リコーインダストリー/テクノロジーズ様

3.11を教訓にしたものづくりのBCP
規格に照らし妥当性を証明

株式会社リコーの生産拠点であった東北リコー株式会社は、2013年4月に生産を担うリコーインダストリー株式会社、設計を担うリコーテクノロジー株式会社の東北事業所として生まれ変わりました。桜の名所として知られる宮城県柴田町に15万平米を超える敷地を構えるこの事業所は、東日本大震災によって大きな被害を受け、その貴重な体験をもとにBCPを見直し、ISO22301の認証を取得する取り組みを行いました。この取組について、リコーインダストリー株式会社理事 経営管理本部 副本部長兼 経営管理室長の上野正道様をはじめ、現場を支える皆様にお話を伺いました。

地震が来ることを前提に、3.11以前からBCPを策定

リコーインダストリー株式会社
理事 経営管理本部 副本部長兼 経営管理室長
上野正道氏

―御社の事業内容を教えてください。

上野: 当社は東北リコーとして1967年に設立した会社ですが、2013年4月のリコーインダストリー、リコーテクノロジーズの発足に伴い、それらの東北事業所及びリコークリエイティブサービスの東北支店となりました。リコーインダストリーには生産機能が、リコーテクノロジーズにはリコーグループにおける設計機能が集約されています。

担当している製品はデジタル複写機、印刷機、プロダクションプリンターやサプライ品です。ここには開発・設計から生産に必要な機能がすべて同一敷地内に近接しており、連携プレーによるものづくりを実現しています。また、3社合わせて1886名の従業員が働いています。

―BCPは東日本大震災前から策定されていたのですね。


上野: 宮城県では30年の周期で大地震が来ると言われており、前回の宮城沖地震から30年ほど経過していたので、当時のトップの指示により、地震が来ることを前提にしてBCPに取り組んでいました。完全なものではありませんでしたが、行動計画はできていましたし、一度ですが、災害対策本部や優先事業の復旧訓練も実施していました。

3.11の直前に訓練を行っていた

リコーインダストリー
KP事業部 KS生産事業センター KS生産企画室 シニアスペシャリスト
半澤健一氏

―3.11の被災状況について教えてください。

上野: ここ(宮城県柴田郡柴田町)は海岸線から30kmほどの内陸地域なので、津波の直接的な影響はありませんでしたが、天井が落ちる等の被害が多く出て、しばらくは立ち入りを禁止にしなければならなくなりました。幸いなことに建屋の倒壊や火災はありませんでしたが、いたるところにヒビが入ったり吊り天井が落ちたりしました。薬品を使うエリアではガスの充満を避けるために窓を開けて避難したので火災には至らず、これは事前の訓練の成果と言えます。一方で、タンクが飛び跳ねたり生産設備がズレたりということも起こりました。建屋や生産設備の被害総額は12億円ほどにのぼりました。

―実際に業務が復旧するのにはどれくらいかかりましたか。

上野: 工場内の安全が確認され、ようやく復旧活動に入れたのは3月24日でした。28日にはキーパーツの生産を開始し、4月6日にはトナー以外の生産を再開できたのですが、そこでまた震度5強の余震があり、さらに被害を受けたため、全ラインを復旧できたのは4月26日でした。

ただし、一部の製品はサプライヤーから必要な部品を入手できなかったため、通常通りまで復旧したのは7ヶ月後の10月中旬でした。建築業者が資材を確保するのに時間がかかったため、建屋の修繕にも時間がかかりました。

半澤: モーターの生産再開では、技術者の生産担当が知恵を出し合って工夫し、メーカーに修理を依頼しなくても応急処置によって暫定的に生産を復旧させました。すべてを自分たちで修理できたわけではありませんが、設備の仕組みを熟知している人間がいれば、いざというときには工夫すればできるということがわかりました。

ものづくりの発想に立ったユニークな取組み

―震災後のBCP見直しでは、どのようなことが課題になりましたか。

上野: 最大の課題は、外部依存しているエネルギーをどうするかということでした。そこで、2011年のうちに3000キロワットの発電機を導入し、トナーやサプライ等の優先事業とインフラに必要な電力を確保できるようにしました。これはあくまでも非常用という位置づけだったのですが、平時においても夏場のピークカット、契約電力を下げることで、重油代をかけてもコストダウンになるという副次的なメリットも現れています。

設備については、吊り天井がすべて落ちてしまったため、最新の工法で作り直しました。飛んでしまったタンクについては、中の水が揺れによって回る遠心力が原因と思われたので、つねに満タンにしておくようにルールを変えました。同じ設備が沼津事業所にあるので、そちらでも同じルールを適用しています。

渡邊: 3.11当日は、月曜に操業を再開するとして帰宅を指示したのですが、被災状況を確認した結果、月曜は休業ということになりました。ところが電話も何もつながる状況ではなかったため、葬祭場から立て看板を借りて、出勤ルートにいくつか立てたことが役に立ちました。当時の体験から、そんな細かい対策を講じるようになりました。

上野: 生産の機械設備でも、物によってはガチガチに固定せずに適当に動くようにしておいたほうが壊れないことがわかったりしました。そういったことは一度経験しないとなかなかわかりません。

内部の水が揺れで回転することで “飛び跳ねて”しまったタンク。 満タンに保つことで再発を防止する

―ニュートンのコンサルティングはいかがでしたか?

