リスク管理Navi
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アダストリア 様
お客様 |
総務法務部長 白倉 和雄 様 総務法務部 マネジャー 橋詰 和佳 様 |
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ニュートン・コンサルティング |
アソシエイトシニアコンサルタント 林 和志郎 チーフコンサルタント 山本 真衣 チーフコンサルタント 荒川 卓也 |
昨年、創業70周年を迎えたアダストリア様は、テレビCMでお馴染みの「グローバルワーク」など、アパレルを中心にグループで30を超えるブランドを国内外で約1,500店舗展開されています。M&Aによる事業の多角化も積極的に進められており、飲食や雑貨ブランドの取得も注目を集めています。さらに地域創生にも取り組まれ、創業地の水戸市ではスポーツやレジャー、アート施設の整備といった街づくりにも参画しています。
この度、BCP訓練・演習支援サービスとして「富士山噴火対応訓練」を導入いただいた経緯と成果について、総務法務部長 白倉 和雄 様と総務法務部 マネジャー 橋詰 和佳 様にお話を伺いました。
白倉:当社では「Play fashion!」をミッションに掲げ、お客様の毎日をワクワクさせる商品やサービスを提供しています。創業はアパレルですが、長年培ってきたそのブランド力を生かし、衣食住とライフスタイル全般へ価値提供の場を広げてきました。
最近ですと、飲食店運営のゼットンを完全子会社としたり、「トゥデイズスペシャル」など生活雑貨ブランドの取得が話題となりましたので、当社のマルチブランド展開をご存じの方も多いかと思います。他にも幅広い世代の男女に支持をいただいているライフスタイルブランド「ニコアンド」では、住宅メーカーと協働して注文住宅の販売も始めています。
また、BtoB事業も展開しており、幼稚園や水族館の制服であったり、飲食店のボトルなどにもデザインを提供しています。
白倉:以前は総務ライン業務のひとつとして、店舗などで発生するヒヤリハットに対応してきましたが、企業規模が拡大したことから、2019年に総務とは別に危機管理ラインを立ち上げました。
BCPを策定し、当初からニュートンに支援いただき、首都直下地震を想定した訓練を毎年、実施してきました。当時、訓練に専門家の知見を借りようとなった際にニュートンを選んだのは、トップの意向を反映した訓練設計であったことや、アパレル会社支援の経験があり、実効性がある訓練の提示をいただけたからだと聞いています。
橋詰:危機管理担当の取締役、執行役員を含む災害対策本部メンバーを中心に訓練を重ねてきました。支店も巻き込むなど、実施範囲も広げながら運営してきましたので、初動対応や地震に対するリスク感度は確実に向上したと感じています。
また、コロナ禍という自然災害を経験したことで、経験知をBCPの改善につなげています。柔軟性やスピードを大切にする企業風土がありますので、当事者意識が高く、組織の風通しもよいためリスクマネジメントを回していくのにも役立っています。
橋詰:これまで毎年、首都直下地震を想定した訓練を継続して実施してきました。発災を夜間にしたり、オンライン勤務としたり、災害対策本部の代行者を立てたりと、さまざまな状況の訓練シナリオを設計していただきました。そのため地震に関しては有事対応に自信がついてきましたので、同じく激甚災害であり、かつ予兆がある進行型災害の富士山噴火を想定した訓練で新たな課題を洗い出したいと考えました。
また、実際に富士山が噴火した場合、現状の体制でどのくらいの対応ができるのかを確認したいという目的もありました。当社は本社機能があるのも店舗数が最多なのも東京なので、リスクとして想定しておくべきだと思ったのです。
白倉:前述しましたとおり、これまでの実際の災害対応で得た経験や震災対応訓練で培ってきたノウハウを検証する機会として、未経験である富士山噴火を想定した対策本部訓練を実施しました。これまで継続的に実施してきた経営陣を巻き込んだ震災対応訓練により改善を重ねてきたBCPに、新たに富士山噴火という未経験の災害シナリオによる検証を加えることで、名実ともにオールハザード型のBCP対応の実現を目指したプロジェクトです。
地震は突発的ですが、富士山噴火は噴火前の予兆が存在します。そのため、対策本部は噴火前の予兆監視段階から活動を開始する必要があります。
東京は富士山からの距離があるため、噴火直後は本社機能への影響は限定的ですが、時間経過とともに降灰量が増加し、停電や通信障害、公共交通機関の停止などに伴う本社機能の維持が困難になる可能性があります。そのため、予兆段階での意思決定による降灰エリアからの避難、代替拠点への移動、業務機能停止時の代替手段の準備などが極めて重要です。
橋詰:火山噴火特有の災害対応の論点は、ニュートンの皆さんとの事前準備段階でも簡易シミュレーションや映像資料等を活用した情報の確認と震災対応との違いを踏まえた議論を重ねながら、訓練設計に反映しました。
訓練には、本社対策本部長候補である経営陣や、本社対策本部メンバーに加え、グループ会社からも参加者が集まりました。冒頭の15分間、ニュートンにBCP及び富士山噴火の概要をレクチャーいただき、参加者全員が未経験の災害である富士山噴火の影響について、共通認識を持つことができました。特に、オフィスのある渋谷エリアのインフラは長期間の停止を余儀なくされるという想定には、参加者も危機感を募らせたと感じています。
