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訓練・演習と運用でBCPの実効性を高める~ 株式会社生出

掲載:2013年02月22日

コラム

BCMの活動には、BCPを策定・維持するための活動のほかに、その活動そのものを支える活動があります。たとえば、教育・演習や内部監査、マネジメントレビューの実施といったものです。これらには、BCPを策定・維持するための活動にトップマネジメントを深く関与させ、なおかつ、BCPが形骸化してしまうのを防ぐことに狙いがあります。

「BCPを策定・維持するための活動」にばかり重点が置かれがちですが、BCPが対象としているリスクは一般的に発生頻度の低いものであり、したがって息の長い活動が求められます。上記のような活動、とりわけ教育・訓練とそれを維持していく運用の活動には、きわめて重要な意義があります。この活動をおろそかにしてしまうと、最初に立派なBCPができたとしても、無駄に終わってしまうことになるのです。

今回はBCP策定企業として各メディアでも取り上げられることの多い株式会社生出様を訪問し、訓練や運用の活動の取組について、生出治社長、事務局を務める西島文則氏にお話を伺いました。

         

生出の事業継続計画

株式会社生出は西多摩郡瑞穂町のメーカーで、電子情報機器・食品・医療製品の包装に用いられる高素材緩衝材を生産しています。包装設計の分野を得意としており、専門の技術者や測定機器等を取り揃えて、お客様の物流上の問題・課題を解決していく提案型のビジネスを展開しています。主力の「サンテックフォーム」(振動吸収機能のある高機能構体)では旭化成の加工指定工場になっています。

生出の製品。パッケージングのコンテストや特許などで数々の実績がある。

BCPに取り組みはじめたのは2010年で、人工透析機を作っている大手取引先メーカーのお客様からの要請がきっかけでした。「患者の生命にかかわるものなので一時たりとも供給をストップさせるわけにはいかない製品です。包装材がストップすると製品出荷にも影響を与えてしまう。放置したら複数購買になる可能性もあり、実際に災害時に供給を止めてしまったら取引停止につながるおそれもある」(生出治社長)。そこで東京都BCP策定支援事業に参加し、2011年2月にBCPを策定しました。

その当時、生出はすでにISO9001、ISO14001のマネジメントシステムを導入しており、PDCAの素地ができていました。また後述する経験を踏まえ、形式的なものではなく、実効性のある、いざというときに本当に機能するBCPを策定することになりました。

BCPの実効性を高めるためには継続性が重要と考えた生出社長は、策定年の6月よりBCPの実施・運用、教育・訓練、点検、見直しを含めた体制を整備したBCMSの運用を開始。8月には協力会社との連携・相互協力体制を構築しました。さらに2012年6月にはBS25999マネジメントシステムを認証取得しています。

「認証維持のISO」から「マネジメントシステムの向上」へ

生出治社長

生出がBCPの策定に先立ってISO9001を認証取得したのは2000年、ISO14001の認証取得はその翌年で、その目的は顧客との取引を優位に進めることにありました。

「ところが、形式だけを整えることに力点が置かれてしまい、また実態に即していない緻密な要求事項だったために、実務との乖離が大きなものになってしまいました。」(生出社長)。

システムの維持に大きな負担がかかるにもかかわらず、マネジメントシステムの定着・向上につながらず、逆に業務の効率を落とすことにつながっていたといいます。

このように、組織によっては、BCP導入時にQMSやEMSなど、既に別のマネジメントシステムが導入されているケースがあります。マネジメントシステムは共通基盤(PDCAのPCAにあたる部分)をもつため、これらを統合させ効率的に運用することが可能です。規格が異なっても、たとえばC(チェック)にあたる内部監査プロセスに求められる要求事項は共通です。したがって、必ずしも別々の運用体制やルールを設ける必要はありません。

しかしながら、統合マネジメントシステムを実現するにはいくつかのハードルがあります。とりわけ適用範囲が異なる場合には注意が必要です。このため、既存のマネジメントシステムと、はじめから統合させながらBCMS構築を進めるのか、あるいは、とりあえず最初はまったく切り離してBCMS構築を進めるのか、そのメリット・デメリットを慎重に検討してから構築に臨む必要があります。

2007年、生出社長は「認証維持のISO」から「実務に即したマネジメントシステムの向上」に方針転換します。

具体的には、まず規格類のスリム化によるシステム縮小。各規格要求事項をどうやって統一するか。規格を統一するためには業務全体をスリム化しなければなりません。そこで組織マネジメントの見える化を推進し、経営計画の下に部門方針を立てて方針や計画を月毎に見直すPDCAを確実に回していくことにしました。さらに内部監査員のレベルアップをはかりました。

これらの実現は容易なことではなく、生出社長は「まだ完全にできているとはいえない」と自らに厳しい評価をくだしています。

2011年のBCP策定は、これらの反省を踏まえて実践重視の活動として行われましたが、
「事業継続の活動は日々の活動の中に根づいていないと継続が難しい。さらに、BCPの活動を単体で行っていくのではなく、既存のマネジメントシステムとどう融合・連動させて活動の定着をはかっていくかということが今は大きなテーマになってます。今のところは年間計画に基いて継続しているという程度で、本当の意味での連動にはいたっていないと思います」

