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コラム

徹底した実地訓練で、BCPを鍛える~ 株式会社 興伸

2013年05月08日

コンサルタント

佐々木 いずみ

策定したBCPが本当に有事の際に機能するかを検証するために訓練・演習をおこないます。

演習をおこなうことによって、策定した計画の不備や改善点を認識、必要な施設や設備(作業場所、通信環境や方法、情報技術など)に加えてそれらを維持するために必要な人員などを確認できます。

また、社内の意識を高め、インシデントに対応するための各自の役割、責任、権限を確認することができます。

BCPを策定した初年度は、トップマネジメントや運用担当者のモチベーションも比較的高く、多くの人や時間が投入される傾向があります。しかし、だからこそBCPを継続的に改善する活動は、次年度以降が大切だと言えます。

今回は平成22年にBCP策定し、その後、独自の訓練を行っている株式会社興伸の小野伸太郎社長にお話を伺いました。

事業内容

代表取締役社長 小野 伸太郎氏

株式会社興伸は、メーリングサービス、物流サービス、キャンペーン運営サービス等、コールセンター対応までトータルでオペレーションを支援する総合物流サービスを行っています。東京都江戸川区に本社、同区内に一之江センターと本社業務分室を構え、千葉県八千代市に営業所、船橋市にデリバリーセンターと拠点を展開しています。

大手広告代理店や金融機関を顧客に持ち、そのサービスの特性上、預かった個人情報などの情報資産に関して高度なセキリュテイレベルが求められています。そのため早く時期からQMS、プライバシーマーク、ISMSの認証を取得し、その期待に応えられる体制づくりをすることで顧客を獲得してきました。

以下、小野社長からお話を伺いました。

地震の脅威を身近に感じた東京都BCP策定支援事業

BCPに取り組むきっかけとなったのは、2008年におきた新型インフルエンザの大流行でした。社員の一人が感染したと報告があがってきてから間もないうちに何人かに広まり、そのスピードに危機感を覚えました。

当社はサービス業であり、人が従事して成り立つものです。サービスに影響がでる前に対策を講じようと、インフルエンザを対象リスクとしてBCPに取り組むことにしました。しかし、社内で進めようにも対策がまとまらず、どうしたものかと思案していたところに東京都のBCP策定支援事業の話を聞き、参加を決意しました。

ところが、実際にミーティングに参加する頃にはインフルエンザの猛威は衰えており、結果としてインフルエンザ対策から地震対策へと方向性を変えることとなりました。それには支援事業の中で行われた災害シミュレーションによる震災被害体験を切実な問題と感じたことが大きく寄与しました。

今、振り返ってみても東日本大震災の前に、地震に対するBCPを策定できたことは、当社にとって非常に幸運なことだったと思います。

人員をいかに参集させるか———全社員対象のウォーキング大会

ウォーキング大会

東日本大震災では、幸いにも当社に大きな被害はでませんでしたが、帰宅・出社困難となった社員が多数おりました。

前述の通り、サービス業の要は従業員です。震災後の混乱が落ち着いてから、まず決意したことは、首都圏の交通機関が停止した際に、稼働人員をいかに参集させるかということでした。そこで、社員が徒歩や自転車で出社できるルートを認識することが大切であると考えて、2011年9月、全社員を対象に自宅から徒歩で会社を目指すウォーキング大会を開催することにしました。

会社から5キロ以上離れたところに自宅がある社員は、5キロ圏内までは電車で移動してもらいます。自宅の地域が近い3~4人でチームを作り、歩きながら公園のトイレ、コンビニ、病院、避難所などを地図に落とし込みながら、会社に向かってもらいます。発災後は、一つのルートが通行止めになることも考えて、同じ地区から2ルートを検証できるようにチーム編成を組みました。

徒歩ルートの確認をしてもらうことが目的でしたが、社員には、実際に電車が使えない、自動車は通行止めになった時のことを実感してもらいたいという思いもありました。

社員の大半は30代で気力・体力とも充実しており問題は無かったのですが、私は大きなダメージを 受けましたね(笑)。自宅から会社までは10キロ以上あるのですが、電車を使うことなく歩ききったら、その後は足を引きずることになってしまいました。

昼過ぎには、各チームがぞくぞくと会社に集まり始め、すぐにオリジナル災害ロードマップの作成に入りました。加えて、夜間や休日の際の発災を考え、同じ部署内で遠方在住者が集中していないかの確認をとりました。この確認で、情報システム部のメンバー全員が遠方に住み、徒歩では出社できそうもないことが判明しましたので、情報システム部の責任者に対して有事の際の自転車ルート(距離的には5キロ以上)の確認をお願いしました。また、他の部署ではそのような状況にない事が分かりましたので一安心しました。

