リスク管理Navi
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オイシックス・ラ・大地 様
お客様 |
執行役員 CGO リスク管理委員長 山下 寛人 様 リスク管理委員会事務局 寺田 恵子 様 |
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ニュートン・コンサルティング |
取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント 勝俣 良介 |
オイシックス・ラ・大地株式会社(以下、オイシックス)様は、「Oisix」「らでぃっしゅぼーや」「大地を守る会」といった自然派の代表的な宅配ブランドを擁する、食品宅配サービスの大手です。有機や無添加食品を中心とするラインナップだけでなく、全国4,000戸を超える生産者と直接契約を結んだり、食品廃棄率を約0.2%(2020年度時点)に留めるなど、食卓と畑の未来をみつめた事業モデルも広く支持されています。
この度、ERM(全社的リスクマネジメント)構築をご支援させていただいた経緯と成果について、執行役員 リスク管理委員長 山下 寛人 様とリスク管理委員会事務局 寺田 恵子 様にお話を伺いました。
山下:当社は「これからの食卓、これからの畑」を経営理念に、食に関する社会課題をビジネスの手法で解決することで事業を拡大してきました。主力事業の食品宅配サービス「Oisix」では、これまで製造の過程で廃棄されてきた原料をアップサイクルした商品が人気です。また、2013年に販売を始めたミールキットはシリーズ累計出荷数1億5000万食(2023年5月末時点)を超えています。共働き家庭の増加で家事負担の軽減は切実で、主菜と副菜の2品が20分で完成するミールキット「KitOisix」の宅配はご好評をいただいています。
子会社には買い物難民向け移動スーパー「とくし丸」、学校や病院などを対象とした給食事業等を展開する「シダックス」もあります。サステナブルな食品として注目のプラントベースについても、米国でミールキット「Purple Carrot」を展開しています。
山下:リスク管理委員会の立ち上げは十数年前になりますが、基本的にクライシスマネジメントを実施してきました。ですが、インシデント発生後にダメージを減らす施策でよいのかという疑問を感じ、2年ほど前、未然防止や減災につなげるリスクマネジメントへと大きく舵を切りました。物流拠点での怪我などの労災や、配送時の交通事故を減らしていく活動のなかで、リスクを収集、分析、評価してPDCAを回してみると、明らかに事故件数を減らすことができました。
寺田:労災や交通事故を減らすという最重要な課題で成果を上げた後、さらに個々のリスク管理へと広げていく前に全社的リスクマネジメント、ERMの導入を先にすべきだと考えたからです。BCP(事業継続計画)も整備はしてありますが、運用面での改善の余地がまだまだあると思っています。
さらにERMとして導入することで自律自走型へと向上させ、実効性を高めていきたいと考えました。それらを最短距離で実現させるには、プロの知見が欠かせないと今回のプロジェクト立ち上げに至りました。
山下:いくつかのコンサルティング会社に提案をしていただきましたが、ニュートンさん以外は極めてオーソドックスなアプローチでした。ニュートンさんの場合はトップのインタビューに始まり、各本部リーダーの意志や課題感を拾い上げてリスクを特定、さらに分析し評価していくというタイプのリスクアセスメントを提案してくれました。我が社にとっての本質的なリスクを見逃さず、最適なERMを構築していくにはそのほうがよいだろうと思ったのです。
オイシックスの行動規範のひとつに、「ベストを尽くすな、Missionを成し遂げろ」があります。成果を重んじるベンチャーらしい価値観なのですが、ERMに関しても同じように考えています。実効性が高く、形骸化しないERM活動へとスピーディにつなげていけるパートナーは何処か、そのような視点で選ばせていただきました。
山下:今回のERM構築プロジェクトは、未然防止力を高めることを目的としています。トップの髙島からのダイレクションに従い、官僚的な組織を構築しないという点と、自分の守備範囲のリスクマネジメントは“当事者自ら”が責任を持って行うという点、さらに2年目以降のERM運用段階での自走化を見据えて、事務局にスキルトランスファーを行っていただくという点を重視してERMの構築を進めていきました。
具体的には、業務や事業に直接向き合ういわゆる現場レベルのリスクマネジメントプロセスと、全社レベルのリスクマネジメントプロセスの2層のプロセス導入を行ないました。
当事者自ら、という言葉を体現するために意識したキーワードは「トップダウン」です。現場レベルのリスクマネジメントにおいても、トップである部門長にどういうリスクマネジメントを実現したいのか、意志を示すとともにリーダーシップを発揮してもらいました。また、全社のリスクマネジメントでもトップである経営陣に意志を示し、リーダーシップを発揮してもらいました。
山下:現場レベルのリスクマネジメントでいうと、部門長と積極的にコミュニケーションを図りながら、コンサルタントの指導のもと、事務局である我々がワークショップを開催し、管理部門と事業部門の重大リスクを特定し、対応計画を策定することができました。指導については、リスク洗い出しの方法や検討の仕方、計画へのまとめ方をはじめ、ワークショップファシリテーションの手法や勘どころ・落とし穴についてカバーしてもらいました。そうしたプロセスを経て各部門主導で重大リスクを決定し、対応計画の策定に至りました。
