メルセデス・ベンツ日本様

メルセデス・ベンツ日本株式会社は、欧米の工場で生産された商品を日本へ輸入販売している企業です。東日本大震災を受け、グローバルなリスクマネジメントの見直しをおこなう中、茨城県に所在する新車整備センターにおいて、初動対応に特化して体制強化と訓練を実施しました。そのプロジェクト責任者であった新車整備センター長 土屋長幸氏にお話をお伺いしました。

-貴社の事業内容を教えてください。

メルセデス・ベンツ日本は、親会社のダイムラー社(ドイツ)からメルセデス・ベンツとスマートブランドの自動車を輸入販売しております。その中で、日立にある新車整備センターでは、欧米から届いた自動車に日本で必要な保安基準を満たすようチェック・整備する役割を担っています。

日本に輸入される全ての自動車はここに一度集結し、その後日本全国に配送されます。

大切なのは個々人が自分で動ける仕組み

新車整備センター VPCセンター長 土屋 長幸氏

-今回、初動対応の見直しに取り組まれたきっかけを教えてください。

ダイムラーではグローバルにリスクマネジメントをおこなっておりますが、やはり3月11日の東日本大震災での日本の被災状況に鑑み、全世界で対応の強化が必要と感じ、危機管理の見直しがおこなわれています。どの企業でも同様だと思うのですが、ここまでの被害は想定されていなかったこと、また、日本はグループ全体にとっても重要なマーケットのひとつですので、特に早急な見直しが求められました。

お客様にきちんと自動車をお届けするという目的のもと、メルセデス・ベンツ日本全体として対策の見直しを進めていますが、拠点ごとに環境が異なりますので、拠点で進められる対策は独立して進めています。当センターは、震災の際に実際に被害が発生したことや、その後の余震が続いていたこと、近くに原発があることなどから、先んじて実践的な対策の策定を進めることにしました。

当センターでは今まで消防訓練を中心におこなってきましたが、震災の際に、防災対策、それも特に初動の対策についてはさらに充実させる余地があると感じました。大きな災害が発生した場合には、指示がなくても個々人が自分の判断で動けることが必要です。誰もいなくても何をすべきなのか全員が判断でき、全社として行動すべき時には指示通りに動ける、そんな体制を早期に実現したいと考えました。

- 今回コンサルティング会社を利用した理由を教えてください。

ここも被災地でしたので、自らの経験をもとに対策を考えるということもできたのですが、やはり他の地域の被災状況がどうだったのか、どのような対策が実際に有効で、今後どのようなことが求められるのかなど、総合的にアドバイスをいただける専門家を利用した方が良いだろうと考えました。

コンサルティング会社の選定にあたっては、何社かお話しをお伺いした中で、ニュートンさんが一番リーダーシップを発揮してプロジェクトを進めていただけそうだと感じました。ご提案段階で当方の要望を全て盛り込んだスケジュールを具体的に提示いただいたので、短期間で当方の希望している初動対策が実現できると確信を持つことができました。

訓練に重きをおいた初動対応策定プロジェクト

-今回のプロジェクトの内容を教えてください。

今回の初動対応プロジェクトの目的は、人命の安全を確保することでした。そのために、先ほども申し上げましたとおり、個々人が自分で考えて動ける体制を実現することを最優先としました。東日本大震災後、まだ余震が続いておりましたので、いつまた大きな地震があるか分からないという状況下で、1日も早く社員の安全を確保したいと考えました。

そのため、当社が指定したプロジェクト期間は1ヶ月です。形だけ資料を作って配布するのでは身につきませんので、教育訓練などを通じて有効に動ける内容にしたいと考えました。当初当方としては文書化を全くおこなわなくても良いかと思っていたくらいです。文書化の弊害は:

  • いくら想定しても想定どおりの被害が発生するわけではないこと
  • 文書はこだわって作り始めるとキリがないこと
  • 役割をあまり明確に決めてしまうと逆にそのとおりにしか動けない人がでてくる可能性があること

などだと感じています。また、実際に身体を動かさなければ身につかないと考えました。

結果、必要最低限の環境の洗い出しと簡潔明瞭な指揮命令系統に重点を置いて枠組みを策定し、全員参加で訓練を実施しました。

実際に訓練をおこなってみると、自分たちの計画のできている部分、できていない部分が明確になり、今後の良い検討材料となりました。また、実際にやってみると思った通りいかないことが大変多く自分たちでも驚きました。

例えば卑近な例で言うと、駐車場に参集した後は、責任者が拡声器で指示を出すことになっていたのですが、拡声器というのは、前に立っている人にしか音が聞こえないんですね。向きが悪いと聞こえない人が出てくることは、机上では想定できませんでした。或いは、避難場所として近辺で一番の高台を指定していたのですが、実際に動いてみると回り道でたどり着きにくく別の候補地が出てきたり、救護班と任命されている人のうち、救護にあたっていない人は何をすれば良いか不明確だったりと、確認できた課題は枚挙にいとまがありません。

