シキボウ 様

今、一番重要なリスクはどこに潜むのか。
部門を超えた共通リスクの認識へ

シキボウ様は、125年の歴史を持ち、各種繊維工業品の製造・加工および販売を主軸に、産業用資材、不動産業を主な業態とし、グローバルに事業を展開されています。この度、全社的リスクマネジメントシステム構築に取り組まれた経緯について、執行役員 コーポレート部門担当 経営管理部長 竹田広明様をはじめ、ご担当者様にお話を伺いました。

 

―貴社の事業内容をお聞かせください。

竹田:当社は昨年で創業125周年を迎えました。明治29年に有限責任伝法紡績会社という社名で始まって以来、繊維事業を事業の主軸とし、現在では、コットン、ニット素材を中心に生地からテキスタイル、縫製して衣料品にするまで、繊維に関しては幅広く事業展開しています。また、繊維事業から派生した形で産業資材部門、機能材料部門ができました。帆布から派生したドライヤーカンバスや、高機能材料と呼ばれる繊維強化プラスチックなどの新素材を開発生産し、航空機業界などにも使われる工業用製品として利用されています。最後に少し毛色が違うのですが、不動産・サービス部門もあります。生産拠点の海外移行に伴い、遊休資産化する工場の空き用地にショッピングモールを建設して賃貸する事業をおこなっています。こういうと多角化方向にも思えるかもしれませんが、弊社は繊維がコアコンピタンスだと思っているので、繊維の技術を応用したところ、あるいは繊維の管理技術が応用できるところで強みを発揮していきたい、と考えています。

 

―今までのリスクマネジメントの取り組みについて教えてください。

竹田:本格的に意識し取り組みとして推進し始めたのは2006年くらいからです。当時、会社法の改正に伴い、内部統制の基本方針を設けたのがきっかけです。それ以前は、個別の状況対応という形で当社なりのリスクマネジメントを実施している状態でした。

例えば、2003年に香港で起こったSARS問題のときは、当社も香港に事業所があったので対応を強いられました。その後、2009年の新型インフルエンザのときには、当社では「ウィルスが海外から流入する」という想定の精緻な事業継続計画を策定済みでしたので、それで対応しようと考えていたところ、実際は日本で発生してしまい、想定外の事態に社内が混乱した、といった経験をしています。他にも、2011年の東日本大震災などの自然災害への対応や買収リスクへの対応など、個々の事象に対する対応は企業活動の一環として実施してきていました。 どの場合も、その時々で最良の対応はできていたと考えてはいたのですが、リスクを未然に防ぐ取り組みや海外を含めたグループ全体に及ぶリスクマネジメント体制などは、必要だと思いながらも構築できていないという状況でした。

どの場合も、その時々で最良の対応はできていたと考えてはいたのですが、リスクを未然に防ぐ取り組みや海外を含めたグループ全体に及ぶリスクマネジメント体制などは、必要だと思いながらも構築できていないという状況でした。

 

―今回の取り組みのきっかけは何でしたか。

竹田:当社は2年前、ガバナンス体制を監査等委員会設置会社に変更いたしました。個々が独立した監査権限を持つ監査役と異なり、監査等委員会では企業の損失の危険に関する管理について、個別の委員の判断によるのではなく、委員会の合議に基づいて決議するという組織的判断を行います。その委員会の判断の妥当性を担保し、具体的なチェック項目やプロセスといった判断基準をルール化する目的で、リスクマネジメント規程を整備する必要がありました。既に発行されているガイドラインを参考にするのが良い、という意見も社内にはあったのですが、今回はきちんと体系立てて、全社的な網羅性を主眼に、当社に合ったものを作成したいと考えました。

また作成においては、コーポレート部門だけで取り組むとクライシス系のリスクに集中しがちですが、事業部門側のリスクが我々の事業継続に大きな意味を持つため、今回はそこを巻き込んだ活動にしたかったということも大きなポイントでした。

決め手は自社希望にフィットする提案

―取り組みにあたってコンサルティング会社を利用した理由を教えてください。

竹田:社内のみで構築した場合、特にリスクアセスメントで抜け落ちる項目もあるだろう、ということで外部コンサルティング会社に一度コーチングしてもらおうということになりました。コンサルティング会社に入って頂くことによって、監査等委員会への説明にも説得力が増す上、プロの手が入っていることで、安心感も付加されると考えました。

 

