協和キリン 様

クライシスマネジメントと一体化した意識改革で
真に実効性あるリスクマネジメントを実現する

協和キリン様は、バイオテクノロジー、抗体医薬を強みとして医療用医薬品の研究開発・製造・販売を行う製薬会社です。「腎」「がん」「免疫・アレルギー」「中枢神経」など、これまで同社が培ってきた疾患サイエンスを活かしつつ、有効な治療法のない疾患にLife-changingな価値を提供し続けることで、病気と向き合う人々が笑顔になることを目指しています。

 

この度、大規模な「リスクマネジメント改善プロジェクト」に取り組まれる中で、ニュートンのERM組織風土醸成・改善サービスをご利用いただきました。その経緯と成果について、CSR推進部 企画推進グループ グループ長 藤田 和浩 様、同グループ マネジャー 真柄 敏也 様、同グループ マネジャー 佐藤 武彦 様にお話をうかがいました。

 

―貴社の事業内容をお聞かせください。

藤田:当社は1949年に「協和醱酵工業株式会社」として創業し、2008年にキリンファーマ株式会社と合併、両社が培ってきた経験と実績を受け継いだ製薬会社「協和発酵キリン株式会社」となり、新会社としてスタートを切りました。2019年に「協和キリン株式会社」に社名変更し、現在に至ります。

製薬会社としての当社の強みは、創薬力と開発パイプラインのユニークさにあると考えています。例えば、FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の治療剤「クリースビータ」、抗がん剤「ポテリジオ」、新規パーキンソン病治療剤「ノウリアスト」の3つは、当社独自の技術を用いて創薬力を活かし、自社で研究し、グローバルで開発を手がけました。いずれも他社製品にはない特徴を持つ医薬品であり、アンメット・メディカル・ニーズ(UMN)を満たすべく、果敢にチャレンジしています。現在、当社ではこれら3つを「グローバル戦略品」と位置づけ、積極的なグローバル展開を進めているところです。

また、当社は今年、2030年に向けた新ビジョンを策定しました。新ビジョンでは、「日本発のグローバル・スペシャリティファーマ」として「Life-changingな価値の継続的な創出を実現」することを掲げています。さらに、今年は2021年度を初年度とする5年間の中期経営計画も発表しました。新ビジョンを実現するため、今期は「アンメット・メディカル・ニーズ(UMN)を満たす医薬品の提供」「患者さんを中心においた医療ニーズへの対応」「社会からの信頼獲得」を戦略の柱に据え、事業展開を進めています。

 

―これまでのリスクマネジメントの取り組みについてお聞かせください。

藤田:リスクマネジメントについては、リスク管理体制を整備して取り組んできました。具体的な取り組みとしては、四半期に一度、各部署がリスク台帳を用いて洗い出したリスクを分析し、CSR推進部が分析結果を調整して、低減策やその進捗とともにCSR委員会※に報告しています。重要なリスクについては、中期経営計画のもとに策定するアクションプランに落とし込んで対策に取り組んでいます。

また、社内ではリスクが顕在化した場合は直ちに報告する「Bad News Fast」を徹底しており、何かあれば速やかに上長やCSR推進部に報告する仕組みも実現しています。

※主にコンプライアンス、リスクマネジメントの観点から、グループの企業価値向上に貢献することを目的とした委員会

「形骸化しない真に実効性あるリスクマネジメント」を実現するために

―今回のプロジェクトのきっかけについてお聞かせください。

藤田:様々なリスクマネジメントの取り組みを行ってきたにもかかわらず、前中期経営計画期間に重大なインシデントが発生してしまいました。2019年に、「マイトマイシン注用 2mg および 10mg」の原薬の製造過程において無菌性の確保に影響しうる事実が判明し、グローバルで自主回収させていただくことになったことがきっかけです。当社では親会社であるキリンホールディングス社とともに第三者が主導するグループ調査委員会を設置し、調査を進めました。そして、再発防止に向けては、強固な品質保証体制の構築や企業文化の改革とともに、リスクマネジメントの改善を重要課題に据えました。

これを受け、私達が考えたのは、当社ではまず経営に影響を与えるリスクをしっかりと特定・分析し、各部の課題ではなく経営課題として適切に対処できるようプロセスを見直す必要があるということです。そのためには、未来に起こりえることも含めて潜在化するリスクを現場から吸い上げ、経営が必要な対策や投資を遅滞なく行えるようにする必要があります。

