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コラム

国連が掲げる防災ガイドライン「仙台防災枠組2015-2030」とは(前編)

2019年02月06日

コンサルタント

平田 恭子

昨今、地震や風水害の被害が続く中、自然災害への備えがより重要になってきています。災害により影響を受ける人命や経済損失を削減するために、国連は15年ごとにガイドライン「防災枠組」を提示し、達成目標を掲げています。本稿では、最新の防災枠組である「仙台防災枠組2015-2030」について解説し、国連が企業に対して期待することを紹介いたします。また、本稿に続く「後編」では「仙台防災枠組2015-2030」採択に至るまでの経緯や、採択後の国際社会の動きについて解説します。

相次ぐ災害の数々

世界最大の人道機関であるIFRC(国際赤十字赤新月社連盟)は、毎年世界で発生した災害をまとめた「World Disasters Report」を公表しています。2018年に公表された「World Disasters Report 2018」によると、2008年から2017年において3,751もの災害が発生し、延べ20億人が何らかの被害を受けています。

日本においては、2017年までの過去10年で災害(「死者が10人以上」、「被災者が100人以上」、「緊急事態宣言の発令」、「国際救援の要請」のいずれかに該当するもの)の数は約80にも及んでおり、2018年にも大阪北部地震や北海道胆振東部地震、近畿や中国地方等広範囲に被害をもたらした平成30年7月豪雨(西日本豪雨)、そして台風21号、24号の被害など、人命のみならず企業の事業停止といった結果を招く事態となっています。北海道胆振東部地震では、電力の供給不安が続いた影響で、工場稼働が一時停止しました。また、ある食品メーカーでは原料となる食材を破棄し、電力復旧まで生産不可能という事態に陥りました。

「仙台防災枠組2015-2030」とは

防災枠組とは、災害への対応強化のために世界各国の自治体、個人、団体や企業などが取り組むべき事項や目標等を示した文書のことです。「仙台防災枠組2015-2030」は東日本大震災後の2015年3月に仙台で開催された第3回国連防災世界会議にて採択され、災害リスクを防止・削減するために2015年から2030年の15年間で達成すべき目標や行動基準等が国家レベルで合意されました。2005年に開かれた第2回国連防災世界会議では、前身となる「兵庫行動枠組2005-2015」が採択され、2005年から2015年までの期間での防災に関する目標が合意されています。

「仙台防災枠組2015-2030」と「兵庫行動枠組2005-2015」との違いは以下となります。

  兵庫行動枠組2005-2015 仙台防災枠組2015-2030
目指すべき成果 災害リスクおよび損失を大幅に削減する
成果を評価するための目標
  1. 災害の予防、軽減、備えを重視する
  2. 災害への対応力向上のために、制度や仕組み等を整備する
  3. 緊急対応や復旧段階において、リスク軽減のアプローチを体系的に取り入れる
  1. 2015年~2030年の10万人当たりの死亡率を2005年~2015年より下げ、災害による死亡者数を削減する
  2. 2015年~2030年の被災者を2005年~2015年より下げ、災害による被災者を削減する
  3. 災害による直接的な経済損失を2030年までに国内総生産との比較で削減する
  4. 災害に対するレジリエンスを向上させ、2030年までに医療や教育現場の重要なインフラ損害や基本的なサービスの途絶を削減する
  5. 2020年までに国および地方レベルで防災戦略を有する国を増やす
  6. 2030年までに発展途上国で、この枠組を実施するための適切かつ持続的な支援を行い、国際協力を強化する
  7. 2030年までに多くの人々が早期警戒システムと災害リスク情報を利用できるようにする

出典:Hyogo Framework for Action 2005-2015およびSendai Framework for Disaster Risk Reduction 2015-2030
を基にニュートン・コンサルティングが作成

また、「仙台防災枠組2015-2030」では、緊急対応および復旧への備えを強化することで災害に対するレジリエンスを向上させ、新たな災害リスクを防止、既存の災害リスクを削減することを目指すべきゴールとしています。

上記の目標を達成するために、「仙台防災枠組2015-2030」では、次の4つの優先行動が必要であるとしています。地域、自治体や国は、この優先行動に沿って連携していくことが想定されています。

 

優先行動1:災害リスクを理解する

これまでの災害に関する情報を収集し、災害が発生した場合の人命や経済損失といった影響を考え、必要となる事前準備をしておく。また、応急救護や復旧に関する知識を得るための訓練を取り入れ、災害に備える。
 

優先行動2:災害リスクに対応するために災害リスク管理を強化する

災害リスク管理強化のために、国だけでなく個人や企業を巻き込みながら、災害の予防や復旧等に取り組むこと。防災や減災の計画に関する進捗状況の報告・評価を行い、防災を常に意識した取り組みを実施する。
 

優先行動3:防災、減災への投資を実施し、レジリエンスを高める

災害による経済損失を最低限に抑えるために、官民連携のもと学校や病院、インフラ施設といった重要な施設の耐震工事等、事前に対策を講じ公共スペースや職場の環境をより安全にする。また、企業の事業を停止させないために災害リスク管理をビジネスモデルに統合し、レジリエンスを向上させる。
 