―何社かご検討されていた中で弊社に決定した理由を教えてください。

竹田:これまでもコーポレート部門では参考書やセミナーから情報収集をして勉強をしていて、セミナーを通じてニュートンさんのことを知りました。そのセミナーでお話を聞いて、リスクマネジメントシステムの構築に関しては内製だけでは難しいなと感じました。リスクアセスメントをしっかり抜け落ちなく実行できるかという不安と、自分たちで行ったアセスメントが正しいかどうかの判断基準がどうしてもわからないな、と思いました。

実は、前述した買収に対して防衛対策をした際に大手シンクタンクにコンサルティングをお願いしたことがあります。大手のコンサルさんの提案は雛形ができていて、シートに穴埋めすると成果物が出来上がる仕組みでした。非常にスムーズに出来上がった反面、内部には何も残りませんでした。大手にお願いしても、我々にとって何も学習できないなと感じた苦い経験でした。組織的な学習ができないのなら、その後、コンサルティングを依頼する際には大手はやめようということになったのです。

そうはいっても今回も大手を含めて何社かヒアリングさせていただいて、ニュートンの勝俣さんともお会いして話を聞きました。今後コンサルティングを受けなくてもやっていけるようにコーチングを受けたいと、各社にお話したのですが、一番要望を叶えてくれると感じたニュートンさんにお願いすることにしました。

 

演習を通して潜む重大リスクに気付く

3方向からのアプローチ

―今回のプロジェクトの内容と今回の成果を教えてください。

竹田:今回のプロジェクトの目的は、当社を取り巻くリスクの洗い出し・分析・評価、つまり全社リスクアセスメントの実施を通じて、今後のリスク対応投資の意思決定ができる体制作りです。

まずは網羅的なリスクアセスメントを実施するために、3方向からのアプローチをとりました。1つ目は、役員+事務局+コンサルタントによるリスク洗い出し(トップダウンアプローチ)。2つ目は全部門への事前調査を通じたリスク洗い出しアプローチ(ボトムアップアプローチ)。3つ目は、部門毎のワークショップによるリスク洗い出しアプローチです。(右図参照)

こうしたアプローチを通じて100近くのリスクを特定し、重要性に鑑みて、部門として対応するものを絞り込み、最終的には、各部門毎に1つずつ最重要リスクを特定し、リスク対応計画の策定、1年間のアクションプラン、達成目標、リスクオーナーまでを決定しました。

本田:全社で統一されたプロセスを実施し、網羅的にリスクを把握し、また、来年度以降運用できる体制を構築できたことが成果といえます。

今回3つのアプローチをとったことで、抜け漏れなく全社のリスクを網羅できたという実感があります。各部門の重大リスク特定にあたっては、時間の関係上、1つだリスクをピックアップしてもらいました。実際には対応したいリスクはもっとあるのですが、今回はPDCAサイクルを全社が理解することと、その後の対応計画を含めた手順の習熟を目的としていますので、まずは1つから始めました。今回の手順を踏まえておけば、今後PDCAを回す時に、より実態に即した全社リスクの順位付けができると感じています。

 

―プロジェクトを通して、手ごたえを感じたこと、見えた課題などはありましたか?

本田:もともと今回のプロジェクトにおいてはすべてのリスクを網羅する、というところが焦点だったので、全社的に抜け漏れなく検討できたと感じています。

今回はどの部門からも「品質問題」についての言及が多かったと感じています。昨今ニュースで他社の品質問題が取りざたされていることも影響していると思うのですが、そうした他部門の意見も認識する機会が持てたことも良かった点として挙げられます。

事務局側では演習前に100個ほどリスクを想定していたのですが、「品質問題」以外のところもほぼ想定内のものでした。実際の肌感覚としては「品質問題」が1番重要というのが、共有出来ました。

竹田:半面、意外な発見もありました。ある部門が特定した、最も重要な事業リスクが「安価な海外製品の流入」というものでした。そして、その結果に至るリスクストーリーというのが事務局の想定を超えていました。「海外製品の流入」は普段事業活動を行っている中では、なんとなくリスクとして認識はしていたのですが、今回の事業部門でワークショップを実施したことにより、本当にまずいかも、とトップも含む全員の危機感が共通のものとなりました。

その後、当該部門では中期計画の見直しの際、演習で特定されたリスクに対する対応策を急遽盛り込みました。大規模な投資を含めた計画で、会社としても大きな決断です。今回の演習がなければ、このタイミングでここまで踏み込んだ対策は打てなかったかもしれません。事務局だけで演習を実施していたら、事業部門がここまで本気になることもなかったかもしれません。全社で演習を実施した効果が思いのほか早く結実しました。

