
「プライバシー影響評価(PIA:Privacy Impact Assessment)」は、企業や組織が個人情報やプライバシーを取り扱う際に、事前にリスクを特定・評価し適切な対策を講じるリスク管理手法です。GDPRでは、高リスクなデータ処理についてはPIAが法的義務になっており、日本でも個人情報保護委員会からガイドラインが発行されています。プライバシー保護のニーズが広がる現代、適切な評価・対策の重要性が高まっています。
プライバシー影響評価(PIA)とは
個人情報保護法を所管する政府機関である個人情報保護委員会が2021年に公表した「PIA の取組の促進について-PIA の意義と実施手順に沿った留意点-」では、プライバシー影響評価(PIA)は以下のように定義されています。
「PIA は、個人情報等の収集を伴う事業の開始や変更の際に、プライバシー等の個人の権利利益の侵害リスクを低減・回避するために、事前に影響を評価するリスク管理手法である。」
プライバシー影響評価(PIA)は2025年1月現在、改正個人情報保護法には含まれておらず、日本では法的義務はありません。あくまで自主的な取り組みの位置付けです。しかし、GDPRでは、個人の権利や自由に高リスクをもたらす可能性のあるデータ処理についてはDPIA(Data Protection Impact Assessment)の実施が義務付けられていることから、日本でも企業や組織が個人情報を取り扱うサービスやシステムを導入する際には、プライバシーの観点からの影響評価を実施し、潜在的なリスクを軽減・回避することが推奨されるようになってきました。
また、プライバシー影響評価(PIA)は、ビジネスやシステムの企画・設計段階からプライバシー保護の仕組みを組み込む「プライバシー・バイ・デザイン」の実現手段の1つとしても有効です。
プライバシー影響評価(PIA)を実施するメリット
プライバシーリスクの事前把握と対応
サービスやシステムの情報の流れや処理プロセスを可視化し、潜在的なプライバシーリスクを洗い出します。これにより、リスクの全体像を把握し、それぞれに適切な対策を講じることが可能です。
コスト削減と効率的なプロジェクト運営
サービス提供後にプライバシー問題が発覚すると、多額の修正費用が発生し、場合によってはサービス自体が中止される可能性もあります。企画・設計段階でプライバシー影響評価(PIA)を実施し、リスク対応策を早期に組み込むことで、結果としてプロジェクト全体のコスト削減が可能です。
ステークホルダーとの信頼構築
プライバシー影響評価(PIA)の実施と結果を公表することにより、企業や組織がプライバシー保護に真剣に取り組んでいることを示し、社会的な信頼を得ることにつながります。
組織全体のガバナンス向上
従業員が実際に事業企画段階からプライバシー影響評価(PIA)に携わることで、個人情報を適切に取り扱うことの必要性を自覚するだけでなく、その過程で法令などを確認することによる教育効果も期待できます。経営層にとっても、自社の個人情報取り扱いとそのリスクを把握でき、組織としての個人情報取り扱いに関するガバナンス向上にも寄与します。
プライバシー影響評価(PIA)の進め方
プライバシー影響評価(PIA)は、以下のようなステップで進められます。
- 実施要否の判断:
個人情報を取り扱う場合、影響度に応じてプライバシー影響評価(PIA)の必要性を判断する - 準備:
実施体制やスケジュールを策定し、個人情報がどのように収集・使用・保管されているかのフローを可視化する - 実行:
2で整理したフローごとに、データ漏えいや不正利用などのプライバシーリスクを特定・評価し、対策案を検討・実行する - フォローアップ:
評価結果や対応状況を整理し、関係者向けの報告や対外公表によって、透明性を確保する
プライバシー影響評価(PIA)は、企業や組織が個人情報を適切かつ安全に利用・保管するための重要な取り組みです。評価を実施する際は、その意義や進め方を理解し、事業の内容や個人情報の取り扱い方法に合わせて、効果的に運用することが求められます。