
「NFC(Near Field Communication)」とは、かざすだけでデータ通信を可能にする近距離無線通信技術です。スマートフォンやICカードに搭載され、日常生活のさまざまな場面で利用されています。電子決済や個人情報を扱う用途にも使われるNFCは、安全に利用するためのセキュリティ面でも優れた技術です。
NFCの仕組み
NFCは、13.56MHzの周波数を使用し、10cm程度の近距離で機器同士がデータをやり取りする通信技術です。ICチップとアンテナで構成され、電磁誘導の原理を利用して通信を行います。
NFCは、一方の機器から発生する電磁場によってもう一方の機器に電力を供給できる「パッシブ通信」が特徴です。これにより、電源を持たないICカードでも通信が可能となり、さまざまなシーンでの活用を実現しています。通信速度は最大847kbpsと、Wi-FiやBluetoothなどに比べて遅いものの、処理時間が0.1~0.2秒程度と高速なため、ストレスなく使用できます。
NFCの規格
NFCのはじまりは、ISO/IEC 18092(※1)という国際標準規格で定められた通信技術に由来しています。用途や地域によって複数の規格が存在し、代表的な規格は、「Type A」、「Type B」、「Type F」の3種類です。NFCの普及を推進する業界標準団体「NFCフォーラム」では、ISO/IEC 14443(※2)に規定されるType AとType Bの通信技術をそれぞれNFC-AとNFC-B、ISO/IEC 18092に基づくFeliCaの通信技術をNFC-Fと呼んでいます。
※1 ISO/IEC 18092:2023:システム間の電気通信及び情報交換-近距離音場通信-インタフェース及びプロトコル(NFCIP-1)
※2 ISO/IEC 14443-1:2018:個人識別用カード及びセキュリティデバイス-非接触近接型オブジェクト-第1部:物理的特性
- ● Type A
- オランダのNXPセミコンダクターズ社が開発した規格で、ISO/IEC 14443で規定されています。コストパフォーマンスが高く、世界でもっとも広く普及しています。日本では、会員証やポイントカードなどに使われています。
- ● Type B
- アメリカのモトローラ社が開発した規格で、ISO/IEC 14443 Type Bの規格に基づいています。Type Aと比べてセキュリティが高い点が特徴で、政府発行の身分証明書などに利用されています。
- ● Type F
- ソニーが開発した日本発の規格で、「FeliCa(※3)」として知られています。ISO/IEC 18092で規定され、高速なデータ通信が可能で、利便性とセキュリティのバランスが取れた技術です。交通系ICカードや電子マネーなどで利用されています。
※3:ソニー(株)が開発した非接触ICカードの技術で、同社の登録商標
NFCの主な活用例
NFCは、私たちの日常生活のさまざまな場面で活用されています。代表的な4つの例を紹介します。
- ● 電子マネー
- スマートフォンやICカードをかざすだけで支払いが完了する電子マネーは、NFCの代表的な活用例です。
- ● 交通系ICカード
- 改札機にカードをタッチするだけで通過でき、運賃の支払いもスムーズに行えます。
- ● マイナンバーカード
- 個人情報や電子証明書などが記録されており、行政手続きや本人確認などに利用されています。
- ● スマートロック
- カードやスマートフォンをかざすだけで、オフィスやホテル、家庭用の玄関ドアなどを解錠できる便利なシステムです。
NFCのセキュリティ
NFCは、便利なだけでなく高いセキュリティも備えた技術です。
NFCの通信範囲は10cm程度と非常に短いため、離れた場所からの盗聴や不正アクセスのリスクを抑えられます。通信のためには物理的に近づく必要があるため、無差別な攻撃も困難です。
加えて、NFCはデータの暗号化により、通信内容の傍受や改ざんを防いでいます。また、機器同士が通信する際には相互認証が行われ、不正なアクセスを防ぐ対策も施されています。
このように、高いセキュリティを備えたNFCですが、確実な安全性を保証するものではありません。デバイスの紛失や盗難には十分な注意が必要です。また、不正な読み取り装置によるスキミング被害の可能性もあるため、見知らぬ端末への接触は避け、信頼できる事業者のサービスを利用するようにしましょう。