日本自動車連盟 様

事業計画と連動したリスクマネジメントで
「攻め」と「守り」を同時に推進する

一般社団法人日本自動車連盟(JAF)様は、自動車ユーザーのバッテリー上がりやタイヤパンク等のトラブル発生時に駆けつけるロードサービスをはじめとする各種サービスの提供とともに、交通の安全と環境のための事業活動を積極的に展開しています。このたび、ERM(全社的リスクマネジメント)構築からその自走化と全国展開まで、4年間にわたるプロジェクトに取り組まれた経緯とその成果について、経営企画部長 理事 横野 茂樹 様、経営企画部経営企画課 主管 渡邊 敬太 様、経営企画部経営企画課 川田 大輔 様にお話を伺いました。

 

―貴社の事業内容をお聞かせください。

経営企画部長 理事
横野 茂樹 様

横野:私たちの組織は自動車ユーザーからの緊急要請に応えるロードサービスの提供を中心とした各種サービスの提供を行っています。現在では約1,960万名の方に入会いただいており、車の故障やトラブルのときだけでなく日常的にもメリットを感じていただけるよう会員に向けた優待サービスの拡充に力を入れているところです。
そのほか、FIA(国際自動車連盟)公認の四輪モータースポーツ統括団体として、競技ライセンスの発給や競技会の公認、諸規則の制定など、モータースポーツの振興を目指す活動も行っています。

 

―4年間にわたる取り組みのきっかけを教えてください。

横野:今から5、6年ほど前までは、震災などの災害経験を踏まえたBCPの策定は行われていたものの、 ERM構築の本格的な取り組みは進められていませんでした。きっかけの一つとなったのは、2015年に施行された改正会社法です。コーポレートガバナンスやリスクマネジメントの強化が求められるようになったことを受け、私たちの組織でも本格的なERM構築の取り組みを開始することになりました。

経営企画部経営企画課 主管
渡邊 敬太 様

渡邊:以前から私たちの組織で想定される最大のリスクは「風評」であると認識していましたが、 当時はちょうど、SNSによる風評被害が取り沙汰された時期でもありました。また、アルバイト従業員が悪ふざけを撮影、投稿するいわゆる「バイトテロ」のような、企業としてのリスクマネジメントの重要性を痛感させる不祥事も多く報道されました。そうした事象による危機意識の高まりも、ERM構築の後押しになったと言えます。

 

―ニュートン・コンサルティングをお選びいただいた理由は何でしたか。

横野:私が経営企画部長となったのは5年前、ちょうど組織として本格的なERM構築に着手することになったタイミングでした。そのため、現在の部署に異動してすぐにリスクマネジメントに取り組むことになったのです。取り組みに着手して2年ほどは自分たちでリスクを洗い出し、対応策の検討をしていたのですが、うまくいかないことも多く難航していました。どうすればよいかと思案していたところ、ニュートンさんが私たちの組織のBCPを支援されていることを知り、ぜひERM構築でも協力いただけたらと考えました。

ERMの構築から定着、自走化、全国展開までを実現

―プロジェクトの概要を教えてください。

横野:JAFでは2016年から4年かけて、ERMを構築し、全組織への展開まで行いました。ニュートンさんに支援をお願いし、将来を見据えたERM構築を開始した1年目は、トップインタビューを含む業務執行理事へのインタビュー、ERM設計、ワークショップによる主要リスク主管部門のリスクアセスメントの実施、リスクマネジメント規程の見直しなどを行いました。本格的なERMの構築ができたものの、この時点ではやや難解な仕組みになっており、自走できる自信はありませんでした。

そのため、2年目は自走に耐えうる体制づくりを行いました。1年目に浮上した運用上の課題を改善するため、まず自組織に合うようERMを再設計し、部課長を集めた集合研修にて周知、また報告等のオペレーション改善を行いました。

