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ガイドライン

下水道事業BCP策定マニュアル―第2版―(地震・津波編)

2014年04月23日

下水道は、生活排水の処理による公衆衛生の確保、雨水の処理による浸水被害の防除、汚水処理による公共用水域の水質保全を行うなど、私たちの生活環境を守るためには無くてはならない社会インフラです。当然、大地震が発生した場合でも人々の生活を守る最低限の機能を維持することが求められます。そのため、下水道管の耐震化等、下水道施設に対する万全の防災対策を実施することが急務であると言えます。

しかしながら、東京都を例にとっても、区域を走る下水道管の総延長は約15,900㎞(東京とシドニーを往復の距離に匹敵)にも及び、その全ての下水道管の耐震化を実現するには膨大な費用と年月を必要となります。そのため、耐震化などの「防災対策」を進める一方で、大地震により下水道設備が破壊された場合でも、早期の復旧を図るなど、私たちの生活環境への影響を最小化する「減災対策」も併せて実施する必要があります。そこで登場するのが、下水道BCPです。

国土交通省が下水道事業BCP策定マニュアルの第1版を作成したのは、平成21年11月でした。しかしながら、東日本大震災より前に作成されたマニュアルであった為、津波による下水道施設の被害は想定されていませんでした。そこで新たに、国交省は津波被害を視野に入れたBCPを策定できるよう、マニュアルの第2版を作成しました。

策定マニュアルの構成

本マニュアルは、50ページに及ぶ本編と、11種類の参考資料、そして巻末の「中小地方公共団体におけるBCPの作成例」によって構成されています。

【本編】
概要
第1章:総則 BCPの対象範囲や業務を定めています
第2章:
業務継続の検討
第1節:
体制と基礎的な事項
BCPの策定や平時の運用を行う体制について記載されています。本マニュアルでは、どちらの体制も下水道局長のリーダーシップの下で構築されることが期待されています
第2節:
地震規模の設定
地震や津波による下水道設備の被害状況を検討します。参考資料に添付されている過去の被災事例を基に、被害想定を行います
第3節:
優先実施業務
発災後でも下水道機能を維持するために実施すべき業務を決定します。優先実施業務の決定に際しては、地域住民の生命と財産、そして社会経済活動への影響を総合的に判断することが求められます
第4節:
中小地方公共団体の下水道BCP策定
中小地方公共団体では、大規模災害に単独で対応することが困難であるため、他の自治体からの支援が必須です。マニュアルでは、支援物資や要員が到着するまでの期間に行うべき業務に重点が置かれています
第3章:
非常時対応計画
  第2章で行った業務継続の検討を踏まえ、優先実施業務を行うための対応の手順について、時系列かつ具体的に整理します
第4章:
事前対策計画
第1節:
事前対策計画の概要
優先実施業務を迅速かつ確実に実行するため、平時から行うべき対策を決定します
第2節:
事前対策の例
下水道台帳の整備、他の地方公共団体との応援体制等の例(後述)が紹介されています
第5章:
訓練・維持改善計画
策定後のPDCAサイクルを回すための年間訓練計画、および定期見直計画を定めます

【参考資料】
 
内容
1 下水道BCP策定時のチェックリスト★
2 震災後に確保すべき下水道機能
3 避難所等のおけるトイレ機能の確保
4 兵庫県南武地震及び新潟県中越地震における処理場・ポンプ場の被災事例★
5 東日本大震災における処理場・ポンプ場の津波被災事例★
6 新潟県中越地震における柏崎市の震災対応について
7 東日本大震災における自治体等の対応★
8 東日本大震災で上手く対応した事例★
9 東日本大震災における関連団体の活動事例★
10 民間企業等との協定のサンプル
11 復旧対応時の記録表のサンプル★

参考資料の表にある★印は、第2版で新しく追加された資料です。追加資料の多くが過去の被災事例であるのは、第2版では下水道設備の被害想定や事前対策を過去の類似事例から検討する方策が取られているためです。