マネジメントシステムの方針変更については、トップが本気を示すと同時に社員の自主性を尊重することで、社員への活動の周知徹底がはかられました。

「見える化」のひとつ。会議室の壁全面に展開されたBCP活動進捗管理板

年間計画に基づいた訓練の実施

下記は生出の年間訓練計画(一部)です。

まず特徴的なのは、机上訓練による徹底した手順書のチェックです。

「手順書で確認すると矛盾する点などが出てくる。それを机上訓練で確認していきます。読み上げ訓練みたいなものですね。これをきっちりやっておかないと実地訓練をやっても意味がないと思います。正直なところ、まだまだ整理できていない部分がありますが、何度も丁寧に見直すことで事前の取り決めを確実なものにしていく活動を続けています」

こうして、緊急時に社員一人ひとりがどう行動すべきか、その明確な役割が事前に整理されていきます。

 


机上訓練

放水訓練

消火器訓練

避難訓練

訓練の中でも、特に放水訓練は毎月実施。あらかじめ決めた4人の消防班で消防ポンプの取り扱いを全員ができるようにしました。安否確認は営業部員などの外出者も実施し、より確実な返信を得られるように文面等を改善しています。

システムの不稼働を想定した受発注訓練は、平時から数日間は保存されているデータを元にFAXや紙ベースで仕入先への発注を行うというものです。システムのバックアップ訓練では、実際にサーバを停止してデータをリストアするということで、業者に依頼しています。

このような訓練により、初動対応についてはかなり実効性の高いものになってきたといいますが、復旧の机上訓練については「まだこれから」とやはり厳しい自己評価の生出社長です。
「初動対応がある程度完了した段階で、復旧に向けた業務再開のための活動、仮復旧を経て本復旧に進めていく活動ですね。製造機械の点検・応急処置、インフラ通信の復旧、データアプリケーションの復旧、インフラの復旧、輸送ルートの検討、製品部品材料の手配。こうした項目をどういう分担で具体的に進めていくかということを今詰めています。これらをきっちりやっておかないと、復旧までのスピードに大きく影響してしまいます」

復旧から事業継続までの活動の訓練が徹底されれば、BCPの実効性はずっと高まります。まずは、キーマンである対策本部のメンバーの実践対応能力を養い、それを全社的に展開するという進め方を構想中とのことです。

こうした訓練活動について、社員の皆さんの反応はどうでしょうか。
「当初はとんでもないことを始めたという感じで、思いつきでやってるんじゃないかと思ったようですが、しっかりと安全対策がとられ、経営側の本気度が浸透するにつれ、安心感や信頼感が出てきたと思います。継続することで、会社が重点施策としてやってきていることがわかり、社員の意識も変わってきます」

自社以外との連携についても運用の実効性を確認

こうした有事における手続きの確認は、社内的な訓練や演習だけにとどまりません。事業継続策の中でかかわりをもつ他社との連携についても運用を確認しています。

まず、自社設備が損壊した場合に備えて、設備メーカーに災害時の対応を確認しました。設備機械の部品については古い保守部品は製造中止になっており、新しく作り直したら1か月もかかることが判明したため、即座に定期点検の内容を見直して平時に異常を発見できる仕組みを作る、といったフィードバックにもぬかりはありません。

また、生出は、東日本大震災時に、岐阜にある協力会社で代替生産を行った実績があります。福島にあった原料を全部岐阜に移動して生産を継続したため、供給が止まってしまうことはありませんでした。この経験を活かし、関東近辺にある同じ旭化成の指定加工工場の同業他社と、有事に相互に協力しあう協定を締結しています。その協定が有効に実現できるか、実際に他社を訪れて業務の代替可能性を調査しました。データのやりとりがうまくいくか、持参したサンプルと同じ加工ができるかどうか。その結果、きちんと品質確認を行えば問題なく顧客に製品を納品できる流れを確認することができました。

さらに、同社が製造していない段ボール等のサプライヤーにもBCPを広めていく活動をしています。アンケート調査を行い、避難訓練や防災訓練に意欲的な会社を中心にBCPを啓蒙を行います。サプライヤーの受け止め方はまちまちで、意欲を示す会社もあれば、有事に関しては諦めてしまっている会社もあるそうですが、「それでも供給は継続してもらわなければ困るので、そこも含めてマネジメントしてくださいとお願いしています」。中には県の指導でBCPの取組を始めた会社もあるとのことでした。

最後に

今回紹介した生出の取組は、「“BCPを策定・維持するための活動”を支える活動」がいかに大切なことであるかを示しているように思います。

この活動をおろそかにしてしまうと、いくら立派なBCPを策定することができても、無駄に終わってしまいます。組織の文書管理ルールが杜撰だったら、あるいは、誰かがいつのまにかBCPに勝手に手を加えてしまっていたら、BCPの実効性は低下してしまいます。BCPの管理が現場だけで行われ、気がつけばトップマネジメントが想定している目標と、BCPが実現しようとしている目標との間に乖離が生じてしまう可能性もあるのです。

訓練・演習を含めた運用こそが、有事において、実際にその企業が事業継続できるかどうかを決める鍵になると言っても過言ではありません。

参考文献

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