神戸SC開発様

防災拠点としての役割も視野に
地域の生活を守る
ショッピングセンターのBCP

兵庫県神戸市に本社を置く神戸SC開発株式会社は、JR西日本のグループ会社として、駅ビルやショッピングセンターの開発・運営などの事業を兵庫県内で展開しています。今回、JR神戸線沿線の9つのショッピングセンターに導入するBCPを策定しました。プロジェクトを推進された取締役設備部長の宮本 靖夫様、事業部部長の二見 周様にお話を伺いました。

阪神・淡路大震災の経験から、安心・安全な施設を目指したい

取締役設備部長 宮本 靖夫 氏

―御社の事業を教えてください。

宮本: 当社は2006年に芦屋ステーションビル、神戸ステーション開発、明石ステーション・センターの3社が合併してできた会社で、JR西日本のグループ会社として、駅ビルやショッピングセンターの開発・運営などを行っております。現在は、芦屋、住吉、六甲道、三宮、神戸、垂水、明石、西明石、姫路というJR神戸線の東西約70kmの間にある9駅に隣接したショッピングセンターを運営しています。その内訳は、昨年4月末に開業オープンしたピオレ姫路のような駅ビル型のショッピングセンターが3施設、高架下のショップ型が6施設となっています。これらの建物設備と出店いただいているテナント様の管理運営を主な業務としております。いずれも駅に直結した施設ですから、「駅と街を結ぶ」というコンセプトのもと、駅をハブとして地域住民の生活を支えるという意識で従事しています。

阪神・淡路大震災で倒壊した 本社向かいのビル(社史「20年の歩み」より)

―今回BCPに取り組んだきっかけを教えてください。

宮本: 1995年1月17日の阪神・淡路大震災では、真向かいのビルが倒壊するなど、この一帯も大きく被災しました。六甲道では、高架橋が落下・崩壊しました。早朝だったため幸い人的被害は出ませんでしたが、高架下のショッピングセンターは営業ができなくなりました。芦屋、住吉をはじめ他のショッピングセンターも休業を余儀なくされるなどの苦い経験をしています。とにかくとんでもない状況を目の当たりにした経験から、やはり安心・安全な施設を目指したいという思いがありました。

そんな折、国の中央防災会議の南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループから南海トラフ地震による被害想定が出され、関西地区に立地する当社としても対応を行うことになり、BCP策定に取り組むことを決定しました。

駅は「街の玄関」。不特定多数の人々の安全や生活を守らなければならない

―今回の取り組みの内容を教えてください。どのようなことを念頭におかれましたか。

宮本: 私たちの経営理念は「顧客起点」が基本ですので、平時からの取り組みによって、有事にも安全に避難していただける体制を作り、お客様の安心・安全を守ることで信頼を得ることを第一に考えました。第二に、私たちの施設は、移動途中の通勤・通学者も利用していますので、発災後JRが運休した場合に足止めされたお客様を収容する防災拠点としての機能を念頭におきました。第三に、交通が遮断された場合にあっても、地域の居住者の日々の生活を支えるために、一刻も早く日常の状態に復旧しなければならないと考えました。大きくこの3点を柱としてBCPを策定しました。

―具体的にはどのような課題があったのでしょう。

宮本:われわれの施設はいずれも駅に隣接しています。駅は街の玄関で、不特定多数の方が利用しています。有事においては、JRのお客様、ショッピングセンターのお客様という区分けは意味がなくなりますが、現状では、鉄道が止まった時の帰宅困難者、移動困難者の発生に対処する体制まではできていません。

それからショッピングセンターには地域の生活に密着しているという面もありますから、自宅が被災された方々が避難所だけで生活用品をまかなえないような事態になったら、それをバックアップしなければなりません。

また、組織的な問題もあります。本社組織は平日の活動を中心に作られていて、土曜や日曜、祝日の出勤者が大幅に少なくなります。今後は、平日よりも圧倒的にお客様が多く、逆に出勤している社員は少ない休日に災害が発生した場合も想定しなければならないと気がつきました。

鉄道会社では、運行上の問題発生時に運転手と車掌が乗客に逐一情報提供していくための訓練をしていますが、ショッピングセンターでは避難訓練以上のことは十分できていませんし、テナント様とも様々なことを取り決めなければなりません。

二見:BCP策定の中で、演習を2回実施しました。1回目は神戸市を中心に被災する想定、2回目は西側の明石や姫路が大きく被災する想定で、本社とすべての営業所が参加しました。特に2回目の演習では、本社から数10キロも離れたショッピングセンターが被災した場合、現在の通信設備体制では、被災状況によって本社との連絡手段がなくなりますから、各々のショッピングセンターがどう対応するか、現場で判断して実行しなければなりません。現状ではその場合のルールがないということが課題だと痛感しました。また、一部の小規模なショッピングセンターには、当社の社員が常駐していない場所もあります。そのようなショッピングセンターでの有事の対応も決めていかなければならないと思います。

