小野薬品工業株式会社 様

全社的なリスク意識の向上が
実効性あるERM構築の鍵

小野薬品工業株式会社様は、300年以上の長い歴史を持つ製薬会社です。「病気と苦痛に対する人間の闘いのために」という企業理念のもと、医療ニーズの高い疾患領域であるがん、免疫、神経、スペシャリティを重点領域に捉えて、医療現場に革新をもたらす新薬の創出に取り組んでいます。

 

この度、ERM(全社的リスクマネジメント)構築・改善に取り組まれた経緯と成果について、法務部 法務部長 吉崎 聡 様、法務部 リスクマネジメント室リスクマネジメント課長 山岸 徹 様、総務部 総務課 角田 明仁 様にお話をうかがいました。

 

―貴社の事業内容をお聞かせください。

吉崎:当社は1717年創業の製薬会社であり、新薬に特化した研究開発を行っています。1968年に企業として世界初となるプロスタグランジン(PG)の全化学合成に成功して以降、多くのPG製剤を開発上市してきました。

また2000年ごろは独自の創薬アプローチ「化合物オリエント」をベースにした自社開発を進めており、2014年に発売した抗PD-1抗体「オプジーボ」はがん免疫法に新たな道を切り拓きました。

近年では、開発パイプラインの拡充を図るためのライセンス活動も積極的に行っているほか、アジアや米国、欧州に向けたグローバル展開も加速しています。

 

―これまでのリスクマネジメントの取り組みについてお聞かせください。

吉崎:2018年以前は、当社では各部署が個々に担当分野のリスクマネジメントを行うという個別最適の方法をとっていました。インシデントが起きた場合には各部署がそれぞれの経験値を頼りに対応していましたが、全社的な視点にもとづくリスクマネジメントはできていない状態でした。いわば、ERMの「E」(=全社)が欠けている状態ですね。

この「E」が欠けているために、リスクマネジメントにかけるリソースの投入がアンバランスになったり、主管部署が曖昧なために対策が行われなかったり、全体の調整や見える化が困難だったりといった問題点がありました。

 

―ERM構築の取り組みを開始された経緯についてお聞かせください。

角田:現在、ERMの取り組みは主に法務部リスクマネジメント室が担当していますが、当初は私が現在所属する総務部が担当していました。東日本大震災後、BCP構築に取り組む中で、地震など自然災害以外のリスクへの対応に加え、有事だけでなく平時からのリスクに対するマネジメントについて全社的な取り組みの必要性が認識されるようになりました。そこで、外部のコンサルタントの知見もお借りして、ERMの基礎をしっかり整えようということになったのです。

こうしてERM構築のプロジェクトが開始され、他社でリスクマネジメント構築の経験がある吉崎さんがいる法務部が主体となって進めることになりました。

山岸:当時の資料によれば、プロジェクト開始のきっかけとして有価証券報告書のリスクの記載様式が変更になったことも挙げられるようです。※1 2019年に公布された内閣府令によって、主要なリスクが顕在化する程度や時期、影響、対応策などを具体的に記載することが求められるようになりました。社内の課題意識とあわせてこのような社会的な要請があったことも、取り組みが加速した要因だったといえるでしょう。

※1  2019年1月31日に有価証券報告書における「事業等のリスク」の記載様式の変更を求める「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」が公布された。

「定型」のないオーダーメイドのリスクマネジメントがニュートン流

―ニュートン・コンサルティングをお選びいただいた理由は何でしたか。

吉崎:コンサルティング会社の選定にあたってはコンペを実施しましたが、サービス内容、コストなど様々な点でニュートンさんの評価が非常に高く、ベストな選択であると判断させていただきました。

特に魅力を感じたのは、決まった定型のやり方をあてはめるのではなく、当社に合ったリスクマネジメントをゼロベースで考え、構築していくアプローチを提示してくださったことですね。コンペに参加いただいた大手のコンサルティングファームの中には、リスクのリストアップ方法などすべてに定型があり、それにはめ込んでいくという手法のところもありました。

型があることで手間が省けたり、立派な文書が組み立てられたりするというメリットはありますが、このようにして作られた文書は日々の実務の中で機能するか甚だ疑問です。リスクマネジメントは非常に形骸化しやすい活動ですから、型にはまった文書を作るだけでは、真に役立つ取り組みにはならないでしょう。当社としては、「リスクマネジメントに取り組むからには、実効性のあるものにしたい」という強い意志があり、そのニーズにまさに合致したのがニュートンさんの提案だったといえます。

