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東日本大震災から10年

お客様第一の精神が、熱意あるBCPの原動力に

2021年01月22日

国内有数の産業用ホースメーカーである株式会社トヨックス様は、東日本大震災での仕入先の被災を機に、サプライチェーンのBCP強化に注力されてきました。また、本社工場が河川に囲まれた立地にあることから、様々な水害対策にも尽力されています。
今回は、株式会社トヨックス代表取締役社長 中西誠様と経営管理本部 林芳裕様に、東日本大震災後のBCPをめぐる様々な取り組みについてお話をうかがいました。

 

東日本大震災を機に、サプライチェーンのBCP強化に取り組む

株式会社トヨックス 代表取締役社長 中西 誠様

―東日本大震災当時の状況と、その対応についてお聞かせください。

中西:当社はホースメーカーとして、耐圧樹脂ホースの製造販売や流体輸送システムの構築などを行っています。本社は富山県にあり、東日本大震災では直接的な被害はほとんどありませんでした。ところが、一番重要な原材料である塩化ビニールの仕入れ先が被災し、大きなダメージを受けたのです。その仕入先は日本の塩ビ生産量の約3割を占めていたため当社に限らず影響は甚大で、供給の目途が全く立たない状態となってしまいました。

国内のほかの供給先もあたりましたが、注文が殺到していて供給が間に合わない。そこで、当社は震災の翌週にはイタリアの技術提携企業であるフィット社に依頼し、原材料を航空便で送り届けてもらいました。幸いフィット社とは長いお付き合いがあり、当社の製品についても理解していただけていたので、何とか原材料を確保することができました。結果的に国内の塩ビ仕入先は復旧に4ヶ月かかりましたので、非常に多くのコストと労力はかかりましたが、この時の当社の選択は間違いではありませんでした。

この時の経験も踏まえ、当社は2013年にタイにアセアン工場を設立し、万が一国内の拠点やサプライヤーが被災しても生産を続けられる体制を整えました。フィット社とも引き続き良好な協力関係にあり、現在ではどちらかが災害などにより製造が不可能になった場合、もう一方が代わりにその製品を造って送るという契約を結んでいます。

また、東日本大震災を通じて自社だけでなくサプライチェーン全体でのBCPが必要であることを強く認識することになりました。震災以降、当社では様々な形でサプライチェーンのBCP強化に取り組んでいます。

―サプライチェーンのBCP強化の取り組みについて、具体的にお聞かせください。

中西:サプライチェーンのBCP強化のために徹底しているのが、サプライヤーのBCP取り組み状況の調査と仕入先の分散です。調査の結果、サプライヤーの方々がBCPに取り組みリスク対策をしていないことが判明した場合は、部品や原料の安定供給を実現するために複数購買とし、仕入先を遠隔地にある2社に分け、リスク分散をさせていただいています。

また、ニュートンさんにご支援頂いて、当社のサプライヤー企業の方と一緒にBCP構築・改善をおこない、情報共有連携体制を整備しました。サプライチェーンの皆様には今後も積極的にBCPの啓蒙活動を実施していきます。

サプライチェーン強化とひとくくりにするのは難しいのですが、当社の商品供給を安定させるための取り組みとして、製品の汎用化も推進しています。ある機器の特定の場所にしか使わないような特殊仕様の製品の場合、少量ロットでの生産となるため複数の拠点で造ることができないだけでなく在庫も抱えづらくなり、いざという時のリスクが高くなってしまいます。製品の性能や特徴を損なわない範囲でその業界の中での標準化を実現することができれば、在庫の調整もしやすく常に安定した供給を図ることができます。

例えば、東日本大震災では被災地の病院が壊滅的な被害を受け、医療関係装置にも重大なトラブルが生じました。この装置はそれまで特殊なホース配管を利用しており、専門業者しか修理することができず、利用できない期間が長期化してしまったのです。このことを受け、当社は当該装置のホース配管を簡単に組み立て直せるものにするよう、改善のお手伝いをさせていただきました。3年ほどかけて衛生面など様々な点に配慮しつつ標準化したホースを開発し、同じくどなたでも使用できるよう標準化した継手とともにご提案させていただいています。

