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「東日本大震災の教訓を踏まえた事業継続マネジメント(BCM)有効性向上への提言」について

掲載:2012年02月13日

執筆者:取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント 勝俣 良介

コラム

本書は、東日本大震災から得られた数多くの事例をもとに、組織の事業継続能力を高めるための経営管理の仕組み・・・すなわち、“事業継続マネジメント(BCM)”にどのような問題があったのかを考察し、今後の反省に向けてのポイントを明らかにしたものです。

BCI JapanやJIPDECをはじめとするBCMを導入・推進する立場にある複数の団体で構成するBCMSユーザーグループが本書の作成に携わり、2012年1月31日に本提言を発表しました。(提言書はBCMSユーザーグループのHPからダウンロードできます。リンク先は記事下部参考リンク参照。)

         

大きく8つの課題について言及

約130ページ(1.7M)に及ぶ本書は、全3章+参考資料からなりますが、テーマの主役は、東日本大震災の事例から抽出・集約された8つの課題です。

たとえば8つの課題の中の1つ「リスクアセスメントと事業インパクト分析」では、東日本大震災のような甚大な被害や複合災害、広範なサプライチェーンの停止などは従来のBIAやRAでは考慮されていなかった、つまりリスク想定が甘かったのでは、といったことが述べられています。

【本書の構成】

第1章 事業継続上判明した課題と対応策
第2章 BCMの活用と具体的提言
第3章 BCMSの有効性とさらなる発展のために
参考資料
・東日本大震災の概要
・企業の被害概要

【8つの課題】

・インシデント対応体制
・事業継続計画及びインシデントマネジメント計画
・リスクアセスメントと事業インパクト分析
・事業継続戦略、経営資源の提供
・BCM要員の力量およびBCMの演習
・同時被災
・サプライチェーン
・組織力

本書の活用方法

本書は様々な用途に活用できますが、とりわけ「社員の意識啓発」と「BCM活動の弱点の特定」を行う上で有益な道具になりうると考えます。

「社員の意識啓発」という観点では、本書に掲載されている豊富な事例が教育の情報源として役立つと思われます。たとえば自家発電を持つビルに入居する会社の多くの人が「うちは自家発電があるから大丈夫」と思いがちですが、本書では切り替え操作の不備で電子機器を損傷させた事例が紹介されています。わたくしたちの油断に警鐘を鳴らすものとして役立ってくれるでしょう。

「BCM活動の弱点の特定」という観点では、本書はBCMの主要な活動(例:方針の決定、BIA、リスクアセスメント、演習など)ごとに課題を整理しいることから、企業の危機管理担当者は、自社で運用(あるいはこれから導入しようと)しているBCMの欠陥について、効果的・効率的に発見しやすくなると考えます。

本書から学べること(筆者の所感)

本書で最も印象的だったのは「想定外」という言葉が何度も登場した点です。想定外の事態とは、具体的にはたとえば「社会インフラがここまで長期に止まるとは思わなかった」とか「まさかデータセンターが落ちるとは思わなかった」といったものです。想定内のことが起きた時、被害はそれなりに抑えることができますが、想定外のことが起きた時は全くの無防備であることから、被害は甚大になります。それがこの震災において起きた一番の課題だというわけです。

ここで興味深いのはBCPはそもそも「思ってもいなかったことが起こったらどうしよう」ということを事前に考えることで“無防備な状態を減らす”ところに真髄があるはずなのに、それがうまく機能しなかったという事実です。

なぜ、このようなことが起こってしまったのか?

この点については本書では「リスクアセスメント」を戦犯の1つに取り上げています。わかりやすく言えば、多くの企業で、リスクアセスメントという名のもとに組織に都合の良い線引きをし過ぎたためではないか、ということです。つまり、「これ以上の被害が起きることなんて想像できない、起こりそうもない、いや、想像したくない、いや、起きたら周りもめちゃくちゃで今から考えても仕方が無いだろう」といった考えに支配され、対策を考える範囲を絞りすぎてしまったということです。

リスクの大きさを全く無視しろということではないでしょうが、BCPの真髄はリスクの大きさ、とりわけ、発生可能性にあまりとらわれすぎずに対応策を考えていくことにあります。企業は今後こうした点を配慮したBCM活動が求められるでしょう。
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