藤井:一方で、プロジェクトはやはり一筋縄ではいきませんでした。事務局としては苦労した点が、いくつかあります。

事業部門にも本業があり忙しいので、協力を仰ぐのに苦労しました。社内の取り組みは後回しにされてしまうので、催促しても書類がなかなか出てこないということがあります。また、事業部門が取り組みの内容をきちんと理解していないと、提出内容にもばらつきが出てしまいますので、事前の説明も欠かせません。その後集まった情報を取りまとめることは事務局の力量が求められます。

今後PDCAを回す上では、こうした運営面の課題がまだあると思っています。ただ、今回演習に参加してもらい、事業部門の担当者も一度流れを経験したので、今後改善されることを事務局としては期待しています。

プロジェクトをきっかけに次の課題へ

―今後の取り組みについて教えてください。

本田:まだこれから計画の段階ではありますが、海外の子会社まで含めた演習を実施していきたいです。現状、子会社とは基本的に独立して事業を行っており、子会社の事業内容に応じて、各事業部門が直接管理している状態です。コーポレート部門との交流が少ない中でどのようにこの仕組みを回すのか、はきちんとした設計が求められると感じています。

 

―この度のサービスの感想を教えてください。

藤井:ばらばらな事業部門を抱えている当社でも、ファシリテーションをうまくすればちゃんとまとまるんだと実感しました。ファシリテーターが重要と聞いていましたが、引き出しながらまとめていく手法を今回学ばせて頂いたので、今後の活動に是非生かしていきたいと思います。期待していたコーチングの効果を実感しています。

本田:最初にトップインタビューやキックオフミーティングをおこない、役員と直接コミュニケーションを取って頂いていたことで、役員層のプロジェクトに対する理解が深まりました。演習を実施した際にもその前提があったからこそ、スムーズなグループワークが実現できたのだと思います。今後もマネジメントを積極的に取り込んだ活動としての良いスタートが切れたと思います。

 

―本日はありがとうございました。

担当の声

シニアコンサルタント  高橋 篤史

ERMを武器に新しい時代を

トップインタビューの中で最も印象に残ったのが、「敢えてリスクを取らなければ前に進めない。安心してアクセルを踏めるような仕組みにしたい。」という言葉でした。シキボウ様は125年の歴史の中で、メーカーとしてモノづくりを通して世の中に貢献するという立場を貫き、繊維産業の草分けとして様々な戦略を展開されてきました。そのマインドは今も受け継がれていますが、変化を察知し先手を打つためには、判断材料として、リスクを適切にとらえることが求められます。清原社長のお言葉はまさにERMの本質を言い当てたものであり、トップダウンで進めるべきプロジェクトにとって、大変心強い印象を受けました。
また、プロジェクトに参加される方々もトップの意をくみ取り、真剣かつ積極的に取り組んでいただきました。とりわけ事務局メンバーの皆様の意識は高く、プロジェクト推進の要として重要な役割を担っていただいたと言えます。今回は「会社にノウハウが残る取り組みにしたい」というご要望もあり、事務局メンバーに一部のワークショップの進行を実施いただいたのですが、場の雰囲気づくりやリードなど、非常にこなれていて驚かされる一幕もありました。
リスクマネジメントは終わりのない活動です。時代の変化にあわせてその在り方も変わってきます。シキボウ様がERMを武器に、新しい時代を切り開いていかれることを願ってやみません。

利用サービス

お客様情報

名称 シキボウ株式会社
本社所在地 大阪市中央区備後町三丁目2番6号
設立 1892年8月5日
資本金 113億3600万円
代表者 代表取締役 社長執行役員
清原 幹夫
事業内容 1.各種繊維工業品の製造・加工および販売 紡績糸、加工糸、 織物生地・製品、ニット生地・製品、寝装生地・製品など
2.各種化学工業品の製造・加工および販売 工業用糊剤、食品添加物など
3.産業用資材の製造・販売 製紙用ドライヤーカンバス、フィルタークロスなど
4.複合材料の製造・販売
5.都市開発をはじめとする不動産開発
URL http://www.shikibo.co.jp/

(2018年4月現在)

プロジェクトメンバー

お客様

執行役員 コーポレート部門担当 経営管理部長

竹田 広明 様

総務部法務・知財財産課長

本田 和久 様

総務部法務・知的財産課

藤井 英範 様

ニュートン・コンサルティング

取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント

勝俣 良介

シニアコンサルタント

高橋 篤史

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