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PD25222 サプライチェーンの事業継続ガイドライン

掲載:2012年10月11日

執筆者:取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント 勝俣 良介

ガイドライン

PD25222:2011は、2011年12月に英国規格協会(BSI)から発行された「Business Continuity Management Guidance on Supply Chain Continuity(事業継続管理-サプライチェーン継続の指針)」と呼ばれるガイドラインです。なお、PDとはPublished Documentの略であり、イギリスが国として正式に認める国家規格の一種です。
本規格は、事業継続マネジメント(BCM)のサプライチェーンの部分(本規格では、これを“サプライチェーン継続”と呼んでいます)に焦点をあてた構築・運用の指南書です。より具体的には、事業遂行に必要不可欠な経営資源(人や技術、情報、施設、サプライ(供給)など)のうち、供給(原料や原料の仕入先、または業務の委託先など)にあたる部分の継続戦略を、どのように掘り下げて導き出すべきか、また、それをどのように導入、維持継続していくべきか・・・こうしたことを体系的に考えるためのヒントを提供してくれるものです。

         

狙いはISO22301やBS25999の補完

BCPやBCMに関わる規格と言えば、ISO22301やBS25999などを挙げることができますが、PD25222はこれらを置き換えるものではなく、あくまでも補完すること(※)を目的としています。ISO22301やBS25999においても当然、サプライ(供給)に関する要求事項が登場しますが、規格の主眼がBCP・BCMの枠組み全体を提供することにあるため、言及される範囲は限定的です。具体的には、ISO22301:2012における以下の要求事項を補完するものである、と考えることができます。

8.2.2「事業影響度分析」

d) サプライヤ、外部委託先、その他該当する利害関係者を含め、それらの活動の依存関係及びこれらの活動を支える資源を特定する。

8.3.1「決定及び選択」

組織は、サプライヤの事業継続の能力を実施しなければならない。

8.3.2「資源に関する要求事項の設定」

h) 取引先及びサプライヤ

9.3「マネジメントレビュー」

-適切な場合には、重要なサプライヤ及び取引先を含めたBCMSの監査及びレビューの結果 (出展:ISO22301:2012)

※ 厳密には、PD25222はBS25999のみを補完することを目的としたものですが、ISO22301はBS25999がベースとなっていることから、実質的には”両規格を補完するもの”という捉え方で問題ないと思われます。

サプライチェーン継続の実施要点を全40ページにわたり解説

全体は、次のような内容で構成されています。

【PD25222の目次構成】
  1. 対象
  2. 引用規格
  3. 用語及び定義
  4. なぜ、サプライチェーン継続が重要か?
  5. サプライチェーン分析
  6. 選択肢の考慮: 戦略の開発
  7. 運用上の考慮事項
  8. 保証、継続的な管理とレビュー
附属書 主要サプライヤとの協働
参考文献

1章から3章は、本ガイドラインの主な利用場面や対象者、用語の定義など、基本的な情報をカバーしています。4章では、サプライチェーン継続にフォーカスする意義や課題について触れるとともに、活動全体の流れを解説しています。

活動それぞれを深く掘り下げて解説しているのが、5~8章です。5章では、サプライチェーン継続に関わる活動全体のうち、最もコアになる「サプライチェーン分析」の実施要点をカバーしています。6章は、サプライチェーン分析結果を受けての継続戦略策定の実施要点を解説しており、中では企業がとりうる具体的な戦略上の選択肢についても紹介しています。7章「運用上の考慮事項」では、実際にサプライ(供給)中断が発生した際の対応態勢のあり方について触れています。8章は、6~7章までの活動を通じて得られたアウトプットの組織への導入やその維持・継続のあり方について解説しています。

体系的かつシンプルに整理された論点・図表が特徴

本規格の特徴は、サプライチェーン継続に対するアプローチ方法を、体系的かつシンプルに解説している点にあります。とりわけ、要所要所に示される図表類は、規格利用者が頭の中を整理する手助けになりますし、また、実際に成果物を作成する際の参考になります。

【PD25222に示されるサプライチェーンマップの例】

(出典:PD25222:2011 p16)

だし、全40ページというボリューム感からも分かる通り、PD25222の中に、企業が持つ疑問への回答全てが載っているわけではないことに留意が必要です。

たとえば、数百・数千以上にも及ぶサプライ(供給)に依存する企業であれば、サプライチェーンの実態を見える化する“サプライチェーン分析”1つとって見ても、大仕事になります。これに対し、規格では「特定の観点での分析対象の絞り込みや、リスクアセスメントの実施、分析・評価・管理の役割・責任範囲の明確化」など、効果的・効率的な作業を実現するための要点の言及にとどまります。

仕入部門の実務担当者向け

以上から、本規格は、「何から手を付ければいいか分からない」とか「自社独自のしっかりとしたサプライチェーン継続の仕組みを確立したい」といった悩みを持つ方の一助となるものです。特に企業において業務委託や原料仕入を担当する部門(例:購買部門など)の実務担当者に特に有益なガイドラインになるでしょう。

ちなみに、2012年10月現在、本規格は英語版のみで、BSI SHOP(記事下部関連リンク参照)から100ポンドで購入することができます。
参考文献
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