リスク管理Naviリスクマネジメントの情報サイト

建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン

掲載:2021年03月25日

ガイドライン

「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」とは、高圧受変電設備の設置が必要な建築物に対する電気設備の浸水対策を取りまとめたガイドラインです。2020年6月に国土交通省と経済産業省から発行されました。
2019年10月の令和元年東日本台風では、大雨によって内水氾濫が発生、川崎市にある高層マンションでは地下部分に設置されていた高圧受変電設備が冠水、停電しました。居室の浸水被害の有無に関わらず、マンション全体でエレベーターや給水設備などのライフライン機能が停止した事態を政府は重く受け止め、両省は「建築物における電気設備の浸水対策のあり方に関する検討会」を設置、その取りまとめとして本ガイドラインを策定しました。なお、「高圧受電変電設備」とは、私たちの日常生活で使用する照明やコンセントなどの電気機器を安全に使用できるようにする設備で、高圧、すなわち比較的多くの電力を取り扱う設備のことを言います。主に工場やオフィスビルの他、マンション、庁舎、病院、商業施設等で利用されるものです。

         

ガイドラインが想定している対象

ガイドラインの想定読者は、高圧受電変電設備の設置が必要な建築物を企画、設計、施工、管理・運用する関係者(建築主や所有者・管理者など)となりますが、当該変電設備がない、中小規模の建築物についても、浸水対策を検討する際の参考となりますので、浸水対策検討の必要性を感じる方であれば、一度目を通されるといいでしょう。

下記のような方には、役立つガイドラインとなっています。

対象者 主な活用方法
施設管理責任者 自組織が入居しているビルが、当該ガイドラインを満たしているかのチェック。ビル管理会社とこのガイドラインをベースに会話ができる。
BCP担当者 施設管理責任者(例:総務部等)と連携し、ビルの脆弱性を確認するとともに、施設に高い脆弱性が見つかった場合は、対応もしくは物理的な移転を検討する。同時に、その施設に関係するBCPを再確認する。
ビル管理業を営む会社 ビル管理業を営む会社 自社が管理している物件に、当該ガイドラインを満たしていないものがないかどうかのチェック。脆弱性の高い物件が見つかった場合、電気設備設置会社と協議の上、対策を講じる。
対策が不可能な場合、電気設備設置会社および入居するテナントや組織と有事の際の対応について協議する。
電気設備設置会社 ビル管理業を営む会社の要請に対し、当該ガイドラインを参考に対策を講じる。
また対策を講じることができない場合、説明をし、有事の際の対応について協議する。

ガイドラインの構成

ガイドラインは、20ページの本編と45ページの参考資料集で構成されており、その特徴は具体性にあります。豊富な図表類だけでなく、様々な建築物において、その電気設備の浸水対策事例が用意されています。ゆえに、専門家でなくとも活用することが可能です。

構成についてですが、本編では電気設備の浸水対策のみならず、建築物に対する浸水対策についての基本的な考え方や種類についても解説しています。また、参考資料では浸水対策の最新事例を建物ごとに写真や図を交えながら解説しています。全体の構成は次の通りです。

  項目 概要
本編 目的 本ガイドラインの目的について
適用範囲 特別高圧受変電設備又は高圧受変電設備が必要とされるマンション、オフィスビル、庁舎、病院、商業施設等、本ガイドラインの対象建築物について
関係者の役割 浸水対策に関する計画や設計について、建築主、所有者・管理者、電気設備関係者の役割について
設定浸水規模及び目標水準の設定 浸水リスクの調査方法と浸水対策に関する基本的な考え方について
浸水対策の具体的な取り組み 浸水リスクの低減/浸水した場合の取り組みおよびタイムラインについて
参考資料 浸水リスクを低減するための具体的な取り組み オフィスビルやマンション、庁舎等様々な建築物の浸水リスクを低減するための具体的な取り組みや、電気設備が浸水した場合の具体的な取り組みの事例集
電気設備が浸水した場合の具体的な取り組み