レクチャーの後には、災害シミュレーションを行いました。噴火前、噴火当日、噴火継続中の3つの時間軸でシナリオが付与され、有事の役割に分かれてグループ討議を進め、その結果を対策本部会議で共有しました。
白倉:訓練当日は、現行の震災対応BCPで基本的な対応は可能なことが確認できた一方、富士山噴火による甚大な被害状況を参加者一人一人が疑似体験することで、想定しきれていなかった課題も浮き彫りになりました。訓練終了後には、経営層と課題の対応策の方向性を討議し、組織全体の危機管理能力をさらに強化するための具体的なアクションプラン策定につなげることができました。
橋詰:従来の当社のBCPは主に地震向けだったこともあり、対策本部の活動開始は発災後が想定されていましたが、予兆が捉えられる富士山噴火のような災害では、発災前にどれだけ動けるかが人命保護や事業継続に影響します。起点が違うということを各セクションの担当者が実感し、危機意識をもてたことは大きな成果だと感じています。
また、本社を含む関東エリアの拠点が富士山噴火で想定される停電や物理的な移動の困難、通信不通などに陥ったとき、それぞれの機能をどのように代替拠点などに移すかなど、具体的な課題も見えてきました。
橋詰:訓練の危機事象としては初めての試みだったので、どのくらい参加者に“困ってもらうか”を設定するのに迷いました。情報を与えすぎても危機意識が高まらないですが、ヒントなしでは議論が深まらないのではとも――。結局、ゼロベースで悩んでもらったわけですが(笑)、皆、緊張感をもって熱心に取り組んでくれました。
白倉:降灰を降雪と同じレベルの影響度で捉えていましたが、インフラや健康などに与える被害の大きさに驚きました。噴火の大きさによっては、復旧もとてつもない作業になります。訓練後の参加者アンケートでも、地震訓練のときとは異なる課題や感想が多くみられました。噴火も企業のリスクとして意識することができ、その怖さについても深く理解できたというだけでも実施の意義がありました。
白倉:当社は社員同士が仲のよい会社なので、すぐにくだけた雰囲気になりがちなところ(笑)、外部コンサルであるニュートンに運営してもらうことで緊張感を保てています。訓練の支援でいえば2018年からのお付き合いなので、事業内容だけでなく社風なども理解いただき、阿吽の呼吸で実施できるのも嬉しいですね。また、近年は災害が多様化、大規模化する傾向があり、専門家の知見を借りないと十分に備えることができないと感じているので、満足しています。
橋詰:すでに参加者のキャラクターまで把握してもらっています。誰をどのように巻き込んで議論を進めていくべきかもご存じなので、活気のある訓練に導いていただき有難いです。
橋詰:従来とは異なる危機事象を想定した訓練を実施したことで、新たな課題や整理したいポイントがいくつか見えてきました。それらをBCPに盛り込み、さらに訓練で実効性を確認していくことで、オールハザード型のBCPへさらに近づけられるのではと考えています。
白倉:M&Aによる事業の多角化も加速させていますが、アパレルや飲食など、異なる業種のBCPについてはただマージしたり、本社のBCPを押し付ければよいというわけではもちろんありません。今後はグループ全体を視野に入れてBCPを見直し、有事にしっかりと機能するBCPを目指していきます。
名称 | 株式会社アダストリア |
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所在地 | 東京都渋谷区渋谷2丁目21番1号渋谷ヒカリエ 27F |
設立 | 1953年10月 |
事業内容 | 衣料品・雑貨等の企画・製造・販売 |
利用サービス | BCP訓練・演習支援サービス |
アソシエイトシニアコンサルタント
林 和志郎
新たな挑戦や変化を成長の連鎖とする企業風土に感銘
アダストリア様は毎年、新たな要素を取り入れた震災対応訓練を実施されています。事務局から「今年は富士山噴火に挑もうと思う」と伺い、アパレル業界という変化が激しい業界に新たな挑戦で適応し続け、成長されている企業の姿勢がBCP活動でも生かされていることを実感いたしました。
噴火という予測が困難な事象に対する訓練設計にあたり、どこまで参加者に寄り添えばよいかについては何度も検討を重ねました。震災対応BCPで定めていない噴火の予兆段階、噴火後の広域被災時の対応で参加者の頭を真っ白にさせずに訓練を実施するには、被災状況ごとに検討の観点をどのように伝えるかなど、判断に迷いました。結果的にはあまり多くを伝えず、未知の危機事象に今の対策本部体制でどこまで対応できるかを検証する訓練となりました。瞬発力に富んだ参加者が多かったことから心配は杞憂に終わり、組織全体の危機管理能力向上へつなげられたと感じています。
多くのブランドを国内外に展開され、ブランドの開発から商品企画、生産、物流、販売までをグループ内で行う体制を構築されているアパレルとして、災害時は全国の店舗被災状況確認、自社のサプライチェーンの早期復旧と対応は多岐にわたります。多様化する災害に備えるために新たな挑戦をする強い意志を持った訓練を支援させていただき、変化の激しいこれからの時代でもアダストリア様がさらなる発展を遂げていかれることを確信いたしました。