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国連が掲げる防災ガイドライン「仙台防災枠組2015-2030」とは(後編)

掲載:2019年02月07日

コラム

前編では、「仙台防災枠組2015-2030」の概要及び企業に求められる対応をご紹介しました。本稿では、「仙台防災枠組2015-2030」採択に至るまでの経緯や採択後の国際社会の動きについて解説します。

         

「仙台防災枠組2015-2030」採択までの国際社会の取り組み

災害に対する国際社会としての取り組みを主導してきたのは、国際連合(以下、国連)です。国連は国際的な防災戦略について議論する場として「国連防災世界会議」を開催し、その成果を文書としてとりまとめ、各国に取り組みを求めてきました。「仙台防災枠組2015-2030」は2015年の同会議で採択されたものです。

【災害に対する国連の主な取り組み】

会議 開催年 開催地 概要
国連総会 1987年 ニューヨーク
  • 1990年代を「国際防災の10年」とすることを決議
  • 度重なる自然災害による損害・混乱を、国際的な協調行動により軽減することを目指す
第1回
国連防災世界会議
1994年 横浜市
  • 「より安全な世界に向けての横浜戦略と行動計画(横浜戦略)」を採択
  • 同様の自然の脅威にさらされている国同士の情報交換、共同防災事業、国際地域センターの設立・強化を各国に求める
  • (開催事務局: 国連国際防災戦略事務局(UNISDR))
第2回
国連防災世界会議
2005年 神戸市
  • 横浜戦略の見直しに加え、2005年から2015年に各国・機関が取り組むべき防災施策のガイドラインである「兵庫行動枠組2005-2015(兵庫枠組)」を採択
  • 「防災を国、地方の優先課題に位置づけ、実行のための強力な制度基盤を確保する」など5つの分野について、国レベルの制度的・法的枠組の整備、災害リスク評価等の優先行動を設定
第3回
国連防災世界会議
2015年 仙台市
  • 兵庫枠組の後継として、「仙台防災枠組2015-2030」を採択

 

既にお気づきだと思いますが、いずれの国連防災世界会議も日本で開催されています。当然、日本政府としても、国連防災世界会議で採択された決議を無視することはできません。日本の防災にとっても、国連防災世界会議(及びその決議)はとても重要なものとなっています。

また、過去の災害から日本が蓄積してきたさまざまな教訓や優れた事例を国際社会へ発信し、災害リスク軽減・防災へのコミットメントを表明し続けてきたことに対して、国連からも日本の取り組みは高い評価を得ています。

だからこそ、日本は、災害に対する取り組みを止めることなく、むしろ世界をリードする“防災先進国”として、今後もより一層の取り組みが求められることでしょう。

「仙台防災枠組2015-2030」で新たに示されたこと

「仙台防災枠組2015-2030」がこれまでの戦略や枠組と異なる点としては、まず、グローバルターゲットとして、各国が達成すべき事項・目標が明確に示されたことが挙げられます。
また、「より良い復興」という新しい考え方も提示されました。これは、災害によって街等が破壊された際、その復興の過程において、次の災害を見据え、災害に対してより強靱な街づくりを行うことです。

さらに、災害に対する取り組みを行うステークホルダーとして、各国の政府が主要な役割を担うと同時に、地方公共団体や民間団体もその責任を分担すべきであるとしている点も特徴的です。前編でも述べた通り、企業も主体的な取り組みを求められます。

【仙台防災枠組 防災指針の概要】

I. 前文

II. 期待される成果とゴール
  • 成果:
    人命・暮らし・健康と、個人・企業・コミュニティ・国の経済的・物理的・社会的・文化的・環境的資産に対する災害リスク及び損失を大幅に削減する
  • ゴール:
    ハザードへの暴露と災害に対する脆弱性を予防・削減し、応急対応及び復旧への備えを強化し、もって強靱性を強化する、統合されかつ包摂的な、経済的・構造的・法律的・社会的・健康的・文化的・教育的・環境的・技術的・政治的・制度的な施策を通じて、新たな災害リスクを防止し、既存の災害リスクを削減する
  • 7つのグローバルターゲット:
    ①死亡者数、②被災者数、③経済的損失、④重要インフラの損害、⑤防災戦略採用国数、⑥国際協力、⑦早期警戒及び災害リスク情報へのアクセス
III. 指導原則
  • 災害リスクを防止・削減する一義的な責任は国が有する
  • 災害リスク削減に対しては、各国の国内状況・統治体制に適した形で、中央政府、各セクター、ステークホルダーが責任を共有する
  • 災害のリスクの管理は、人々とその財産、健康、生活等を保護することを目的とする ? 災害リスク削減には全社会型の参画と協力が必要であり、女性と若者のリーダーシップが促進されるべきである
  • 災害リスク削減と管理には、行政・立法の性格を持つ全ての国家機関の全面的な参画と、官・民のステークホルダーにわたる責任の明確化が必要である
  • 地方自治体と地域コミュニティによる災害リスク削減の能力を強化することが必要である
  • 災害リスク削減には、マルチハザードアプローチと包摂的な意思決定が必要である
  • 関連する政策等の開発、強化、実施においては、持続可能な開発と成長、食料安全保障等の各アジェンダにわたって一貫性を目指す必要がある
  • 災害リスクは、各地方に特有な性質を有している
  • 災害発生前に投資して潜在的なリスク要因に対処することは、発災後の応急対応や復旧よりも費用対効果があり、また持続可能な開発に資する
  • 「より良い復興(Build Back Better)」や災害リスクの教育・意識啓発の向上を通じて、災害リスクの創出の防止・削減を行うことが重要である
  • 国際協力の更なる強化は、効果的な災害リスク管理のために不可欠である
  • 開発途上国は、先進国やパートナーからの財政支援等を通じた、十分で持続的な時宜を得た支援が必要である
IV. 優先行動

