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信用スコア

掲載:2019年12月06日

コラム

昨今、消費者の個人情報が本人の意図していない場面で活用され、企業の個人情報の取り扱いが問題となっています。一方で、事前に個人から許諾を得て、個人情報を利活用するサービスが展開され始めています。その一つに、個人の信用度を数値化した「信用スコア」という指標を用いる手法があります。中国ではすでに民間企業から行政機関まで信用スコアが幅広く活用されています。今後、信用スコアサービスの拡大が見込まれる日本でも、信用スコアとはそもそも何か、個人情報を扱う上で注意すべきことは何か、をご説明いたします。

         

信用スコアとは

信用スコアとは、「あなたはこのくらい信用できる人ですね」という信用度合いを様々な個人データ(個人のプロフィールや支払い能力、購買履歴等)をもとにスコア化(数値化)したものです。英語ではクレジットスコアと呼ばれますが、まず、アメリカや中国でそれぞれ独自の信用スコアが浸透しつつあり、日本でも2018年末頃から注目されています。

2019年11月時点では、信用スコアを用いたサービスをリリースしている国内企業は12社にのぼり、今後ますます増えていくことが見込まれます。

  会社名 信用スコアを用いたサービス名
1 クラウドワークス クラウドスコア
2 セカンドサイト(新生銀行グループ) SXスコア
3 J.Score(ソフトバンクとみずほ銀行の共同出資) AIスコア
4 インティメート・マージャー 信用スコアサービス
5 エルテス Web信用スコア
6 LINE LINEスコア
7 ヤフー Yahoo!スコア
8 NTTドコモ ドコモスコアリング
9 メルペイ 未発表
10 テーブルチェック TableCheckカスタマースコア
11 Origami 未発表
12 タイミー 未発表

表1:信用スコア事業に着手している国内企業
公開資料を基にニュートン・コンサルティング作成

信用スコアは誰のための仕組みなのか

信用スコアの定義は信用スコアを利用してサービス提供している企業によって異なります。つまり国が共通の定義を定めて、各社その定義に従っているというわけではありません。では、この仕組みを使うことで誰にメリットがあるのでしょうか。それは、活用方法によりますが、信用スコアを利用してサービス提供している企業にも、スコア化された個人にもメリットがあります。

端的にいうと、信用スコアは普段の行いが善い人にはより良いサービスを提供し、行いが悪い人に対してはサービスを制限することに活用されます。

信用スコアを利用してサービス提供する事業者のメリット

 自社サービスに信用スコアを導入すると、利用者の悪い行いが減少する傾向にあります。例えば、あるサービスを利用する場合、悪い行いをすれば自分の信用スコアが下がり、サービス利用を制限されるとします。利用者は、自分の信用スコアを下げないように道徳的に正しい行動をとるようになります。中国ではネット通販大手アリババ集団の金融子会社が提供する信用スコア「芝麻信用」をレンタカーサービスに導入すると、保証金を徴収する方法よりも、利用費用の踏み倒しが52%減少、交通罰金の踏み倒しが27%減少、車の紛失が46%減少するという効果がでています(※1)。 利用者のマナー向上に伴い、利用者の不正行為の管理にかかっていた費用を削減できました。

信用スコアにより点数付けされる個人のメリット

ユーザー側のメリットは、道徳的に当たり前のことをしていれば、信用度が高くなり、様々な高付加価値サービスを受けられる点です。例えば、先ほど例に挙げた「芝麻信用」の信用スコアのメリットでいえば、上述のレンタカーやホテル、図書館の保証金が不要になったり、消費者金融の審査がすぐに通ったりします。一方、信用スコアが低い人は、利用するサービスが制限されます。

(※1) 松ヶ枝優佳(2019)「いよいよ始まる日本の評価経済 メルペイがもたらす日本の新たな経済圏」(2019/12/3にアクセス)

信用スコア活用事例

「Airbnb(エアビーアンドビー)」 シェアリングアコモデーションサービス
米民泊仲介大手Airbnb(エアビーアンドビー)が運営する同名の民泊仲介サービス「Airbnb」は、ホストとゲストの双方がサービスの利用時に評価したレビューをもとにしてサービスを提供します。部屋の清潔さ、事前のレスポンス等さまざまな点でお互いを評価し合います。ただ、ホストを始めたばかりであればレビューが全くなかったり、ゲスト情報が全く分からない状態になったりする場合もあります。そんな時、信用スコアがあれば両者の信用度が数値化されることで、安心して取引を行うことが可能となります(※2)。 実際に中国では、「芝麻信用」と「Airbnb」が連携され活用されています。
「メルカリ」 消費者向け個人売買
フリマアプリ「メルカリ」のような面識のない人と取引を行うC to Cサービスにおいて客観的なスコア指標の導入が検討されています。誰でも簡単に売り買いが可能なメルカリですが、面識のない人と本当に取引が無事完了できるか?納品物の質は劣悪ではないか?著しい納品の遅れはないか?という不安を持つ人は少なくありません。そこで、納品物の質の高さや納品の期日順守、取引前のメッセージの丁寧さ等の情報をもとに信用スコアを生成する仕組みを作り、それを活用する動きがみられます。信用スコアに裏付けられたユーザー同士であれば、取引上の不安を払拭することができます(※3)。
「J.Score(ジェイスコア)」 個人向けローンサービス