こうして実際に試してみたので不備・不足点が明らかになり、さらなる改善が可能となりました。今後はそれをひとつひとつクリアしていけばいいと考えています。また、社員も一度は行動しているので、次に何かあった時には、従前よりも自分で判断できる前提ができたと思います。

訓練後に議論が活発化

-苦労されたポイントや気づきはありますか。

当方が言い出した1ヶ月間というプロジェクト期間でしたが、かなりの短期間でしたので、仕上げるのはやはり大変でした。他の業務と並行して進めていたので、担当者には相当の負荷がかかったと思います。ただ、ニュートンさんがスケジュール管理をきっちりしてくださったので、どうにか期間内で完了することができました。

策定プロセスにおいては、震災を経験し実体験に基づいた議論ができたとはいえ、当初の議論の場ではなかなか意見が出てきませんでした。実際には訓練をおこなってみてからの方が、参加者から活発な情報提供がありました。やはり説明を受けて想像するだけの時と、実際に身体を動かした後では違うのだと実感した次第です。

訓練においては、今回は大変有意義なものが実施できたと考えています。ただ、訓練は緊張感を保つのが難しいとも感じました。「火が出たつもり」「煙が出たつもり」だと刺激がなくて、今後継続していくうえでは惰性になってしまう危険性を感じます。毎回新しい趣向を凝らしたり、テーマを変えたりと継続的な工夫が必要だと感じています。その上で、訓練は年に最低2回は実施したいと考えています。

-ニュートンのコンサルティングはいかがでしたか。

大変に満足しています。我々の中には作りたいもののイメージはあっても、どのようにまとめれば良いのかなどのアイディアがありませんでした。また、当方が思いつくままに出した要望にもお応えいただき、この短期間の中では最大限の成果が出せたのではないかと思います。コンサルタントの方が大変親身になって相談に乗ってくださったので、こちらも肩肘張らずに色々なお話しをさせていただけたこともプロジェクトの進めやすさにつながったと思います。

また、やはりタイトなスケジュールで進める中で、納期管理をしっかりとおこなっていただき、当方のお尻を叩いていただいたのも有効でした。だからこそ、目標通りにプロジェクトを終えることができたのではないかと思います。

文書作成にかける時間を訓練に

-これから取り組まれる企業様にアドバイスをお願いします。

東日本大震災以降、あらゆる企業が何らかの形で防災や事業継続対策に取り組まれていることと思います。当方が取り組んでみて感じるのは、やはり訓練の重要性です。大層な文書があったところで、実際に動けなければ意味がありません。1日も早く、1回でも多く訓練をおこない、社員が自分で動けるよう教育をするべきであると考えます。

各人に幅広く、会社の初動対応の在り方を理解してもらい、各人の役割をきちんと果たせる、もしくは、役割の人がいなければ代わりの人が果たせる体制を構築していただければと思います。そのためには、文書や役割やピラミッドにこだわらず、社員全員が自分の事として、危機管理の枠組みを理解することが重要であると言えます。

-今日は貴重なお話をありがとうございました。

担当の声

エグゼクティブコンサルタント  久野 陽一郎

実効力を「身につける」には

プロジェクトを開始する際に、お客様の要望として文書の策定以上に訓練実施によって対応力を身につけたい、とお伺いしました。このことは、弊社が考える災害に強い組織作りと同じアプローチであり、大変共鳴するポイントでした。想定外の事象が発生する災害時には、事前に決めたルール以外の対応も求められます。想定外に対応するためには、異なる状況を想定した訓練を積み重ねて行くことが最大の近道であると言えます。
今回のプロジェクトでは、2ヶ月間でルール・仕組みづくりと訓練を行いました。臨機応変に対応することを方針に掲げ、災害発生から避難、消火活動、けが人対応、災害対策本設置・運営、そして防災機器の使用確認など、頭だけでなく体を動かすことで言葉通り対応力を「身につける」訓練を実施できました。マネジメントだけでなく現場の方々にも積極的にご参加頂き、現場の声をルール・仕組みに反映することができました。短期間ではありましたが、災害に強い組織作りの一助となれたこと、大変感謝しております。

お客様情報

商号 メルセデス・ベンツ日本株式会社
本社所在地 東京都港区六本木1-9-9 六本木ファーストビル
設立 1986年1月
資本金 156億円
従業員数 249人
代表者 代表取締役社長 兼 最高経営役員(CEO) ニコラス・スピークス
事業内容 自動車とその関連製品の輸入・販売およびサービス

(2011年11月現在)

プロジェクトメンバー

お客様

新車整備センター VPCセンター長

土屋 長幸 氏

管理課 総務グループ グループリーダー

市野 利明 氏

管理課 総務グループ

川瀬 智久 氏

管理課 総務グループ

二瓶 尚美 氏

VPCオペレーション課 マネージャー

加藤 智淑 氏

VPCオペレーション課 整備管理チーム  ワークショップ・マネージャー

林  勇   氏

ニュートン・コンサルティング

代表取締役社長

副島 一也

執行役員 兼 プリンシパルコンサルタント

内海 良

エグゼクティブコンサルタント

久野 陽一郎

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