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人材派遣会社のBCPについて

掲載:2011年08月12日

コラム

労働者派遣とは、労働者派遣法第二条で定義されているように「派遣会社が自社で雇用する派遣社員を、派遣先の為に、派遣先の指揮命令の下で、労働に従事させること」です。

         

人材派遣会社に求められるBCP

人材派遣会社のBCP策定にあたっては、こうしたやや複雑な指揮命令系統の中で、有事の際にも派遣スタッフが混乱なく現場での活動を続けることができるよう、社内体制を確立しておくことが必要になります。

なお、社内体制の確立とは具体的には、災害により人材派遣会社の業務が一時的に中断することがあったとしても、少なくとも以下に挙げるような業務については、速やかに復旧・継続できるような備えをしておくことを意味します。

 【人材派遣会社における継続・復旧業務】
  • お客様からの派遣依頼・要望の受信、自社からお客様への情報発信業務
  • 派遣依頼に対応できる専門的な能力をもった派遣社員登録業務
  • 派遣依頼にマッチした人材の選考業務
  • 自社雇用の派遣社員が円滑に業務遂行できるようにするための各種サポート業務
  • 安全な労働環境で働けるようにするなど法令を順守した契約内容かどうかの確認業務
  • 給与支払い、社会保険加入、有給休暇取得など、給与・福利厚生業務

最大の課題は「派遣社員の安全確保」

人材派遣会社のBCPで特に課題となるのが、派遣先の仕事に従事する“派遣社員の安全確保”です。派遣社員を利用する多くの企業において、有事の際の派遣社員に対する管理責任が曖昧になりがちで、安全確保に十分な対策がとられているとは言えない状態です。実際には「派遣社員の雇用主は、派遣元(派遣会社)なのだから、彼らがやってくれるはずだ」として派遣先の会社が、自分達のBCPの対象者リストから派遣社員を除外しているケースが少なくありません。

しかしながら法律的に正しくは、有事の際の派遣社員の安全管理義務は、派遣先の(派遣社員を実際に使用している)会社が負うことになります。

具体的に法律では、民法第644条「受任者の注意義務」にて「受任者は委任の本旨にしたがい善良なる管理者の注意をもって委任事務を処理する義務を負う」と定めています。くわえて過去の判例から「労働者は労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し、又は使用者の指示の下に労務を提供する遇程において労働者の生命及び身体等を危険から保護するように配慮すべき」といった安全配慮義務を、派遣先の会社が負っていることは法の世界で広く知られているところです。

すなわち、派遣社員の安全確保に対する責任の所在が曖昧になっている一番の理由は、こうした法律が正しく派遣先の会社に伝えられていない、あるいは、伝えたつもりでも正確に理解されていない、ということにあると考えられます。

三者間で事前にどれだけ話し合いを持てるかが鍵

当然のことながら、先に挙げた課題「派遣社員の安全確保」を解決するためには、有事の際の動きを決め(BCPの整備を進め)ておくとともに、派遣会社・派遣先の会社、そして派遣される社員との間でこうした有事の際の動きについて、徹底的にコミュニケーションを図っておくことが必要です。

具体的にはたとえば、以下に挙げるような活動が有用です。【派遣先の(派遣社員を使用する)会社に求めるべき活動】

  • 震災等が起きた際の行動基準の明確化(特に帰宅基準や出社基準等)

  • 上記行動基準の派遣社員への周知徹底

  • 帰宅困難者対応に関わる社内体制の確認(派遣社員分も備蓄があるか等)

  • 震災が起きた際の派遣社員の費用負担ルールの明確化(派遣料金の話や他社派遣会社への対応ヒアリング等)

【派遣(派遣元の)会社自身に求められる活動】

  • 派遣社員が派遣先で震災に巻き込まれた際の行動基準(携帯・固定電話以外の安否確認方法、派遣会社・派遣先との連絡が取れない場合の行動など)の明確化

  • 上記行動基準の派遣社員への周知徹底

  • 自社が震災による被害を受けた際の行動確認(自社BCPの策定)


なお、こうした活動について、派遣会社の方は、日々の営業活動、派遣社員のフォローや契約内容確認で派遣先に出向く機会も多いと考えますので、派遣会社の方は、派遣先責任者、指揮命令者との話の中で切り出してみてはいかがでしょうか?

他人にBCP整備を促すためには、まず自分から

これまで見てきたとおり、派遣社員の安全を確保するためには、BCPは派遣先の会社で整備しておきさえすれば良いというものではなく、派遣する会社(派遣会社)においても、整備しておくことが必要です。

安全管理義務が派遣先の会社にあるからと言って「派遣社員の安全確保」の責任全てが、派遣先の会社に委ねられるわけではないからです。実際のところ、派遣社員が、派遣先の会社の監督下におかれているときのみに災害が起こるとは限りません。場合によっては、たまたま派遣社員が自分達のオフィスに出社したときに災害が発生するかもしれませんし、あるいは災害発生後に派遣先の会社から自分達のオフィスに避難してくる可能性も否定できません。

派遣会社におけるBCP整備が、派遣社員の命を守ることにつながることは当然のことながら、派遣先の会社ならびに派遣会社の事業中断を防ぐことにもつながります。派遣会社におけるBCP整備はそれだけ重要な意義を持つものです。東日本大震災を経験した今だからこそ、BCPに対する真剣な取り組みを行うことが求められていると言えるでしょう。
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