国立大学法人岡山大学 様

大学経営に資する“攻めのERM”で、
学府のイノベーションを加速する

国立大学法人岡山大学様は、1949年に岡山藩医学館をルーツとする歴史ある高等教育機関群が統合され創立された総合大学です。“高度な知の創成と的確な知の継承”を理念に掲げ、高度な研究とその成果に基づく教育に尽力される一方、近年ではSDGs推進の取り組みにも注力されています。

 

この度、「国立大学イノベーション創出環境強化事業」の一環としてERM(統合的リスクマネジメント)強化に取り組まれるにあたり、ERM構築・改善サービスおよびERM組織風土醸成・改善サービスをご利用いただきました。その経緯と成果について、大学改革推進課 山﨑 淳一郎 様にお話をうかがいました。

 

―貴学の特徴についてお聞かせください。

山﨑:岡山大学は1949年、幕末に開設された岡山藩医学館をルーツとする高等教育機関群が統合されて誕生した総合大学です。現在では10学部・1プログラム・8研究科に加え附属病院および附属学校を備えており、150年以上の歴史を持つ医学部のほか物理学、植物・動物学などで特に高い研究成果を挙げています。

緑豊かで広大なキャンパスも、本学の特徴といえます。約207万㎡という西日本最大級の広さを誇るキャンパスでは、現在、約1万3,000人の学生と約4,000人の教職員が研鑽を積んでいます。

また、本学ではSDGsを積極的に推進しており、様々な活動実績を挙げているのも大きな特徴です。「THEインパクトランキング2022」※では国内総合8-14位(世界総合201-300位)にランクインし、SDGs別のランキングではSDG3(すべての人に健康と福祉を)で国内6位(世界78位)を獲得しました。

※イギリスの高等教育専門誌Times Higher Education (THE)が国連のSDGsの枠組みを通じて大学の社会貢献度を評価し、ランク付けするもの。各大学は自学の強みに合った目標(ゴール)を選んでエントリーする仕組みとなっており、2022年は110の国や地域から1,524校の大学が参加。

“守りのERM”から、イノベーション創出を目指す“攻めのERM”へ

―これまでのリスクマネジメントの取り組みについてお聞かせください。

山﨑:国立大学におけるリスクマネジメントは、企業のようにISO31000に基づくリスクアセスメントを行って様々なリスクに備えるというよりは、国によるガイドラインを遵守するというのが一般的だと思います。研究リスクマネジメントについては安全保障輸出管理や研究不正、研究費不正といった事柄についてガイドラインが示されているため、大学はそれに従い、万一インシデントが起きた際には危機管理として対応するのが基本です。本学においても、今回のERM強化プロジェクトに取り組む以前は、ガイドラインの遵守を重視したリスクマネジメントを行っていました。

 

―貴学は「国立大学イノベーション創出環境強化事業」の一環としてERM強化に取り組まれました。この取り組みを開始した経緯についてお聞かせください。

山﨑:私は岡山大学に赴任する前、北海道大学の教授としてリスクマネジメントと危機管理を担当していました。本学に赴任したのは2020年4月であり、ちょうど新型コロナウイルス感染症の第一波への対応が喫緊の課題となっている時期だったのです。私は日本危機管理士機構の危機管理士1級の資格とDRII(Disaster Recovery Institute International)の事業継続プロフェッショナル(ABCP)資格を有していることから、本学におけるコロナ対策に関わることになりました。

4月16日に全国に緊急事態宣言が出され教育研究活動がストップするなか、本学はISO31000に基づくリスクマネジメント手法を使って「研究活動の中で早期に再開できるものは何か」という優先順位付けを行いました。実はこの取り組みは文部科学省から注目され、審議会の提言において顕著なグッドプラクティスとして紹介いただきました。こうした流れもあり、本学では内閣府による「国立大学イノベーション創出環境強化事業」においてもERM強化を計画に盛り込み、大学経営戦略の柱としてのERM推進を打ち出すことにつながりました。

 

―コロナ対策という“守り”のリスクマネジメントが、イノベーション創出という“攻め”のリスクマネジメントに発展したのですね。

山﨑:ISO31000においても“価値の創造”はリスクマネジメントの目的としてうたわれており、「リスクマネジメントによってイノベーションを創出する」という考えは本学トップの共感を大いに得られるものでした。リスクマネジメントはネガティブリスクに対応することだけを指すのではなく、外部資金の獲得などのポジティブな戦略リスクを効果的・効率的に管理することで大学価値の向上につながります。