実効性のある下水道BCPを目指して

東日本大震災の様な大規模災害に対して、策定マニュアルはどの様な対策を提供しているのでしょうか。第4章の事前対策や参考資料からポイントを整理します。

①下水道台帳の整備

東日本大震災の様に広域災害では、広範囲に渡り下水道設備が被災します。下水道機能を維持するためには、迅速に被害状況を収集し、必要な応急措置を講じる必要があります。その為にも、下水道施設の設計図書や管理図書、工事実施状況などの重要情報資産、復旧の優先度が高い管路や処理場などの場所を示した図などを事前に作成します。これらの重要情報が技術者の手元にあることで、発災後の被害状況確認や緊急点検、応急措置などを迅速に行えるようになります。

津波の被害を受けた仙台市では、電子化された下水道台帳を整備していたため、被災後に撮られた航空写真と台帳を重ね合わせて災害地図を作成し、他県から派遣された支援部隊による迅速な下水道設備の被害状況の調査を行うことが出来ました。

②他の地方公共団体との相互応援体制の構築

広範囲で下水道設備が被災している場合、被災した地域の下水道局のみで対応することが困難となります。その為にも、他の地方公共団体との間に、発災後の受入体制の確保、下水道職員の派遣、資機材の提供などの応援体制を事前に整備しておくことが必要です。特に中小地方公共団体では、この様な応援体制の構築は必須であると言えます。

他の地方公共団体との間に応援体制を構築した際には、上記の下水道台帳を相互に保管することが有益です。何故ならば、被災によって台帳が失われることを防ぐことが出来るのみならず、派遣された下水道職員が迅速に被害状況の情報を収集することを可能にするからです。

官民一体となった下水道のBCP

実効性のあるBCPには他の地方公共団体との連携が必要となりますが、更に実行性を高めるためには、官民一体となった協力体制の確立もまた重要です。特に、下水道のサービスを受ける地域住民からの協力を得ることが必要不可欠です。

特に、緊急検査や応急復旧に必要となる資機材や燃料、汚泥吸引車などの確保では、民間企業との事前協定を締結しておくことが重要となります。協定に際しては、発災後の指示を的確に行えるよう、地方公共団体と企業との間で共有すべき被災情報は何か、予め整理・合意しておくことが重要とされています。その他、協定では、地方公共団体と民間企業のそれぞれの担当窓口の連絡先、発災後の役割分担、資機材の保有状況から費用負担や契約方法などについても事前に定めておくことも求められます。

また、企業のみならず地域住民からの協力確保の有無が、BCPの策定及び発動時に大きな影響を与えるとも記載されています。

下水道BCPも、企業におけるBCP同様、被災後に出来る限り速やかに下水機能を維持するために実施すべき優先業務(緊急点検や応急修理)と、その業務を実施・完了すべき目標時間の設定が求められます。目標時間の設定に際しては、優先実施業務の完了が遅延した場合の地域住民の生活環境に与える影響度、そして地域住民の行政機関に対する不信の度合を勘定する必要があります。特に、津波等により大規模かつ広域に下水道機能が停止する場合、そして投入できる資源に限りがあることを考えれば、可能な限り目標時間を長く設定したいものです。

目標復旧時間が下水道施設破壊による住民の生活環境への影響と行政に対する不信の度合によって定められるのであれば、住民の不安と不信を拭い去る施策が重要となります。その為にも、災害時に地域住民に対して、被害の度合や復旧の目途等の情報を迅速に提供するための体制作りが必要です。岩手県山田町では、被災に備えて予めチラシを作成しており、被災後速やかに住民への情報提供を行うことが出来ました。また、下水道の使用自粛も同時に要請し、下水道復旧への協力を確保できました。

本マニュアルには、他の自治体への支援要請のフォーマットや民間企業との協定書、住民に対するチラシのサンプルが参考資料として添付されています。これらのサンプルを活用し、実効性のある下水道BCPが自治体で策定されることが望まれます。

(文責:山田 真司

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