リスク管理Navi
リスク管理Naviは、リスクマネジメント(Risk Management)に関しての情報サイトです。
東京動物園協会 様
お客様 |
葛西臨海水族園 園長 田畑 直樹 様 葛西臨海水族園 管理係長 矢代 学 様 葛西臨海水族園 管理係主任 本山 善啓 様 公益財団法人東京動物園協会 総務部総務課庶務係長 木村 恒司 様 公益財団法人東京動物園協会 総務部総務課庶務係主任 中谷 文洋 様 公益財団法人東京動物園協会 総務部総務課庶務係 岡 清志 様 |
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ニュートン・コンサルティング |
エグゼクティブコンサルタント 久野 陽一郎 |
1989年の開園以来、「海と人間との交流の場」として長く愛されている葛西臨海水族園。年間約150万人前後が訪れ、週末やホリデーシーズンには特に多くの来園者で賑わいます。この葛西臨海水族園を運営・管理するのが東京動物園協会様です。
東京動物園協会様では、東日本大震災を教訓に危機管理・BCP改善プロジェクトをスタート。ニュートン・コンサルティングでは2012年より、そのご支援をさせていただいております。今回、葛西臨海水族園で行われた大規模地震避難訓練の模様を取材しました。
東京動物園協会様は1948年に設立され、2006年から東京都立動物園・水族園4施設(恩賜上野動物園・多摩動物公園・葛西臨海水族園・井の頭自然文化園)の運営・管理を飼育部門まで含めてトータルで任されています。
安全管理についても責任を負う立場にあり、これまでも各園で猛獣が脱出した場合の捕獲訓練、急病人や事故発生対応、台風など気象災害対応といったルール整備・訓練を個別に実施していました。ただし、個別最適となっており、体系だったルールや訓練ではありませんでした。
状況が変わったのは2011年の東日本大震災後です。動物や来園者、従業員など多くの来園者の命を預かる立場にあり、より強固な危機管理が必要になるという想いから、当社にお声掛けいただいて危機管理・BCP改善プロジェクトをスタートしました。
まず取り組んだのは、体系的で実効性のある訓練を実施して現状の課題を抽出し、その課題に対する明確なルールを整備することです。2012年度、2013年度には上野動物園・多摩動物公園・葛西臨海水族園・井の頭自然文化園の4施設で訓練を実施。避難から救護活動、被災状況の確認、災害対策本部の設置、動物の生命維持、優先業務の継続といった対応の一連の流れを検証しました。
訓練を通じて、災害時に各自がどのような役割を担っているのかが見えてきました。それを踏まえて反省点や課題を徹底的に抽出し、日常業務の中で何となく認識されていた暗黙知を系統立てて整理。足りない点については新たにルールを整備しました。本番に近い意識を持ち、一致団結して行動できたことの意義は大きかったといいます。2014年度以降も毎年継続的に訓練を実施し、危機管理体制をブラッシュアップしていきました。
危機管理・BCP改善プロジェクト開始前に比べて危機管理意識が格段に高まる中で、一つの課題が浮上してきました。「訓練にいかにリアリティを持たせるか」ということです。
大規模施設での訓練において、特に重要になるのがリアリティです。営業時間内に災害が起きた場合、園内に多くのお客様がいらっしゃる状態で対応に当たらなければなりません。このため、職員だけで訓練を行っても実際の場面とは異なり、真の意味での実効性が担保されません。「訓練のための訓練」になりかねないという懸念があります。
リアリティを高めるためには一般参加者を募って行う公募型訓練が有効ですが、職員だけの訓練に比べてぐっと難易度が上がるのも事実。「きちんと対応できるのか」という議論もありましたが、危機管理・BCP改善プロジェクトで培ってきた対応力を活かし、それをさらに底上げするためにも、公募型訓練に踏み切ることになりました。
東京動物園協会様初の公募型訓練は、2017年3月に葛西臨海水族園で行われました。一般参加者約600名を園内に入れた状態で、営業時間中に地震が発生したという想定の下、避難誘導訓練を実施。同園の防災標語「おさず・さわがず・かけださず・なによりだいじなあなたの命」を略して「お・さ・か・な大作戦2017」と命名された訓練は、実際に来園者の対応を行うことでリアリティや緊迫感があったと好評でした。
そして、2回目となる今回はさらに公募枠を拡大し、1,500人以上が参加する大規模な訓練となりました。この人数は土日祝日など、同園の一般的な集客日の一時滞在者数に匹敵するといいます。前年度と同じく営業時間中に地震が発生したという想定で、職員が参加者を一時避難場所まで安全に誘導することを目標としました。大勢の来園者でごった返す中、パニックや負傷者の発生を抑えて職員が連携し、いかにスムーズに誘導できるかを入念に練り上げていきました。
訓練概要 | |
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日時 | 2018年7月7日(土)18:00から20:00 ※営業時間終了後に実施 |
場所 | 葛西臨海水族園 |
想定状況 | 営業時間中に首都圏直下型地震・震度6強(津波被害なし) |
