
こんにちは。今年はトランプ大統領の話題が世界をにぎわせている一方で、日本国内ではフジテレビの不祥事が話題をさらっています。報道の中で特に目を引いたのは、発覚後のメディア対応の拙さでした。しかし、その点は皆さんも耳にタコができるくらいお聞きになったでしょうから、私は少し視点を変えて、危機が表面化する前の「発覚直後の社内対応」にスポットライトを当ててみたいと思います。そこにも重要な学びがあると感じています。
ことの経緯について、簡単に整理しておきます。数年前、元タレントによるフジテレビの女性社員(当時)に対するハラスメント事件が発生しました。この問題は当初、フジテレビの一部の幹部のみで極秘裏に対応され、コンプライアンス部門への正式な報告は行われませんでした。その後、週刊誌がこの件を報じ、問題が明るみになりました。報道によれば、示談金のやり取りがあり、当事者間で和解に至ったとされています。しかし、フジテレビは当初、この問題に関する情報を限定的にしか共有せず、対応が後手に回ったとの批判を受けました。2025年1月、当時社長を務めていた港浩一氏らが記者会見を開き謝罪しましたが、会見の内容や対応の遅れがさらなる批判を招く結果となりました。この一連の対応により、フジテレビは企業としての信頼を大きく損ない、広告主の撤退や視聴者からの厳しい目が向けられる事態となりました。
私はこの件について、少し時間を巻き戻して、ハラスメントの報告が幹部に上がってきたときの対応に焦点を当ててみたいと思います。世間の目はフジテレビのメディア対応のまずさに焦点が当てられています。自らがメディアという立場でありながらメディア対応がだらしないこと、今回の件は氷山の一角であったことなどから世間のネガティブな感情は、フジテレビ関係者の想像をはるかに超えていたと言えるでしょう。「世間の感情の最大値をいかに超える意識を持てるか」が最大の学びだと言えますが、そもそもハラスメント報告が上がってきたときの対応はどうだったのでしょうか。自社で同様のことが起こった時に適切な対応が取れていたでしょうか。
今回のような、被害者本人のプライバシーに十分な配慮が必要になる事態への対応には、実は結構、落とし穴があります。事実、フジテレビのケースでは、ハラスメントの報告が一部の幹部に留まり、正式な手続きを経ずに内部で処理される流れになりました。加えて、当事者へのヒアリングすら行いませんでした。被害者のプライバシー保護という名目のもと、問題を拡大させないようにする意識が働いたと言われています。ちなみにこれは私の推測になりますが、同社に関しては「過去にも同様の処理をしてきたがため、今回も同様の処理をすればいい」と軽く捉えてしまったがための結果である可能性もあります。
この「被害者のプライバシー保護」という点が企業にとっての落とし穴になりがちです。組織の一般的なルールではコンプライアンス部門への報告が求められますが、大企業になるとコンプライアンス部門も大人数を抱え、情報の統制が難しくなるケースがあります。そのような場合、当事者にヒアリングを行うのは当然ですが、特に被害者がそれを望んでいない場合、プライバシーを守るために本来の報告ルートを避けることが正当化されてしまう可能性もあります。しかし、それが結果的に「問題を隠す」ことにつながり、組織全体としてのリスクを高めることになりかねません。
では、どうすればよいのでしょうか。組織として、フジテレビのように被害者本人のプライバシーが強く保護されるべき問題が報告された際の報告ルートを再点検することが不可欠です。特に、機密性の高い情報が上がってきた際に、既存の報告ルートでは関係者が報告を躊躇してしまうリスクがないかを検討する必要があります。報告プロセスを見直し、誰が情報にアクセスできるのか、どのような手順で情報を管理し、適切な関係者にエスカレーションするのかを明文化することで、慎重かつ適正な対応が可能になります。特に、内部通報の内容がプライバシーに関わる場合、社内の標準的な報告ルートとは別に、報告先を社外の第三者機関に設定する、あるいはコンプライアンス部門内でも特定少数の担当者に情報共有を制限するなどの工夫を行っている企業もあります。
他組織のだらしなさをみて批判するのは簡単です。フジテレビの報道を見て、「記者会見対応にこそ問題がある」とだけ考えて処理してしまっては足元をすくわれます。そもそも自社で第一報が上がってきた時に、本当に適切な対応が取れるのか。改めて点検してみることが必要です。例えば、緊急時の報告ルートをテストし、匿名での相談対応が機能するかどうか、シミュレーションを行ってみると良いでしょう。内部通報制度などの仕組みを備えているだけで満足せず、それが実際に機能するのかどうか、しっかりと確認しておくことが、今後のリスクマネジメントの鍵となるでしょう。
また次回のコラムをお楽しみに!