
「HNDL攻撃」とは、現在の技術では解読できない暗号化データを収集しておき、将来的に量子コンピュータを使って解読を試みようとするサイバー攻撃です。HNDLは「Harvest Now, Decrypt Later」の略で、「今収穫し、後で解読する」という意味を持ちます。サイバーセキュリティの新たな脅威として注目されている攻撃手法です。
HNDL攻撃の背景にある量子コンピュータとは
量子コンピュータは、従来のコンピュータとはまったく異なる原理で動作する次世代のコンピュータです。
従来のコンピュータが2進法(0と1)のビットで計算するのに対し、量子コンピュータは量子ビット(キュービット)を利用します。量子ビットは、同時に複数の状態を持ちうるため、並行処理によって計算能力を飛躍的に高めることが可能です。
現在の暗号技術の多くは、素因数分解や離散対数問題などの計算の難しさに基づいています。従来のコンピュータでは、こうした計算に膨大な時間がかかるため、暗号の解読は事実上困難でした。しかし、高度な並列計算能力を持つ量子コンピュータは、瞬時に暗号を解読し無力化できる可能性を秘めています。
専門家によると、2030年代には、現在の暗号化アルゴリズムを解読できる量子コンピュータが完成すると言われています。
HNDL攻撃の脅威
HNDL攻撃の脅威は、量子コンピュータが暗号化技術を破る能力を持つようになる「未来のリスク」を「現在のリスク」に結びつけている点です。
現在の暗号化技術が量子コンピュータの登場によって解読されるのは、まだ数年から十数年先とされています。しかし、この期間を利用して、攻撃者は現在の技術で暗号化されたデータを収集し、安全に保管することで将来の解読に備えているのです。
HNDL攻撃で特に狙われやすいデータは、国家機密や知的財産などの長期的な価値を持つ機密情報と考えられます。現時点では攻撃の影響が表面化しないため、被害を把握しにくいことがHNDL攻撃の厄介な特徴です。しかし、量子コンピュータが実用化されたときには、大量の機密情報が一気に解読され、大きな被害につながる可能性があります。
HNDL攻撃への対策
アメリカ政府は、量子コンピュータによる暗号解読やHNDL攻撃の脅威を早くから認識しており、2016年から米国立標準技術研究所(NIST)が耐量子計算機暗号(PQC)の標準化に向けた取り組みを進めています。
耐量子計算機暗号とは、量子コンピュータを使っても解読が困難な暗号化技術のことです。
NISTは、世界中の企業や研究機関から耐量子計算機暗号の新たな標準候補となる暗号化方式を募集し、評価を進めてきました。2024年8月には、選出された3つのアルゴリズムが公表され、2024年中に残りの1つも公表するとしています。
量子コンピュータの実用化は数年から十数年先のことですが、HNDL攻撃はすでに現実の脅威です。機密情報を保有する企業や組織は、今から耐量子計算機暗号によるデータ保護への取り組みが求められます。