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あの病気は今-H5N1鳥インフルエンザの最新状況

掲載:2011年02月03日

コラム

2009年の春に発生したH1N1によるインフルエンザ・パンデミックは一応の落ち着きを見せました。インフルエンザに関するニュースはあったとしても、冬季の流行に関するものが多くなっています。それにともない「インフルエンザ・パンデミックなんて、あの程度のもの」という受け止め方が広がっているようです。

けれども、そもそもH1N1のパンデミック騒動が起こる前に、最も懸念されていたことは、H5N1の大流行でした。「高病原性(発症すれば重症化し死者も多くなるもの)のH5N1鳥インフルエンザ」が新型インフルエンザになり大流行すれば、社会が大きな被害を受けるからです。

幸いなことにH1N1は比較的症状が軽いものでした。H5N1による死亡率は現在累計で60%近くになっていますが、H1N1による死亡率は米国で約0.02%、日本で約0.001%でした。また年齢別で見たときの罹患率も、日本では20歳-69歳という社会活動の主力となる層では極めて低い数値になっています。H5N1の予測で恐れられたような、医療機関が対応不能になるほどの多数の患者も、社会活動に支障をきたす様な死者・重症者も発生しなかったのです。では、H1N1が流行したからと言ってH5N1については、もう気にしなくても良いのでしょうか?

         

日本をはじめとする鳥への流行状況

その名の通りH5N1鳥インフルエンザは、主として鳥の間で感染するものです。

日本では2010年12月に島根県の養鶏所で集団感染が確認されました。この感染で確認されたウイルスは、稚内で野生のカモの糞から確認されていたウイルスと近縁のものと判明し、渡り鳥から感染が拡がった可能性が高いことが分かっています。国内の農場や養鶏場での高病原性ウイルスの流行は2007年の宮崎、岡山以来のものです。鶏2万1549羽の殺処分が行われ、12月2日からは焼却処分が続きました。5~6月にはチベットからシベリア南部にかけて北に帰る野鳥の多数がH5N1に感染し死亡していました。今こうした渡り鳥が越冬のために南下してきています。12月に韓国で野鳥への感染が確認されています。また日本でも出水のマナヅルへの感染が確認されました。

集団感染が相次ぐ、海外でのヒトの流行状況

鳥への感染の拡大は、そのまま、ヒトへの感染拡大の懸念につながります。なぜなら、ウイルスは変異しやすい性質を持つことから、鳥の間で感染が繰り返される中で、やがては鳥から豚、豚からヒトへ、というように最終的にヒトへの感染力を獲得するのは時間の問題だからです。事実、既にいくつかのヒトへの感染例が上がっています。

まだ日本や欧米といった先進国では症例がありませんが、インドネシアやエジプトなどではH5N1によるヒトの死亡例が報告されています。2010年10月にインドネシアの西スマトラ州で5歳女児がH5N1で死亡した疑いがもたれました。他にも8月~10月に3名が死亡しています(インドネシアでの死亡率は80%超)。他にはエジプトでは8月に2名の発症が確認され、うち1名が死亡しています。ベトナムでも3月と4月に2名ずつが発症しています。

中国でのヒトへの感染事例

日本と近く人的交流の多い中国でも、ヒトへの感染例が数多く確認されています。

2010年11月17日に新しい確定例が報告されました。患者は、香港の59才女性で、患者は11月2日に発症して11月14日に入院しました。患者は肺炎と診断され重態となりましたが、回復に向かいました。この患者には、上海、南京、杭州への旅行歴があり、中国本土でH5N1が人知れず広がっていることが窺えます。他にも湖北省の妊娠中の22歳女性が5月23日に発症し、6月3日に死亡しています。疫学調査により、病気あるいは死んだ家禽への曝露歴が確認されています。

H5N1によるパンデミックの可能性

これまで述べたようにH5N1の活動は2009年春のH1N1パンデミック以前と比べ衰えている事実はありません。高病原性インフルエンザとしてパンデミックを引き起こす危機は、依然として過ぎ去っていないのです。

むしろ2010年は発症者・死亡者は増えているという研究結果も発表されています。この研究はフランス国立公衆衛生研究所の研究チームによるもので、2008年に一旦減少した感染例が2009年に再び増加し始めたといいます。2003年に広がりだして以来、全体を通してみれば世界の H5N1 の状況はそれほど改善されていないとも主張しています。

パンデミックBCPに関心を持つ方は根拠のない警戒解除などせず、テレビや新聞だけではなく一般報道以外の専門機関(国立感染症研究所など)からの情報にも注意を払うことをお勧めします。
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