業界全体に向けて製品を標準化することは、製品の安定供給につながるだけでなく、お客様にとって製品の調達がしやすくなるというメリットがあります。当社の製品はアジアのどこでも供給できる体制となっているため、現地で調達をされたいお客様からは「とても助かる」という声もいただいています。

中にはどうしても特注品を造らなくてはならない場合もありますが、そのような場合は、あらかじめ「万一災害等により製品が供給できなくなった場合はこの製品に切り替えさせてください」というご説明をして、代用品をご用意させていただくようにしています。こうした代用品のご提示はお客様の安心感にもつながっているようで、多くのお客様が歓迎してくださいますね。

たゆまぬ努力で、水害リスクの軽減へ

株式会社トヨックス 経営管理本部 林 芳裕様

―貴社の本社工場は三方を河川に囲まれていることから、水害対策にも注力されているとうかがいました。水害対策についてお聞かせください。

林:水害対策には長年注力してきましたが、近年の気象状況の変化も踏まえアップグレードを続けています。工場や倉庫の浸水対策としてかつては土嚢を使用していたのですが、準備に時間がかかるということで、防水板を設置することになりました。防水板は当初70センチのものでしたが、より安全性を追求して1メートルに変更。さらに、去年の12月には浸水の発生可能性の高い場所に1.8メートルのブロック塀も設置しました。

ところが、今年の4月、新たに公表されたハザードマップを見ると、想定雨量がこれまでの2倍、3倍になっていたのです。そこで、かつて2014年に行った浸水シミュレーションを急遽もう一度実施したところ、過去のシミュレーションよりもさらに浸水の可能性が上がっていました。ブロック塀を設置した箇所は守ることができても、そこから流れた水が大事な技術開発棟に流れ込んでしまう可能性があるというのです。

浸水リスクの高い場所に防水壁を設置

技術開発棟は前記医療関係の製品も扱っていますから、何としてでも守らなければなりません。そこで、新しいシミュレーションに対応した万全の高さの囲いを作るべく、すぐにメーカーさんにお願いしました。まもなく、工事がひととおり完成する予定です。

中西:水害対策に関しては、社員からは「そこまで必要だろうか」「少しやりすぎなのではないか」といった声が聞かれることもあります。しかし、昨今の自然災害の被害状況を見ていると到底油断はできませんから、常に万全を期すべく対策を続けています。

―設備の浸水対策以外で、水害対策として取り組まれていることはありますか。

林:台風などによる水害はある程度予見できるものですから、迅速に情報を得ることも大切ですね。情報収集のため、本社の対策本部の幹部メンバーと営業3拠点の支店長はスマホにウェザーニュースのアプリを入れ、台風などの際は各自数日前から注意してチェックするようにしています。また、赤外線カメラを設置し、敷地横河川の水位状態を夜中でも各自のスマホから見られるようにしています。

それから、忘れてはならないのが日頃の訓練です。当社では年に1~2回、より実際に即した訓練を実施しています。例えば抜き打ちで集まり、荷物を積んだりポンプを動かしたりといった緊急時対応を実際にやってみる。このような練習を日頃からやっておくことで、いざという時のスムーズな行動につながります。設備の浸水対策というハード面の対策に加え、情報収集や訓練というソフト面の対策も非常に重要だと考えています。

中西:当社がある黒部市は過去に水害被災の経験があり、自治体でもダムを造ったり、河川の幅を広げたりといった河川氾濫予防対策をしてくださっています。企業だけでなく自治体も一緒にBCPに取り組んでくださることで、だいぶリスクを軽減できていると思います。