出典:建築物における電気設備の浸水対策ガイドラインを基に弊社作成

各項目の詳細については、国土交通省のホームページ内にて解説動画も公開されていますので、ガイドラインとあわせ確認いただくとより理解が深まります。

「建築物における電気設備の浸水対策のあり方に関する検討会、動画」国土交通省

施設管理責任者に特に有益な情報とは

風水害の影響を受ける可能性がある建築物を管理する立場にある施設管理責任者にとって(一般的には総務担当者が多いと推察しますが)特に有益な情報は「浸水対策」です。当該ガイドラインでは浸水対策について、事前対策と事後対策の2種類に分けて言及しています。

対策種別 対策の内容
1)浸水リスクを低減するための取り組み 1) 浸水リスクの少ない場所への電気設備の設置
2) 建築物内への浸水を防ぐ対策(水防ラインの設定等)
3) 水防ライン内において電気設備等への浸水を防ぐ対策
2)浸水した場合の取り組み 1) 電気設備の早期復旧のための対策
2) 非常用電源の設置及び燃料の備蓄等
3) 在館者に対する支援の対策

まずは、自社が利用する建築物の電気設備が、どのような状態にあるのか、上記を踏まえ、ビル管理会社に確認してみることをお勧めします。例えば具体的には次のようなことを確認するといいでしょう

  • 自社が利用する施設の電気設備はどこに設置されているのか
  • 浸水リスクはあるのか
  • 最悪の場合、施設機能はどうなるのか
  • 浸水リスクを顕在化させないためにどのような予防措置をとっているのか
  • 浸水リスクが顕在化した場合にどのような対応をする予定か(最悪の場合、どのような被害がありうるのか)

ガイドラインを受けて見直すべきBCP文書のポイント

BCP担当者におかれましては、上記事項を確認のうえ、既存のBCPとの整合性を確認することが必要です。まずは、自組織の施設において電気設備の浸水対策が十分かどうかについて、確認しましょう。対策が十分でないことが確認された場合は、その対応をビル管理会社やオーナーに促す必要がありますが、もし十分な対応についての確約が得られなかった場合、またはその対応に時間がかかることがわかった場合には、この間に浸水が発生した場合の会社としての対応を、検討しておく必要があります。影響の大きさによっては、中長期的には移転をも視野に入れる必要があるかもしれません。

ただ一方で、「世の中に絶対」はありませんから、仮に電気設備の浸水対策が十分であることがわかったとしても、万が一何らかの理由で自分たちが入居しているビルのインフラが喪失した場合の対応を考えておくことは会社として非常に有益です。

具体的には次のようなことを確認しておくことが望ましいでしょう。

  • 浸水に関わる事態で、どのような場合にどのタイミングで社員に警告を発するのか
  • 浸水までの時間的猶予がある場合、事前に誰がどのような対応をするのか
  • 浸水した場合に、ビルの被害をどのように確認するのか
  • 浸水をはじめ、何らかの理由で施設のインフラが喪失した場合、どういう影響が出るのか
  • そのような場面に対するBCPが想定できているか
  • BCP発動基準との整合性はとれているか
  • 設定した復旧目標を既存のBCPで達成することは可能か
  • バックアップ拠点への機能移管は可能なのか
  • 浸水した場合に、自社だけでなく、建築物のビル管理会社や電気設備関係者等、だれが/いつ/どこで/なにを/どのように対応するのかが明確になっているか

BCP文書の見直しとあわせて、風水害に対するタイムラインを策定することもお勧めします。タイムラインとは、台風や豪雨等の進行型災害に対し有効な対策で、被害を予測し「いつ」、「誰が」、「何をするか」を時系列で整理した行動計画をいいます。本ガイドラインにも「浸水対策のタイムライン」(別紙3)や活用事例(参考資料集の「事例16」)などが提示されています。水害が増える昨今、より一層の対策が望まれます。

当社のWebサイトでは、サイト閲覧時の利便性やサイト運用および分析のため、Cookieを使用しています。こちらで同意をして閉じるか、Cookieを無効化せずに当サイトを継続してご利用いただくことにより、当社のプライバシーポリシーに同意いただいたものとみなされます。
同意して閉じる