また、ニュートンさんにご依頼する上では、プリンシパルコンサルタントの勝俣さんの存在も大きかったですね。リスクマネジメントに関する勝俣さんのご経験や知見は非常に魅力的であり、ぜひ当社のリスクマネジメント構築にお力を貸していただきたいと感じました。総務部の中には、勝俣さんの書籍を読んで非常に感銘を受けたという社員もいましたので、コンペの結果、ニュートンさんに決定した時は現場も喜んでいましたね。

ERM構築に取り組み、社員の意識が大きく変化した

―プロジェクトの概要を教えてください。

吉崎:2018年度からERM構築を開始して、ERMの体制整備、役員インタビューや部門でのリスクアセスメント等を実施して、これまで個別最適となっていた活動を全社最適化できるように仕組み作りを行いました。

その後、2019年秋頃からはERM活動の一環として組織風土改善プロジェクトが始動しています。当時、経営層の強い危機感が発端となったこのプロジェクトでは、まず全従業員へアンケートを実施して、現状の課題は何か、現場の危機意識はどの程度あるのかを把握しました。

その結果、インシデントや事故が起きた時の対応が弱いことが分かり、各部門の役職者へワークショップを行いました。2020年度は新型コロナウイルスによって一次中断しましたが、2021年度からは全従業員向けeラーニングを実施しており、活動は継続中です。

 

―プロジェクトで苦労されたことはありますか。

吉崎:プロジェクトを開始するにあたっては、リスクマネジメントの基本的な概念を全社員に正しく理解してもらうことに苦心しました。ERM構築を進めるにあたっては、まずはその意味や危機管理との違いなどを共通認識として理解してもらわなくてはなりません。中には「ややこしいことはすべてリスクマネジメント室が解決するもの」と思われている方もいたのですが、それでは全社的なリスクマネジメントの対応はできません。社員全員にERMの概念を理解してもらい、動いてもらえるようにすることは大きな課題でした。

このようなERMの基本的な理解については、プロジェクト開始初期から幹部が集まる経営会議で説明したり、「ERMとは何か」をテーマにしたeラーニングを作成して全社教育を開始したりして、徐々に浸透を図っていきました。eラーニングは2019年度にERMの全体像や取り組みについて実施し、昨年度から今年度にかけてはリスクマネジメントスキルについて全4回シリーズで実施しました。

山岸:ERMの構築を進める上で重要な「リスクアセスメントシート」の作成も、なかなか苦労する作業でしたね。シートの作成にあたっては、まず全社で50名ほど任命したリスクマネージャーに集まっていただき、ワークショップを行ってリスクを洗い出しました。

ところが、まだ全体のリスクマネジメントへの理解が十分に深まらないうちに行ったこともあり、出されたリスクは基本的に自身が経験したり、社会的に既に同様の事象が起きていたりするものが中心でした。そこで、日本製薬工業協会が提示している製薬業界のリスク情報も取り込みながらリスクマネージャーの協力を得て、さらなる精度アップを図りました。

結果、組織の独りよがりに陥ることなく、内外の関係者への説明責任も果たせる品質のリスクを重点的にまとめることができたと思います。数字で評価しにくいリスクの発生確率や影響度をどうするか、影響の範囲は金銭的なものに限るのかなど内容についての悩みは尽きませんが、今後も少しずつ修正を加えてよりよいものにしたいと思っています。

 

―今回のプロジェクトの成果はいかがでしたか。

吉崎:ここ3年ほどの取り組みを通じて、会社全体のリスクマネジメント力は確かに向上していると感じています。特に、「よくない報告ほど早く伝える」といった行動は、目に見えてできるようになってきたように思います。

実は、ERMの構築によって社員のリスクマネジメントへの問題意識が高まったことで、以前よりも細かなインシデントの報告が上がってくるようになりました。もちろん問題が生じること自体は望ましいことではありませんが、このようなリスク要因を見落とすことなく伝えられることは、社員がリスクマネジメントの重要性を理解し、リスクに目を向け始めたことの証でもあります。

山岸:今回のプロジェクトでは、トップからもリスクマネジメントについて発信してもらうなど、様々な機会にリスクの意識付けをしてきました。そうした取り組みの甲斐あって、最近では社員からもリスクという言葉が頻繁に聞かれます。このような意識の高まりは、プロジェクトの成果の一つといえるでしょう。

形骸化の防止と、さらなる活性化が今後の課題

―ニュートンのコンサルティングはいかがでしたか。

山岸:常にお仕着せではないオーダーメイドのサービスを提供していただき、ありがたいと思っています。「パッケージに当てはめて完了」という作業では社内に知見も蓄積しませんし、そうならないようしっかりと頭を使わせてくれるところがとてもよいですね。

