ウェザーニューズ 様
「いざという時、人の役に立つ」ために。
オールハザードBCPで不測の事態に備える
ウェザーニューズ様は、千葉県に本社を置く世界最大規模の総合気象情報会社です。創業者・石橋博良氏が「船乗りの命を守りたい」との想いでスタートさせた気象サービスは陸・海・空のあらゆる分野に広がり、現在では「“いざ”という時、人の役に立ちたい」を合言葉に世界約50カ国のお客様に向け気象コンテンツ・リスクコミュニケーションサービスを提供されています。
この度、事業継続(BCP/BCM)構築サービスをご利用いただいた経緯と成果について、代表取締役社長 草開 千仁 様、常務執行役員 サービス統括主責任者 安部 大介 様、リスクマネジメント委員会 Section Leader 工藤 成史 様にお話をうかがいました。
―貴社の事業内容をお聞かせください。
草開:当社は1986年に創業した総合気象情報会社であり、「Always WITH you!」のモットーのもと、24時間365日人の暮らしを支える「サポーター価値創造」を実現することを企業理念に掲げています。テレビで放送される天気予報はもちろん、航海気象・海上気象やスポーツ気象・放送気象・トラベル気象など、世界中の法人および個人のお客様に向けた様々な事業を展開しています。
現在は約2500社の企業様とお取引をさせていただいており、陸・海・空のあらゆる分野における44の市場に対して、気象コンテンツ・リスクコミュニケーションサービスを提供しています。
―これまでの事業継続の取り組みについてお聞かせください。
草開:当社のサービスは、気象コンテンツの提供とそれを補完するリスクコミュニケーションサービスの2つが軸となっています。24時間365日、全世界にリアルタイムでコンテンツを配信し続けるためには、コンテンツの制作や配信に必要なITインフラの安全を確保しなくてはなりません。
現在では当社のITインフラはオンプレミスからクラウドに移行が進んでいますが、オンプレミスについては年に一度本社ビルの法定点検があるほか、自家発電設備を導入して不測の事態に備えてきました。
また、2011年の東日本大震災後には、千葉・幕張のグローバルセンターでの運営が困難になった場合に備えて、名古屋の営業・運営拠点でオペレーションができるバックアップの環境を整えました。とはいえ、現在は新型コロナウイルス感染症の流行によりリモート対応が進んでおり、本社が使用できない場合には自宅からリモートでの運営も可能になってきました。
そのBCPは、「いざという時」に機能するか?
―BCP策定に取り組むことになったきっかけについてお聞かせください。
草開:私達の事業は「“いざ”という時、人の役に立ちたい」という想いを原点にしていますから、平時はもちろん、自然災害などの危機事象が発生した時こそ、正確な情報をリアルタイムに提供して皆さまのお役に立たなくてはなりません。しかしながら、昨今では気候変動の影響により「極端気象」と呼ばれる現象が頻発し、自然災害も激甚化しています。
そうした中で「“いざ”という時」が訪れた場合、本当に無事にサービスをご提供できるのか。そのためのITインフラやBCPの備えは十分なのか。一度プロに点検してもらい、必要に応じて対策を打つべきであると考えました。
また、近年、ここ千葉周辺で様々な災害や危機事象が生じたことも、危機意識が高まった理由の一つです。2019年に上陸した台風15号は、千葉県内に大規模な停電を引き起こしました。当社は自家発電設備によって運営を継続できましたが、「この状態が続いたらどうなるのか」とぞっとした出来事でしたね。ほかにも大手の通信事業者による大規模な障害などが相次いで発生したことにより、BCPの重要性がさらに実感されました。
安部:今年は東日本大震災から10年の節目であるということも、プロジェクトに着手した理由の一つといえますね。当社では2011年、震災を機にBCPを策定したのですが、その後の外部環境などの変化に伴い様々な点で改善が必要になってきていました。10年目となる今年は、見直しに適したタイミングだったといえます。
―取り組みにあたってコンサルティング会社を利用した理由を教えてください。
草開:昨今、日本で頻発している自然災害やパンデミックなど、私達を取り巻く環境はかつて当社がBCPを策定した2011年当時とは大きく様変わりしています。当社は気象については専門ですが、それ以外の様々な事柄を全て独力で想定するには限界がありますから、やはりプロの知見をお借りしようと考えたのが理由の一つです。
また、BCP策定といっても、どのくらいのレベルまで想定しておくべきなのか、一般的な傾向はどうなのかなど、自社だけでは判断ができないことが多々あります。こうした点についてもプロに相談し、他社の状況なども踏まえて当社に適切なBCPを策定するのが望ましいと考えました。
―ニュートン・コンサルティングをお選びいただいた理由は何でしたか。
