住友商事 様

危機対応の自律自走を促すBCP、
グループ全体の災害対応力を向上へ

住友商事様は国内外66カ国に131カ所の事業所を有し、900社近い連結グループ会社をもつ総合商社です。グローバルかつ強固なビジネス基盤を生かして、さまざまな産業分野において多角的に事業を展開しています。「自利利他公私一如」、「進取の精神」といった400年にわたり培われてきた住友グループの事業精神を受け継ぎ、カーボンニュートラルなど喫緊の社会課題にも新たなソリューションの開発で挑まれています。

 

大手総合商社ならではの多拠点、多業種な事業活動において、どのようにして実効性のあるBCP(事業継続計画)を構築し、さらには危機対応体制を整備されていったのか、プロジェクトメンバーのひとり、前 災害・安全対策推進部長の月本 丈士 様にお話を伺いました。

 

―貴社の事業内容をお聞かせください。

前 災害・安全対策推進部長
月本 丈士 様

月本:私たちの事業を大別すると2つ、サプライチェーンにおける取引と、各分野に特化した事業会社をマネージし、且つそのネットワークにおける連携をもって商品・開発も含めたサービスを提供することです。具体的には金属、輸送機・建機、インフラ、生活・不動産、資源・化学品という産業分野において、原材料や製品の輸出入、加工、生産、販売、開発、投資などを行い、さらに脱炭素・持続可能というエネルギーイノベーションに注力し、グローバルに社会のニーズに応えながら、多岐にわたる分野でさまざまに関わり方を変えながら事業活動を展開しています。

首都直下型地震のためのBCP策定から本格始動

―これまでのBCPの取り組みについてお聞かせください。

月本:グループとして危機管理上「BCP」という言葉を意識したのは、2009年の豚インフルエンザが契機と認識しています。その上で東日本大震災の前には有事の初動対応を示したマニュアルを中心にした本社BCPを策定し、同震災を経て首都直下型地震への警戒の高まりに対応する形でニュートンのサポートとともに2018年に首都圏対象にBCPの見直し策定を、一方で、海外での事業展開におけるテロ等危機にも鑑み、2019年に減災、防災及び安全対応のセンターとして災害・安全対策推進部を発足させました。

さらに、首都発災に限らず事業上の危機が多様化する中で本格的にグローバル企業のヘッドクォーターとしてマルチハザード対応にBCPを見直し、まずは国内対策、次に海外への浸透を図っており、まさにBCPのPDCAサイクルを全社で回していこうとしています。

 

―ニュートン・コンサルティングをご利用いただいたきっかけ、理由は何ですか。

月本:首都直下型地震の発生確率の高さを考え、BCPを全面的に見直そうというとき、海外安全を担当していたチームが見つけてきたのがニュートンでした。もちろん他候補もあったのですが、官公庁や商社などへの過去のサポート実績を知り、早々にリサーチを切り上げてニュートンへの依頼を決めました。首都直下型地震による本社機能と首都圏での事業への影響を想定したBCP策定から始まり、現在、マルチハザード型にアップグレードして海外展開を一緒に進めており、お付き合いは6年目になります。

住友商事様におけるマルチハザードBCPグループ展開

 

―どのようなBCPを目指し、プロジェクトを立ち上げたのですか。

月本:出資先だけで900社近くに上る事業規模に対して、実践力があるBCPを目指しています。次々と生じる新たな課題にもBCPを改善し続けられるように、コンサルティング会社に頼りきるのではなく、各拠点・事業ごとに自走できるような仕組みづくりへ向けても支援してもらっています。

多拠点・多事業の企業におけるBCP展開とBCM定着

前 災害・安全対策推進部長
月本 丈士 様

―プロジェクトの概要を教えてください。

月本:このプロジェクトは、中期的にグループ全体の災害対応力を向上させることを目的としています。2019年に災害安全対策の専門組織を立ち上げ、BCP展開の流れとしては、大きく3つのステージに分けて推進しています。

初年度に本社の緊急対策本部を再構築し、加えて、現状の仕組みをレビューし、改善に向けての方針を検討しました。

2年目からは本社緊急対策本部及びフロア自治(自衛消防隊)の同時訓練など訓練実施に加えて、BCP展開の中期ロードマップを策定しました。今までの危機事象別の対応からマルチハザード型BCPへのアップグレードを目指し、マルチハザード型BCP策定のガイドラインとテンプレートなどの基盤整備を行いました。

3年目には本社営業部門、国内支社支店、国内グループ会社にマルチハザードBCPの改訂方法を説明会、Q&Aセッションなどを通して啓蒙し改訂を推進。文書レビューおよびセルフチェックを通して、改訂状況を確認しました。加えて、夜間・休日を想定した本部訓練実施等実効力の向上に努めています。

4年目は、国内組織での定着、自走化と海外拠点へのマルチハザードBCP展開の2軸で推進活動を行っています。海外地域ごとに地域統括拠点及び近隣国のグループ会社を訪問し、BCP策定および訓練デモンストレーションを行っています。定着化については、訓練ノウハウの提供や訓練の実施支援を行い、毎年のセルフチェック実施により活動状況を定点観測しています。

展開組織が多く、事業も多岐にわたるため、ある程度の枠組みを提示し、各組織が自発的に活動できるよう、ツール提供やサポートを行っています。

 

―多拠点、多事業な組織にBCPを展開、定着させるうえで注意されたことは?

