レッドチーム/ブルーチーム/ホワイトチーム/パープルチーム
執筆者: | ニュートン・コンサルティング 編集部 |

「レッドチーム/ブルーチーム/ホワイトチーム/パープルチーム」とは、組織のサイバーセキュリティを強化するために実施する演習の際に設ける専門チームの名称です。レッドチームが「攻撃者」の視点で脆弱性を発見し、ブルーチームが「防衛者」として対策を講じます。実際の攻撃と防御を想定した模擬演習により、セキュリティ対策の有効性を評価し、改善点を見つけ出すことが可能です。
本稿では、ペネトレーションテストやレッドチーム演習の必要性とそこでそれぞれのチームが果たす役割について解説します。
ペネトレーションテストとレッドチーム演習
ペネトレーションテスト(侵入テスト)とは、攻撃者の視点に立って作成した攻撃シナリオを用いて、企業のシステムに対して疑似的なサイバー攻撃を仕掛け、セキュリティ対策の有用性や耐性を評価するセキュリティテストです。ペネトレーションテストには、対象範囲と目的に応じていくつかの実施形態があり、そのうちの一つに「レッドチーム演習」があります。
レッドチーム演習は、ITシステムに留まらず、物理的なセキュリティや従業員の意識まで含めた広範な評価を行う点が特徴です。
レッドチーム:組織の防御を試す「攻撃者」
レッドチームは、実際の悪意ある攻撃者が使う手法やアプローチを再現するチームです。主な目的は、組織のセキュリティシステムの潜在的な弱点を、実際に攻撃される前に特定することにあります。これは「倫理的ハッキング」と呼ばれ、許可を得たうえで行われる正当な活動です。
レッドチームによる攻撃は、組織のサイバーレジリエンスを評価するために、ブルーチームに事前通告なしで行います。サイバーレジリエンスとは、サイバー攻撃や自然災害を受けた際に早期に事業を復旧させる力のことです。演習後には、詳細な報告書を作成して脆弱性の修正やセキュリティ体制の改善に役立てられます。
レッドチームの活動内容と手法
- 実際の攻撃手法を模倣:テストは本番環境を利用し、OSやアプリケーションの脆弱性を悪用した侵入、フィッシングメールを用いたマルウェア感染、内部ネットワークへの潜入などのほか、物理的にデータセンターへ侵入するといったさまざまな攻撃シナリオを実行します。
- 人の行動や心理を操る:ヘルプデスク担当者を装って電話をかけるなど、機密情報を漏洩するように仕向けるソーシャルエンジニアリングで、従業員のセキュリティ意識や対応力を試します。
レッドチームの活動がもたらすメリットと注意点
- メリット:実践的な脅威を可視化することができるほか、防御側の弱点を明確化させることができます。また、常に新しい攻撃手法や脆弱性を研究することで、未知の攻撃に対する知識が深まることもメリットの一つです。
- 注意点:テストの過程でシステムへ影響を与えるリスクがあります。リスクを最小限に抑えるために事前の入念な検討と計画、そして高度な専門知識が必要です。
ブルーチーム:脅威から組織を守る「防衛者」
ブルーチームは、組織のサイバーセキュリティを実際に守る防衛側のチームです。ブルーチームは、レッドチームが行う模擬攻撃を本物の脅威として受け止め、検知能力や防御力、緊急時の対応力を実践的に確認します。
また、演習後のフィードバックによって、自社のセキュリティ体制を継続的に改善していくことも重要な役割です。
ブルーチームの活動内容と手法
- 防御策の導入と運用:ファイアウォールやIDS/IPS(不正侵入の検知・防御システム)、SIEM(ログ解析による異常の検知・通知)などのツールを活用して、異常な通信や不正アクセスを早期に発見し対応する役割を担います。
- 従業員のセキュリティ意識を高める:ソーシャルエンジニアリングの防御策や、PC端末・パスワード管理の仕方など徹底した教育や啓発活動を行います。
ブルーチームの活動がもたらすメリットと注意点
- メリット:レッドチームによる模擬攻撃を経験することで、実際のサイバー攻撃に即したインシデント対応能力が向上し、組織全体のサイバーレジリエンスの強化につながります。
- 注意点:日々高度化・複雑化するサイバー攻撃の手法に対応するため、最新の脅威動向などに関する専門知識を常にアップデートする必要があり、そうした高度な専門性を持つ人材の確保や育成も課題となります。これを解決するには、レッドチームとの協力体制を築き、知見を相互で共有することが有効です。このレッドチーム/ブルーチーム間の橋渡し役を担うのが、後述の「パープルチーム」です。
ホワイトチーム/パープルチーム
レッドチーム演習は、通常「ホワイトチーム」を含めた3チームで実施します。ホワイトチームは、演習全体の管理者としてレッドチームとブルーチームの動きを中立的な立場から監督・統制する役割を担っており、業務への影響も考慮して全体調整を行います。具体的には、攻撃シナリオの策定、ルールの設定、演習の進行管理、テスト結果の評価などを行います。
さらに、「パープルチーム」を設定する場合もあります。これは、レッドチームとブルーチームの橋渡し役として連携や情報共有を促進し、組織のセキュリティ体制を総合的に強化するチームです。レッドチームとブルーチームで演習を行うだけでは攻撃側と防御側が分離しており、得られた知見が十分に共有されないことがあるため、パープルチームを置くことで、レッドチームの攻撃手法や発見をブルーチームの防御策に落とし込んだり、ブルーチームの防御状況を踏まえてレッドチームが洗練された攻撃シナリオを立てたりすることが可能です。
このようなホワイトチーム/パープルチームとの連携により、レッドチームとブルーチームの知識やスキルを相互に高め、組織全体のセキュリティ能力の底上げを実現することができます。