また、勝俣さんや日下さんの経験に基づく助言や他社事例などを豊富にご紹介いただけたのもありがたかった点です。eラーニングでもリスクマネジメントの豆知識をご紹介いただくなど、伝わりやすいストーリーを提供してくださり、社員の理解がより促進されたと思っています。

ちなみに、ニュートンさんでは「プロジェクト健全推進宣言」を掲げられていますが、これはなかなか先進的ですね。当社でもワークライフバランスを重視した働き方改革に真剣に取り組んでおり、非常に親和性の高さを感じました。健全な形でプロジェクトを進められるのは、双方にとってとても良いことだと思います。

 

―今後の取り組みについて教えてください。

吉崎:当社のリスクマネジメントは、現状、2本柱となっています。一つは、リスクアセスメントシートを通じた日々のリスクの洗い出しであり、これは最低四半期ごとに一回、各本部レベルで行います。もう一つが、年度始めに重大リスクを選定し、経営の最重要課題として集中的に取り組むというものです。

当社のリスクマネジメントにおいてはこの2つのサイクルを確実に回すことが重要であり、活動が形骸化していないか、各部署で適切な取り組みができているかを様々な形でモニタリングをすることもリスクマネジメント室の大切なミッションです。最近では当社内外で起こっている様々な問題を踏まえ、潜在リスクについて現場へのヒアリングを強化するなど、重大リスクの選定プロセスを改善しました。

今後も直面するリスクの洗い出しをより精緻にしながら、全社的に取り上げるべき重大リスクはしっかりと取り上げ、2本柱の取り組みの形骸化を防ぎ、常に活性化していくことに注力したいと考えています。

山岸:eラーニングについても、次のステップを検討しています。これまでに実施したeラーニングでは、実際に起きた事象に対する原因の分析やその後の対策の考え方が主な内容でした。次回以降は、リスクの予兆に気づいたり、インシデントが生じた場合にどこまで影響が広がるかを想定したりといった、リスクセンスの鍛え方をテーマに取り上げたいと計画しています。

 

―本日は誠にありがとうございました。

担当の声

アソシエイトシニアコンサルタント  日下 茜

全社員による本気の活動で独自のリスクマネジメントを構築

弊社のご支援は2018年から始まり、かれこれ約4年のお付き合いになります。その間にはERM構築にとどまらず、組織風土改善プロジェクトなど、リスクマネジメント活動全般において幅広いご支援に携わってきました。

今回のご支援の特徴は主に2つあります。ひとつは、リスクマネジメントがトップから一般従業員を巻き込んだ、まさに「全社的」な活動になっていることです。リスクマネジメント活動は特定の部署がいくら頑張ってもうまくいくものではなく、役職、部署に関係なく会社全体を巻き込んだ活動です。これまでのご支援では、経営層、中間管理職、一般従業員と対象者に合わせた活動をそれぞれ実施してきました。その結果、全社を巻き込んだリスクマネジメントの仕組みが構築でき、現在もその仕組みが機能しています。

ふたつめは、リスクコミュニケーションの創出です。新型コロナウイルス感染症の流行以前には、小野薬品工業様は対面でのインタビューやワークショップの実施に強いこだわりを持たれていました。それは、リスクについて本気の議論をしたいという思いの表れだと思います。

リスクマネジメント活動は、明日やらなくても困りませんし、成果が見えない地道な活動です。それでもここまで活動が推進できているのは、トップをはじめ各階層の強いリーダーシップはもちろんのこと、紆余曲折はしながらも他社の真似事ではなく小野薬品工業様にとって最適な形でリスクマネジメントを構築してきた結果だと思います。

お客様情報

名称 小野薬品工業株式会社
本社所在地 大阪市中央区久太郎町1丁目8番2号
設立 1947年7月4日
代表者 代表取締役 取締役社長 相良 暁
事業内容 医療用医薬品を主体とする各種医薬品の研究、開発、製造、仕入および販売
URL https://www.ono.co.jp/

(2021年6月現在)

プロジェクトメンバー

お客様

法務部 法務部長 リスクマネジメント室長(兼任)

吉崎 聡 様

法務部 リスクマネジメント室リスクマネジメント課長

山岸 徹 様

総務部 総務課 兼 法務部 リスクマネジメント室リスクマネジメント課

角田 明仁 様

ニュートン・コンサルティング

取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント

勝俣 良介

アソシエイトシニアコンサルタント

日下 茜

当社のWebサイトでは、サイト閲覧時の利便性やサイト運用および分析のため、Cookieを使用しています。こちらで同意をして閉じるか、Cookieを無効化せずに当サイトを継続してご利用いただくことにより、当社のプライバシーポリシーに同意いただいたものとみなされます。
同意して閉じる