優先行動4:災害への備えを十分に行い、より良い復興を実現する
災害への備えとして、例えば、安全な避難場所の選定や食料などの備蓄品を準備し、定期的な訓練を実施し、災害発生時に迅速に対応する。また、より良い復興(ビルド・バック・ベター)とは「環境に配慮し、社会のレジリエンスを促し、災害を軽減する対策を盛り込み、持続可能なコミュニティを再生する試み」を意味し、災害が発生した後は、その後の新たな災害に備え、対策を進める。

「仙台防災枠組2015-2030」が企業に対して期待すること

災害時の宮城県気仙沼市の様子

「仙台防災枠組2015-2030」では、企業の取り組みも求められます。「国だけでなく、子どもを含む一般市民や企業といった多くのステークホルダーが重要な役割を持つ」旨が明記されているからです。

企業の役割としては、災害による被害を最小化するために平時から防災や減災活動に従事し、必要に応じて公的機関のアドバイス等を受けながら積極的に活動することでしょう。こうした活動は「仙台防災枠組2015-2030」の目標達成に貢献するとともに、各企業の災害への対応力を培います。上記の4つの優先行動と照らし合わせ、企業としてできることを紹介いたします。

災害リスクを理解する
自社拠点が位置する地域において過去約20年の間にどのような自然災害が発生したのか、内閣府「防災情報ページ」から情報を収集できます。過去の災害情報を得ることで、自社拠点のみならず近隣においてどのような被害があり、どのように対応したのかを共有でき、防災・減災に活かすことができます。また、市区町村のホームページでは、川や海等の氾濫や地震等によりどのような被害が発生する可能性があるのかを色別で示した「ハザードマップ」が公開されています。被害を受ける可能性を知ることにより、企業としてどのような対策をとるべきか考える第一歩になるでしょう。
災害リスク管理を強化する
防災・減災は国が全てを担うのではなく、各企業が国と連携し、進めていくことに大きな意義があります。官民が連携し防災に取り組んでいる例として、「日本防災産業会議」が挙げられます。この会議体は、「仙台防災枠組2015-2030」を受けて、さまざまな業種の民間企業が集まり設立されたもので、随時入会を受け付けています。防災に関連する政府機関も参加し、情報共有とともに、官民相互で協力し合える仕組みを構築しています。災害時の情報共有システムの状況等、災害への対応を身に着けるために必要なテーマを選定し、官民が連携し検討していくことで防災力の強化を図ることができます。
災害が発生した際の対策を考え、投資を進める

優先事業を特定し、それらに係る経営資源(人、施設、システム等)を特定し、それぞれが使用不可の場合の対策を検討後、緊急性の高いものから事前準備と投資を行うこと――つまり、事業継続計画(BCP)を策定し、ハードおよびソフト面から災害への対策を考え、準備をすることが人命保護および事業継続に有効です。内閣府が行った事業継続における企業の実態調査によると、大企業では約75%、中堅企業では約70%がBCPを「策定済み」もしくは「策定中である」と答えています。業種別に見ると、「金融・保険業」が最もBCP策定を行っており、次いで「情報通信業」、「建設業」と続いています。有事に特に需要が高まる業種はもちろんのこと、緊急時には特に重要にならない業種においても、どのような対策を取るべきか考え対応力を養うことが必要不可欠です。

なお、BCPを策定する際にポイントとなるのが策定方法です。策定方法には結果事象型と原因事象型の2つがあります。原因事象型とは、例えば「地震編BCP」や「水害版BCP」というように、発生する事象ごとにBCPを策定する方法です。一方、結果事象型とは危機発生により生じる結果(3日間停電、5割の従業員未出勤等)に対しての対応を定め、BCPを策定します。

BCPは「緊急時対応計画」「危機管理計画」「事業継続計画(狭義BCP)」で構成されます。このうち、人命保護を目的とした「緊急時対応計画」については、発生直後の対応が事象によって異なるため、結果事象型および原因事象型の両方を用いて考えることをお勧めします。次に、緊急時に企業としての意思決定機関となる対策本部に関する事項を定めた「危機管理計画」については、事象ごとに異なる部分はほとんどないため、結果事象型で検討すると良いでしょう。最後に「事業継続計画(狭義BCP)」についても、人員や施設等の経営資源が使用できないという被災想定を基に、結果事象型で策定することをお勧めします。

過去の災害を教訓にし、より良い復興を実現する

過去の災害発生時においての課題を特定し、次の災害時には同様の状況下においても対応できように準備することが重要です。例えば、東日本大震災時の仙台では電車等の公共交通機関が停止した結果、多くの帰宅困難者が避難所に溢れ混乱が生じました。これを教訓に、仙台駅周辺では、大規模地震等が発生した場合、ホテルや学校施設等などを帰宅困難者の滞在場所として確保する準備を進めています。また、企業としても帰宅困難者対応として災害時には一時社内滞在を周知したり、仙台市と連携し定期的に訓練を実施したりしています。企業において将来起こりうる首都直下地震や南海トラフ地震といった大災害に備えるために、過去の災害における課題を洗い出し、取るべき行動を考え訓練しておくことが危機管理に繋がります。

後編に続く

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