松本土建様
有事の実効性を向上させ、
BCP認定を受けた責任を果たしていきたい
東日本大震災の誘発地震がきっかけになりました
―御社の事業を教えてください。
大池: 当社は土木、建築、不動産管理、指定管理事業部の4事業部制をとっています。指定管理事業部というのは、2003年に地方自治法が改正されて公共の施設を民間が委託を受けて管理できるようになったことを受けて始めた事業です。今、長野県や松本市から7つの施設の管理を受託しています。土木事業部は公共事業が90%ですが、建築事業部は、公共事業の割合は約3割で、民間マンションやビル、一般住宅が多くを占めています。不動産管理事業部は、松本駅前にあるビルの管理を中心としています。
―今回BCPを策定されたきっかけは何でしょうか。
大池: 東日本大震災の翌日、新潟県との県境の栄村でM6.7震度6強の地震がありました。これは被害総額55億円と言われています。そして同じ年の6月30日に松本で長野県中部地震がありました。東日本大震災の誘発地震と言われていて、震度5強でした。
長野県中部地震は午前9時前頃に発生したので、社員全員で駐車場に避難したのですが、そこで皆で顔を見合わせるだけでした。その後どうすればいいのかということを何も決めていなかったのです。これでは、もっと大きな災害が起こった時に何もできないかもしれないと反省し、それがBCPに取り組むきっかけになりました。
また、その後でタイ洪水があり、日本企業も大きな被害を受けているというニュースがありました。このような大きな自然災害に遭遇したら会社としてどうすればいいのかということを考えさせられました。
当社はISO9001を取得するときに品質管理室を立ち上げて、マネジメントシステムを整備することにとても苦労しました。今回は同じような苦労をしなくてすむように、自分たちだけではなくプロフェッショナルの力を借りてBCPを策定することを決め、ニュートンさんにお願いすることにしました。期待した通り、大きな負担なしに策定を進めることができました。
- 地震以外にも、豪雪や台風、土砂崩れといった天災の際には、休日や夜中でも現場に急行しなければならないお仕事ですね。
高山: 除雪は毎年行っていますが、行政から要請が来るとは限らないため、自分たちの判断で作業を始めています。5~10cm降ったら塩化カルシウムの融雪剤を撒いて、さらに降ってきたら機械で除雪して端に寄せる作業を行っています。
大池: 特に今年の豪雪は大変でした。農家のビニールハウスが潰れるということもありました。
有事の際にも次の展開が見える安心感
―有事の際に最も大事にするのは何ですか。
大池: やはり社員の安全、家族の安全が一番です。それを確認した上で行政の要請に対応していくことになります。基本的には災害協定を結んでいるところがあるので、そこが優先になります。国道事務所、砂防事務所、河川事務所、それと建設業協会を通じて県や市からの要請もあります。
―今回の取組ではどのようなことに苦労されましたか?