そして3年目は、自組織での完全自走を目指し、環境変化にも柔軟に対応できるプロセス改善を行いました。具体的には、事業計画との連動のためのツール改訂、リスクマネジメントマニュアルの改訂、終日の集合研修、eラーニング資料の作成・研修実施などを行いました。こうして、3年の活動を通じて本部部署でERMを自走させることができるようになりました。

全組織をカバーする仕組みに昇華させるため、4年目はこの仕組みを全国の地方本部・支部へ展開。具体的には、全国8地方本部の事務局長や管内支部の事務所長などを集めた集合研修を合計8回行いました。

リスクマネジメントを事業計画と連動させ、強力に推進する

―今回のERM構築のポイントを教えてください。

経営企画部経営企画課
川田 大輔 様

川田:リスクマネジメントと事業計画に連動性をもたせていることが、私たちのERMの大きな特徴です。これにより、事業計画とリスクマネジメントを常にセットで考える体制を作ることができます。

事業計画を策定する際、まず部署ごとに問題点や課題を洗い出し、戦略マップで可視化した上で、それを基にKPIを設定していきます。一方、このような事業計画の策定と並行して、ニュートンさんに支援いただいて作成した「リスク一覧」も半期ごとに見直しを行い、対応計画を作っていきます。そして、最終的に、事業計画と「リスク一覧」の対応計画の2つをリンクさせていくのです。このようにして出来上がった、互いに連動性を持つ事業計画とリスク対応計画が、次年度の取り組みの指針となります。

横野:成果が見える「攻め」の経営は多くの人がやりたがる一方、リスクマネジメントなどの「守り」の経営はつい疎かになりがちです。リスクマネジメントを事業計画と連動させることで、より強力に推進することができるようになったと思います。

また、各部署が自分たちでリスク対応を策定し、実践し、見直すというPDCAサイクルができているため、各自が高い意識でリスクマネジメントに取り組めているのではないかと思います。

 

―今回のプロジェクトの成果はいかがでしたか。

横野:ERMの構築から自走化を目指した4年間の取り組みでしたが、段階ごとに着実に課題をクリアし、プロジェクトを進めていきました。最終的に会社法上の大会社や上場企業と同等のERMの仕組みを構築することができ、全国に展開できたことは大きな成果であると思います。

また、この4年間で、全職員の1割にあたる300人ほどの職員に対し、半日以上の時間を使った研修を行いました。このことは、職員にリスクマネジメントの考え方を伝え、リスクに強い組織文化を醸成することにつながったと思います。

渡邊:研修の際に、参加者の方から、「以前は漠然と我流の認識で捉えていたリスクマネジメントが体系化されて取り組みやすくなった」といった声をいただきました。日々の業務の中でも「リスク」という言葉を耳にするようになり、社内の意識の変化を感じています。

リスクマネジメントの情報が部署間で共有され、他部署の取り組みが見えるようになったことも注目すべき点です。各地方にある支部では、同様の業務をしていても、それに対するリスクマネジメントの仕方が異なるということがあります。他支部が行っている取り組みの情報を共有することは、リスクマネジメントの質の向上に役立つでしょう。

川田:情報の共有という点では、年に2回開催しているリスクマネジメント委員会も大きな役割を果たしています。リスクマネジメント委員会では、本部の各部署がそれぞれの取り組みをダッシュボードにとりまとめて発表します。全ての方に発表内容を自分事として捉えていただけるよう、それぞれの発表に対し、各支部長に評点をつけていただくのがポイントです。この取り組みについては、地方の支部も巻き込みながら、今後も継続していきたいと考えています。

形骸化を防ぎ、さらなる向上を目指す

―プロジェクトを通して、見えた課題などはありましたか。

渡邊:今後の課題は、大きく分けて3つ挙げられます。一つ目は、事務局の工数を減らすということです。各部署を巻き込んだ活動をする中では、どうしても事務局の作業が膨らんでしまいがちです。より効率的な運用ができるよう、現在、マニュアルの整備などを進めています。