  優先事項1:災害リスクの理解
  優先事項2:災害リスク管理のための災害リスクガバナンス
  優先事項3:強靱化に向けた防災への投資
  優先事項4:効果的な応急対応に向けた準備の強化と「より良い復興」

 

V.ステークホルダー(防災関係者)の役割
  • 市民社会、ボランティア、コミュニティ団体は、公的機関と連携し、災害リスク削減のための取り組みに参加する
  • 学術機関、科学研究機関は、地域コミュニティ及び地方行政機関の活動に対する支援や、政策と科学との連携支援などに取り組む
  • 企業、専門家、民間金融機関、慈善団体は、災害リスク管理のビジネスモデル慣行への統合、従業員や顧客の意識啓発・訓練などに取り組む
  • メディアは、市民の意識の啓発や理解の向上、リスク、ハザード、災害情報の普及などに取り組む
VI. 国際協力とグローバル・パートナーシップ
  • 開発途上国には、災害リスク削減に向けた取り組みを強化するため、国際協力を通じて実施手段を提供する
  • 二国間、地域的、他国間の取決めを通して、技術や情報等の共有を強化する国際機関は、必要に応じ、本枠組に関する各戦略の連携を強化する
  • 国際機関は、必要に応じ、本枠組に関する各戦略の連携を強化する
  • 国連総会において、本枠組の実施に関するグローバルな進捗の評価を検討する

「仙台防災枠組2015-2030」採択後の動き

「仙台防災枠組2015‐2030」や防災に関連する取り組みは、2015年9月に「国連持続可能な開発サミット」で策定された「持続可能な開発目標(SDGs)」の中でも重要な要素として位置づけられています。 SDGsの「目標 11. 包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する」に関するターゲットにおいて、「仙台防災枠組2015‐2030」に沿って総合的な災害リスク管理の策定と実施を行うことなどが定められました。
 

【持続可能な開発目標(SDGs)11に関するターゲットのうち防災関連の抜粋】

11.5

2030年までに、貧困層及び脆弱な立場にある人々の保護に焦点をあてながら、水関連災害などの災害による死者や被災者数を大幅に削減し、世界の国内総生産比で直接的経済損失を大幅に減らす。

11.b

2020年までに、包含、資源効率、気候変動の緩和と適応、災害に対する強靱さ(レジリエンス)を目指す総合的政策及び計画を導入・実施した都市及び人間居住地の件数を大幅に増加させ、仙台防災枠組 2015-2030 に沿って、あらゆるレベルでの総合的な災害リスク管理の策定と実施を行う。 
 

 

2017年2月の国連総会では「仙台防災枠組2015‐2030」で合意されたグローバルターゲットの進捗を測る指標が採択されました。

続いて2017年5月のカンクン(メキシコ)で開催された第5回防災グローバル・プラットフォーム会合では、「仙台防災枠組2015‐2030」の推進に向けて、「より良い復興と備え」や「早期警報とリスク情報」等をテーマに各国が取り組み状況を報告、課題を議論しています。

2015年9月
国連持続可能な
開発サミット
  • 「持続可能な開発目標(SDGs)」を策定
  • 「目標 11. 包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する」に関するターゲットにおいて、仙台防災枠組に沿って総合的な災害リスク管理を策定することなどを規定

2017年2月
国連総会
  • 「仙台防災枠組2015-2030におけるグローバルターゲットのためのグローバル指標及び指標のフォローアップと運用に関する政府間専門家作業部会(OIEWG)の勧告」を採択
  • 仙台防災枠組で合意されたグローバルターゲットの進捗を測る指標を提示

2017年5月
防災グローバル・
プラットフォーム会合
  • 第5回会合をカンクン(メキシコ)で開催
  • 仙台防災枠組の推進に向けて、「より良い復興と備え」や「早期警報とリスク情報」等をテーマに各国が取り組み状況を報告、課題を議論

 

今後の予定

次回のグローバル・プラットフォーム会合は2019年にジュネーブで開催される予定となっています。今後、「持続可能な開発目標(SDGs)」での位置づけも踏まえ、国連のリードのもとに、「仙台防災枠組2015‐2030」で求められている防災・減災に関する取り組みを各国が着実に推進することが期待されます。
 
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