月本:ヘッドクォーターとして以前から災害対応力を底上げするための発信はしていましたが、全社的にしっかりと浸透させようとすると、プロジェクト概要で述べたようなプロセスや仕掛けが必要だと考えています。各組織が置かれている国や産業分野、業務内容も異なるので、画一的なガイドブックをそのまま適応させることは不可能です。ひとつのツールとしてBCPを提供し、デモンストレーションも行うから、それぞれの組織に合うようにピックアップして危機管理してほしいというのが我々のスタンスです。

指南役というより相談役として寄り添って、各組織の自律自走を促しています。ヘッドクォーターの役割を例えるなら、囲碁で打った一手が放射線状に影響を及ぼしていく、全社がそんなふうにつながりあって災害対応力が高められるようにサポートをしたい、と考えています。

 

―今回のプロジェクトの成果はいかがでしたか。

月本:非常事態に遭遇したとき、パニックを起こさないように訓練を重ねてきました。各拠点、各組織には、思考停止状態に陥らず、初動を誤らないようにすること、そのためのBCPだと今回のプロジェクトを通して伝えています。

海外への定着はこれからですが、国内の組織へは2巡目になっています。初回はニュートンにファシリテートしていただきましたが、2巡目は災害・安全対策推進部だったり、組織自らがファシリテートして我々はオブザーバーとして参加したりしています。開催するたびに課題や発見があり、常にアップデートすることが大切なのだという意識が現場にも生まれてきています。

実際の危機に対処しつつ、未来のリスクにも備える

―コロナ禍やウクライナ情勢など、実際の危機対応も迫られるなかでも推進できたのは?

月本:災害・安全対策推進部では役割をいくつかに分けており、緊急一時退避も含めた海外安全はBCPとは別のチームが担当しています。コロナ禍や各国内・国家間の紛争などがあっても、今回のような先を見越した活動が続けられたのはそのためです。策定したBCPを活用してもらうこともあり、部内で連携を取りながら危機への備え、発生時の対応を行っています。

 

―ニュートンのコンサルティングはいかがでしたか。

月本:我々が考える危機管理対策について、きっちり汲み取って言語化してくれたことに感謝しています。プロジェクトを必ずや成功に導こうという真摯な姿勢で向き合ってくれたニュートンの皆さまだからこそ、ここまで推進できたとも感じています。難題をぶつけたときも、すぐにはねつけるのではなく、実現可能かを探ってくれてチャレンジしてくれるのも嬉しかったですね。

 

―今後の取り組みについて教えてください。

月本:グローバル展開については着手したばかりなので、今後も毎年、海外2地域ずつデモンストレーションを行っていく予定です。その過程でBCPそのものも改善し、進化させていくことになると思います。また、国内については、首都機能不全を想定したシナリオについても検討していきたいと考えています。

 

―本日は誠にありがとうございました。

担当の声

エグゼクティブコンサルタント  久野 陽一郎

総合商社という企業体ならではのレジリエントな推進活動が成功

グローバルに多拠点かつ多業種にこれだけの規模で事業展開する総合商社にとって、共通の枠組みで物事を推進し、それを定着させることが、どれほど大変か、一緒に推進する中で、ひしひしと感じております。

国も違えば、事業も異なり、対応すべきリスクもリソースも違います。その中で、BCP整備として押さえるべきポイント、考え方をグローバル共通の枠組みとして提示し、それを基盤として、各事業や拠点が自組織に合わせて柔軟に対応する、それを推進・サポートする仕組みを一緒に構築することができました。

これらは一朝一夕にはできず、中期展開計画を立て、全体感を見つつ、環境・状況変化に応じてアジャイルに推進していくことが、グローバルに多拠点・多事業を展開する総合商社にとっての勘所でした。途中には新型コロナの発生やウクライナ戦争、国内外で災害や危機が発生しても、プロジェクトを止めず、変化する状況へも柔軟に対応し、まさにレジリエントな推進活動でした。

最後になりますが、一緒にこの活動を推進した事務局の皆様と、戦友あるいは同志と言える関係性を築くことができ、私の人生にとって、かけがえのない財産となりました。この場をお借りして、感謝申し上げます。

お客様情報

名称 住友商事株式会社
所在地 東京都千代田区大手町二丁目3番2号
大手町プレイス イーストタワー
設立 1919年12月
事業内容 商品・サービス販売、輸出入・三国間貿易取引、事業投資等

(2023年5月現在)

プロジェクトメンバー

お客様

前 災害・安全対策推進部長

月本 丈士 様

ニュートン・コンサルティング

エグゼクティブコンサルタント

久野 陽一郎

アソシエイトシニアコンサルタント

藤岡 誠

チーフコンサルタント

濵髙家 瑞稀

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