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BCM関連用語の解釈について

掲載:2008年07月29日

執筆者:取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント 勝俣 良介

コラム

防災対策、災害復旧(DR)や事業継続計画(BCP)、事業継続マネジメント(BCM)、イマージェンシーマネージメント(EM)、クライシスマネジメント(CM:危機管理)など、災害対策に関わる用語にはたくさんの言葉がありますが、その定義はまちまちです。事実、数ある文献を調べてみても、国によって、規格・ガイドラインによって、あるいは専門家によって、(大小あるにせよ)異なった意味で、これらの用語が使われています。 リスク管理Naviでは、今回、こういった文献や自身の経験から(なんとはなしに)見えてくる傾向に基づいて、各言葉の由来を追究してみようと思います。 そもそも災害対策に関連する言葉に、何故これほどの”ゆらぎ”があるのでしょうか?

         

解釈は文化を反映

大きな理由の1つとして考えられるのは「実は、同じ言葉であっても、それを使う国や地域によって、全く異なったルーツを持っているためではないか」ということです。つまり、同じ”災害対策”を言及してはいても、各言葉が生まれた背景が、国や時代によって異っており、(こうした異なった背景を持ちながらも似た意味を持つ)言葉同士が、いつしか、統合されたり、輸入されたり、輸出されたりして、少しづつオリジナルの定義を変えながら、今にいたっているためではないでしょうか?

例えば、日本であれば関東大震災に代表されるように、「災害」という言葉からまず連想されるのは“地震”でしょう。だから「防災対策」という言葉は、主として、こういった地震(あるいはそれに伴う火災)を前提として使われていると言うことができると思います。一方、アメリカなどでは、似た言葉として、イマージェンシーマネージメント(EM:緊急時対策)という言葉が使われていますが、これは、米ソ冷戦時代の民間防衛に端を発するものと言われています。

いち早くコンピュータが普及し始めたアメリカでは、コンピュータに頼る事業(金融業界など)が急激な発展を遂げ、“データの保護・復旧が欠かせない”という考え方が生まれました。そして、データなどの保護・復旧対策をさしてDRと呼んでいました。やがて、データだけではなくホストコンピュータなど情報システムに関連する機器全てを対象とした障害・災害復旧を想定するようになりました。いずれにせよ、DRがあくまでも“情報システムありき”という考え方に基づいたものであることに変わりはなく、これは言い替えるとDRが、経営レベルの思考ではなかったと言うこともできます。ちなみに情報システムの災害復旧計画書を、DRP(Disaster Recovery Plan)と呼んでいます。

BCPという概念の誕生

ですので、「いやいや、情報システムだけではビジネスは継続できない」という考え方から、経営レベルの観点から、BCPという考え方が誕生したのは必然の流れだと思います。BCPの普及を更に加速させるきっかけとなったのは、ファースト・インター・ステートバンクにおける1988年のビル火災(ロサンゼルス)だと言われています。同社は、火災により大きな被害を被ったものの、事故発生の翌日から速やかに銀行業務を再開しました。このすばらしい対応により、同社ならびにBCPという考え方は世界中の注目を浴びたと言えます。

こういった流れと並行して、クライシスマネジメント(CM)という言葉も登場してきました。元々、クライシスマネジメントは、キューバ危機のときに米国が使いはじめたもので、軍事的事件や国際的事件をどう判断するのかを扱う政治色の強い対策を指すものであったと言われています。それを産業界に応用する中で、緊急事態が発生したときの組織的対応策やマスコミをはじめとする外部への広報対応やその技術に変わっていった可能性があります。言い替えると、イマージェンシーマネジメント(EM)という言葉には、クライシスマネジメント(CM)のような災害発生時のきめ細かい対応などについての考え方が抜け落ちていたということもできます。

ここまで、防災対策、EM、DR、BCP、CMのそれぞれの言葉が生まれた歴史的背景について触れてきました。事業継続の専門家ですら、言葉をうまく使い分けできない理由が、なんとなくおわかりいただけたでしょうか? ちなみに、本稿で述べた歴史的背景はあくまでも一部分であり、国が変われば更に異なる言葉やその言葉が生まれてきた歴史があるのだと思います。

言葉の起源がなんであるにせよ、「最終的にこれらの言葉全部の考え方を包括するものとしてBCMという考え方」が誕生したと言ってもいいのかもしれません。
 
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