 横浜市福祉サービス協会
本社所在地 神奈川県横浜市神奈川区大野町1-25
設立 1997年1月
従業員数 4500名
代表者 理事長 谷内 徹氏
拠点数 地域介護事業所22か所、地域ケアプラザ18か所、老人ホーム3か所

(2014年8月現在)

プロジェクトメンバー

お客様

理事長

谷内 徹氏

専務理事

吉野 明氏

総務課長

脇 大輔氏

ニュートン・コンサルティング

代表取締役社長

副島 一也

コンサルタント

南 明日香

コンサルタント

永峯 登喜子