耐震・免震・制震構造をどう選ぶ?地震対策をBCP観点で整理
| 執筆者: | ニュートン・コンサルティング 編集部 |
| 改訂者: | ニュートン・コンサルティング 編集部 |
地震対策として知られる耐震構造・免震構造・制震構造は、いずれも建物の安全性に関わる重要な考え方ですが、その仕組みや役割は大きく異なります。本記事では、3つの構造の特徴と違いを整理しながら、建物の安全性や利用継続性を考える際の基本的な視点をわかりやすく解説します。
地震対策における耐震・免震・制震の重要性
日本は地震大国であり、阪神・淡路大震災や能登半島地震など、大規模な地震被害が繰り返されてきました。しかし、被害の大きさは揺れの強さだけで決まるわけではありません。過去の震災データによると、死亡やケガの原因の多くは家屋や家具の倒壊によるものであることが判明しています。命を守り、被災後の生活を維持するためには、地震に耐え得る強さを持つ「建物構造」であることが極めて重要です。
地震対策として採用される建物構造には、主に耐震構造、免震構造、制震構造の3つがあり、これらは地震の揺れに対する技術的なアプローチや期待される効果が異なります。
現在の建築基準法に基づく耐震基準は、「震度5強程度の中規模の地震に対してはほとんど損傷を生じないこと」、「震度6強から震度7程度の極めて稀にしか発生しない大規模の地震に対しては人命に危害を及ぼすような倒壊等の被害を生じないこと」を目標としています。この法が定める最低限の基準は、建物の倒壊・崩壊を防ぎ、人命を守ることを最優先としており、地震後も建物が機能し続けることや、無傷であることを保証するものではないことに留意が必要です。
大地震が発生した際にも建物の機能を維持し、事業や生活を早期に再開するためには、法律で定められた最低限の基準を満たすだけでなく、それぞれの構造の特徴を理解し、目的に応じた適切な構造を選択することが肝要です。
耐震構造とは:基本となる地震対策構造
耐震構造とは、建物の構造自体を強くすることにより、地震の揺れの力に耐える構造形式のことで、「剛構造」とも呼ばれます。柱・梁・壁などを強固に接合し、地震による揺れの力に対して建物全体で抵抗することで、変形によるひび割れや破損、倒壊のリスクを可能な限り小さくするという考え方に基づいています。
この構造は、現在の建築基準法における耐震基準のベースとなっており、戸建て住宅から集合住宅まで幅広く採用されている最も一般的な地震対策です。その仕組みは、構造体の強度と粘り強さによって地震のエネルギーに耐えることにあります。木造住宅の場合であれば、鉄筋コンクリートで作られた基礎に土台を緊結し、筋かいを入れたり構造用合板を張り付けたりした耐震性のある壁をバランスよく多数配置することで揺れに耐える性能を確保します。
このように、耐震構造は建物の倒壊を防ぐ上で非常に信頼性の高い工法ですが、地面の揺れが直接建物に伝わるという特徴があり、揺れそのものを抑える構造ではないことに留意する必要があります。そのため、建物の倒壊は免れても、激しい揺れによる家具や家財の転倒・飛び出しや、照明器具の落下、配管設備の破損などが生じる可能性があります。耐震構造で設計された住宅では、室内の安全を守るため、家具の固定や配置の工夫などの対策を行うことが不可欠です。
免震構造とは:建物に揺れを伝えにくくする構造
免震構造とは、「装置を用いて構造物と地盤のつながりを柔軟化し、地震動が構造物に伝わらないようにする」構造形式のことです(※1)。建物と地盤(基礎)の間に免震装置を介在させることで、建物を地盤から絶縁し、地震の激しい揺れを建物に伝えにくくする仕組みです。
免震装置として主に使用されているのが、「アイソレーター」と「ダンパー」です。基礎として建物を支え、地震のときに建物をゆっくりと移動させるアイソレーターと、揺れのエネルギーを吸収して揺れを抑える働きをするダンパーを組み合わせて使用します。地震が発生すると、アイソレーターが変形または稼働して激しい揺れを受け流し、ダンパーが揺れを早く収束させます。これにより、建物はゆっくりとした水平の動きとなり、建物に伝わる揺れそのものを大幅に小さく抑えることができます。
免震構造の特徴は、地震のエネルギーを遮断・吸収するため、建物内部の揺れが劇的に低減されることです。これにより、構造躯体の損傷だけでなく、家具の転倒や設備機器の破損を防ぐ効果も高く、地震対策として非常に有効です。ただし、免震装置の設置コストがかかる点や、建物が動くためのスペース(クリアランス)の確保、定期的な点検・維持管理が必要となる点、軟弱な地盤など立地条件によっては適さない場合がある点に注意が必要です。
※1:土木学会「『平成14年度実務者のための耐震設計入門別冊』9章 減震・免震・制震構造」より引用
制震構造とは:揺れを吸収・低減する構造
制震構造とは、建物内部に設置した「ダンパー」と呼ばれる特殊な制震装置が、揺れを吸収する役割を果たすことにより、建物の振動を抑制する構造形式のことです。
その仕組みは、壁や柱・梁の接合部などに設置されたダンパーが変形することで、地震エネルギーを熱エネルギーなどに変換して消費し、建物の振動を制御します。ダンパーには、金属の変形を利用する「鋼材ダンパー」、油の抵抗力を利用する「オイルダンパー」、ゴムなどの粘弾性体を利用するものがあります。これにより、地震などの揺れに対して、建物の揺れ幅を小さくし、揺れが収まるまでの時間を短縮することができます。