一般参加者 | 1,540人 |
避難誘導対応職員 | 42人 |
18:00 自由観覧
一般参加者が園内に入り、自由観覧をスタートします。約1,500人で賑わう館内は非常に混雑し、葛西臨海水族園の名物でもあるマグロの大型水槽前では、二重三重の人だかりができるほどの盛況ぶりでした。
今回のシナリオは自由観覧時間内に地震が起きる想定で、発災時刻は一般参加者には告知されていません。自由観覧の間、職員は誘導スタッフとして各自の持ち場に向かいます。
18:50 発災
「訓練放送、ただ今大きな揺れを感じています」
全館アナウンスを合図に、職員は自分の身を守りながら一般参加者への声掛けを開始します。
「揺れが収まるまで姿勢を低くして、頭を守ってください」
「水槽からはなるべく離れてください」
「当園は耐震構造になっています」
こうした声掛けを繰り返し実施し、一般参加者は指示に従って身を守る体勢を取りました。
18:51 誘導
揺れが収まった後は、職員が一般参加者を当日の一時避難場所である「水の広場」まで誘導します。館外にある「水の広場」までは、屋外に出て林の中を抜けていくことになります。日が落ちて薄暗いため、職員は避難誘導灯を振ったり、列の前後について声を掛け続けたりと、安全に十分配慮して避難を行いました。
ただ、参加人数が多いため、通路が狭い部分では人が滞留してしまう場面も。列が止まって動けなくなった参加者に対しては、職員が「少々お待ちください」「あと〇〇メートルで水の広場です」などと声を掛け、順次誘導していきました。
19:05 訓練終了
発災想定時刻の18:50から約15分後、複数のルートで避難していた一般参加者が無事「水の広場」に辿り着きました。訓練はこれで終了です。車椅子・ベビーカー利用のお客様やお子様もスムーズに避難でき、終了後は再び自由観覧を楽しむ方も多くいらっしゃいました。
1,500人以上もの一般参加者を動員して行う訓練は、他ではあまりない大がかりなものです。前年度の3倍近い規模であることに加え、お子様の多さや館内の構造の複雑さなどもあって、誘導する側にとっては緊張する場面も多い訓練でした。
しかし、避難誘導は概ねスムーズに進み、怪我人やはぐれてしまう人もなく、無事終了しました。東日本大震災後から危機管理・BCP改善プロジェクトをスタートし、より実効性ある災害対策を目指して訓練を重ねることで、職員の間にも災害時の対応が浸透してきたと言えそうです。
また、ピーク時の混雑に匹敵する大勢の参加者を誘導することで、新たな課題も見つかりました。東京動物園協会様では多くの命を預かる立場として、今回の訓練を踏まえ、より強固な危機管理体制を構築していく考えです。
公募型避難訓練「お・さ・か・な」大作戦2018は、参加された皆様、関係機関の皆様のご協力で無事終了しました。
訓練参加者は1,500名を上回りました。これだけの来園者が一時滞在しているという状況は、1日の入園者数で見ると8,000人から10,000人の規模です。大人数の参加者を10分で館外に誘導し、15分で避難場所に移動できたことは、非常時に備えた態勢がスムーズに実現できた結果だと思います。
私は今回の訓練で一番混雑が予想された避難路の途中にて訓練に立ち合いました。車椅子、ベビーカー、子ども連れの方々もいらっしゃいましたが、職員の声がけや誘導灯の使用、トイレ内の状況確認等が適切に実施され、混乱することなく避難が完了しました。
今後も訓練等を通じて万一の事態に備えるとともに、日頃から当事者意識を持ち、もし天候が悪かったら、もしここで水槽が割れて水が噴出したら等、常に想像力を働かせ、日頃から非常時のことを心がけたいと思います。
名称 | 公益財団法人 東京動物園協会 |
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所在地 | 東京都台東区池之端2-9-7 池之端日殖ビル7階 |
設立 | 昭和22年12月24日(任意団体として発足)/昭和23年11月1日(財団法人設立許可)/平成22年4月1日(公益財団法人へ移行) |
事業内容 | 動物園及び水族園の事業の発展振興 /動物とその生息環境について知識を広め、人と動物の共存に貢献すること |
利用サービス | BCP訓練・演習支援サービス |
継続的な訓練をサポート
弊社は2012年度から東京動物園協会様のご支援に携わり、これまで訓練の設計や評価、非常時のルール整備などを行っています。今回の訓練では訓練内容の評価を担当し、多数の避難者がスムーズに避難できたのかを、当日の避難の様子や参加者アンケートから分析させていただきました。
今回の訓練の最も素晴らしい点は、避難者が大幅に増加したにも関わらず、約15分という短時間で全員が避難完了できたことです。これまで継続してきた訓練によって、スタッフの皆さんに災害への対応力がしっかりと身についていることが示されています。一方で、多数の避難者がいる場合に混雑が発生するエリアがあり、園内放送やスタッフのアナウンスが聞こえづらくなるという新たな課題も明らかとなりました。
災害への備えに完璧はありません。多くの方の命と安全を預かる施設として、今後もさらなる対応力向上に努めていただければ幸いです。