―テナント様や業務委託先、JRなど、様々な組織との連携を視野に入れる必要がありますね。

宮本:テナント様の従業員、清掃や警備の業務委託先のスタッフも含めて意識を共有し、お互いの役割に応じて行動することがお客様の信頼につながると思います。そのためには、その行動基準をあらかじめ示し合わせておかなければなりません。

また、たとえば電力や交通のインフラが不完全で、規模を絞って営業を再開するとき、店頭の商品を救援物資として販売したり供出したりすることを考えていますが、それを実現するためには、テナント各社様とあらかじめルールを決めておかなければなりません。

私たちの施設はJRの敷地と隣接していますので、帰宅困難者についても、あらかじめ、施設のタイプに応じた協力体制などをJRと話し合っておき、お客様にご理解、ご納得いただけるような統一した行動をとる必要があります。

―そういったことを踏まえて、どのようなBCPを策定されましたか。

宮本: 先ほど述べたように、当社のショッピングセンターはJR神戸線の東西約70kmの間に9つの施設が点在しています。6つの営業所でそれらの施設を管理しているので、営業所によって管理するショッピングセンターの数も違いますし、ショッピングセンター内に営業所が所在しているところもあれば、ショッピングセンターと営業所が数km離れているところもあります。つまり、営業所によって平時の体制も、有事の時の対応も変わってくるということになります。ですから、営業所ごとに初動対応計画と、その後の事業継続計画を策定することにしました。

具体的には、まずパイロットフェーズとして、本社と住吉営業所、姫路営業所の初動対応計画と事業継続計画を2013年12月から2014年2月にかけて策定しました。その後、パイロットフェーズで策定した初動対応計画と事業継続計画をひな型として、3月に他の4つの営業所に展開し、最後に本社と全営業所のメンバーが集まって演習を実施して課題を洗い出すという方法を取りました。

二見: パイロットフェーズでBCPを策定する議論の中で、ショッピングセンターとしては、まずは初動の動き方が最も重要だと再認識しました。点在しているショッピングセンターや営業所が孤立することが十分に考えられますから、初動対応では本社からの指示を待つのではなく、現場で判断をできる体制を整えることが大事だと思いました。そのために、緊急時対応計画と危機管理計画を「災害時初動対応計画」としてまとめ、営業所ごとに策定しました。この「災害時初動対応計画」の中で、営業所の現地対策本部の体制を定めて、各地で自律的に行動できるようにしました。

対策の例としては、社員の参集基準を定めました。休日や夜間に発災して交通機関がストップした時、社員は自分の所属にかかわらず最も近い営業所に参集することを決め、そのための準備もしていくことにしました。また、帰宅困難者への対応としては、ショッピングセンターごとに場所の特定や収容可能人数、備蓄品の配備数等を事前にまとめるように準備を進めています。

他のショッピングセンターの参考になるBCPにしていきたい

―策定後に演習を実施しました。そこではどのような課題が見つかりましたか?

宮本: 終了後のアンケート結果には大きく4つの項目がありました。

まず「自身の役割・行動が明確になったか」という問いに「はい」と答えたのが82%、「いいえ」「わからない」が18%ありました。8割以上の社員が、大地震のような大災害が発生した時の行動が明確になったことは大きな成果ですが、今回のプロジェクトの中核メンバー以外は、何をすればいいのかという意識が希薄で、そんな非常事態が本当に来るのかと懐疑的だったり、本気で考えていなかったりする人がいることもわかりました。

「発災直後に安全確保の活動を実行できる」と答えたのは47%でした。各施設では日ごろ避難訓練を行っていますが、こうすればお客様や従業員の身の安全を確保できるという意識にはまだいたっていない現実があることがわかりました。

「事業継続に必要な指示をできる」と答えたのは59%。会社として事業継続策を発動する条件がまだ明確ではない段階でのアンケートだったので、このような数字にとどまったことはやむを得ないとは思いますが、人によって考えが違うことがないようにしなければならないと思いました。

「演習と同様の被害であれば業務を継続できる」と答えたのはわずか18%でした。想定した被災状況がかなり厳しかった上に、演習を行ったのがBCP策定直後だったため、対策の実施やルール決めができていないことが多く、これでは営業できないと思ったのだと思います。数字が低いことは残念でしたが、逆に言えば、現状では何が課題なのかはっきりとしたので、各人にとって何がいちばん大事か、そして会社として何をしていかなければならないか、よくコミュニケーションを重ねて決めていきたいと思います。

―これからの取り組みはどのように進めていきますか?