制震構造の特徴は、従来の耐震構造の持つ短所を補える点にあります。耐震構造が柱や梁の「剛性」で揺れに耐えるのに対し、制震構造はエネルギー吸収能力を付加することで、繰り返し起こる余震に対しても効果があり、建物の損傷を軽減します。近年では戸建て住宅の耐震補強として追加で導入されるケースも増えています。ただし、免震構造のように地盤と切り離すわけではないため、免震構造ほどの揺れ低減効果は得られない場合があるほか、建物の高さや土壌の条件により効果に差が出ることがあります。
耐震・免震・制震構造を比較する
耐震構造、免震構造、制震構造は、いずれも建物の安全性を高めるための有効な地震対策構造ですが、そのアプローチや効果には明確な違いがあります。どの構造が最も優れているかという一律の評価ではなく、建物の用途、重要度、コストなどの条件に合わせて比較検討することが重要です。ここでは、①揺れへの対応方法、②建物・設備への影響、③導入・維持の考え方という3つの視点から、それぞれの違いを整理します。
揺れへの対応方法の違い
耐震・免震・制震の最大の違いは、地震の揺れへの対応における技術的な考え方にあります。
耐震構造は、柱や梁を太く頑丈に固めることで、建物自体を強くし「揺れに耐える」剛構造であり、地震のエネルギーを構造体の強さで受け止めます。これに対し、免震構造は、地面と建物を絶縁する装置により、激しい揺れへの対応として「揺れを伝えにくくする」仕組みにより、地震のエネルギーを受け流します。制震構造は、建物内部の装置でエネルギーを吸収し、「揺れを吸収・低減する(制御する)」構造です。
このように、構造の違いによって、地震のエネルギーに対する受け止め方が異なります。
建物・設備への影響の違い
地震による建物被害や設備被害についても、構造形式により大きく異なります。
耐震構造は地面の揺れが直接伝わるため、建物自体が倒壊しなくても、家具の転倒や設備・内装の損傷などが生じる可能性があります。一方、免震構造は揺れそのものを低減するため、構造躯体の損傷を防ぐだけでなく、室内の家具や什器の転倒・落下も防ぐことができ、設備被害を最小限に抑える被害軽減効果が高いとされています。そのため、被災後もそのまま建物を使用できる可能性が高まります。制震構造は、揺れを抑えて構造体へのダメージを減らし、建物の損傷を軽減することで、補修コストや機能停止のリスクを抑制します。
導入・維持に関する考え方の違い
導入コストと維持管理の面でも違いがあります。
一般的に、耐震構造は特殊な装置を必要としないため、新築時の導入コストは比較的抑えられますが、大地震後の補修費用が発生する可能性があります。免震構造は免震装置の費用がかかるため導入コストは高くなる傾向がありますが、地震リスクを考慮したライフサイクルコストでは経済的になる場合があるとされています。また、定期的な点検・維持管理が必要です。制震構造は、既存建物の耐震改修にも比較的導入しやすく、コストや性能面で耐震と免震の中間的な位置づけとなることが多いです。
すべての地震に対して万能な構造は存在しないため、それぞれの特性を理解した上で選択する必要があります。
BCP観点で整理:地震対策構造の理解がリスク判断の質を高める
企業の事業継続計画(BCP)において、拠点となる施設の建物構造は、緊急時の事業活動の成否を分ける重要な要素となります。内閣府の「事業継続ガイドライン」では、事業継続戦略・対策の検討において、重要製品・サービスの供給継続や早期復旧、企業・組織の中枢機能を確保するために、拠点の建物や設備の被害抑止・軽減が基本的な戦略の一つとして挙げられています。
地震リスクとしては、建物の倒壊による人命の損失だけでなく、内部の設備機器の破損や家具の転倒による事業停止も考慮しなければなりません。耐震構造は倒壊防止を主眼としていますが、揺れによる内部被害のリスクは残ります。これに対し、免震構造は揺れそのものを低減するため、建物だけでなく、内部のコンピュータや各種設備機器が正常に作動する環境を維持しやすく、事業継続や早期復旧の近道となるとされています。
経営者は、自社のリスク判断において、初期コストだけでなく、被災時の損失や復旧コストも含めた経済性を考慮し、最適な構造を選択する必要があります。また、想定外の事態も考慮し、専門家と連携して自社の状況に応じた建物構造の選定と対策を進めることが求められます。
参考情報
- 国土交通省「建築構造設計基準の資料(令和3年改定」
- 国土交通省「住宅の耐震化率(全国)」
- 国土交通省「建築物の耐震改修の促進に関する法律」
- 国土交通省「地震の被害と耐震改修の必要性」
- 国土交通省「耐震改修の進め方」
- 防災科学技術研究所「4.耐災害構造」
- 林野庁「木造住宅の耐震性について」
- 日本免震構造協会「免震建築とは?」
- 日本免震構造協会「地震から建物を守る免震~免震を知ろう~」
- 日本免震構造協会「地震から建物を守る制震~制振を知ろう~」
- 日本免震構造協会「免震構造は事業継続・日常生活継続の近道」
- 日本免震構造協会「事業継続性を高める免震構造 -事業継続計画ガイドラインを踏まえて」
- 日本免震構造協会「免震建物の地震リスクを考慮した経済性」
- 日本免震構造協会「免震建物と地震リスク」
- 日本免震構造協会「免震で安心 ユーザーズマニュアル」
- 土木学会「土木構造物の耐震設計ガイドライン(案)-耐震基準作成のための手引き-」
- 九州免震普及協会「第6回 免震構造のすすめ」
- 日本免震住宅普及協会「1. 耐震、制震、免震のちがい!!」
- 神戸住環境整備公社「制震構造とはどんな構造ですか?」
- 土木学会「『平成14年度実務者のための耐震設計入門別冊』9章 減震・免震・制震構造」
- 内閣府「事業継続ガイドライン-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-(令和5年3月)」
- 内閣府「建築基準法」