特に企業との共同研究等において、リスクマネジメントは今後ますます重要視されていくでしょう。大学側のリスクマネジメントの取り組みは企業にとって安心と信頼につながるため、企業がパートナーとして大学を選ぶ際の重要なファクターになると考えられます。

トップが火を噴け!ニュートンとタッグを組みERM構築と風土醸成を推進

―ニュートン・コンサルティングをご利用いただいた理由は何でしたか。

山﨑:様々なコンサルティング会社とお付き合いがある中で、「ニュートンさんなら我々にしっかりと伴走し、一緒に取り組んでいただける」と感じたことです。私とニュートンさんとのお付き合いは、今から3年ほど前、私が他大学にいた頃にニュートンさんのERM入門研修を受講したのが最初です。私が本学に赴任してからも、ERM構築のご支援をお願いする前に役員研修を2回、入門研修を3回実施いただきました。

研修では丁寧に事例を紹介いただき、大学人の立場では経験できないお話も聞かせていただきました。特に本学のトップに響いたのは、勝俣さんの「トップが火を噴け」という言葉ですね。こうした研修を通じて本学とニュートンさんの間に信頼関係が醸成されていき、「ともにERMで大学を変えていこう」という機運が高まりました。

 

―プロジェクトの概要を教えてください。

山﨑:ERM推進にあたり私たちが掲げた目標は、ERMの 構築・ 導入により特に今後の産学官連携の促進や財源多様化に伴う種々のリスクへの対応力を身に付け、大学の経営基盤を強化することです。今回のプロジェクトでは、その足掛かりとして2021年10月から2022年3月まで、研究推進機構および 研究協力部でERM構築を実施しました。合わせて、大学全体のリスクカルチャー醸成を図る経営陣ワークショップを実施しました。

ERM構築においては、まず、研究推進機構長に対しトップインタビューを実施し、「リスクマネジメント年度活動方針」を作成しました。その中では、2021年度の当組織としてのリスクマネジメント活動をどのように実施していくのか、「活動方針」と「活動目標」、リスクアセスメントの際の基準などを明らかにしました。その方針をもとにERMを設計し、リスクアセスメントの実施方法やツールの内容を詰めました。

リスクアセスメントのワークショップは2回に分けて実施し、リスク特定・分析・評価から対応までのステップを各グループで討議しながら進めました。今回のワークショップでは、普段身近な存在である「足元のリスク」だけでなく、中長期的なリスク特定を行うために、洗い出し方も工夫しました。ワークショップ後は2021年度の活動をまとめるとともに、2022年度以降、リスクマネジメント活動を組織に根付かせるため、「リスクマネジメント規程」や「ERMマニュアル」などを作成しました。

一方、大学全体のリスクカルチャー醸成を図る経営陣ワークショップでは、事前にリスクカルチャーの度合いを測定するツールを用いて、岡山大学のリスクカルチャーを測定してもらいました。経営陣一人一人にインタビューとアンケートを行い、測定・評価をし、この結果に基づきどのように組織全体のリスクカルチャーを改善していくかというERM組織風土醸成ワークショップを行いました。

2022年度は上記の活動をもとに、研究推進機構にて構築したERMプログラムをさらに大学全体で展開すべく活動を継続しています。

 

―今回のプロジェクトで苦労されたことはありますか。

山﨑:リスクの洗い出しにおいて、ネガティブリスクだけでなくポジティブリスクも出せるようにすることは少し工夫が必要だった点ですね。リスクというと、どうしてもネガティブリスクの洗い出しが中心になりがちです。また、リスクの書き方もまだ慣れていない方が多いですので、まずは事務局が理解せねば、と事務局内で大いに議論し検討を重ねました。

こうした作業は少々苦労もありましたが、どのような形にすればリスクを出しやすいのかなどニュートンさんに指導いただきながら事前準備をしっかり行い、緻密なプログラムを用意できました。おかげで、参加者の皆さんの作業はかなりスムーズに進めることができたと思います。

 

―今回のプロジェクトの成果はいかがでしたか。

山﨑:役員研修やワークショップを通じて、学内の意識や研修体制などが大きく進展し、ERMが大学の経営戦略の中枢に入ったと感じています。一例としては、第4期中期計画の「コンプライアンスに関する計画」において、本学はERMに取り組むことで価値の最大化を図っていくという内容が記載されました。これは、内部統制を担当する部署の担当理事の意思によるものです。