また、全社レベルのリスクマネジメントでいうと、こちらも“当事者自ら”という言葉を体現するために経営の生の声を直接拾うアプローチを試みています。インタビューやアンケートを駆使するものでしたが、それらノウハウを当社に確実に残すため、コンサルタントと事務局で協働して進めました。
具体的には、経営陣3名に対するインタビューはニュートンさんに、残りの執行役員については、我々、事務局がインタビューを実施しました。こうした過程を経て、最終的には経営陣が本気で取り組むべきだと考える重大リスクを選定いただき、全社重大リスク対応計画を策定しました。
一般的なリスクから選んでいくのではなく、各部署の担当執行役員も入ってのワークショップなどを経て策定しましたので、当事者自らが洗い出した重大リスクも多く盛り込めたと感じています。
山下:全社的なリスクアセスメントの実施は初の試みでしたので、何もかもゼロベースだったことが苦労した点でしょうか。 十数回のワークショップが必要となり、しかも自走化に向けて自分たちでファシリテーションもしたので、とにかく作業量は多かったですね(笑)。
また、将来的な目標としては、各部門でリスクマネジメントのPDCAを回していったうえで集約し、全社のERMにしたいと考えていました。ただ実際に始めてみると、各部門でニーズも役割の担い方も異なり、それぞれに展開の仕方を工夫しなければならず、ニュートンさんにもかなり相談して試行錯誤しました。
例えば事業部門であれば、リスクの洗い出しまでをきっちり自分たちで行い、その対策は他部門が担うというような仕組みを構築しました。自分たちの守備範囲にあるリスクをそれぞれに認識してもらえましたので、リスクカルチャーの醸成につながったと感じています。
新たな気づきといえば、トップの髙島を含め皆でリスクアセスメントを実施したことで、優先順位のコンセンサスが得られました。それぞれ納得感をもって重大リスク対応計画に明文化できましたので、今後の活動を迷いなく進められるという点でも、有意義なプロジェクトだったと思います。
山下:ただERMを構築するのではなく、今回のプロジェクトを通してERMの自律・自走を目指しましたので、スキルトランスファーを意識してサポートしてもらいました。私たち事務局にナレッジが蓄積するように運営してくださったと感じています。
また、リスクマネジメントに関することなら、どんな質問をぶつけても返してもらえるという安心感がありました。ひとくちにリスクといっても、自然災害から地政学、サイバー脅威、レピュテーションと複雑多岐にわたりますよね。専門家だからといえばそれまでですが、造詣の深さには驚きました(笑)。
山下:先程申し上げた自走化を進めていくとともに、子会社への展開を考えています。子会社は本社とまた異なる事業を行なっていますから、リスクの性質や気にすべき部分も変わってくると理解しています。そうした組織にどのように向き合えば、我々ERM事務局が付加価値を提供できるのか、これまで同様しっかりと考えてMissionを成し遂げられるERM作りに挑戦していきたいと思います。
名称 | オイシックス・ラ・大地株式会社 |
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所在地 | 東京都品川区大崎一丁目11番2号 ゲートシティ大崎イーストタワー5F |
設立 | 2000年6月 |
事業内容 | ウェブサイトやカタログによる一般消費者への有機野菜、特別栽培農産物、無添加加工食品等、安全性に配慮した食品・食材の販売 |
利用サービス | ERM構築/再構築・改善サービス / リスクマネジメント委員会改善支援サービス |
取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント
勝俣 良介
成長スピードを落とさない、自組織に最適なERM導入を支援
目的・目標を達成したいという組織の強い意志が「主」であり、リスクマネジメントはその達成を助ける手段、すなわち「従」です。「従」であるリスクマネジメントがいくら頑張っても、組織の成長意欲が乏しければ力を発揮しません。
その意味で、「主」がしっかりしているオイシックス様のERM導入支援は、意義もやりがいも大きなものでした。また、常にアクセル全開を意識するオイシックス様に見合ったリスクマネジメント体制やプロセスを整備することは、大きなチャレンジでもありました。
実際、トップインタビューでは社長から、「形式的なリスクマネジメントは要らない。各部門や部署が自分ごとにできるERMにしてほしい。リスクにどう向き合うか、自分の責任範囲に対して自分の頭で考え、動く組織であってほしい」という言葉をいただきました。執行役員も皆真剣で、常識にとらわれず、どうすればピットインせずに走り続けられるリスクマネジメントにできるかを考えてほしいという声もありました。
どこかの仕組みの焼き直しではなく、「どうしたらスピードを殺さずにカーブを曲がれる仕組みをつくれるか」を山下執行役員率いるプロジェクトチームと共に考え、設計し、構築しました。結果、オイシックス様らしい仕組みを装着できたと感じています。
もちろん、どんなに立派な仕組みを導入しても、一定の確率で事故は起こりますし、想定外の事態も発生するでしょう。しかし、重要なのは5年後、10年後にオイシックス様のプラスの影響力が多くの人々に届き、企業価値が向上しているかどうかです。それがERMの成績表にもなるという緊張感を持ち続け、今後も様々な場面で、健全な関係を築いていければと思っています。