安部:今回の取り組みにあたっては、ニュートンさんのほか監査法人系や損保系など、5社ほどのコンサルティング会社にお声掛けをさせていただきました。最終的にニュートンさんへのご依頼を決めた理由としては、豊富な実績を持ち、私達に近い情報通信業の企業様を多く手掛けてこられたことが大きいです。また、お話をうかがう中で当社のBCP策定支援に対する強い熱意が感じられたことも頼もしく思いましたね。
工藤:私は本プロジェクトのために色々とリサーチする中でニュートンさんを知ったのですが、豊富なBCP策定の支援実績や支援に対する情熱に加え、BCP策定において非常に重要なプロセスである「事業インパクト分析(BIA)」に注力し、非常にしっかりとした分析をされているところが信頼できると感じました。また、当社は陸・海・空のあらゆる分野における44の市場に対してサービスしていることもあり、ニュートンさんが多岐にわたる市場・業界に対する支援実績に基づき、市場・業界毎の目標復旧時間(RTO)の特徴等を把握されているところも大きなポイントでした。当社のRTOを決める上で、各市場・業界におけるRTOを考慮しないで決めたのでは、お客様の“いざ”という時に、役に立てなかったということになりかねませんから。
「結果事象型」のアプローチで、多様化するリスクに備える
―プロジェクトの概要を教えてください。
安部:今回のプロジェクトの主な目的は、BCMを全社で運用するための道筋を作ることでした。具体的には、BCMの基盤となるBCP基本方針を策定すること、全社へBCPを展開するためのパイロット版となるBCPを策定することの2点が達成したい主な事項でした。
はじめに、プロジェクト開始に先立ち草開社長へトップインタビューを実施。社長の事業継続に関する想いと全社でBCMに取り組む意義を言語化していただきました。その後、BCP基本方針策定フェーズ、BCP策定フェーズの2つのフェーズでプロジェクトを進めていきました。
BCP基本方針策定フェーズでは、ステークホルダー分析、リスク分析、事業影響度分析の3つの分析により、自社の外部要因や内部要因を整理し、パイロット版として優先的にBCPを策定すべき部門を選定しました。また、平時や有事の行動指針となる事業継続基本方針を含む、BCM活動を推進するうえでの基本的事項を定めたBCP基本方針書を策定しました。
BCP策定フェーズでは、前フェーズにてパイロットとして選定した3部門の関係者を交えて計3度のワークショップを行い、各部のBCP文書を策定しました。また、3回目のワークショップでは机上訓練によりBCP文書の実効性を検証し、発見された課題をインプットに次年度の年間運用計画を策定しました。
―プロジェクトで苦労されたことはありますか。
草開:プロジェクト開始当初は、私達がこれまで採用してきたアプローチとニュートンさんの提示されるアプローチが大きく異なることに戸惑いました。いわゆる「原因事象」のアプローチと「結果事象」のアプローチの違いですね。
これまでの私達のやり方は、「このような災害が起きた場合はどう対応するのか」というように原因に注目して行動を考える「原因事象」のアプローチが基本でした。ところが、ニュートンさんがとられているアプローチは、設備や情報システムなどの経営資源が災害等によって受ける影響に注目し、「このような被害が生じた場合はどう対応するのか」を考える「結果事象」のアプローチ。この前提の違いを理解して慣れるのに、少しだけ苦労しました。
工藤:様々な危機事象に対して利用できる「オールハザードBCP」の必要性が叫ばれる現在では、BCPのアプローチは「原因事象」から「結果事象」へという流れがありますね。とはいえ、社内だけで考えていると、つい「地震の場合はどうするのか」といった話になりがちです。私自身、「結果事象」の考え方などの前提をしっかり社内で認識合わせできるまで、社内資料を何度も作り直しました。
企業のミッション実現に貢献する、オーダーメイドのBCP
―今回のプロジェクトの成果はいかがでしたか。
安部:内閣府の事業継続ガイドライン等の一般的な内容だけでなく、災害時に早期対応が求められる自治体やインフラ業界他社の実際の取り組み事例を基に、どのくらいまで取り組んでおけばよいかご教示いただくことができ、客観的な視点から自社の取り組み状況を分析できました。
プロの視点で「ここはどうなのか」といった鋭い指摘をいただくことで、それまで曖昧だった点についてもより深く踏み込むことができたのも良かった点ですね。それにより、本当に必要な経営資源や取り組みをしっかりBCPに落とし込むことができました。
BCPについてはこれまでも社内で必要性は認識されていたものの、どこまで踏み込むべきかが分からず、分野によって取り組みの深さに大きな差がありました。今回のプロジェクトによって全体としてどこまで取り組みを推進すべきかが明確になり、統一感をもたせることができました。