さらに、2022年4月からは新任の学部長を対象として私が本プロジェクトで学んだノウハウをお伝えするeラーニングを提供したほか、5月からは学内の意思決定に関わる部局長や評議員の方々を対象にERMや内部統制の考え方などをお伝えする「大学経営人材育成専門研修」を実施しています。このように、大学の経営人材の方々に向けてERMの知見やノウハウをお伝えできる段階となったことは成果であると感じています。

また、先日は、国立大学の理事が集まる国立大学協会において、本学の研究担当理事がERMのお話をさせていただきました。本学の取り組みを評価いただき、他大学の皆さまに情報共有をする機会をいただけたことも、成果のひとつであると思います。

企業のみならず大学においても、ERMは経営の強力な武器になる

―ニュートンのコンサルティングはいかがでしたか。

山﨑:ニュートンさんとは互いに信頼感を深めることができ、ともにプロジェクトにまい進することができました。実は、過去に別件で他のコンサルティング会社さんに協力いただいた際、質問が型通りのものに終始していたり、企業向けと思われる内容のマニュアルを本学でも適用されたりと、期待した協力が得られないこともあったのです。そうした過去の経験から当初は経営陣にも私にも少々不安もあったのですが、本プロジェクトを通じて親身な対応をいただき、期待以上の成果に結びつけることができました。

今回のプロジェクトでは半年という短期間でERM構築と組織風土醸成を同時進行していただいたので、ニュートンさんにはご迷惑をお掛けしてしまったかもしれません。しかしながら、この半年の取り組みで「企業か大学かに関わりなく、リスクマネジメントを経営戦略に生かすことができる」という手応えが得られました。この点について非常に感謝しています。

 

―今後の取り組みについて教えてください。

山﨑:本学は今後も「国立大学経営改革促進事業」等の申請にあたり、引き続きERMの取り組みを深化させたいと考えています。特に、ロシア・ウクライナ戦争の影響により大きく高まっている地政学リスクに対する取り組みや、リスク感度をさらに高めるための取り組みを強化したいと考えているところです。引き続き、色々な場面でご相談、ご協力いただければ幸いです。

 

―本日は誠にありがとうございました。

担当の声

 

全国の大学組織の先駆けとなる取り組みに期待

民間企業におけるERMの実践は、法律が明確にそう求めていることもあり、常識化しつつあります。そんな中、コンプライアンスにスポットライトが当たりがちな大学組織において、将来の成長を見据えた不確実性のコントロールをしようとERMの構築プロジェクトを走らせた岡山大学様には、組織としてのたくましさを感じました。

岡山大学の事務局の皆様に初めてお会いした時、今までにない感覚になったことを思い出します。なぜそう感じたのか改めて考えてみたところ、「組織としてのやる気」がこれまで担当した案件のなかでも秀でていたからだと思いました。また、事務局だけでなく、大学の経営層を含め、様々なことを吸収しようとする前向きな印象を受けました。

お客様が能動的に手を動かし、お客様とコンサルタントが一体となることが、よりよい支援に繋がります。岡山大学の皆様はプロジェクト以外のところでも、常に勉強をする姿を拝見しています。そうした積極的な姿勢が、今回のプロジェクトでも効果的に働いたように感じています。

今回のリスクアセスメントのワークショップでは、事務局の皆様が舵を取り、多くの関係者を巻き込んで実施することができました。また、リスクの洗い出し方を「中期的なリスク」と「足元のリスク」の2つの視点から洗い出すことで、研究推進機構として大学とどのように関わっていくのか、今後の「登りたい山」を見越したリスクアセスメントを実施できました。さらに、昨今話題になっている経済安全保障や地政学リスクに関しても議論を深められました。

今後、ERMのような「リスク」を考える活動は、研究の発展にも寄与すると思います。岡山大学様が先陣を切り、日本全国の大学組織にERMが波及することを願っています。

お客様情報

名称 国立大学法人岡山大学
所在地 岡山県岡山市北区津島中1丁目1番1号
設立 1949年5月
事業内容 高等教育、教育研究機関

(2022年6月現在)

プロジェクトメンバー

お客様

大学改革推進課

山﨑 淳一郎 様

ニュートン・コンサルティング

取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント

勝俣 良介

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