ガバナンスって結局なに?ニュースでよく見る“あの言葉”を本気で解剖してみた

ニュースを見ていると「ガバナンス」という言葉、本当に頻繁に出てきますよね。私がこれを書いている今も、新聞をパラっとめくっただけで「コーポレートガバナンスの形骸化」「親子上場体制のガバナンスが不透明」なんて言葉が目に飛び込んできます。
一見、便利で使い勝手の良さそうなこの言葉。でも、実は「なんとなく雰囲気はわかるけど、じゃあ正確には何を指すの?」と感じている方も多いのではないでしょうか。今回はそんな「ガバナンス」という用語と少し真面目に向き合ってみたいと思います。
子会社の不正を止められなかったガバナンス
まずは少し前の実例から。東京衡機の中国子会社で不正発覚後に代表取締役社長に就任した竹中 洋氏のコメントがこちらです:
「内部監査委員会など東京衡機がガバナンスを利かせる枠組みは存在したものの、現実的には機能しておらず、また、(中国子会社の)無錫三和内には原価計算をする業務プロセスのマニュアルもありませんでした。」
(「敗軍の将、兵を語る」日経ビジネス、2018年11月12日)
ここでいう「ガバナンスを利かせる枠組みがあった」とは、要するに本社として子会社の業務を監視・監督する制度自体はあった、ということです。しかし、実際にはその仕組みがうまく働いておらず、ルールもなければチェックも効かない状態だったわけです。
ワンマン経営の暴走を止められなかったガバナンス
他にもこんな記事があります。東京女子医大の専横的経営事件に対する記事です。2018年~2020年にかけて、東京女子医科大学が発注した建設工事に関連し、元理事長・岩本絹子氏が実態のないアドバイザー報酬を名目に大学資金を不正に支出させ、約1億1700万円の損害を与えた疑い(背任容疑)で逮捕された事件です。
「本来ならば業務執行を監督・監査する立場の(東京女子医大の)理事や監事が、異論を唱えれば排除されるために『岩本一強』体制に取り込まれ、『理事会と監事のガバナンス機能は封殺された』と指摘した。」
(「ガバナンス機能『封殺』 異議許さぬ一強 東京女子医大」朝日新聞デジタル、2025年1月14日)
こちらも、ガバナンス=「監視・監督機能」が機能しなかったことで問題が拡大したケースです。
アスクルとヤフーの事例に見るガバナンス
2019年には、アスクルの大株主(当時45%保有)だったヤフーが、アスクルの岩田 彰一郎社長(当時)の経営方針に反対し、社長解任を主導しました。しかしアスクルにはヤフー以外にも約55%の株式を保有する、機関投資家や個人投資家などさまざまな少数株主がいました。そのため、「ヤフーが自分たちの意向だけで経営を左右したのではないか」「他の株主の声が軽視されたのではないか」といった批判が起き、意思決定の公正性とバランスという点で、企業ガバナンスが問われる結果となりました。
「2019年8月の株主総会で当時の社長と社外取締役三人が実質的な親会社のYahooによって解任されたアスクルが、企業統治(コーポレートガバナンス)の再構築に乗り出した。新たに4人の社外取を選び直し、上場子会社の立場を守る手立ても講じる。」
(「アスクル親子上場の一石」日経新聞、2020年2月24日)
このケースでは、「ガバナンス=経営の公正な運営体制」という意味合いが強く感じられます。
ブロックチェーンにおけるガバナンス
「ガバナンス」という言葉はテクノロジーの文脈でも登場します。たとえば、以下のような一文をご覧ください:
「ブロックチェーンのガバナンスは、倫理上、風評上、法律上、財政上に大きな影響を持つ、非常に複雑な問題だ。ブロックチェーンの創設者は、権力を持つのは誰か、権力をどのように獲得するのか、さらに監視があるとすればどんなもので、どのように決定がなされ、運用されるかについて決定する。」
(「ブロックチェーン技術のリスクを乗り越える法」ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー、 2022年12月号)
ここでは、ブロックチェーンが「非中央集権型」であるがゆえに、誰が意思決定を行うのか、そのルールや正当性をどう担保するのかが難しい、という点が指摘されています。技術的なミスや不正が起きたとき、どう判断し、誰が決定を下すのかが明確でない。それがガバナンス不在=リスクと見なされているのです。この文脈でのガバナンスは、「制度設計」や「意思決定の仕組みそのもの」を指しています。
改めて理解する「ガバナンスの定義」
事例を見てきた今なら、世の中の「ガバナンスの定義」もすんなり腹落ちするのではないでしょうか。感覚的につかめてきたところで、辞書や専門機関の定義を見てみましょう。
- 「ガバナンスとは、組織や国家のトップレベルの運営方法とそのための仕組み」(Cambridge English Dictionary)
- 「コーポレートガバナンスとは、取締役会・経営陣・株主・ステークホルダー間の関係性と、企業が目的を達成するための構造・仕組み」(OECD)
つまり、ガバナンスとは、意思決定や行動によって影響を受ける利害関係者(ステークホルダー)が、公平に扱われるようにするための組織運営の枠組みです。より具体的に言えば、意思決定のプロセスに透明性と健全な緊張感を持たせるための監視・牽制の仕組みともいえるでしょう。
そんなガバナンス。私は、人類が叡智を尽くして編み出した、立派な技術の1つだと思っています。というのも、人間は基本的に完璧じゃない。誰でも、誰にも見られていなければズルをしたくなったり、判断を誤ったりするものです。権力が集中すれば、なおさらそうなりやすいからです。そんなだらしない人間がどうすれば規律を持って目的達成のために行動することができるのか。その答えの1つです。
「うーん、そうかな?」と思った皆さんのために、本日は1つ「ガバナンスが機能しなかった組織がどうなるのか?」といったことを顕著に示す事例記事をご用意しました。もしよければ、そちらもご覧ください。
『いわき信用組合の不正事例に学ぶ コーポレートガバナンスが崩壊したとき、組織はどうなるのか?』(ニュートン・ボイス、2025年6月4日)
それでは、ごきげんよう。