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緊急時の人員確保を阻む問題について

掲載:2011年01月11日

コラム

自然災害やパンデミック、大規模な社会インフラの寸断などで広域的に被害が及ぶ恐れがある場合、どの程度社員が出社できるか、復旧作業に当たれるかを事前に見積もっておくことは実効性あるBCPを策定するための必須要件といえます。

しかし、BCPの継続・復旧対策を検討、立案していると、ともすればテクニカルな話に焦点が移りがちになります。被災したサーバの代替機をいつまでにどこから調達するか、工場がしばらく稼働できない時、協力会社の同等の設備を使わせてもらうことはできないか、といった大きなテーマに議論が終始し、人員はBCP戦略に沿って将棋のコマのように計画通りに動くものという前提で進むことも少なくありません。その結果、あとになってから「人」にまつわる様々なボトルネックが噴出して、やっと完成したBCPが本当に機能するのか怪しくなってくることもしばしばです。

そこで、ここではBCP策定時に留意すべき点として、緊急時のスタッフの確保を阻む(出社率を低下させる)問題について考えてみましょう。冒頭で述べたように、同時に複数の人々に影響が出る災害の種類としては広域的な被害の出る恐れのある自然災害や疫病の蔓延、道路や公共交通機関の途絶などが当てはまります。次にその災害がもたらす結果事象、すなわち出社できない状況を顕在化させる要因を整理すると、以下に述べるように直接的要因と間接的要因の2つに分けることができます(これらがすべてというわけではありません)。

         

出社を阻む直接的要因

まず直接的要因として3つ掲げます。いずれも災害の直接的な影響または直接的な影響に近い二次被害と見ることができます。

①社員本人の被災

これは就業時間内外を問わず社員の身に起こる得る負傷や入院、トラウマ、死亡などを指します。地震などでは職場でのスチール棚やOA機器の転倒・落下によるけが、エレベータ内の閉じ込めなど。パンデミックでは疫病の感染による病欠(入院含む)などが当てはまります。

②公共交通機関の途絶による帰宅・出社困難

これは都心部と郊外を往復する社員に発生する問題です。発災当日は長時間歩いてやっと帰宅できたとしても、翌日以降、何時間もかけて出社できる体力・気力は残っていないのが普通です。

③自宅・家族の被災

これは社員の自宅が被災して立入りできなくなったり、復旧に長期間を要するケース、あるいは社員の家族、親戚等の身に起こる得る負傷や入院、トラウマ、死亡などを指します。とくに家族にけが人や病人、お年寄りといった看護・介護の必要な人がいた場合、あるいは災害をきっかけに社員本人の持病が悪化した場合には、これらの状況への対処が最優先されることになります。

出社を阻む間接的要因

間接的要因としては次の5つを掲げました。これらは企業にとって社員の管理範囲を超えた問題であることも少なくなく、場合によっては対策を立てる際に、BCP策定関係者以外のさまざまな部門や外部の第三者からのアドバイスが必要となります。

①地方の風習・しきたり

地方に工場等を持つ企業がBCPを策定する場合、その地域の風習やしきたりを背景とする人間関係に注意しなければならないこともあります。典型的な例は、会社よりも隣人同士のつながりが重んじられる農村部のケース、社員が地元消防団員になっているケースなどです。このような場合、災害時には近隣住民同士の助け合いが何よりも優先されるため、出社率が著しく低下することを危惧する企業関係者も少なくありません。

②契約・法律の壁

会社によっては、BCPで守るべき事業に多数の外部のスタッフ(請負契約に基づいて集められた人員など)が関わっている場合があります。このようなケースでは、緊急時にスタッフの出社や自宅待機を命じたり、出社できないからといって事業主側で勝手に代替要員を投入することができません。BCPが機能するかどうかは、外部スタッフの管理元である企業がどこまで危機管理意識を持ち、非常時の人員体制を考えているかにかかっているといえます。

③個人情報への関与・プライバシーへの立入り拒否

個人情報保護の意識が高い今日では、緊急時の連絡網(住所・携帯電話の番号・家族の連絡先などで構成)の作成に協力したがらない社員も少なくありません。このような理由でいざという時に連絡できない、あるいは会社から個人の携帯やメールに指示・命令の通知が入ることを本人が暗に拒んでいる場合には、その社員の出社可能性を控えめに見ておく必要があります。

④会社に対するロイヤルティの低さ

これはBCPの策定時というよりも、人事にまつわる日常の根本問題(雇用条件・福利厚生・人間関係・報酬等)であるかも知れません。最近では正規社員との賃金格差がありながら高度なスキルや知識を必要とする重要なポストに就いている非正規社員が増えています。彼(彼女)らは重要な継続・復旧の担い手である半面、会社への帰属意識、協力意識は正規社員ほど高くはない可能性があります。

⑤復旧計画上の労働負荷

復旧プランを組み立てる際に、例えば被災時のワークを2週間休みなしで毎日15時間勤務するといった方針を決めると、現実的な対策から遠のくことがあります。つまり、復旧作業の過酷さやスタッフの体力、精神面、家庭の事情などに対する配慮が欠けると、いざというときスタッフがさまざまな口実を設けて集まらないといった事態も起こり得ます。

最後に

人員確保の問題に直面した時に痛感することは、単に被災した経営資源の再調達手順を規定しただけではBCPは半分しか機能しない、あるいはほとんど絵に描いた餅になってしまう可能性があるということです。BCPの実効性は、指揮命令する対策本部のスタッフにとどまらず、事業継続対応や災害復旧のために投入される実働・支援部隊をいかに現実的な線で確保するか、言いかえればスタッフ一人ひとりの顔と力量が見える配備体制をいかに実現するかという、人的ロジスティクスの問題解決にかかっているといえます。

こうした緊急時の人員確保の問題は、一朝一夕には解決しない永遠のテーマであるようにも思えます。とはいえ、よりリアリティのあるBCPへと高めていくためには、BCP策定メンバーだけでなく、人事、法務の担当者や場合によっては外部の社会保険労務士や弁護士にも参加してもらい、段階的に協議・解決していく地道な努力が必要であることは言うまでもありません。

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