このような見直しを行い、重大なインシデントを未然に防ぎ、残念ながら発生した場合にでも、社会と事業に対する影響を最小限にする体制を早急に構築するために2020年から始動したのが、今回の「リスクマネジメント改善プロジェクト」です。

 

―取り組みにあたってコンサルティング会社を利用した理由を教えてください。

真柄:「リスクマネジメント改善プロジェクト」は過去のインシデントの反省を踏まえ、「形骸化しない真に実効性あるリスクマネジメント」を目指した改革を進めるものです。そして、改革の成功のためには、近視眼的なリスクマネジメントではなくより先の中長期的視野でリスクを捉えるフォワードルッキングなリスクマネジメントを行うこと、常にワーストケースを考え健全な危機意識を持ち続けられるクライシスマネジメントを行うこと、この2つを実現することが必要であると考えています。

このような観点による企業改革の推進は、かなり大がかりな取り組みです。自分達の知見だけを頼りにしていては、独りよがりになってしまう可能性もあります。そこで、独善的な判断に陥ることなく、「本物の改革」を実現するため、客観的な視点を持つ外部のコンサルティング会社の知見も活用させていただこうということになりました。

 

―ニュートン・コンサルティングをお選びいただいた理由は何でしたか。

真柄:コンサルティング会社の選定にあたっては、複数の会社にお声掛けし、コンペを実施させていただきました。ニュートンさんのプレゼンは、「リスクマネジメントの本質的な改善」と「グローバルでのクライシスマネジメントの再構築」という2つの観点において、バランスのよい提案であると感じました。先に申し上げた通り、当社ではリスクマネジメントとクライシスマネジメントを切り分けず一体のものとして取り組む考えのため、これは重要なポイントです。

実は、当社からのRFP(提案依頼書)では現状課題をお伝えし、それに対するリスクマネジメントの改善について提案を求めていました。「改善」と言いますと、どうしても手法や体制の改善に話が終始しがちですが、ニュートンさんからは、「現状を本気で打開したいなら、小手先の改善では何も変わらない。とにかく遠回りに見えても『人の心(組織風土)』の改善から手をつけていかないと、抜本的な解決策にはならない」とおっしゃっていただきました。リスクマネジメントにおける組織文化改善ということは現実的にどう進めるのかわからない領域であったので、そこをどのように推進できるのか大変興味を持ちました。

さらに、ご提案の内容からは、様々な外部公表資料などを通じて当社を深く研究してくださっていること、当社のリスクマネジメントの改革、改善を支援したいという高い熱量をお持ちいただけていることが伝わりました。こうしたことが、ニュートンさんへのご依頼を決めた理由です。

トップの想いと覚悟を可視化し、プロジェクトを強力に推進

―プロジェクトの概要を教えてください。

真柄:本プロジェクトは、2020年から2021年にかけて段階的に進行しています。2020年のプロジェクトでは、各階層でのワークショップを軸としたリスクマネジメントの実効性向上と、地域軸と機能軸で対応する新たなクライシスマネジメント体制の構築を行いました。

リスクマネジメントの実効性向上のためには、まずはそれを実践する社員一人ひとりの意識改革と風土そのものの改善が必要であるとの認識のもと、全社方針の策定から取り組みました。プロジェクト開始にあたって、まずは社長と副社長へのトップインタビューを実施。「トップの想い」を可視化した「リスクマネジメント5箇条」を策定しました。

次に、役員向けリスクマネジメントワークショップを実施。これは、経営陣のリスクマネジメントへの理解を深めること、経営陣のリスクマネジメントへのコミットメントや本気度を可視化することを目的としたものです。ワークショップでは、リスクマネジメントの基礎的な考え方やポイント、他社での成功・失敗事例に関する講義を行った後、参加者間でリスクマネジメントの現状や課題を共有するためのワークを行いました。さらに、「リスクマネジメント5箇条」の伝達、各組織長による「組織のリスクマネジメント行動方針」及び「組織長のリスクマネジメント活動目標」の共有へと続き、各組織(本部・部)が何のために、どこまでリスクマネジメントを行うのかを明確化しました。

続いて、各組織単位でラインマネージャーやリスクマネジメント担当者を対象としたワークショップを展開。経営陣へのワークショップで話し合った組織長のコミットメントを伝達し、リスクマネジメントの実効性向上テクニックの習得を図りました。