みずほ銀行とソフトバンクの共同出資会社が提供する個人向け融資サービスです。従来の融資は、年齢が若く低年収で勤続年数が短ければ、審査基準から外れやすい対象でした。しかし、「J.Score」は若い人でも将来への期待を信用スコアに反映し、借入額や金利がよくなる仕組みです(※4)。

このように信用スコアは様々な場面で活用され始めています。この背景には、スコアリングの算出を支える機械学習やAI技術の進歩が挙げられます。スコアリングには多くの場合、機械学習・AIの技術が用いられており、数千~数万件にもおよぶデータから算出されることもあり、技術の進歩なしには成し得ないことだといえます。

(※2) INNOVATION HUB(2019)「シェアリングエコノミーのキモはフィンテック~Airbnb、Uberが「信用創造」できるその理由」(2019/12/03にアクセス)
(※3)メルカリ(2019)「MERPAY CONFERENCE 2019_SEP.」(2019/12/03にアクセス)
(※4)J.Score(2019)(2019/12/03にアクセス)

信用スコアを扱う上でのリスク

サービスを一層便利することができる信用スコアですが、課題もあります。

具体的には、AIがスコアを算出するのでその詳細が不透明になってしまい、差別的な評価を下す可能性があります。

ある世界的な企業では、履歴書から算出された5段階のスコアをもとに人材採用をしようとしていましたが、バイアスがかかっていたため中止しました。スコア算出するために、過去10年分の履歴書をAIに学習させ、適切な人材を高スコア化させる仕組みを目指していました。しかし、そもそも特定の職種、男性を採用することが多い技術職では、男性の方が好ましいと判断されてしまいました。幸い、このスコアの問題点が明るみになり、運用されることはありませんでしたが、スコア算出の仕組みを十分把握する必要があります(※5)。

次に、企業が信用スコアを運用する上で気をつけなければならないことがあります。2019年にある企業が信用スコアをリリースしましたが、激しい非難を浴びました。その企業サイトの既存IDを持っているユーザーは勝手にスコアがデフォルトで作成されていたからです。

しかも、スコアを利用したくない人はサイトにログインしてオフにする手間がある、オプトアウト方式をとっていました。オプトアウト方式にするのであれば、ユーザーに目に見える形でサービスのスタートをメールやサイトで通知すべきですが、そういった対応もありませんでした。また、作成がオンの場合には自動的に外部のパートナー企業に提供されるのではないのかという指摘もありました。加えて、自分のスコアが何点で提供されているのかといえば、点数自体も本人が確認できず、炎上につながりました(※6)。

これらの先例を踏まえて、企業はそもそも信用スコアをどのように定義づけ、何のために使用するのか明示する必要があります。

算出データにバイアスがないか?利益を受ける対象者だけでなく不利益を被る対象はいないか?などを考慮することが求められます。また、企業には説明責任が求められるため、企業としてプライバシーポリシーやAIの活用指針を公表すべきです。ユーザー本人にデータを分析する目的や利益、外部の提供先企業はどこか等を通知し、本人から明示的な同意を得て、AIが算出するロジックの説明責任を果たせる状態にすることが重要です。当然個人データの取り扱いには細心の注意を払う必要があり、国内においては個人情報保護法、さらにはGDPR(一般データ保護規則)等の世界各国の法律にも留意した対応をしましょう。

他方、個人としては、AIのスコアリングが不透明で自身のデータが不利益に扱われる可能性を考慮しましょう。自分の個人データがどのように取り扱われているか、個人情報の利用目的を同意する際に確認し、企業のプライバシーポリシーに注意しましょう。

今後データ活用は益々進み、信用スコアサービスも必然的に伸びていくことが見込まれます。まず企業がユーザーにとって信頼に足る存在になることが信用スコアサービス拡大のカギとなるでしょう。

(※5)パーソナルデータ+α(2018)「プロファイリングに関する提言案付属 中間報告書」(2019/12/03にアクセス)
(※6)藤代裕之(2019)「ユーザーが自分の信用スコアすら確認できない「Yahoo!スコア」提供が浮き彫りにした問題点」(2019/11 /05にアクセス)

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