宮本:社員の大半にとっては、想定しているような災害が本当に自分の身近に起こるかどうか、まだ半信半疑だと思います。私自身は阪神・淡路大震災を経験していますが、若い社員の中にはピンとこない者もいます。確率は低くても可能性はあるという意識をもたせて、真剣に考えさせなければならないと思います。ビジュアルや海外の事例なども盛り込んで教材を工夫したり、経験者に説得力ある体験を話してもらったり、消防に協力してもらって起震車などの体験研修をしたり、今後は体に覚えこませる訓練・演習を行っていくことを考えています。

見つかった課題に対処しないうちはBCPができたとは言えないと思っています。社内でも意見が分かれるところがあるので、そのベクトルをどう合わせていくかということに悩んでいます。防災拠点というところまで視野に入れるとなると、費用的な問題もあります。

今後は、出社基準のルールや人命救助に必要なノウハウ、減災に向けた転倒防止、落下防止などの予防対策について、他業界や他会社の事例を参考にしながら検討を進めていき、できれば他のショッピングセンターの参考になるBCPにしていきたいと思っています。

―BCPの策定が終わって、どのような感想をお持ちですか。

宮本:演習の参加者を中心に防災意識は醸成されつつありますが、会社全体からすると今回の演習に参加したのはまだ2割ぐらいにとどまっていますので、山登りで言うとまだ1合目ぐらいでしょう。山頂まではまだ大分あると思っています。これからは会社内で議論する機会や、訓練の回数を増やして意識を高めていくことが大切だと思っています。

二見:BCPには完成ということはないと思っています。社内の組織やメンバーも変わりますし、テナント様の構成も、ショッピングセンターの設備も変わっていきます。このような社内外の状況の変化に合わせて、たえず見直しをしていくことがBCPを社内に根づかせていく活動になっていくと考えています。

担当の声

エグゼクティブコンサルタント  辻井 伸夫

あえて厳しい状況を想定した訓練を実施し、多くの課題を抽出

東日本大震災において首都圏で多くの帰宅困難者が発生したとき、主要駅がシャッターを閉め帰宅困難者を駅構内から締め出す行動を取ったのは記憶に新しいことです、その後、この行動に対して批判が高まったことへの反省から、東京をはじめとする大都市圏では、自治体と鉄道会社が協定を結び、帰宅困難者の一時滞在施設として駅を利用できるようにする取り組みが進んでいます。

今回、神戸SC開発様でBCPを策定するにあたり、東日本大震災後のこのような世の中の流れも考慮に入れて、「まず、人命を守ることを最優先に、初動対応の行動と計画を重要視して進める」ことをお客様との間で決めました。そのため、パイロットフェーズと展開フェーズで2回実施した訓練は、不特定多数の買い物客で賑わう土休日の昼に大地震が発生するという想定で実施しました。

インタビュー記事のお話にあるように、買い物客が数千人もいる土休日に大地震が起こるという想定は、BCPを策定したばかりのお客様には厳しい想定だったかもしれません。しかし、このような被災状況を選ばれたのは、BCP策定に携わっていたプロジェクトメンバーの方々の意見でした。メンバーの方々が、あえて厳しい状況になることを想定した訓練を実施し、その中で課題を浮かび上がらせることを選択したということは、BCPを実効性のあるものにしていくことを強く求めていらっしゃったのだと感じました。

これもお客様のお話にあることですが、「BCPに完成はない」という言葉も、BCPの核心を突いた言葉だと思います。さまざまな社内外の状況の変化に対して、継続して教育・訓練を実施し、改善を続けスパイラルアップさせていくこと(つまり、PDCAサイクルを回すこと)が、BCPを錆びつかせない唯一のことだと思います。

あえて厳しい状況を想定した訓練を実施して見つかった課題を、今後、神戸SC開発様で着実に改善策を実施し、その活動が他のショッピングセンターや鉄道事業者にも広がっていくことを切に願っていきたいと思います。

利用サービス

お客様情報

名称 神戸SC開発株式会社
本社所在地 兵庫県神戸市東灘区住吉本町1-2-1
設立 1991年3月
資本金 9,800万円
従業員数 81名
代表者 代表取締役社長 山田 宗司 氏
事業内容 ショッピングセンターの運営・管理及び開発

(2014年7月現在)

プロジェクトメンバー

お客様

常務取締役

松井 徹 氏

取締役設備部長

宮本 靖夫 氏

事業部部長

二見 周 氏

開発部副部長

馬場 正文 氏

マーケティング部主任

西坂 仁志 氏

設備部リーダー

岡田 浩幸 氏

企画・人材育成部部長

吉田 隆 氏

企画・人材育成部次長

馬場 雅之 氏

住吉営業所長

辻 秀夫 氏

住吉営業所主任

足立 陽二 氏

ピオレ姫路営業所副所長

米谷 浩明 氏

ピオレ姫路営業所係長

関口 徹 氏

芦屋営業所副所長

藤原 英明 氏

芦屋営業所係長

加藤 法美 氏

神戸営業所副所長

西嶋 芳行 氏

神戸営業所主任

山根 千恵子 氏

垂水営業所副所長

南 盛久 氏

垂水営業所

奥野 勇人 氏

明石営業所長

永井 秀和 氏

明石営業所主任

山中 英 氏

ニュートン・コンサルティング

エグゼクティブコンサルタント

久野 陽一郎

エグゼクティブコンサルタント

辻井 伸夫

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