現場の知恵と努力が、コロナ禍のピンチをチャンスに

―2020年は新型コロナウイルスの流行という未曽有の危機に直面した年でした。貴社の対応についてお聞かせください。

中西:基本的な方針は国の呼びかけに従い、三密を防ぎながらマスクの着用、手洗い、換気、消毒を徹底し、感染予防に努めています。勤務形態などについては、営業、工場、事務それぞれの事情に合わせて対策を講じました。

営業担当は拠点が東京・大阪・名古屋にあり、お客様先を訪問するなど移動が多いため感染のリスクも高くなります。そのため、打ち合わせはウェブ会議を利用し、在宅勤務や時差出勤を取り入れるなどの対策をとりました。

工場では班編成を組み、もし感染者が出ても絶対に稼働を止めない重点ラインを設定し、そのラインを動かすことができるよう多能工化を進めています。これは感染者が出た場合の被害を最小限に抑えるための工夫です。また、事務スタッフは在宅勤務を導入し、基礎疾患のある方や妊娠中の方はひとまず休んでいただくようにしました。

林:感染対策にあたっては、できるだけ現場のリクエストに耳を傾けるように努めています。例えば、納品に訪れたドライバーの方に対応する受付スタッフなど、外部の人と接する機会のある社員は不安を感じることが多いといえます。そこで、サーマルカメラを設置し、来訪者の検温をさせていただくことにしました。本社としての対策が可能なこととそうではないことがありますが、できるだけ社員の要望を吸い上げ、一緒に対策を講じていく必要があると思っています。

―海外の拠点でのコロナの影響や対応はいかがでしたか。

中西:当社は中国にも拠点がありますので、当初は対応に苦労しました。中国で新型コロナウイルス感染症の感染者が発生したことを受け、まずは日本人の駐在員は全員帰国、現地スタッフは在宅勤務することを命じました。その後少ししてから戻れそうな状況となり、拠点の責任者を含む数人に現地に戻ってもらい、感染防止の指揮をとってもらうことに。中国の拠点は人数が少なく工場はないため、リモートワークを取り入れるなど感染対策はとりやすい環境だったといえます。

一方、日本に帰国することになった社員達は、リモートワークでも中国への営業活動ができるよう、様々な工夫を考えてくれました。おかげで、それまで一日1件だった面談が4件、5件とできるようになり、それまで以上に営業効率を高めることができたのです。新型コロナによる混乱で中国のお客様も困っておられましたから、このようなスムーズな対応により、お客様からも喜んでいただくことができました。「災い転じて福となす」を実現してくれた社員の知恵と努力に、思わず感激しましたね。

新型コロナとの闘いは残念ながらまだまだ長期化が予想されます。今後もリモートワークを併用して感染対策に努めながらも、必要なところではface to faceでのお付き合いを大切にしていきたいと考えています。私はこれをハイブリッド営業と呼んでいますが、現地で頑張ってくれているローカルスタッフや駐在員を、我々がウェブを駆使してサポートする。そんなニューノーマル時代の新しい働き方で、今後も進化していきたいと考えています。

妥協のないBCPが、お客様第一の経営を支える

―貴社は、長きにわたり常にモチベーション高くBCPに取り組んでこられた印象です。どのようにして社内のモチベーションを維持されているのでしょうか。

中西:私より前、先代の社長の時もそうでしたが、当社では何よりもお客様第一を徹底するようにしています。どんな時もお客様にご迷惑をかけないこと、製品を決して切らさないことを前提に日頃から安定供給に努めているため、BCPが非常に重要であることは社員一同が共通認識として持ってくれていると思います。

実際、リスク対策についても、私達経営陣は「サプライチェーンを切らさないように」「有事の際にも工場は必ず稼働できるように」「浸水しても一ヶ月以内に復旧できるように」といった方針しか提示しません。私達がこのような方針を出せば、それを受けたBCP委員会のメンバーが色々と議論し、具体的な対策を考えてくれる流れになっています。対策が決まったら、実施のための経費を充てていく。内容は精査しますが、BCPに関しては極力経費を惜しまないようにしています。

