
「Europrivacy」とはEU一般データ保護規則(GDPR:General Data Protection Regulation)第42条認証(Certification)に基づいた、GDPRを遵守していることを証明する認証制度で、欧州データ保護委員会 (EDPB:the European Data Protection Board)が承認し2022年から導入されました。ECCP(欧州認証プライバシーセンター)が管理し、第三者認証機関による評価を通じて取得できます。
GDPR準拠の証明に加え、法的リスクの低減、競争優位性の向上などのメリットがあり、データ保護を重視する企業にとって有益な認証制度です。
EuroprivacyはGDPRの認証制度
GDPR(EU一般データ保護規則)は、欧州における個人情報保護法です。DX進展が加速する昨今において、デジタルデータの利活用が広がる一方で、個人情報を中心としてデータ管理の厳格さも併せて求められています。デジタルであるが故に、一度預けた個人情報がどの範囲まで出回っているのか、データを預けている本人も把握できないといった問題などを解消する狙いで2018年に制定されました。施行からもうすぐ7年、その影響は欧州にとどまらず世界各国・地域にも波及しています。日本においても、3年ごとに実施される個人情報保護法の見直しが、GDPRに近づく形で内容が厳格化されています。
前述の通り、Europrivacyは、GDPRの要求事項への適合性を第三者が認証する枠組みです。GDPRは第42条に認証について定めており、EU加盟国や関係機関に対しGDPR規則の遵守を証明するためのデータ保護シールや認証制度(スキーム)を確立するよう奨励しています 。 EuroprivacyはGDPRの認証要件に準拠するよう設計された認証制度、データ保護シールとなります。Europrivacyは、欧州委員会とスイス教育研究イノベーション事務局によるH2020欧州研究プロジェクトを通じて設計され、試験運用の期間を経て2022年に正式に導入されました。現在はルクセンブルクの欧州認証プライバシーセンター(ECCP: European Centre for Certification and Privacy)が制度の維持や管理、認証プロセスの適正な運用を監督しています。また、独立性を確保するために国際専門家委員会(EIBE:the Europrivacy International Board of Experts)が制度を監視し、新たな法規制や技術の進展に対応するため、認証スキームの改訂および更新をおこなっています。
Europrivacy取得のメリット
Europrivacyを取得することで得られるメリットは、GDPRへの準拠を公式に証明できるだけではありません。以下に、Europrivacy認証が企業にもたらす利点をいくつかご紹介します。
- 法的リスクの低減:
- GDPRはひとたび違反すると高額な制裁金や法的措置が科されるリスクがあります。Europrivacyを取得することで、データ保護体制が適正化され、不備による違反リスクの低減や対応力向上に寄与します。さらに、GDPR違反に対する調査や制裁の際、適切なデータ保護対策を講じていたことの証拠として機能する可能性があり、罰則の軽減にもつながる可能性があります。これにより、制裁金や訴訟といったリスクを低減し、リスクマネジメントの向上にも寄与します。
- コンプライアンスの証明:
- Europrivacyの取得はデータ保護当局への報告義務に関して信頼性を高めるだけでなく、顧客やビジネスパートナーに対しても透明性を提供し、コンプライアンスへの取り組みを強調する強力なツールとなります。特にプライバシーに敏感な昨今では消費者市場において、こうした信頼性の向上はブランド価値を高める戦略的なアプローチとなるでしょう。
- 競争優位性の向上:
- GDPR準拠を公式に証明できることは、市場での競争力を高める一つの武器となります。例えば、データ保護が重要視されるEU市場においては、Europrivacyの取得が調達条件や入札基準を満たすための差別化要因となり得ます。また、競合他社と比較して信頼性が高いという印象を与え、新規顧客の獲得や既存顧客の維持に有利な状況を作り出します。
- 他の規則や法規制への拡張性:
- Europrivacyは、データ保護に関連する以下のような他の規制や法的枠組みにも適用できる柔軟性・拡張性を備えています。 Europrivacyを取得すると、GDPRだけでなく、他の国や地域のデータ保護基準にも対応しやすくなるため、国際的な事業展開を考える企業にとっては有益な認証と言えます。
例:
- ePrivacy指令(プライバシーと電子通信に関する指令)
- Data Act(データへの公正なアクセスと使用に関する規則)
- nFADP(スイス新連邦データ保護法)
- CCPA(米国カリフォルニア州消費者プライバシー法) 等
Europrivacyの取得方法
Europrivacy認証を取得するための一般的な手順は大きく3つの段階に分かれています。
1. 準備
まず、組織は自社のデータ処理活動を包括的に評価し、Europrivacy認証基準に対する現状の準拠状況を確認します。この段階での主要なプロセスは以下の通りです。
- ① 評価対象(ToE: Target of Evaluation)の特定:
- Europrivacy取得を目指すシステム、プロセス、またはデータ処理活動を明確にします。これには、データの収集、利用、保管、削除に関する全プロセスが含まれます。
- ② 準拠性の自己評価:
- 自組織のデータ処理活動がGDPRの基準に満たしているかを自己評価します。必要に応じてギャップ分析をおこない、不足事項の改善対応を実施します。
- ③ 文書化:
- GDPR準拠を証明するために、データフローマップやデータ保護方針、リスクアセスメント、管理プロセスに関する文書を整備します。これにより、監査時に求められる証跡を準備します。
2. 評価と認証
準備が完了したら、第三者認証機関 による正式な評価を受けます。
- ① 認定された認証機関による評価:
- 認証機関が、組織のデータ処理活動を調査し、GDPRに対する準拠状況を評価します。
- ② 不適合の是正:
- 調査の結果、不適合や指摘事項が発見された場合、組織は改善対応を実施し、是正措置を講じます。その後、再評価を受けることができます。
- ③ 認証の取得:
- すべての基準を満たしていることが確認されると、認証が発行されます。この際、組織名を公式のEuroprivacy証明書レジストリに公開 することが可能です。
3. 継続的なモニタリングと更新
認証を取得した後も、データ保護体制を維持し続けることが重要です。
- ① 定期的なモニタリング:
- データ処理活動や関連規制に変更があった場合、それに応じて体制を更新する必要があります。また、組織は毎年監視監査を受け、準拠性を維持していることを確認します。
- ② 認証の有効期間:
- Europrivacy証明書は3年間有効です。3年の有効期間が終了すると、再認証を受ける必要があります。再認証のプロセスでは、新たな規制や基準が反映される場合もあるため、事前に確認が必要です。
Europrivacy認証取得後の実践が肝要
EuroprivacyはGDPRの厳格な要件を満たすためのお墨付きとなり、取得することで組織に様々なメリットをもたらします。一方で、Europrivacyの取得には、GDPRの法的要件を深く理解するだけでなく、これを実務プロセスに反映することが求められます。これは、個人データの収集から利用、保管、削除に至る全ての段階において、適切な処理と管理が求められることを意味します。そのため、取得を目指す企業は、経営層のリーダーシップの下、法務部門は法的解釈とコンプライアンスの確保、IT部門は技術的な安全対策の実装、そして各事業部門は現場におけるデータ処理の適切な運用を担うなど、組織全体の連携が必要不可欠です。また、認証取得後の維持と更新のためには、継続的な体制構築と最新のGDPR動向への対応が求められます。