国連主催の国際的な会議が来年3月、宮城県仙台市にやってきます。
いま、仙台では、東日本大震災から丸4年にあたる2015年3月14日から18日にかけて開催される、第3回「国連防災世界会議」の開催準備が着々と進行しているのです。過去の第1回(1994年 於横浜)、第2回(2005年 於神戸)に引き続き、前回から10年ぶりとなる3回目の今回もまた、日本の、しかも大震災を体験した仙台での開催となりました。
この会議は「国際連合国際防災戦略(UNISDR)」という国際連合事務局の組織が主催し、今回の仙台会議においては、国連全加盟国(193カ国)、国際機関、認定NGO等が参加する予定になっており、現在、開催に向けて世界各エリアで地域プラットフォームの会合ならびに、日本国内においては内閣府のもとで国内準備会議が定期的に開かれています。
国連発防災活動の歴史
当会議が開催されるに至った歴史は、今から約30年前の1984年にサンフランシスコで開かれた第8回世界地震工学会議に遡ります。当会議の招待講演でフランク・プレス氏(地球物理学者)が提案した「国際防災の10年(IDNDR)」は、1987年、日本とモロッコの両国により国連総会に提出され、ほとんど満場一致で正式な国連決定となりました。そして、1990年代を「国際防災の10年」と定め、自然災害による人的損失、物的損害、社会的・経済的混乱について、国際協調行動を通じて軽減を図ることを目的とした活動プロジェクトがスタートしたのです。
その後、本プロジェクトの中間年にあたる1994年には横浜にて「第1回国連防災世界会議」が開催され、活動計画の達成状況を確認するとともに、より安全な世界に向けての「横浜戦略」を採択しています。

この「国際防災の10年」における活動では、国際的な災害救援体制の確立(例:UNDACの設立)、地域レベルにおける防災協力の強化(例:アジア防災センターの設立)などが具体的な成果としてありました。また、日本はこの10年間で計770万ドルの財政的貢献をし、内閣総理大臣を本部長とする推進本部を設置するなど有効かつ先駆的活動を実施しています。
横浜戦略の行動計画 |
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しかしながら、過去30年の傾向は、災害による死者は減少しているものの、一方で災害の発生件数、被災者、経済損失は増加しており、社会の災害に対する脆弱性が高まっている状況でした。そのため、「国連防災の10年」の中で実施された先駆的作業の継続が不可欠であるとし、1999年11月の国連総会において、本活動の継承活動として新たに「国際防災戦略(ISDR)」を実施することと、同活動を推進する組織・体制の整備、各国国内に設立された国内委員会の維持強化を図ることなどが提示されました。
「国際防災の10年」を継承する「国際防災戦略」のスタート
1999年12月、ISDRを支持する決議が国連総会において採択され、活動を進める国連の組織・体制として、国連人道問題担当事務次長の下に「国際防災戦略事務局」が2000年1月に設置されました。当戦略の目的と活動の骨格は下記になります。
目的 |
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活動の骨格 |
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以降、国連における体制整備がなされるのを受け、我が国では、政策面や組織面で最適な実施方法を抽出することなどを目的とした世界防災白書の作成や、内閣府政策統括官(防災担当)を議長とし、関係省庁の課長クラスをメンバーとする「国際防災連絡会議」を設置し、積極的に同活動を推進しています。
防災への意識を格段に高めた第2回国連防災世界会議「兵庫行動枠組み」とは
2005年1月の第2回国連防災世界会議は、開催地神戸が阪神淡路大震災後の復興途上であることに加え、会議開催直前に発生したインド洋津波の甚大な被害で、防災への国際的関心が高まった中で開催されました。168国連加盟国、国際機関、NGO等約4千人が参加し、各国の閣僚級が多数出席する中、並行してインド洋の津波の早期警戒システム導入が話しあわれるなど活発な議論の場となりました。
「災害に強い国・コミュニティの構築」というテーマを掲げた本会議においては、2005年~2015年間の10年間に対して「兵庫行動枠組(HFA)」と称した以下に挙げる3つの戦略目標と5つの優先行動計画が策定されています。
兵庫 行動枠組 |
