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東日本大震災から10年

東日本大震災は日本のリスクマネジメントをどう変えたか~10年の歩みとこれからのBCP~

2021年02月01日

東日本大震災当時の日本企業のBCP

ニュートン・コンサルティング株式会社
代表取締役社長 副島 一也

弊社は創業当時よりBCPの普及啓発に尽力してきましたが、東日本大震災が起きた2011年当時、BCP(事業継続計画)という言葉は今ほど社会に浸透していませんでした。1995年の阪神・淡路大震災や2001年のアメリカ同時多発テロなどを機にBCPを策定されていた企業や組織もありましたが、そうした企業や組織は先進的であったと言えるでしょう。しかしながら、それらのBCPが実際に震災で機能したかといえば、残念ながらあまり有効に機能しないケースが多く見受けられました。

東日本大震災において多くの企業や組織のBCPが機能しなかった理由の一つとして、BCP策定が担当者のみによって行われ、トップや現場が十分に参加できていなかったことが挙げられます。一般的にBCPの重要性が強く認識されていなかった当時、BCPの策定に積極的に取り組むトップは稀でした。多くの場合、BCP策定はトップに相談したり承認を得たりというプロセスを経ることなく、担当者レベルで行われていたのです。その結果、担当者が試行錯誤してBCPを策定していても、トップや現場の人々がその内容を把握していないという事態が生じました。災害時に実際に指揮をとるトップや復旧作業にあたる現場の人々が理解していないのでは、いざという時にBCPを機能させることは難しいでしょう。

また、当時のBCPが十分に機能しなかったもう一つの理由として、内容が現実に即しておらず、合理性に欠けていたことも挙げられます。例えば、工場設備で多く見られたBCP対策として、「生産ラインが破損して使えなくなった場合は別の拠点のラインに切り替える」といったものがありました。これは一見有効な対策に見えますが、実際には生産ラインの切り替えはそう簡単にできることではありません。まず、代用する生産ラインの設備や仕様、扱う技術者のレベルが完全に一致している必要があります。さらに、別の場所で生産するためには仕入れや出荷のルートも変えなくてはなりません。災害の規模によっては、予備の生産ラインも同時に破損することもあり得るでしょう。こうしたことを考えると、生産ラインを予備のものに切り替えるよりは、修理して復旧させた方が早い可能性もあります。

東日本大震災当時はBCPを策定している企業は少なく、策定している場合も、希望的観測に基づく「絵に描いた餅」になりがちでした。東日本大震災は、BCPを策定していなかった企業にBCPの重要性を気づかせるとともに、BCPを策定している企業には、より実効性のあるBCPに改善する必要があることを痛感させる出来事だったと言えるでしょう。

 

東日本大震災後のリスクマネジメントの変化

東日本大震災を機にメディア等でもBCPが取り上げられるようになり、BCPが注目されるようになりました。リスクマネジメントのコンサルティングをする中で感じた大きな変化は、経営のトップが積極的にBCPに関与されるようになったということです。弊社では、BCP策定のご支援にあたりトップの意思や方針を明確化するためトップインタビューをさせていただいていますが、東日本大震災以前にはインタビューの実施をお願いしても実現できないことが多々ありました。ところが、震災後には多くの企業や組織のトップが意欲的にインタビューに応じてくださるようになりました。

また、東日本大震災を契機として、経営のあり方そのものも見直されることになりました。経営においてコスト削減や効率化は非常に大切です。多くの企業が「必要な物を、必要な時に、必要な量だけ」生産するというジャスト・イン・タイムの方式やコストメリットを重視して仕入先を絞るなど、生産性の追求を第一義においた経営をおこなっていました。しかし、在庫を持たないことや単一の仕入先に依存することは災害時に大きなリスクとなります。実際、東日本大震災で自社工場が生産停止となったり、サプライチェーンからの供給が断たれたりして、在庫切れとなった企業が多く見られました。このような経験により、多くの企業では生産や物流のあらゆる工程で一定の在庫を持つようにするなど、在庫管理や購買の方針変更を検討するようになりました。

