
11月にアメリカ大統領選が予定されています。ご存知の通り、トランプ氏とバイデン氏の一騎打ちの状態か…と思っていたところ、バイデン大統領が撤退をし、ハリス副大統領を支持する声明を発表しました。バイデン大統領が撤退を表明する直前の段階では、トランプ氏が6%優勢だと言われていました(※)。ですが、これはあくまで調査結果であって選挙結果ではありません。また、バイデン大統領が撤退するとなった今では、いよいよ不確実性が増したとも言えます。
そして「不確実性と言えばリスクマネジメント」ですから、この大統領選は、改めてリスクマネジメントの本質を考える良い機会とも言えます。企業におけるリスクマネジメントでは、どちらかと言えば確実性の高いリスクのことを考えることが多いように思えます。確実性の高いリスクとは予想がしやすいリスクのことだと捉えていただければと思います。アメリカ大統領選は予想が困難という意味で、不確実性が高いリスクと言えます。
経営は、右に転ぶか左に転ぶか読めない中で、どちらに転んでも結果が大きく左右される可能性がある中で、リスクマネジメントを通じた意思決定が必要になります。刻一刻と状況が変化する中で、タイムリーに最新の情報を把握し、リスク評価を行い、どちらに転んでも影響を最小限に抑え、得られるリターンを最大化するためにどのような選択肢があるかを検討する。もちろんどれだけ緻密に算定しようが、正確な予測、つまりリスクをゼロにすることは不可能です。どんな目的のためにどんなリスクをどこまで取るか(リスクアペタイト=リスク選好)といった経営が持つ判断基準に基づき、経営が意思決定をする。そんなところでしょうか。
具体的には、大統領選はどちらが勝つ確率が高いのか? トランプ前大統領か。ハリス副大統領か。いずれかが勝った場合、どのような政策転換がなされそうか? それはどんな影響を自分たちの事業にもたらすのか? それが自社にとっての向かい風となりそうな場合、その風を耐え凌ぐリスク対策は何であるのか? 逆に、追い風が吹きそうとなった場合、その風を捉えるためのリスク対策は何であるのか?
このように申し上げると「どこまで考えたってこの手のリスクは予測不可能じゃないか。だから考えたところで意味がない」とおっしゃる方がいそうですが、果たしてそうでしょうか。第一に、「考える前に、考えたところで意味がない」というのは無責任だと思います。考えてみて、やっぱり考えても意味がなさそうだというなら仕方がないでしょう。第二に、簡単にでも予測をして動いてみることで仮に予測が外れても「立てた予測のうちどこが外れたのか」などといった、将来に備えて、より深い振り返りに繋げることができます。プロゴルファーの松山英樹選手は、たとえピンのそばにピタリとボールを寄せることができたとしても、それが自分の立てた仮説と異なる場合は、その原因を徹底的に納得がいくまで追求するそうです。では、こうした不確実性が高いリスクを企業がもっと真剣に議論できるようにするにはどうしたらいいでしょうか?
全社的リスクマネジメント(ERM)の枠組みの中で不確実性が高いリスクをもっと真剣に議論できるよう、場を創出することです。これを実現する鍵の1つは、リーダーの参画です。リーダーとは厳密には、会社全体のリスクのことを指すのであれば社長をはじめとする経営陣のことです。部門としてのリスクマネジメントをするのであれば部門長のことですし、部署のリスクマネジメントであれば部署長のことです。確実性が高いリスクであれば、何をどこまでしなければいけないか、ある程度、現場が経験則から判断することができるでしょう。しかしながら、右に転ぶか左に転ぶかわからない事象の取り扱いをどうするか…。これは、もうリーダーにしか判断できないわけです。
翻って自社のERMはどうなのか? アメリカ大統領選を「どちらが勝つか?」といった目線で見るだけでなく、ぜひリスクマネジメントの目線で捉えて、企業の取り組みを見直す1つの機会にしていただければと思います。ところで、鍵の1つとして挙げたリーダーの参画ですが、アプローチのひとつとしてオイシックス・ラ・大地株式会社様の取り組みが参考になると思います。そちらもぜひご覧ください。
※出典:Bloomberg「トランプ氏がリード拡大、バイデン氏高齢不安が影響か-NYT調査」(Gregory Korte著 、2024年7月4日)