継続的サービス改善

掲載:2012年08月14日

執筆者:執行役員 兼 プリンシパルコンサルタント 内海 良

用語集

継続的サービス改善(Continual Service Improvement)とは、全てのITサービスやITサービスに関わる活動を継続的に改善するプロセスです。PDCAサイクルに基づく改善活動を通して、変化するビジネスニーズを捉え、顧客にとってより良い価値を提供・維持し、ITサービスの効率性、有効性、および費用対効果を向上させることを目的としています。

         

コア書籍の一冊に維持改善の考え方を集約

ご存知のとおり、ITIL(最新バージョンはITIL2011)は以下の5つの「コア」と呼ばれる書籍で構成されており、継続的サービス改善はこの1つに該当します。

  • サービスストラテジ(戦略)
  • サービスデザイン(設計)
  • サービストランジション(移行)
  • サービスオペレーション(運用)
  • 継続的サービス改善

継続的サービス改善はITIL V3で脚光を浴びる形となりましたが、V2以前にこの考え方が存在しなかったかというとそうではありません。ITIL V2の「サービスマネジメント導入計画と立案」が該当するのですが、どうしても導入・運用面ばかりが強調され、そもそもの出発点となる事業戦略との結びつきや、運用後の維持改善が見落とされがちでした。

そこでITIL V3では、戦略立案から運用、維持改善までのITサービスに関わる一連の活動を時系列毎にカテゴリ分けしそれぞれの書籍にまとめることで、事業戦略や方針との整合性、維持改善の最適化といったそれまでの課題を解決するに至りました。

対象は全てのITサービスマネジメントに関わる活動

通常、それぞれのプロセスは前後に位置するプロセスとの関係が重要となります。例えば「戦略と方針(サービスストラテジ)に基づき新たなITサービスを立案(サービスデザイン)する」などですが、継続的サービス改善の対象はサービスオペレーションのみではなく、4プロセス全てとなります。全プロセスに対して共通したサービス改善モデルとステップを提示しています。

【ITILプロセスの相互依存関係】

サービス改善モデルとステップ(7ステップ改善)

【継続的サービス改善モデル】

ITIL V3以降では、継続的サービス改善につなげるための考え方のモデルとして「継続的サービス改善モデル」が、具体的な改善ステップとして「7ステップの改善」が提唱されています。

# ステップ 内容
ビジョンは何か? 事業達成目標を理解し、事業とITの戦略が合致しているか確認します。
我々はどこにいるのか? 現状を評価し、人材、プロセス、技術などの観点から現在の位置(ベースライン)を設定します。
我々はどこを目指すのか? 最終的な目標とその達成時期を決定します。
どのようにして目標を達成するのか? 各マイルストーンを定めた具体的な計画案を策定します。
我々は達成したのか? 各マイルストーン毎に目標が達成できたのか、検証します。
どのようにして維持するのか? 変更する際の方法・手順を確実に組織のなかに組み込み、品質改善へつなげていきます。

 
【7ステップ改善プロセス】
# ステップ 内容
1 測定対象の定義 企業のビジョンや目標、顧客要件などから測定対象となる情報を定義します。
2 測定可能な事項の定義 測定対象として確定したものが、実際に策定可能なのかどうかを検証します。測定できないものは設定変更や、新たなツールの導入などで測定可能とする必要があります。
3 データ収集 測定に必要なデータを収集する為の方法を決定し、実際のデータを収集します。
4 データ処理 収集したデータを比較が可能となるような同一条件の形に変換し、分析の開始が可能な状態にします。
5 データ分析 目標達成度の測定、不達成の場合の原因や傾向、事業活動への影響度などを分析します。
6 情報の提示と活用 「我々は達成したのか」という問いへの答えが提示できるよう、データ分析結果をレポートにまとめ関係者に報告します。
7 是正処置の実践 関係者は課題から是正措置の有無を判断し、是正要となった場合にはITサービスの改善活動を実施します。是正処置後はベースラインを再設定する必要があります。

継続的サービス改善の成功要因

継続的サービス改善に基づき活動を行っていくに当たり、上記改善モデル、改善プロセスに加え、重要成功要因が書籍中に定義されています。これより継続的サービス改善に取り組む組織は以下の点に考慮し、導入を進めるとよいでしょう。

  • CSIマネージャの任命
  • マネジメントのコミットメント
  • 改善プロジェクトに優先度をつけるための基準 (Small Start,Quick Winの考え方)
  • CSI活動に対する十分な資金
  • プロジェクト体制 (リソースの確保)
  • CSI活動を支援する技術 (改善につなげる情報収集を可能にするツールなど)

最後に

継続的サービス改善の考え方はITILでは新しい概念と思われるかもしれませんが、ITILと共通の考え方を持つISO20000や成熟度モデルの考え方を採用しているCOBITでは継続的な改善は当然の考え方です。それこそITサービスマネジメントに限らず維持改善を重視したPDCAの考え方は広く浸透していますから、課題が多くなかなか改善しない組織では、自組織内の別部門の取り組みも参考にしてみるとよいかもしれません。
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