なぜ起こる?「想定はしていた、でも防げなかった」~熱中症に学ぶリスクマネジメント~

先日の夜、親しい友人たちと集まる機会がありました。その中のひとりが「今日は日中、BBQでずっと焼き係をしていて疲れたよ」と話していました。彼は私よりも一回り若く、普段から運動もしている元気なタイプです。
その後、1時間ほど談笑を楽しんでいたのですが、突然彼が体調を崩し、その場で倒れてしまいました。後に聞くと、熱中症だったとのことです。
知っているだけでは防げない、「自分だけは大丈夫」が生む落とし穴
熱中症は誰もが知っているリスク。つまり、リスクの「特定」は済んでいます。それでも防げなかったとすれば、「評価」や「対応」の甘さが原因です。
- 「まだ若いし運動しているから大丈夫」
- 「一応、気をつけているから問題ない」
- 「これくらいの疲労感は過去にもあった」
こうした“自分だけは例外”という思い込みが、リスクの深刻さを正しく評価する目を曇らせます。いわゆる正常性バイアスです。なお、正常性バイアスとは、「自分に限って大丈夫」と思い込み、危機を過小評価してしまう心理のクセです。だから、ニュースで見る熱中症の被害も、どこか他人事のように感じてしまう。
私は、倒れた友人のことをよく知っていますから断言できますが、彼も、まさにそのような状況にあったと言えます。
私も陥りかけた罠
かく言う私も、この2週間ほど前、熱中症になりかけた出来事がありました。
その日は、片道10kmの自転車移動のあと、炎天下で2時間ほどテニス。
取った対策は、スポーツドリンク(500ml)を体が求めるままに5本飲み、プレー後にはクーラーの効いた控え室でアイスを食べながら30~40分しっかり休憩してから帰宅。十分に慎重なつもりでした。
しかしその夜、頭痛と強い倦怠感が襲ってきました。「まさか自分が……」という思いが頭をよぎります。そうです。熱中症にかかっていたのです。
思い返せば、少し自信過剰だったのかもしれません。「これまで、もっと暑い日でも平気だった」という曖昧な過去の記憶を頼りに「水分をしっかり取って、少し休めば大丈夫」と軽く考えていたのです。しかも、テニス中に仲間から「顔が異様に赤いけど大丈夫?」と声をかけられていたのです。この時、すでに体はSOSを発信していたにもかかわらず、私はそのサインを無視していたのです。
着眼点が増えることに意味がある
自分の経験、そして知人のケースを目の当たりにし、私は自分の認識の甘さを痛感しました。ただおかげで、熱中症リスクや対策に関する発言をする人がいると今まで以上に敏感に耳を傾けるようになりました。
具体的には例えば熱中症指数をとても気にするようになりました。背景をお話ししますと私にはやたら「熱中症指数が...」と発言する仲間がいたのです。「今日はテニスをするべきじゃない!なぜなら熱中症指数が31以上だからだ」とか「今日は35度近いけど熱中症指数は29だからテニスに参加する!」という感じでした。私も他の仲間も「ふーん」くらいにしか聞いていなかったのですが、彼の言葉を意識するようになってから、熱中症指数と倦怠感や疲労感の大きさが比例することを実感できるようになりました。
ちなみに、熱中症指数がなんなのかわからない方のために説明しておきますと、熱中症指数とは、気温だけでなく、湿度や日差しからの輻射熱も考慮して、熱中症の危険度を判断するための指標です。正式には「暑さ指数(WBGT)」と呼ばれ、人体が受ける熱の影響をより正確に表すため、熱中症予防のための行動目安として活用されています。熱中症指数はこちらで確認できます。
さてさて、こうした私の行動変容を、リスクマネジメントの文脈で捉えますと、私は熱中症のリスク分析や評価の甘さに気づき、リスク対策の甘さに気づいた、ということになります。リスク管理の本質は、机上での計画だけでは不十分だと改めて気づかされたのです。
考えてみれば、最初から全てのリスクを机上で正しく分析・評価できるわけがありませんよね。むしろ、リスクアセスメントというものは、最初から正確に分析・評価できるとは限らないという認識を持っておくべきなのでしょう。トライアル・アンド・エラーを繰り返しながら、常にリスク評価と対策を見直していくこと。まさにPDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)が必要なのです。
ではビジネスの世界でこれが実践できているのかというと……怪しいですよね。おそらく年1回、やらされ感いっぱいのリスクアセスメントの見直しを行い、出てくるのは修正箇所のほとんどないリスクアセスメント結果。1年間も活動してきて「リスクを見直せるようなフィードバックを得る経験を一切してきませんでした」と言っているようなものです。果たして本当にそうなのか、謙虚に考え直してみたいところですね。
おまけ:私が辿り着いた熱中症対策
最後に、これから夏本番で多くの皆さまに関係する話だと思いますので、前段で話した熱中症について、私が現在辿り着いた結論を述べておきたいと思います。自分でも調べ、周囲の色々な人の話を聞き、熱中症対策は今のところ以下のように落ち着いています。
- 熱中症指数を確認する
気温だけでなく湿度も考慮し、指数が高い日は無理をしない判断を。 - 水分と塩分を同時に補給する
水分だけでは体内の塩分濃度が下がり、かえって危険です。スポーツドリンクなど電解質を含む飲料を意識的に摂りましょう。 - 首元を冷やす
首筋には太い血管が通っています。濡れタオルやアイスノンで冷やすことで、体温の上昇を抑えられます。 - 日陰での休憩を徹底する
直射日光を避け、こまめに日陰で休憩を。 - 自分の体のサインに耳を傾ける
「いつもより疲労感がある」「体がだるい」といったわずかな変化は、リスクの予兆です。 - 他者の言葉に素直に反応する
仲間からの「顔が赤いよ」「大丈夫?」という言葉は、客観的なリスクのサインです。決して軽視してはいけません。
皆さまもどうかお気をつけてお過ごしください。そして「これは有効だよ」という対策をご存じの方がいらっしゃいましたら、ぜひ教えていただけますと幸いです。よろしくお願いします!