 

―2020年度のプロジェクトの成果はいかがでしたか。

真柄:最初の大きな一歩となったのは、トップインタビューですね。ニュートンさんにも力を発揮していただき、現状の課題に対するトップの認識や想い、今後に向けた覚悟など、普段はなかなか聞くことができないテーマについてかなり深掘りできました。

聴取した内容は、「リスクマネジメント5箇条」として可視化しました。何度も文言を練り直すなど作成には苦労しましたが、未来を予測し先手のリスク対応をするフォワードルッキングな考え方など目指すべき指針がまとめられ、「リスクマネジメント5箇条」はその後の展開の重要な核となりました。

また、ワークショップを通じて役員や組織長のリスクマネジメントに対する考え方が変わってきたことも成果です。入念な打合せを行い一つひとつの組織のニーズに沿ったワークショップをカスタマイズすることで、参加者の興味・関心や危機感により深いレベルで訴えられ、リスクマネジメント意識の醸成につながったと感じています。各組織からも「非常によかった」という言葉をいただけました。

さらに、もう一つ今回の成果として挙げられるのは、中期経営計画におけるCSV重点課題(マテリアリティ)とリスク認識の紐づけができたことです。当社グループでは「社会的価値の創造」と「経済的価値の創造」の両立を目指すCSV経営を実践しており、そのために優先的に対応すべきマテリアリティ(経営の重要課題)を特定しています。経営目標に影響を与える不確実性すなわちリスクが存在するから課題として認識されているのであり、そのリスクを具体的に認識することが課題解決に重要であると考えています。抽出されたマテリアリティにかかるリスクについてコミュニケーションできたことは中期経営計画策定に大変役立ちました。

今回、ニュートンさんから様々なアドバイスをいただき、組織長とのディスカッションやリスク分析のシミュレーションなどを行うことで、リスク認識を高めながらしっかりと重要なリスクを中期経営計画に落とし込むことができました。これも当社のリスクマネジメントにとって大きな進展だったと考えています。

 

クライシスマネジメントと一体化したリスクマネジメントを国内外で展開

―2021年度のプロジェクトの現時点の進捗と、今後についてお聞かせください。

佐藤:昨年トップインタビューから開始し、まずは経営陣や組織長を対象に進めてきた「リスクマネジメント改善プロジェクト」ですが、平時のリスクマネジメントについて2021年度はプロジェクトの対象を国内の全社員に広げること、さらに、海外にも同様のリスクマネジメントを展開することの2つを主な計画としています。

昨年の「リスクマネジメント5箇条」の策定に続き、今年の1月と4月に国内外を対象とするリスクマネジメント基本方針と行動規範を「リスクマネジメント5箇条」を反映した内容にそれぞれ改正しました。今後はeラーニングの実施などを通じてこれらを全社員に共有し、定着させていきたいと考えています。

海外については、海外リージョンの経営陣向けのリスクマネジメントワークショップを予定しており、すでに3月にアジアでワークショップを実施しました。今後、ヨーロッパやアメリカでも実施する予定です。リスクマネジメントのアプローチ自体は世界共通と思いますが、海外リージョンごとの違いを踏まえたアプローチをしたいと考えています。

 

―貴社では、昨年からクライシスマネジメントも同時進行されていますね。

真柄:はい。クライシスマネジメントについては、昨年、海外で積極的な演習を行いました。海外の3リージョンに対して3種類のクライシス演習を計9回実施し、クライシスの模擬体験により、ワーストケースを想像する訓練をしてもらいました。

クライシス演習によってワーストケースを想像することは、リスク感度やリスクマネジメント意識の向上にもつながります。そのため、昨年から同時進行しているクライシスマネジメントは、今年のリスクマネジメントの展開にも大いに寄与すると考えています。

藤田:一部の役員からは、「このような演習を通じて常に危機意識を高めておくことは非常に重要である」という声がありました。これまで、当社ではあまり演習というものを行っていませんでしたが、グローバルで演習を行い、常にワーストケースに備えた準備をしておくことは大事だと実感しています。

なお、クライシス演習については、ニュートンさんに支援いただき、日本でもスーパー台風を想定した演習を実施しました。今年もクライシス演習をしっかりやりたいと考えており、計画しているところです。

 