人々の働き方も、いざという時に事業が継続できる柔軟性のある体制づくりを目指して変化していきました。業務の属人化や個人への依存を極力防ぎ、多能工化によって社員がお互いをフォローできるようにすることで、災害などの不測の事態にも対応できます。さまざまな条件の人々が互いをサポートしながら柔軟に働ける環境は、ダイバーシティという観点でも望ましいと言えるでしょう。

このように、東日本大震災を機に企業や組織のBCPへの向き合い方が変わる中、弊社に寄せられるご相談内容にも変化が見られました。震災後に多くいただいたのは、「BCPが震災で機能しなかったため、評価や改善の提案をしてほしい」というご相談です。とはいえ、そのような企業の皆様が策定しているBCP文書に目を通しても、特に問題は見受けられないことがほとんどでした。多くの企業において、問題は文書の内容ではなく、文書の作成以外の活動をしてこなかったという点にあったためです。

BCPを策定している企業の中には、いつの間にかBCP文書の作成が目的になってしまい、完成後は運用のための活動を何もしていないという企業が多くありました。文書の作成工程で多くの人を巻き込み、BCPへの理解を深めていただいたならば意味のあることですが、BCPは文書を作って終わりではありません。そのため、BCPの実効性を高めたいとお悩みのお客様には、演習やワークショップ等、BCPを機能させるための活動を実施するようご提案させていただきました。

BCPにおいては、形骸化を防ぐための継続的な活動が大切です。そのためには、単年度で活動を終えるのではなく、策定後も常に進化させていく必要があります。もともと弊社のご支援では中長期計画をご提示してきましたが、東日本大震災の経験から多くのお客様がその必要性を認識してくださり、数年計画のプロジェクトとしてBCPに取り組み、その後も改善活動を継続してくださるようになりました。

ニューノーマルを生き抜くためのリスクマネジメント

東日本大震災から10年が経つ今、世界は新型コロナウイルスのパンデミックという新たな苦難に直面しています。地震などの災害を想定したBCPには取り組んできたものの、感染症に対する備えは十分でなかったという企業や組織も多いのではないでしょうか。また、近年では気象災害も激甚化し、それまでのBCPでは対応できないケースが出てきています。

このような中、BCPは地震や津波などリスクの原因事象ごとに対策を講じる「原因事象型」から、原因事象に関わらず被災する経営資源ごとに対策を講じる「結果事象型」へと変わってきました。現在の企業や組織を取り巻く様々なリスクに対応するには、BCPは一つのシナリオに基づくのではなく、できるだけ柔軟に多くの方法を組み合わせられるようにする必要があります。弊社へのご相談も、いわゆるオールハザードBCPについてのご相談が非常に多くなってきています。

また、SDGsの取り組みなど、サステナブルな社会の実現においてもBCPは重要性を増しています。企業や組織のリスクマネジメントの取り組みについては、コーポレートガバナンス上も開示が求められるなど、今後リスクマネジメントが経営戦略の中で重要な位置づけになることは間違いありません。

東日本大震災以降、日本の企業や組織はBCPを含めたリスクマネジメントの重要性を深く理解し、改善に努めてきました。ニューノーマルの時代を迎えた今、多くの企業や組織の皆様が、より柔軟性があり実効性の高いオールハザードBCP、ひいては全社リスクマネジメント体制を構築すべく注力されています。リスクマネジメントは終わりのない闘いですが、苦難に学び、教訓を活かすことで、着実に進化することができるでしょう。不測の事態が頻発する時代においても、状況を見据えて泥臭い努力を続けていけば、「あの時もっとこうしておけば良かった」を失くすことができるはずです。

先の見通せない時代だからこそ、弊社はリスクマネジメントを専門とするコンサルティング会社としての知見を活かし、ニューノーマル時代のリスクマネジメントを全力でご支援したいと考えています。

 

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