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オリジナル災害マップ

初動がその後の復旧スピードを決める———災害シミュレーションを実施

その後、すぐに次のBCP訓練として、全社員対象のBCPシミュレーションの準備を始めました。震度6強の地震の発災から4時間までの間に実施すべき緊急避難から安否確認までの初動対応訓練です。 

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3.11ではBCPを策定していたことで、発災直後から対策本部はどう動いて、何を確認して、誰に発信すれば良いのかが分かり、それに従って落ち着いて速やかに行動することができました。発災直後の素早い動きによって、業務の復旧も継続も全く変わってくると実感しました。全社員対象の災害シミュレーションを実施することで、会社全体の対応力を鍛えようというのが狙いです。

基本コンセプトとして、まず何が起こるかを事前に伝えないことに決めました。当日は、全館放送を使い地震の発生を伝えます。社員は揺れが収まるまで机の下など安全な場所に身を隠し、その後、社屋に隣接した駐車場に一時避難をします。その間に、BCP事務局は、重傷者役の社員に重傷カードを配り、胸に貼りつけてもらいました。PC、コピー機、FAX等使用不可となるOA機器、1F倉庫は入室不可など、被害を想定したものに次々に張り紙を貼って回ります。停電を想定してオフィスを消灯しメインサーバも落としました。

重傷者役の選出、各ミッションは、事前に各部署長と打ち合わせを重ね決定していきました。重要顧客の作業工程に関わっている担当者の中でも特に重要なポイントを担当している人の意見や現場からの声なども参考に練り上げていきました。

社員は薄暗いオフィスに戻り、ミッションカードを手渡されます。そしてそこに書かれたミッションのクリアを目指してもらいます。

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全部署共通ミッション
  • BCPハンドブックの所持確認
  • 安否確認のテストメール
  • 消火器、救助工具の確認
各部署別ミッション:「第一業務部(本社現場)」(例)
  • 現場責任者が対応できない場合、代行者が本日の業務に対応する
  • 資材置き場の資材が全て破損。既存発注先は対応不可能。代替発注先はあるか。リストアップしてください
災害対策本部
  • 現場作業員の割振り(パート作業員出勤不可を想定。現状の業務数から必要人数を割出、適切に割り振れるか
  • 携帯、固定電話で連絡が取れないデリバリーセンター・八千代営業所・海神への指示体制をとれるか
  • 情報収集対象は何か。それをどの関係者にどうやって発信するか
  • 被害状況からの復旧対策の立案

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「470」個の気づきが、BCPを強くする

ミッション実行時には、「気づき記録票」を配布し、気づいた事項とそれに対する改善点を、その都度記入してもらいました。こうして集まった気づきは全部で470にものぼり、それを精査して対策を検討しBCPに取り入れていきます。

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集まった「気づき記録票」

また、今回一番苦戦したのは、情報システム部でした。ある顧客専用のサーバとPCが故障、担当者不在という想定のもと、別の担当者がバックアップデータをリストアして別のPCで立ち上げる作業に、最も時間を費やし半日以上はかかってしましました。

この対応策も後日マニュアル化し、いざという時にはマニュアルをもとに、もっと短時間の作業が可能となるはずです。人は自分の仕事がある程度ルーチン化して注意されない限り振り返ったり、作業内容を見直したりしないものです。しかし、顧客ごとの詳細な進捗工程や判断基準などがきちんと整理されていなければ顧客対応は充分ではありません。今回のシミュレーションはそういう点での見直しや再確認につながったと思います。

BCPはツールであり、目的ではない

サービス業の現場は、どうしても顧客の都合が優先されます。昨今の経済情勢もあり、低価格・短納期・小ロットが求められますし、現場に立つ人間によっては「やらされている」という感覚が出てきてしまうでしょう。それは、モチベーションの低下につながります。

人が行うサービスにおいて、モチベーションの低下は、サービスの品質低下に直結してしまいます。当社で言うと、届け先に対して、告知通りにモノが届いていないというケースです。希望した商品と違うものが届いた、DMが2通入っていた、間違ったメールが届いたというクレームになります。

また、人が行う作業に由来する分、作業の進捗速度や丁寧さのばらつきがサービスに直接反映されます。そのために、作業一つひとつに基準を設けて、品質の均質化をはかりたいという思いもありました。社員が増え、組織も徐々に大きくなってきて、社長一人が発信するだけでは、現場担当者には届きにくくなり、どうしても組織の仕組みに落とし込む必要がありました。そこで、ISOの導入に踏み切りました。QMSを手始めにPMS、ISMSと追加され、さらにそこにBCP活動が加わりました。

これらの活動は、うっかりするとマニュアルづくりが目的となってしまうし、BCPの訓練そのものや認証を取得することが目的となってしまいます。それを防ぐためには、自分たちが行っている活動が、提供しているサービスにどのように活かされているかという視点を決して忘れないことです。

BCPはツールです。目的は、大災害時にも、社員を守り、お客様に喜ばれるサービスを提供し続けたいということです。
参考文献

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