―ニュートンのコンサルティングはいかがでしたか。

真柄:ニュートンさんは常に私達に寄り添い、ニーズをしっかりと把握して、柔軟なサポートをしてくださいました。小回りの利くきめ細かな支援が頼もしく感じましたね。

また、今回のプロジェクトを通じて様々な気づきをいただけたことも、非常に感謝しています。特に、ニュートンさんから教えていただいた様々な他社事例はとても参考になり、これによって「自社の経験だけで判断していては新しい発想は生まれない。他社の経験やリスクマネジメントの歴史を学んでこそ新しい未来を予測できるのだ」という視点を得ることができました。

現在、当社ではこの視点をリスクコミュニケーションの取り組みに活かし、他社事例を知り、そこから学ぶことを目的とした記事の発信なども積極的に行っています。

藤田:過去に経験してきたインシデントを改めて振り返ると、やはり自分達だけでは客観的に課題を捉えきれないところがあったと思います。今回のプロジェクトではニュートンさんと過去に発生した当社グループのインシデントについてディスカッションをさせていただき、得られた気づきを「リスクマネジメント5箇条」、そして行動規範に集約することができました。ニュートンさんは、私達に足りなかった部分、これから学ぶ必要がある部分をしっかりと気づかせてくれたと感じています。

プロジェクトがスタートしてまだ一年ですが、このように小さな成功を一つひとつ積み上げていくことは重要なことだと考えています。「リスクマネジメント改善プロジェクト」の真の成果が得られるのはこれからですが、引き続き私達に足りないところを教えていただきたいと思っています。

 

―本日は誠にありがとうございました。

担当の声

 

強い意志と使命感で取り組まれた、組織全体を巻き込む意識改革

プロジェクト開始時、協和キリン様では組織全体をミッションやビジョンを実現できるように生まれ変わらせるための大規模プロジェクトを進められており、その中でリスクマネジメントについても「より実効性のある活動に生まれ変わらせなければならない」という強い意志と使命感を持たれていました。ただし、それを実現するためには、型(リスアセスメントプロセスやツール、体制)だけでなく、全員が同じ危機感や共通認識を持つように意識を変革する必要がありました。

組織全体を巻き込んで意識変革を推進するにはコストや痛みが伴うため、強い意志を持って進めないとプロジェクトは成功しません。協和キリン様では、まず経営陣が率先してしっかりと時間をとりワークショップ等を通じて自分の言葉で意思を示すことや、答えが容易に見つからず対応に労力がかかるため曖昧になってきた難しい問題(例:安定供給と品質のバランスの境界はどこにあるのか等)にメスを入れ、果敢に議論していくことにより、必ずリスクマネジメントの改善をやり遂げるという覚悟を示されました。

また、実務レベルでは、リスマネジメントに対して部門ごとに異なる課題をもっていましたが、経営の覚悟を部門にも浸透させるため、担当者間で何度も打合せを行って課題感に耳を傾け、オーダーメイドで課題解決をしていきました。さらに、単なる予防としてのリスクマネジメントだけでなく、危機が発生しそうな時にいち早く動けるようにするため、訓練を伴う危機管理体制の改善も並行して展開していきました。

リスクマネジメントを単なるお飾りにせず、本当にビジネスに役立つ武器にしていくためにも、こうした協和キリン様の取り組みは、事故を起こした時だけその企業がやればいいというものではなく、全ての組織が見習うべき活動だと思います。組織全体の意識改革は一朝一夕には終わらない大仕事であると認識していますが、その第一歩をこうしてご支援できたことを誇りに思っています。

お客様情報

名称 協和キリン株式会社
所在地 東京都千代田区大手町一丁目9番2号 大手町フィナンシャルシティ グランキューブ
設立 1949年7月1日
※2008年10月1日付でキリンファーマ株式会社との合併により「協和醱酵工業株式会社」より「協和発酵キリン株式会社」に商号変更。
※2019年7月1日付で「協和キリン株式会社」に社名変更。
事業内容 医療用医薬品の研究・開発・製造・販売および輸出入等

(2021年4月現在)

プロジェクトメンバー

お客様

CSR推進部 企画推進グループ グループ長

藤田 和浩 様

CSR推進部 企画推進グループ マネジャー

真柄 敏也 様

CSR推進部 企画推進グループ マネジャー

佐藤 武彦 様

ニュートン・コンサルティング

取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント

勝俣 良介

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