林:BCP委員会には、ものづくりの担当者から総務、営業、調達、物流と、ほとんど全ての担当者が参加しています。BCPについては社長の「鶴の一声」を待つのではなく、会社と社員の生活を守るために何をすべきなのか、各自が考えて提案していこうという姿勢で進めています。

BCP委員会では、通常、水害対策などについて適宜議論してきましたが、新型コロナウイルス感染症が流行してからは、そちらがメインになっていますね。多い時には毎日のように開催していましたが、状況が落ち着いてきてからは週一回などに数を減らして、状況報告と課題に対する議論を行っています。

―BCPについて、今後の活動方針や目指す姿についてお聞かせください。

中西:実は今、現状のBCPを一度根本から見直し、これからに向けたグランドデザインを策定したいと考えているんです。BCPは、「ここまでやればもう十分」というような終わりがないものです。周知の通り、豪雨等の自然災害はますます激甚化していますし、地震やパンデミックもいつまた発生するか分かりません。さらに、テクノロジーの進化により、情報セキュリティも一層重要になっていくでしょう。

あらゆる面でお客様にご迷惑をおかけしないためには、そうした様々な変化に対応していかなくてはなりません。今後もお客様第一を徹底していくためにも、これから10年、20年と維持改善していける機動的なBCPづくりに尽力したいと考えています。

コンサルタントの声

経営戦略と一体化し、進化し続けるBCP

執行役員 兼 プリンシパルコンサルタント 内海 良

執行役員 兼 プリンシパルコンサルタント 内海 良

「BCPを考えずに経営戦略をつくることはできないですよね?」 

長年トヨックス様をご支援してきた中で言われた、印象深い言葉の一つです。私が最初にご支援した10年前には在庫削減プロジェクトが動いている最中、BCPへの取り組みが始まり、さまざまな危機の中でどうやって「納期厳守」するかがテーマでした。そのためには、ある程度の余剰在庫を持つことは避けられない。トヨックス様のBCPは、はじめから経営戦略そのものでした。以降、トヨックス様の経営戦略には必ずBCPの観点が含まれています。

そもそも、BCPの有無に関わらず危機に強い組織というのは存在します。
それは経営陣に意思決定力がある、経営陣が現場を理解している、経営陣と現場の風通しが良い、経営陣にも現場にも自分がやるという当事者意識がある組織です。

そういう組織は突発的に危機が発生しても臨機応変に対応できるケースが多い。

トヨックス様はまずそういう組織です。
そして、ただでさえ危機に強い企業が、それらの要素を包含する形で、BCPを以下のような姿勢で廻しています。

  • 意思決定力のある経営陣の皆さんがBCPに対する強い当事者意識を持っている(危機発生時にも率先して組織を牽引し意思決定する姿がありありと目に浮かぶ)
  • 経営陣の皆さんに強い当事者意識があるから、経営戦略とBCPがつながっている
  • 経営戦略とBCPがつながっているから、現場も自分事として取り組んでいる
  • 現場が自分事として取り組んでいるから、常に満足せず試行錯誤を繰り返している
  • 現場の試行錯誤を経営陣と共有するから、経営陣も「今のままで本当に十分なのか、どこかで妥協していないか」という自身への問いを欠かすことなく、さらなる当事者意識で推進する
    (以降、最初に戻る・・・)

水害から始まり、サプライチェーン、地震、感染症、ITセキュリティと対象範囲とその内容の濃さを変えながら、トヨックス様のBCPは一処にとどまることなく、常に前に進んでいます。すでにトヨックス様の製品は国内シェアトップクラスであり、知る人ぞ知る企業ではありますが、未曾有の震災からの10年を振り返った時、BCPの観点でもぜひその名前を知っておいてほしい企業の一つです。

 

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