二つ目の課題は、地域による意識や業務の違いをできる限りなくしていくということです。今回、ERMを全国展開する中では、過去に災害等を経験している地域とそうでない地域などの違いにより、リスクマネジメントの意識や考え方に違いがあることを感じました。また、業務フローも、地域によって若干違うことがあります。今後は、例えば業務フローについてはシステム上で管理する環境を整えるなど、地域差を小さくする努力をしていきたいと思っています。

三つ目の課題は、構築したERMを形骸化させないようにするということです。現在、全職員がリスクマネジメントのeラーニングを受けられる体制を整えるべく準備を進めていますが、ほかにも、地方の支部を対象とした施策を行うなど、形骸化防止の対策が必要であると感じています。引き続きニュートンさんにご支援いただきながら、考えていきたいと思います。

 

―今後の取り組みについて教えてください。

川田:今後は、先ほどお話しした3つの課題に加え、インシデント管理体制の整備も進めていきたいと考えています。何か予兆が見られた際、迅速に情報を伝達し、適切な対応策につなげる。そうした体制を組織内で共通化することができれば、よりスピード感のある組織になることができると思います。この取り組みは時間がかかるかもしれませんが、ぜひ実現したいものです。

 

―ニュートンのコンサルティングはいかがでしたか。

横野:私たちの組織とは長いお付き合いということもあり、事業に対する深い理解に基づく的確なアドバイスをいただくことができました。親身に話を聞いていただけるのが心強いところです。今後もご支援いただいた内容を踏まえ、ERMの形骸化を防ぎ、さらなる向上を目指していきます。

 

―本日は誠にありがとうございました。

担当の声

エグゼクティブコンサルタント  坂口 貴紀

複雑な組織構造の中でERMを自走させるには

JAF様は全国津々浦々に事業展開されており、プロジェクト開始当初、勝手ながら存在を身近に感じていたことを覚えています。「身近な存在」という印象から、比較的スタンダードなご支援になると想像をしていた私の考えは、早々に打ち砕かれました。

最大の難所は、JAF様の組織理解でした。同規模の競合組織がなく、比較する組織がほぼゼロ。初めの1、2年は試行錯誤の連続でした。COSO-ERM等のガイドラインに沿った複雑な提案では、中々上手くいきませんでした。何故なら組織実態にフィットしたものではなかったからです。そこでJAF様の組織理解をした上で、独自の提案をする方向に変更。事務局の方々と意見をぶつけ合う中で、「JAF様を誰よりも理解したい」という想いも強くなり、組織理解により熱が入りました。

3年目では「組織文化」の理解に努めました。JAF様の文化として、ルールを順守するがゆえに、新しいルールに対し鋭い視点を持っていることがあります。そのため、“組織実態に合ったシンプルなルールを作り、JAF様に合った表現方法で表す”ことを意識しました。結果、組織内でERMが浸透し、運用を自走することが可能になりました。

私がこの4年間で気づいた事は、“複雑な組織構造の中でERMを自走させるには、深く組織を理解し、組織実態に則したシンプルなルールを、組織に馴染む表現で表すことで定着させる”ことが重要という事です。2019年でERM構築の一つの区切りとなりましたが、今後のさらなる改善を微力ながらお手伝いさせていただきたいと思います。

お客様情報

名称 一般社団法人日本自動車連盟
所在地 東京都港区芝大門1-1-30 日本自動車会館
設立 1963年2月28日 
事業内容 ロードサービスなど

(2020年3月現在)

プロジェクトメンバー

お客様

経営企画部長 理事

横野 茂樹 様

経営企画部経営企画課 主管

渡邊 敬太 様

経営企画部経営企画課

川田 大輔 様

ニュートン・コンサルティング

エグゼクティブコンサルタント

坂口 貴紀

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