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特別養護老人ホームにおける災害対応力向上のためのガイドライン

掲載:2014年01月28日

ガイドライン

東日本震災において、特別養護老人ホームの被害状況を調査した結果、施設が長期にわたって孤立し、自施設のみの事業継続が困難であった実態が明らかになっています。具体的には、施設・施設周辺被害や外部設備の被害、職員も被災していることによる就業上の問題、ライフライン停止による機能の停止、物資確保の問題、利用者の避難誘導・受入れ施設の問題が挙げられます。

また施設ごとの防災マニュアルの策定は進んでいても、一方で、地域・関係団体との有機的連携を図っている施設は少ないという現状があることも判りました。

これを踏まえ、本ガイドラインが策定されています。施設の災害対応力向上に欠かせない地域自治体・消防・地域住民などの地域資源との連携の在り方や、構築のアプローチ方法が分かる構成となっています。(正式名称は「特別養護老人ホームにおける災害時の事業継続計画・復旧に関する調査研究事業」災害対応力の向上のためのガイドライン(2013年3月 公益社団法人全国老人福祉施設協議会 発行)

         

当ガイドラインの構成

本ガイドラインは、66ページからなる本文で構成されています。
章番号 タイトル
第1章 本ガイドラインの目的と構成
第2章 災害発生時の状況:なぜ地域連携が必要か
第3章 自施設内での災害対応力の向上:災害に備え施設内ですべき対策
このガイドラインの肝は、4章に書かれている「1.関係づくり編」「2. 地域の災害対応力向上編」となります。この章を参照することで、具体的な地域と連携しながら災害対応力を向上に取り組む手法が記載されています。以降、この4章を中心に記載します。

地域との連携をどう確立するか アプローチモデルの提示

「1.関係づくり編」では、まず地域の「行政機関」「自治会・町内会」「他の福祉施設」を中心に関係づくりに注力していくことを推奨しています。介護施設によっては、それまで他の地域で生活していた者が介護を受けながら快適に生活できるよう、様々な取組を行っています。例えば祭りへの参加や近隣医療機関やテナント合同で行う火災避難訓練などです。こういった活動を通して「関係づくり」を行うのがよいでしょう。

「2. 地域の災害対応力向上編」では、「1.関係づくり編」に基づく取組みを踏まえ、地域との連携しながら災害に対応するための取組手法を、ステップ0からステップ3として説明しています。

※自施設での災害対応マニュアルが整備されていることが前提となります。
ステップ0 地域の中での情報共有の場づくり
ステップ1 参加機関との情報共有と地域のリスクの洗い出し
ステップ2 図上訓練の準備
ステップ3 図上訓練の実施
ステップ0 地区全体における関係機関が一堂に会して情報共有をおこなえる場の構築を目指します。関係機関としては、施設が立地している自治体の福祉部局及び防災担当部局、自治体・町内会、地域包括支援センター他が挙げられています。
ステップ1 関係機関が一堂に会し、地域におけるリスクを共有し、問題意識やそれぞれの機関での取組内容の共有を図ることを目指します。事前準備として、あらかじめ災害リスクを洗い出し、整理したうえで、顔合わせの場で情報共有と意見交換を図ります。
ステップ2 特別養護老人ホーム及び関係機関が参加して図上訓練を実施するために、図上訓練の目的や内容について意識共有を図ることを目指します。図上訓練の目的は地域の関係機関と連携すべき事項や連携上の課題を洗い出すこととし、調整・準備よりも課題を洗い出すことを重視し、「まずは実施してみる」という場合もあります。訓練準備においては、①参加者の構成、②災害や被害規模など前提条件の決定、③訓練の対象とする災害発生時からの期間またはステージの整理、を行いシナリオを検討します。
ステップ3 時系列で他関係機関との連携が発生しうる状況を想定し、「当日」「3日後」「1ヶ月後」の時系列別に、下記の4領域において起こり得る具体的なシナリオを立て、対策を検討します。施設を取り巻く状況を具体的かつ網羅的に検討することとなり、本ガイドラインが多くの介護・福祉施設で参照されるべき内容であることがわかります。

【起こり得る状況の4領域】
・社会及び周辺地域の被災、または行政の動き
・施設における人的被害・物的被害
・地域からの連携要請(介護用品不足/地域被災高齢者のケア)
・地域への連携要請(物資の不足/避難所の入退所/避難者の移動・搬送/外部支援受入/職員・マンパワーの不足)

豊富な事業継続対策

第5章の「災害時に地域連携が必要となる状況と対応・対策一覧」では、状況ごとの対応・対策一覧が整理されています。災害発生時において、施設がどのような状況を迎えるか、想定を詳細に表しているとともに、その対応と平時における対策についても整理されており実践的な内容となっています。

【発災以降、発生しうる施設状況】
スタッフや利用者の負傷/近隣住民などが避難/備蓄物資の枯渇職員の疲労の蓄積
利用者・避難者の体調不良の発生/他の避難所に避難していた要介護者の受入れ要請
避難者の入浴対応や衛生管理/利用者や避難者の死亡
職員の休職・退職の申出/避難者、入所者間のトラブル
職員、避難者、利用者等でのPTSDの発症
施設がオーバーフロー、利用者を他施設で受入/衛生状態の悪化
インフルエンザ・ノロウイルス等感染症の発生

介護施設者以外でも

災害に対して、どこまで想定し、事前準備をしなければならないのか、その線引きは非常に困難です。特に多くの介護施設では、人員配置基準をもとに余剰を抱えない運営をしているケースが多く、サービス低下が容易に起こってしまうことが想定されます。

本ガイドラインは、自組織内では対応できない事象を対応可能にする取組みを表しており、連携しての対応は他業界においても参考となることでしょう。

付録:医療/福祉関連の他ガイドラインの紹介

本ガイドラインは、地域と連携しての対応を提唱していますが、医療/福祉事業所を対象に書かれている事業継続関連ガイドラインを下記に紹介します。
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