AIの進歩は著しく、生成AIの登場が第4次AIブームの始まりとされていますが、それからわずか数年で次のステージに向かいつつあります。Agentic AI(自律型AI)の登場は、生成AIよりさらに先の進化を予感させるものです。
自律型AIは、タスクの実行に対し具体的な行動を指定せずとも、計画を立てて実行し、その後もより良い方法を求めて目標達成に向かって行動します。従来のAIより汎用人工知能(AGI)に大きく近づいた仕組みです。
本記事では、自律型AIと生成AIについて、概要や違い、利用時の留意点を解説します。
Agentic AI(自律型AI)とは?自律性と仕組み
Agentic AI(自律型AI)は、人工知能(AI)技術の一つで、自律的に目標に対して行動する特徴を持ちます。ただし、Agentic AIについて標準的な定義はなく、近似するAIエージェントとの境界についても明確な定義はありません。
例として、AI技術の先進企業であるOpenAI社では、「Practices for Governing Agentic AI Systems」という文書の中で、Agentic AI Systemを“AI systems that can pursue complex goals with limited direct supervision(限定的な直接監督の下で複雑な目標を追求できるAIシステム )”としており、本記事内ではこの定義をベースとします。
Agentic AIにおける自律的とは、事前にどのように行動して課題を解決するかを指定されていなくても、AI自らが情報収集して解決策を考え、試行して、より良い方法を選択できることを意味します。目標の達成方法からAIが考える点が従来のAIとの大きな違いであり、「自律的」といえる点です。
自律型AIにより、物事の達成というあいまいかつ複雑性の高いタスクを効率化することが可能となり、ビジネス上の用途で活用されることが想定されます。また、自律型AIは、AI研究のゴールと考えられることの多い汎用人工知能(AGI:Artificial general intelligence)を実現するためのステップともされています。
自律型AIの大まかな仕組みとしては、与えられた目標に対し、タスクの分解、およびタスクの連携により目標の達成を図ります。自律型AIは物事を実現するために、計画を立てて、それに向けた行動を自律的に行い、成果を検証し、より良い方法を選択するサイクルを繰り返します。このサイクルの中で、必要に応じて人間の判断、意思決定を取り入れることもできます。
技術的には、大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)、機械学習アルゴリズム、ディープラーニング、強化学習など高度なAI技術の組み合わせにより、学習と改善を実現します。
自律型AIのタスク実行のサイクルは、下記のようなサイクルとして表現されます。
- 計画→行動→自己反省・評価・反復(リフレクション)
- 目的設定→計画→実行→評価→再計画
Generative AI(生成AI)とは?定義と基盤技術
Generative AI(生成AI)は、AIによりコンテンツを作る仕組みです。生成AIによって提供されるコンテンツには、テキスト、静止画像、音声、動画などがあります。
利用者がどのようなコンテンツを作りたいかを指示し、それに対してアウトプットとなるコンテンツを生成AIが作成するサービスが、様々なAIベンダーにより提供されています。利用者の指示のことをインプットやプロンプトとも呼びます。
生成AIは、機械学習などの仕組みを利用してコンテンツを作成します。学習した内容に基づき、プロンプトに対して最適と考えられるものをアウトプットする仕組みのため、学習を深める事により精度の向上などが図れる点が特徴の一つです。
テキストを生成するAIの場合には、大規模言語モデル(LLM)を用いて自然な言語コンテンツを生成します。文面の作成、要約、翻訳、質問に対する応答、プログラムの作成などが可能です。
2022年のOpenAI社のChatGPTをはじめ、様々な生成AIサービスが提供され、進化し続けています。学習した内容から自然な言語や指示通りの画像が作成できるレベルに到達しているといえます。
ただし、生成AIは学習した内容からコンテンツを生成するため、学習外の情報は反映できないという限界もあります。例えば、2025年1月時点の情報を学習した生成AIに新たな学習をさせなければ、2025年2月以降に起きた出来事を反映した回答などは行えません。また、生成AIのアウトプットは学習の中から最適と思われるものを選択しているため、必ずしも正しいとは限らない点も限界の一つです。
生成AIの利活用については、継続的な学習データの確保や学習対象となるデータの権利面でも議論があり、制度整備などが継続して進められている状況です。
両者の決定的な違いと活用メリット
自律型AI、生成AIの両者ともAIの一分野ですが、両者の違いとして、成果を実現する方法があらかじめ定められているか、利用する際にどのくらい人間が介入するかなどが挙げられます。
自律型AIは、利用者が目標を与えると、それに対して行動や意思決定を行い、行動を最適化していきます。人間の介入は最小限に抑えられ、利用者はゴールを示して結果を評価する程度に留まるため、データ主導の意思決定や複雑なワークフローの自動化などを実現できます。
自律型AIの利用シーンとしては、業務プロセスの自動化、プロジェクト管理、会議設定やメール処理といったタスク代行など、一連のタスクを自律的に進める場面で活躍します。
生成AIは機械学習した内容から創造的なコンテンツを生成しますが、人間による入力・指示が必要です。このため、特定のアウトプットを求める用途で利用します。自動的に最適な手段などを選ばせるには、自律型AIと組み合わせて利用する必要があるでしょう。
生成AIの利用シーンは、文書、画像、動画、コード生成やデータ分析など、与えられた入力に対して新しいコンテンツを作成する場面です。
企業が直面するAIのリスク:生成AIと自律型AIの留意点
自律型AI、生成AIの利用は、経済的な高い成果が期待できます。その一方で、リスクも存在しているため注意が必要です。
生成AIにおけるリスク
生成AIによるコンテンツについては、必ずしも正しい内容である保証はありません。コンテンツの確認には、人間の目を通す必要があります。
生成AIの学習対象となるデータについては、データの所有者に承諾を得ずに学習するケースなどが課題となっています。法制度の動向を注視し、適切に取り扱う必要があります。
生成AIを利用する際の指示には、組織の外部へデータを渡すという側面があります。渡したデータが学習に利用されるケースもあるため、情報漏洩に注意が必要です。組織内でのルール策定、ガバナンスが求められます。
自律型AIにおけるリスク
自律型AIについては、研究が進められていますが、実運用されているケースは少なく、課題とその対応策の確立はまだ不完全といえます。
一つの課題として、不測の事態にも対応できるAIは完全には作られていないことが挙げられます。
また、失敗、脆弱性なども想定されます。研究・改修が進み精度が高まることにより、これらの問題が軽減されるまでは、実運用への適用可否を慎重に見極めなければならないでしょう。また、一定の規制や保険、利用規約などの整備も必要となります。
自律型AIを利用して複雑なタスクを実現する際に、人間による承認などが必要な場合もあります。例えば、契約を行う場合などです。このような場合に、上手く人間が関与できる仕組みを構築することが重要となります。