3つの戦略目標 |
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5つの優先行動計画 |
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これらは、防災・減災に関する包括的な行動指針として採択され、この10年間、各国の防災政策を推進するうえで、取り組みの中心となってきました。国レベルの防災制度や組織の整備、災害応急対応準備体制の強化は比較的進展した一方、潜在的なリスクを軽減させるためのインフラ整備等は比較的遅れている傾向にあることが課題となっています。さらに、近年の都市化の進展や地球温暖化などの環境問題に深く関わる災害の発生、グローバル経済の進展により、災害リスクにさらされる人口や企業が増大し、各国の防災制度や組織の整備も引き続き大きな課題となっています。災害の対応や予防活動に地方自治体、一般市民やNPO等、草の根レベルでもステークホルダーの強化が必要になってきていると同時に、日々進歩している科学技術を災害リスクの早期発見や周知に活用することも期待されるようになってきました。
この第2回神戸会議での「兵庫行動枠組」の意義が飛躍的に注目されるようになったのは、こののち世界各地で起こった数々の自然災害の影響があります。米国でのハリケーンカトリーナ災害(2005年8月)、中国四川大地震(2008年)、東日本大震災(2011年)、タイの大洪水(2011年)、フィリピン台風(2013年)。特にタイの大洪水は、生産拠点としていた世界各国の企業に多大な影響を与え、人的被害のみならず、経済的な損失も甚大となりました。これらの現実を目の当たりにした国際社会が、防災に対する考え方に変化をもたらしたのは言うまでもありません。
来年3月に開催される第3回国連防災世界会議開催に向けて、世界各地域で兵庫行動枠組の後継枠組といわれる策定準備が行われています。会議に向けて、国連の関連会議が今年に入って活発に開催されており、本年春から地域プラットフォームの開催が中央アジア、アフリカ、アメリカ、アジア等で行われています。また、日本国内においては内閣府主導での準備会合がすでに3回開催され、開催地仙台では実行委員会が中心となり、本体会議以外の各種フォーラム、復興、防災の取組みについてのシンポジウムやセミナー、防災産業展、歓迎行事などが、仙台市内の複数会場で計画されています。
今回の会議の主テーマは、「兵庫行動枠組」の総括と新たな課題を認識したことを踏まえ、来るべき新しい10年に向けた「ポスト兵庫行動枠組」を策定することにあります。さらに、政府間交渉やハイレベル会合も予定されていますが、本会議以外の会場では、2011年の東日本大震災の教訓を踏まえた日本の防災、復興に関する知見を複数発信する展示や被災地の視察など、東北4県が連携した複数のユニークな催しが計画されています。
復興過程で得られた知見としては、企業のBCP策定による経済活動ダメージの軽減化、市民レベルまで広がる防災教育、学習の伝承、より良い復興に向けた官民一体の協働など、多くの犠牲を払って得られたこれら深い教訓は、防災、復興ノウハウという形に変えて、多くの会場で世界各地に発信することとなります。
仙台会議の特徴
- 東北の被災県、大学、経済界、NPO・NGO等との連携
東北の被災県(青森、岩手、宮城、福島)、宮城県内の被災自治体、大学、地元経済界、NPOやNGO等との連携。会議開催時には、これらの機関と連携した関連事業等を実施。 - 本体会議の会場として、新コンベンション施設を活用
本体会議の会場として、仙台国際センター及び隣接地に新設する「(仮称)国際センター駅周辺地区コンベンション施設」を活用。新施設は、2014年3月着工、同年12月竣工予定。 - 関連事業を市中心部や東北の被災各県で実施
シンポジウム・セミナー・展示などの関連事業は、本体会議会場に近接する東北大学川内萩ホールのほか、市内の各公共施設で実施。あわせて、東北の被災各県でも同時開催を企画。 - 多様な視察プログラムや歓迎事業
沿岸部の復興プロジェクト、東北の魅力ある観光資源など多様な視察プログラムを準備。地元の食材・文化体験なども提供

東日本大震災の被災地である仙台市で本会議を開催することは、被災地の復興の現状を世界に発信するとともに、多くの災害から学び高めた防災に関する我が国の経験と先端的な知見を国際社会と共有し、国際貢献を行う重要な機会となり、防災の主流化を先導していく役割としての日本の存在がさらに世界的に注目される機会となることでしょう。