上野: 不幸なこともたくさんありましたが、学んだことを自分たちのBCPに反映させ、リコーグループ全体にこの貴重な経験を活かそう、というのがトップの思いでした。スタッフも震災後はBCMSをイメージするようになり、ISO22301の要求事項も考慮して仕組み化できたので、リコーグループの代表として認証を取得し、グループ内でパッケージ化したものを水平展開するという構想が生まれました。認証そのものは目的ではありませんが、要求事項という客観的なものさしによって自分たちの活動の良し悪しを客観的に判断できるようにしたいと考えました。

このあたりはニュートン・コンサルティングの支援を得ながら現状と要求事項とのギャップを明確にし、必要と判断した事項については見直しを行いました。特に「復旧の定義」についてはプロジェクト内でも「何をもって復旧とするのか」という議論がありましたが、個々の事業に求められる内的要求、外的要求を満たすための目標復旧時間、目標復旧レベルを設定することで解決が得られ、より現実的な計画になったと思います。ドキュメント類の整備もできたので、グループ内の水平展開も行いやすくなりました。BCMSとして仕組み化することによって、事務局がお尻を叩かなくても日常の組織活動の中に定着させることができました。

―リコーグループへの展開について、どのような取組をしましたか。

上野: 東北事業所という物理的に完結した中でBCPを整備し、強固なものにすることはできましたが、リコーグループのSCM視点で見たときにちゃんとしたチェーンが形成されているかというと、生産に必要な部品や材料の調達がネックになります。今回、ニュートン・コンサルティングの協力もと、国内主要仕入先に対し、災害対策あるいはBCPへの取組状況調査を実施しましたが、その結果を鑑み、グループとしては、国内仕入先のリスクを見積り、在庫でカバーする場合の積み増し分を把握した段階です。下期以降は海外も含めたリスクとその低減策を把握していき、最終的には、在庫を積み増すか代替を考えるかという選択になると思います。実際には複合的な判断をもって個別に対応していくことになるでしょう。

この原体験をもっと広く伝えていきたい

―今後はどのような展開を考えていらっしゃいますか。

上野:  まずひとつ目は、夜間や休日を想定した訓練を実施したいと思っています。 ふたつ目は、リコーインダストリーの他事業所への展開です。他に3つの拠点があるのですが、それぞれ製品に関する行動計画を完成させ、机上訓練を一度行ったという段階です。それをこれからPDCAサイクルにのせ、BCMSとしての仕組みを構築していきます。 3つ目は、リコーグループ全体でSCM上の対応力を強化していくということです。 3つ目のSCMは、そう簡単ではないと思います。資本関係にあるグループ会社に対しては指示することもできますが、それ以外の会社には協力いただかなければなりませんし、コストもなるべくかからない形で進めなければなりません。 それとは別に、この東北事業所の原体験をもっと広く伝えていきたいという気持ちがあり、リコーグループの販売会社のチャネルを通じて、そういった啓蒙活動を昨年までの3年間で100件以上実施してきました。社会に対するお役立ちという視点で、これからも続けていきたいと思っています。

―本日はありがとうございました。

担当の声

シニアコンサルタント  高橋 篤史

磨きぬかれたBCMSをISOに照らしてさらなる高みを目指す

ISO22301認証取得の目的を自社BCMSの妥当性検証に据える、ということを伺い、その大胆さに、いくばくかの不安と期待を抱いて東北事業所を見学させていただいた折、徹底した運用を目の当たりにして、全て納得したことを記憶しています。工場内の危険個所に引かれた導線や、自作の転倒防止器具、精密機器の復旧手順や年間のPDCA活動を示した数々の解説ボードなど、あらゆる部分にBCMSの考え方が現れていました。

当初は既存の枠組みに沿って認証取得のための整備を進める予定でしたが、既に運用が定着し、震災を経た見直しも実施済みである状況を鑑みて、型にはまった進め方ではなく、比較的整備が進んでいないパートを補強する方針に切り替えました。

特に、曖昧であった業務毎の復旧目標設定プロセスを標準化すること、内部監査のポイントを明確にすること等に焦点を絞り、BCMS全体のバランスを確認して審査に臨んだ結果、当初の目的である妥当性検証も実現できたと思われます。現在、サプライチェーンの強靭化に向けた取組みにも徐々に進められているとのことですので、リコー様のBCMSもさらなるひろがりが期待されます。

お客様情報

名称 リコーインダストリー株式会社
リコーテクノロジーズ株式会社
リコークリエイティブサービス株式会社
所在地 宮城県柴田郡柴田町神明堂3-1
設立 2013年4月1日
代表者 リコーインダストリー:代表取締役 社長執行役員 山田清高
リコーテクノロジーズ代表取締役 社長執行役員 斉藤 穣
リコークリエイティブサービス:代表取締役社長  荒木 健郎
事業内容 事務機器、光学機器、印刷機器などとこれらの消耗品などの開発・製造販売など

(2014年4月現在)

プロジェクトメンバー

お客様

理事 経営管理本部 副本部長兼 経営管理室長

上野正道氏

経営管理センター 総務室東北総務G1係

渡邊与様氏

KP事業部 KS生産事業センター KS生産企画室シニアスペシャリスト

半澤健一氏

経営管理本部 販売推進室 販売一グループ 兼 プリンティング事業部 事業改革センター RWP強化支援室 RW-CISグループシニアスペシャリスト

尾形和弘氏

経営管理本部 事業戦略室 人事総務Gシニアスペシャリスト

佐藤正彦氏

ニュートン・コンサルティング

代表取締役社長

副島 一也

シニアコンサルタント

高橋 篤史

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