高橋: 社内の連絡が大変でした。連絡網自体がありませんでしたから。それでようやく完成したので、早速、安否確認の訓練も行っています。今回はあらかじめ周知してやったので成功しましたが、次はやり方を工夫して実効性を上げていきたいと思います。
また、緊急車両登録をしている車が多いので、いざという時の燃料の手配が重要だということがBCP策定のなかで分かってきました。そのため、あるガソリンスタンドとの間で協定を結び、優先的に燃料を確保できるように準備しています。
―策定されての感想はいかがですか。
大池: 先ほど話した松本の地震のときは何もできなかったことを考えると、災害対策本部を立ち上げる基準ができ、本部にみんなを集めれば指示ができて、その次の展開が見えるようになったということに、非常に安心感を得ています。
また、建設業というのは「人」の確保がとても重要になりますから、社員だけではなく協力会社を含めた事業継続力を考えることができたのは、とても有意義であったと思っています。
棚の固定などの社内の予防・低減策はだいぶ進めましたし、備蓄品の倉庫も建て、備蓄品自体も順次購入しています。こういった活動はこれまでにまったくしていなかったものです。
しかし、本当に災害が起こったら、それがどのくらいちゃんと機能するかどうかはわからない。これもやはり訓練を重ねていかなければならないと感じています。
―社員の反応はいかがですか。
大池: 全社説明会も行いましたが、まだ浸透はしていないのではないでしょうか。ポケットBCPを配布したので、なんとなくは理解されていると思いますが、これもやはり訓練を重ねることで理解が進んでいくと思っています。
高橋: 今年の新入社員には、入社時の研修でBCPを周知しました。
大きなアピール材料としていきたい
―今回、国土交通省の「建設会社における災害時の事業継続力認定」を取得されました。
宮下: 長野県内では、まだ13社しか認定をとっていないそうなので、新聞にも取り上げられました。認定されていれば、入札の際の加点があるのですが、今のところそのような入札案件が出てきていないので、これからの案件に期待しています。認定の際に、関東地方整備局で面接があったのですが、次回更新も頑張ってくださいと言われました。これから、教育や訓練を進めていかなければなりませんね、また、公共事業以外の民間の案件にも、この認定を活かしてトップセールスを積極的に行っていきたいと思います。
大池: BCPを策定して認定を受けたということは、アピール材料でもありますが、同時に責任も感じますね。あの会社はBCP認定を受けているのだから、災害が起こってもちゃんと事業を続けられるはずだという期待を受けるでしょうから、有事にきちんと動けるという実効性を向上させていきたいと思います。現時点では、この松本自体に直下型地震が起こったらどこまで動けるかを楽観することはできません。しかし、近隣地域での災害に対して救援を行う体制はできてきたと思っています。
これから、地道にBCPの活動を続けていき、松本を中心とした地域の災害に対しても、すぐに活動をすることができる会社になっていきたいと思っています。
- 本日はありがとうございました。
利用サービス
プロジェクトメンバー
お客様 |
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代表取締役社長 大池 太士 氏 |
取締役 指定管理事業部長 平林 淳 氏 |
建築事業部 工務部長 黒岩 信幸 氏 |
土木事業部 次長 高山 匡弘 氏 |
土木事業部 課長 宮下 和広 氏 |
総合管理本部経営企画課 課長 高橋 将樹 氏 |
建築事業部 柳澤 葉子 氏 |
土木事業部 塩原 由美 氏 |
ニュートン・コンサルティング |
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代表取締役社長 副島 一也 |
エグゼクティブコンサルタント 辻井 伸夫 |
担当の声
エグゼクティブコンサルタント 辻井 伸夫
地域のインフラを支えていきたいという気概を持つ建設会社
松本土建様も、信州・松本地域を地盤とする建設会社として、その地域のインフラを支えるために関東地方整備局や北陸地方整備局、長野県建設業協会と災害協定を結び、トラックや重機類の緊急車両登録を済ませ、もしもの時の備えをされていました。
しかし、事業継続力を高めるためには、まず社員とその家族の安全を確保されていることが大前提となります。2011年に続けて発生した東日本大震災や長野県北部地震、長野県中部地震、タイの水害を通して、松本土建様はその大前提が弱いことを痛切に感じられて、BCP策定と関東地方整備局の事業継続力認定に取り組まれました。
さらに、プロジェクトメンバーによるBCP策定だけにとどまらず、土曜日の夕方に全社員を対象としたBCP説明会を開催して各種施策を説明し、作成したばかりの携帯用BCPも配布、その後には安否確認訓練も実施され、什器の固定化や備蓄品の購入も着々と進め、事業継続力を高められている姿勢が感じられます。
まだ認定を取得したばかりなので、入札制度での利点が実際に受注につながることはこれからのことですが、このような日々の活動こそが、地域のインフラを支えていきたいという松本土建様の“気概”を示していると同時に、関東地方整備局の事業継続力認定における「基礎的な事業継続力を評価すること」の本来の意味を体現した姿であると感じました。