草開:何事もそうですが、道筋が見えない状態というのが一番辛いものです。道筋が見えてしまえば後はそれに沿って邁進するのみ、課題の50%は解決したも同然ではないかと思います。
プロジェクト開始前のウェザーニューズは、この「道筋」が見えない状態だったのかもしれません。何かをしなくてはならないのは分かっているが、何をどこまでやればよいか分からない。ずっと心に掛かっていながら、自分達なりの「道筋」が見えないために思い切って前進できなかった。
今回のプロジェクトで、少なくとも先行してBCP策定を行った3部門については「道筋」を見出すことができました。このことは今後に向けた大きな一歩であったと思います。
安部:今回、プロジェクトの開始にあたっては草開社長にインタビューをさせていただき、会社としてのメッセージを発信していただきました。これによって社長の考えや覚悟をスタッフに伝えることができたのも、後のプロジェクト推進において効果的だったと思います。プロジェクト開始時にトップインタビューを行い、その内容を基本方針にしていくニュートンさんのやり方はとても良いですね。
草開:BCPは、「何のためにやるのか」という点が非常に重要です。BCPが企業のミッションや存在意義にうまく合致したものでないと、スタッフの皆も受入れにくい。逆に、ウェザーニューズの「“いざ”という時、人の役に立ちたい」というミッションにもとづいて「そのためにこれをする必要があるのだ」ということであれば、無理なく受け入れることができます。
そのような企業ミッションの実現を支えるものとしてのBCPの意義を明確にメッセージ化できたことが、実は一番大切なことであり、大きな成果だったのではないかと思います。
―ニュートンのコンサルティングはいかがでしたか。
安部:ワークショップなどでのファシリテーションがとても良かったですね。社内だけで行うのではなく、BCPのプロに入っていただくことで議論が活性化し、深まりました。
工藤:BIAのプロセスにおいても、非常に自由度が高く、ウェザーニューズに合った形の評価方法を一緒に考えていただけたのがありがたかったです。お渡しした情報を事務的に文書化するようなやり方ではなく、当社が主体的にBIAを行う中で、しっかりと対話のキャッチボールを重ねながら当社に合ったBCPのあり方を検討し、策定できたことは非常に良かったと思います。
―今後の取り組みについて教えてください。
安部:今回はパイロットとして選定した3部門のBCP策定を行いましたが、引き続き粒度をそろえながらほかの部門についても取り組みを進めたいと思っています。BCPを全社に浸透させるためにはやるべきことが山積みですが、今回のプロジェクトで作り上げたものを基盤として、活動を積み上げていきたいですね。
草開:今回、国内の取り組みを通じて得た知見をもとに、海外にもBCPを展開していきたいと思っています。航海気象や航空気象は海外のお客様も多くグローバルに事業を展開しているため、これらの部門のBCP策定を通じてグローバルBCPの整備につなげられればと考えています。
―本日は誠にありがとうございました。
利用サービス
プロジェクトメンバー
お客様 |
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代表取締役社長 草開 千仁 様 |
常務執行役員 サービス統括主責任者 安部 大介 様 |
リスクマネジメント委員会 Group Leader 北川 堅 様 |
リスクマネジメント委員会 Section Leader 工藤 成史 様 |
ニュートン・コンサルティング |
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シニアコンサルタント 辻井 伸夫 |
担当の声
トップの強い想いが、BCP策定の大きな推進力に
また、本プロジェクトのワークショップは新型コロナウイルス感染症の流行に伴い完全リモートでの実施となりました。事務局の皆様に事前ツール準備等で多大なご協力をいただいたのに加え、参加者の皆様もスムーズに議論に参加くださり、実地で行うのと遜色ないばかりか、むしろ白熱した議論を展開いただきました。
今回のご支援にあたっては、各部門で検討された復旧目標や対策のレベルが部門間でチグハグにならないよう、足並みをそろえながら一定の統一感を持って進めること、そのためのコミュニケーションを事務局や参加者の皆様と密に取ることを念頭に進めさせていただきました。
今後の展望は、今回策定したパイロット版BCPの展開や対策本部訓練の実施、各種改善活動等多岐にわたります。ウェザーニューズ様は「“いざ”という時、人の役に立ちたい」をより確かなものとするため、これら一つ一つの活動に強い意志を持ってBCMを推進されていくものと確信しております。本支援を通してその過程の一端に貢献することができたならば、これに勝る喜びはございません。