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外国公務員贈賄防止指針

掲載:2016年08月19日

執筆者:コンサルタント 伊藤 隆

ガイドライン

「外国公務員贈賄防止指針」は、経済産業省により平成16年5月26日に策定されました。本指針は、外国公務員等に対する贈賄の発生を防止するための対策例を示したガイドラインです。なお、ここで言う外国公務員等とは、たとえば外国の政府高官などを指します。

本指針は、企業が従うことを強制する法的拘束力を持つものではなく、自主的な活動を支援(具体的に参考となる情報を提供)することを狙いとして策定されたものです。

         

「外国公務員贈賄防止指針」が策定された背景

「外国公務員贈賄防止指針」が誕生したきっかけは、不正取引防止法に外国公務員贈賄に係る規定及び罰則が追加されたことにあります。では、なぜ規定及び罰則が追加されたのでしょうか。それは、規定や罰則はあっても、それらを回避するための手立てについて具体的な指針がなかったからです。

そもそも贈賄を含めた汚職は世界中に蔓延し世界経済に深刻な影響をもたらしていました。OECD(経済協力開発機構)は、「世界経済の実効性の低下及び不平等の増加を招いている」と長年に渡り警鐘を鳴らし続けていました。その一環として1997年に「外国公務員贈賄等防止条約」を採択し、OECD加盟国だけでなく、その他の国々に対し汚職撲滅を強く訴えました。日本もOECD加盟国として当該条約を批准し、不正競争防止法に外国公務員贈賄に係る規定と罰則を追加したのです。

ですが、そこまで事態を深刻に捉えなかった日本は、当初、自国民の国外での違反行為に対して罰則を適用しなかったのです。反比例するかのように、世界経済に深刻な影を落とし続ける贈賄に対して、OECDや国際世論の声は強まる一方でした。こうした声の高まりを受け、国際非難を危惧した日本政府は、2004年、ついに不正競争防止法を改正し、国外での違反行為に対する罰則規定の追加を決定したのです。

しかしながら、これで日本の抱える課題全てが解決したわけではありませんでした。なぜなら、罰則は「守るべき明確なルール」が伴って初めて効力を発揮するからです。国際商取引を行う企業に、国外での違反行為防止体制を整備してもらうにしても、当時は贈賄に特化した国際マネジメントシステム規格等も存在せず、政府は企業に対して何らかの指針を示す必要がありました。

そこで、国際商取引を統括する経済産業省が中心となり、国際商取引を行う企業が外国公務員贈賄防止対策を講じるに当たって参考となる情報を取りまとめたのです。それこそが、「外国公務員贈賄防止指針」にあたります。

「外国公務員贈賄防止指針」の概要

では次に「外国公務員贈賄防止指針」の中身について見てみましょう。本指針は、全4章から構成されています。
 
第1章   贈賄防止体制構築に関しての基本的考え方や防止体制の在り方
本指針策定の背景、目的が説明されています。
第2章 贈賄防止体制運用上の留意事項
国際商取引に関連する企業が、外国公務員贈賄防止体制を構築・運用する際の、基本的考え方や目指すべき防止体制の在り方などについての、具体的内容(規格における要求事項に相当)が説明されています。
第3章 不正競争防止法における処罰対象範囲について
外国公務員贈賄罪の構成要件、外国公務員の定義、具体的な罰則の内容及び外国公務員贈賄罪の適用事例等が説明されています。
第4章 その他関連事項
日本がOECD加盟国として条約の義務を履行するための関連措置、国内における関連施策及び諸外国等の法制度や運用に関する動向などが説明されています。

「外国公務員贈賄防止指針」の特徴

「外国公務員贈賄防止指針」の特徴として、以下の3点が挙げられます。

1点目は、本指針が、コンプライアンスの中でも贈賄防止に特化していることです。なぜでしょうか? それは、贈賄が関係する汚職行為が群を抜いて頻発しており、世界経済の実効性の低下及び不平等の増加を招いているからです。OECDは汚職行為による代償は、世界GDPの5%(2014年試算)を超えており、これはもう倫理上の問題ではないと凶弾しています。

2点目は、詳しさです。本指針が、不正競争防止法第18条第1項 に関連して、「(3)典型的な処罰対象行為等及び(4)社交行為等」について、詳細に記述しています。処罰対象行為の具体的事例や、合理性のない差別的な取扱い(輸入通関手続きの意図的遅延等)への対処方法、社交行為についての解釈と対処方法などについて触れています。

3点目は、本指針に外国公務員贈賄罪適用の具体的事例が紹介されていることです。平成10年の不正競争防止法上に外国公務員贈賄罪が創設されてから、平成27年7月までに訴追された4事案が紹介されています。本指針は、指針の記載内容が現時点の判断に基づくものであり、法の詳細解釈には今後の更なる事例の蓄積が必要と説明しています。

企業にもたらされるメリット

「外国公務員贈賄防止指針」に則って贈賄防止体制を構築し運用した場合、国際商取引に関連する企業にどのようなメリットがあるのでしょう?

一つには、不正競争防止法の要件を満たしていることを第三者に対して客観的に説明しやすくなる点です。企業が贈賄体制を構築・運営していたとしても、自社の従業員等が贈賄で罪に問われる可能性があります。そのような場合でも、企業が外国公務員贈賄防止対策の実効性を高める活動を継続的に推進していた場合、企業としての罰則を回避できる可能性が高くなります。

二つには、企業としての運用効率性を向上できることです。具体的には、当該指針の第2章 第1項「基本的考え方」(4)-②「リスクベース・アプローチの考え方」に、そのヒントになる情報が記載されています。

ISO37001の登場

この指針に関連する国際規格が、2016年末に制定される予定です。第三者認証制度の認証基準として採用されることも想定された規格で、ISO37001(贈賄防止マネジメントシステム)(別のNAVI記事「ISO37001とは」を参照のこと)といいます。名前からも分かりますように、贈賄防止に特化したマネジメントシステム規格になります。

国際規格ですので、本指針が提案している贈賄防止体制の構築・運用を目指す企業にとっては、理想的な経営ツールの1つとなりうるでしょう。

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